詳しくはこちらの活動報告をご確認下さい。何か問題が起これば、即座に該当キャラクターを変更する予定です。
ユユ島でも数少ない医療機関であるトクニシ診療所は、この時期、あるイベントの為に、大変騒がしくなる。
ズバリ予防接種である。
「う、うぅー……」
ヒャンヒャン、ギャンギャン、グオォン。
診察室からは、現在進行形で、注射針の餌食になっているであろうポケモンたちの悲鳴が轟いて来ていた。
この時期は
そんな内の1人、赤いTシャツを着た少年は、引っ切り無しに聞こえてくる悲鳴に対し、自身の膝の上で縮こまっているポチエナと同じ様に、怯えを見せていた。
父親であろう、隣に座る細身の男性が「大丈夫、大丈夫」と繰り返し声をかけるも、少年は青ざめた表情で神経質にポチエナを撫でるばかりである。
大人になれば、必要とは分かっていても面倒な部類に入るだけの予防接種も、やはり子供の身からすれば恐怖の対象でしかない。自分も幼い頃はこうだったとは思うが、さてどうしたものか、と頭を悩ませる父親は、ちらりと一瞬、視線を息子たちから外し、とある席へと向けた。
そこに座っていたのはとある男性だ。ヒメンカに似た配色の髪を気障ったらしく流した彼は、彼の手持ちと思しきドンカラスと揃い、ニヤニヤとしたいやらしい笑顔を貼り付けている。
「ククク…! たかが注射に怯えきって情けねェやつらだ、ククク…!」
どうしてそうするかの理由こそ不明だが、挑発的なその発言に、しかし男性の何とも恐ろしい人相を前に、それを諌めたり注意しようとする人物は現れず、ただただ言わせるがままとなっていた。
遠回しに息子たちを嘲笑われたことに内心で腹を立てたものの、あの人相の男性を相手に立ち向かう度胸は、残念ながら父親は持ち合わせてはおらず。
…あれぜってぇカタギじゃないって。いや別にビビってねぇし、英断だし。今日はちょっと調子悪いだけだし。
「くすくす……♡」
と、誰に言うわけでもなく、心中にて言い訳と息子への謝罪を繰り返していた父親は、横合いから飛来してきた笑い声に、慌ててそちらを見やる。
さて、そこに居たのは──何と表現すべきか。
いつの間にか隣に座っていたのは、とある少女である。
プラチナブランドを基調に、赤やら青、緑、黒、紫、銀、ピンクのメッシュが混じる短めのツインテール。コンタクトなのか、ハートマークが幾つも浮かんだピンクの右目と、煌びやかな五芒星が並ぶ水色の左の瞳。マーブル模様のパステルカラーのパーカーの裾から、ちょんと覗く指先はマニキュアが施されているが、これまた同じ色・同じ模様が無く、派手だったり単一色だったりと、何ともチグハグであった。
上品に言い表せば、〝デコレーション〟の施されたマホイップ。言葉を選ばなければ、まるで〝ビビッドボディ〟のハギギシリみたいな少女である。
やたらカラフルな少女の名はササ。父親である男性の記憶が正しければ、ユユ島分校に通う生徒の1人で、息子の同級生の筈だ。
「あれぇ〜♡ トモ君のポチエナちゃん、もしかして注射が怖いのぉ♡? キャハ☆! かぁわいい〜♡」
何やら妙に甘ったるい声を出すササ。人相の恐ろしい男性に続き、予防接種に怯える子らを嘲笑する人物・第2号の登場である。
これ以上は流石に、息子や他の待合室に居る人にも迷惑だ。男性と異なり、年端も行かない少女相手ならば言い寄れるのかと何度目かの自己嫌悪に陥りつつも、目前の少女に向けて注意しようとする父親。それよりも早く声を発したのは、他でもない彼の息子であった。
「な……なんだよっ。注射なんて、みんな怖くて当たり前じゃんか!」
まるで膝の上のポチエナを庇う様に声を荒げる少年。同時に診察室から、ギャオアン、とデルビルのものらしき叫びが放たれる。
少年の言葉にササは、くすくす、と人を小馬鹿にした様な笑い声を零すばかりだ。
「えぇ〜♡? ただの注射だよ♡? 変なのぉ、くすくす…♡!」
その発言に、かぁっ、と少年の顔に熱が集まった。なんだと、とか、自分はどうなんだよ、と。そんな言葉を、拳を握ると同時に言おうとした少年だが、それよりも早く、ササが続ける。
「──だってポチエナちゃん、この前、上級生のスコルピくんから〝ミサイルばり〟受けてたけど、全然平気そうだったじゃん。注射針ぐらい、なんてことないんじゃないの?」
ぇえ? と。突然の発言に、少年が素っ頓狂な声を漏らした。
ササの言葉に一瞬固まるも、その後に記憶を巡らせた少年が思い出したのは、先日に行われたポケモンバトルでの一場面。
分校内でも指折りの腕前の上級生とのバトルにて、確かに。彼女の言うとおりに、ポチエナは相手のスコルピが繰り出した〝ミサイルばり〟を受けても、怯むことなく勇猛果敢に立ち向かって見せていた。
「他にもチイちゃんのジグザグマから〝とっしん〟受けたり、ヨシ君のヤミカラスから〝ついばむ〟受けてたりしたけど、どれも平気そうだったよね? 今更注射針に怯える必要なんて、ないんじゃない?」
ふふふ、と笑うササには、既に相手を小馬鹿にした様な雰囲気は見られず、どこか母性を感じさせる優しげなものへ変わりつつある。
彼女の発言に、少年はポチエナへと視線を向けた。そうして思い出される、同級生たちと繰り広げた勝負にて見せた、相棒の活躍の数々…。
「……そうだポチエナ。今更、注射ぐらいなんだってんだ。あの時も、あの時も! お前は立ち向かって見せただろ!?」
……残酷なことをしている自覚は、幼いながらも少年は理解していたのだろう。今なお怯えきっている自身のパートナーに向けて、立ち向かえなどと。
しかしながら彼は、ポチエナが持っている心の強さを忘れてほしくはなく、ポチエナに自身が如何に勇敢であるかを思い出してほしかったのだ。
「あんなやつに笑われっぱなしでいいのか!? 大丈夫だお前ならっ。注射ぐらい、どうってことないさ!」
唐突に少年が不気味な人相の男性をあんなやつ呼ばわりしたことで、お父さんがひえぇっ、と情けない声を漏らすも、少年たちに気にした様子はなく、互いに見つめ合った後に、意を決した様子でポチエナが頷いた。
今にも泣き出しそうではあるものの、歯を食い縛り恐怖を堪えるポチエナの表情は力に溢れている。「かっこいいね!」とササが快活に笑い、それとほぼ同時に、少年たちが呼び出された。──いざ、戦いの時である。
「うぅーっ。頑張れポチエナ、頑張れ……!」
招かれた診察室にて診察台に寝かされたポチエナは、小太りの院長先生により、臀部に注射針を突き刺される。前脚で両耳を押さえ、ヒャインヒャインと小さく声を漏らしながらも、懸命に、気丈に耐えるポチエナ。そんな相棒の様子を前に、少年は涙を流しながら励ましの言葉を並べ……。
「──はい、これで終わり! よく頑張りました!」
院長先生が言うや否や、ポチエナを力一杯抱き締める少年。彼の腕の中では、憔悴した様子のポチエナがほろりと涙を零しつつ、少年の顔を舌で舐めていた。
礼を述べる父親を背後に、診察室を後にする。彼を出迎えたササは小さく拍手を送り、後は会計を済ませて帰宅するだけである。
診療所の玄関に向かう途中、ゴシゴシと袖で涙と鼻水を拭う少年。彼は、自分たちを嘲笑っていた男性の前を通りがかった時、その人相に怯むことなく、力強く睨みつけた。
「…………フンッ」
どうだ! と言わんばかりの少年の表情に、男性はドンカラスと共に、吊り上げていた口角を分かりやすく落とす。面白くなさそうなその様子に、少年は自身の勝利を確信した。
年端も行かない、未熟な少年トレーナー。そんな彼が、一歩、確かに成長した瞬間である。
***
…はてさて。息子の行いに冷や汗を流していた父親であるが、ここに来て彼は首を傾げていた。
ユユ島は人口200人程度の小さな島である。その為、島民の殆どの顔と名前は分かるのだ。良くも悪くも、200人と言う決して多いとは言えない人数なのだから。
さて、ここで父親の男性は自身の記憶を探る。そう言えば、あんな男性はこの島に居ただろうか? あの人相だ、一度見たら忘れることはまず無いと思うのだが、残念ながら彼の脳内フォルダーに該当人物は存在せず…。
ならば、彼は一体──? そう疑問に思った男性が振り返った先には、何やら院長先生のトクニシと会話をしている、件の男性の姿がそこにはあった。
「──いやぁ毎度のことだけど、損な役回りをさせてしまって悪いね、ギガン君。ササちゃんもフォローありがとうね」
「え〜♡? このくらい、別にどぉってことないよぉ? くすくす…♡!」
「ククク…! なァに、センセイには普段世話になってンだ、俺様が1人憎まれてアイツらが勇気を出せるってンなら、幾らでも手伝いますとも…! ──それに、俺様は損だなんて思ったことは一度も無いですよ。なんせ、未来のポケモンマスターたちの成長を、誰よりも早く
「ウ、ウ、ウ、ウオアァ──ッ!」
──ギャップにやられたお父さんの叫びが、トクニシ診療所に轟いた。
・トクニシ→ドクニンジン
花言葉は『貴方は私を殺すでしょう(※注射をされるポケモン目線的な意味で)』
・ササ→笹
花言葉は『ささやかな幸せ』
メスガキちゃんはギガンの再従姉妹です。
↓お待ちしてます、お気軽にどうぞ。
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