月の香りが漂う頃に   作:ラウガメア

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『狩人』
『獣』と化した者を狩る人の総称。弔いの為、正義の為、欲を満たす為。彼らは武器を振るう。しかし、彼らの正気を証明するものは誰もいない。

『獣』
原因不明の感染症に侵され、理性を失った者を指す。姿形は人のままの物から、凡そ人とは呼べない物まで、様々である。だが、あるものの言に拠れば、人は皆獣らしい。

『月の魔物』
『上位者』の1人にして夢の主。『月』の香りの根源。彼または彼女の権能は至って単純。都合の悪い結末を、夢だったことにできる。

『上位者』
人智を超えたナニカ。決して理解出来ぬ者共。彼らの行為に悪意はなく、故に致命的に間違える。

『月』
空に浮かぶ月。丸く、大きく、輝いている。たとえそれが、いつ見たとしても。


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「―新入生代表、シンボリルドルフ」

 

凛としたその声を聞いて、少女は目を覚ます。ここは中央トレセン学園の講堂。入学式の真っ最中であった。横の同級生が信じられない物を見るような目で少女を凝視しているが、件の少女は気づいていないのか、気にしていないのか。一瞥することも無く大欠伸をしているところだ。そうして涙で歪んだ視界を戻す為にしぱしぱ瞬きをしていると、ちょうど席に戻るためにこちらに歩いているシンボリルドルフのこめかみに、青筋が浮かんでいるところが見えた。あ、やばいかもと思った少女はすぐさま姿勢を正すが、時すでに遅し。ルドルフの予定表にはしっかりと、少女への説教が書き加えられていた。

さて、生徒会長並びにその他お偉い様のありがたいお話を子守歌代わりにした狼藉者の紹介をすることにしよう。彼女の名はツキヒカリ。元『狩人』で、『月の魔物』の継承者にして、数奇な運命を辿り再びこの世に生を受けた一般(逸般)ウマ娘である。色々あってシンボリ家に拾われた孤児であり、恐らくこの学園で唯一の競走バ名を持たないウマ娘である。啓蒙が足りない(理解ができない)なら前書きや後書きを参照願いたい。『狩人』以外(bloodborne未経験者)でもわかるように筆者が尽力している。筆者もまだ上位者に至っていない(完ぺきにbloodborneを理解したわけではない)ので、あいまいな部分があるがそこはご容赦願う。

 

「それでは、今日はこの辺りで解散にします。各自、自分の目で施設を見て回るように。それと寮の門限は必ず守るように。いいですね?」

 

簡単な自己紹介などを含むレクリエーションが終わった後の担任の声に、生徒たちが元気よく返事をしたところで、皆が待ちに待った自由時間がやってくる。中央トレセン学園の入学式当日は、新入生の負担を減らすために最低限の情報を伝えた後は自由時間となっていた。寮の説明は入学前説明会にて皆聞いているため、この後の生徒の行動は基本的には教室で談笑するか、校内を見て回るか、早々に寮に帰って休むかになる。担任の先生が教室を出た後、貴方はシンボリルドルフの方を盗み見る。幸か不幸か、彼女はツキヒカリと同じクラスだったのだ。彼女は新入生代表として挨拶をしていた。言い換えると彼女はトップの成績で中央トレセン学園を合格したということになる。当然彼女の周りには多くの同級生達が集まっており、シンボリルドルフは質問攻めにあっていた。つまり、今ルドルフは説教に移れない。これ幸いと扉の方へツキヒカリは歩き出す。

 

「 ヒ カ リ ? 」

 

「……あの、あなた、呼ばれてない?」

 

入学式で隣に座っていた子が心配そうな顔をしてツキヒカリに話しかける。シンボリルドルフはと言うと、皇帝のその名に違わぬ威圧感を放ちツキヒカリに鋭い眼光を向けている。先程取り囲んでいた少女たちが若干距離を置いて見守る程であった。さて、シンボリルドルフに呼び止められて1度は足を止めたツキヒカリに、好奇の視線が集まる。そんな視線を受けてか、ツキヒカリは顔だけ振り返り、こう言い放った。

 

「見ざる、言わざる、聞かざる。とても素晴らしい言葉だとは思わないかね?」

 

「なっ、待て!」

 

そして2人は勢いよく扉から飛び出した。その後直ぐにどこからともなく現れた緑の人に捕まって2人揃って説教を受けた。クラスメイトの皆は、この一連の流れから2人の関係性をこの短時間でだいたい把握することになったのである。すなわち、『ああ、ルドルフさんは苦労人なんだろうなぁ』と。

 

シンボリルドルフは非常に不服そうな、ツキヒカリは飄々とした顔で説教を受けた後、2人は揃って廊下を歩いていた。

 

「―しかに夜遅くまで推敲を手伝わせてしまったからな、眠たくなるのは仕方ない。そこは私にも責任があるだろう。だからといって入学式丸々全て寝過ごす阿呆が何処にいる。「ここにいるぞ」喧しい。黙って聞け。それも堂々と鼾すらかいて。起きていようとする努力すら見られなかったではないか。そのような態―」

 

勿論説教付きで。とてつもなく人目を集めている。新入生2人が道のど真ん中で、片方がもう片方に説教をしながら歩いているのだから当然である。2人は新入生であるにも関わらず、既に学校での有名人になっていた。方や問題児、方や優等生。それも双方共に類稀なレベルの。ついでに言うとツキヒカリが入学式で爆睡した事件は既に学校で認知されている。女子の噂の広がりは早いのだ。

 

「それはそうとルドルフ、我らは今何処へ()()()()()()のかね」

 

説教の切れ目に鋭く話題の転換を入れるツキヒカリ。彼女にしても、これ以上説教はうんざりであった。そしてその目論見は成功し、シンボリルドルフの説教は一旦なりを潜める。

 

「……ああ、トレーニング場に()()()。普段は上級生やトレーナー持ちの者が使っていて予約を取らないとなかなか使えないらしいが、今日くらいは空いていると思ってね」

 

トレセン学園のトレーニング設備は運動強度によって大まかに5段階に分けられており、段階の高い者は監督者の同伴が必要になる。監督者の代表例はトレーナーなのだが、学生総数に対するトレーナーの数は非常に少なく、トレーナーが決まっていないウマ娘も多数存在する。その為監督者無しで使用出来る低段階の設備は基本的には既に誰かが使っているのだ。だが今日は入学式当日ということで、授業は休みになっている。1日オフであるため、トレーニング施設を使用する人は普段より少なくなっているのではないか。シンボリルドルフはそう考えたのだ。そしてその予測は正しく、トレーニング場の芝コースは伸び伸びと走れるくらいに空いていた。

 

「……到着してから言うのもなんだが。君、今日も走るつもりかね?明日に備えて、今日くらいは英気を養うべきだと私はおもうのだが」

 

意気軒昂としているシンボリルドルフとは対照的に、ツキヒカリは気だるげだ。もっとも、この場においてはツキヒカリの方が一般的な反応だろう。

 

「説教」

 

シンボリルドルフの口から零れた一言に、ツキヒカリの動きがピタリと止まる。

 

「私としてはまだ続けても良いと思っているのだが?」

 

忘れてはいけない。皇帝は絶対である。皇帝が黒だと言ったら、林檎の色は黒なのである。

 

「……私が勝てば免除。せめてこれくらいは約束してくれ」

 

ふと、ツキヒカリは先程のシンボリルドルフとの会話を思い出した。シンボリルドルフにしては質問に答える際、妙な間があった気がする。それに加えて、ツキヒカリは何処に()()()()()()かを聞いたのに対し、シンボリルドルフは()()()と答えた。そう、初めからツキヒカリはシンボリルドルフの手の上で転がされていたのだ。

 

「謀ったな」

 

「気づかない方が悪い」

 

ツキヒカリがじとりとした視線を向けるが、シンボリルドルフはまるで気にした様子もなく、スタート地点にツキヒカリを引っ張っていった。




Tips
・ツキヒカリは幼少期にシンボリ家に拾われた孤児である。ルドルフを筆頭に常識、礼儀作法を叩き込まれたため、『狩人』的(ぶっ飛んだ)行動は控えめになっている。過去編は余力があれば完結後に書くかもしれない。完結まで走り切れるかも定かではないが。
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