都内にある大学に通う大学生である青年・桐ヶ谷和人はある日、傷ついた狐を発見。
放っておくわけにもいかず成り行きで助けた彼が、朝目覚めるとそこにいたのは……。
これは人間と狐娘の恋の話。
※SAOメモリーデフラグの"【麗しの狐娘】アスナ"での狐っ娘パロディ。
出来心で作りました、すいません。
――――その日、俺は狐と出会った。
いや、比喩でもなく例えでもなく、夜の帰り道に狐と遭遇したのだ。
最初見たときは犬か猫かの小動物が倒れているかと思って駆け寄ってみれ見れば、そこにいたのは猫でもなく犬でもなく、傷ついた獣。
ふさふさとした尻尾に尖がった三角の耳、猫とも犬とも異なる尖がった顔。
なにより体の毛の色を見て、俗にいう狐色と判明したときにこの俺、桐ヶ谷和人は目の前で倒れている生き物が『狐』だと理解したのは一人暮らしで借りているマンションの一室に運びこんだ後だった。
見た所足をくじいている様子だったため、簡単な手当てをして簡易的な寝床を用意して寝かしておいた。
動物病院は何処だったか、と思いながら調べ、後日予約して向かおうと決めた。
「というか、診察代でどんくらいかかるんだろうか……お金、足りるかな」
多少のお金の心配をしながらも、俺は傍で静かな寝息を立てている狐の姿を見ながら呟いた。
明日からはもやしメインの食事になるかもしれないと杞憂に思いながら胸の内を口にして漏らす。
「助けてしまったんだから、元気になってくれよ」
俺は布団をかぶりながら、その日は寝床につくことにした。
穏やかな笑み浮かべる狐の事など露知らず、すぐさま眠りについた。
~~~~
その翌日の事。
窓から差し込んだ朝日が顔に当たり、ようやく起き上がった。
一つ大きなあくびをしながら空腹な腹を摩りながら立ち上がる俺。
そこでとある違和感に気づく……妙に部屋の中が整理整頓されているのだ。
昨日は狐の騒動もあって多少散らかっていたにも拘らずいつの間にか片づけられている。
一体どうなっているのか、と思って狐が寝ていた寝床を見てみれば……そこには狐の姿はいなかった。
どこに行ったのか、まさか家の中を歩き回っているのか?
俺が狐を探し回ろうとしたところへ、台所にて料理をする物音が聞こえてくる。
そして、出来上がった朝食をお盆に運びながら『彼女』は現れた。
「あ、起きたんだね。おはよう、よく眠れたかしら?」
美しい声音で朝の挨拶をしてきたのは、一人の美少女。
黄緑と白を和服っぽい服装を纏い、栗色の長いストレートヘアーとはしばみ色の瞳を宿した整った顔立ち。
普通なら愛らしい印象を与え、10人中振りかえれば10人中美人と答えるであろうその美貌を持っている彼女……だが、その頭部と腰から生えているものに俺は眉を顰めた。
――何故なら、狐色の狐耳と9本の尻尾が生えていたからだ。
「……」
「どうしたの? 何処か具合悪い?」
「いや、大丈夫! 大丈夫なんだ!」
テーブルに朝食を置いた後、心配そうにこちらを見つめてくるこの狐耳の美少女に俺は一歩引きさがった。
この美貌で平然といられるわけではないため、なんとか悟られないように少し距離をとる。
正直顔は真っ赤になっていると思うが、幸運にも彼女には悟られていないようだ。
互いにテーブルを挟んだ形で座ると、俺は言葉を切り出した。
「えっと、まさかとは思うが……あの時の狐さん?」
「はい、あの時の狐です。昨日は怪我をした私を助けてくださって、ありがとうございました」
自分の事を思い出してくれて彼女は嬉しそうに尻尾を振るう。
ふさふさと揺れる尻尾に加え、花の咲いたような満面の笑みが自分に向けられる。
胸の内に広がるその心地よさに俺は思わず笑って返した。
「さ、朝御飯できあがってるから一緒に食べましょう」
「あ、ああ」
彼女に言われて作ってもらったご飯とみそ汁をメインとした朝食へ俺は視線を移す。
白い湯気が立つそれを目にし、生唾を飲み込んだ俺は彼女と共に食事をありつくことにした。
~~~~
それからというもの、狐耳の彼女――明日奈は俺の部屋で暮らすことになった。
俺が大学に行っている間、明日奈は部屋の家事手伝いをして、俺は彼女が作ってくれた昼食のお弁当を食べる。
懐が豊かじゃない学生の自分でも流石に美味いと感じるほどの味に舌鼓して、授業を終えて家に帰れば、夕食を作ってくれる彼女がいた。
狐耳と狐の尻尾という幻想的な要素には未だになれないが、それでも良妻賢母を体現したような彼女に俺は何処か惹かれるものがあった。
優しい彼女に惚れているのか、それとも彼女との生活が心地いいのか。
どちらにしろ明日奈に何処か惹かれるものがあった俺はふと心の中でつぶやいた。
(……元気になったら明日奈は俺の元から離れるのかな)
どう見ても人ならざる存在である彼女と生活に何処か心地いいものと感じた。
手放したくない、そう思うほどに明日奈との生活は暖かなものだった。
明日奈との奇妙な共同生活が始まってから一週間ほど経過した頃。
俺がいつものように大学から帰って、ドアを開けた。
「ただいまー、明日奈いるか?」
いつものように帰ってきた部屋の扉を開け、中へと入った。
だが、いつもの愛らしい声の返事は聞こえてこず、不審に思って家中を探し回った。
だが、どこにも何処にも明日奈の姿はなかった……不安になった俺は、どうしてこうなっているのか、どうするべきか考えた。
そしてすぐに答えにたどり着いた……彼女は元気になって、帰ったのではないか?
そう思った時、俺の中で最初に襲ってきたのは少しばかりの安心感と途方もない孤独感だった。
「そっか。元気になったんだ」
明日奈が元気になってこの家から去って行ったと俺は悟った。
怪我が回復した彼女は、俺の元から去って行ったのだ……一体どこに? 多分、人が知らない何処かへだろう。
一抹の悲しさが広がる中、『もう彼女とは出会えないのか』と思った俺はゆっくりとへたり込んだ。
その時だった、あの声が聞こえてきたんだ
「和人君、先に帰っていたんだ」
「……明日奈?」
ゆっくりと後ろを振り向けば、そこにいたのは……明日奈の姿。
手には買い物袋が握られており、彼女は嬉しそうな様子を見せながら説明をし始めた。
「お味噌が切れていたから買ってきたの。それだけじゃないよ、なんとお稲荷さんが特売でやっていたから、買いこんじゃって!」
今まで見てきた中で嬉しそうな笑みを向ける明日奈を見て、俺は何か満たされるものがあると感じ、立ち上がる。
そして思わず彼女の傍へと立つと、ゆっくりを腕を回して抱き着いた。
いきなり抱き着かれたことに驚きながらも、明日奈は恐る恐る尋ねた。
「ど、どうしたの?」
「ごめん、明日奈が突然いなくなったと思ったから……俺の元から去ったと思って」
「いなくならないよ」
俺の震える声に明日奈は抱擁を返すと、泣く子に言い聞かせるようにやさしい声音で呟く。
その際に彼女の尻尾が背中に回り、ぬくもりが伝わる
「私、まだ君に何も返していないし、万が一いなくなるとしても助けてくれた君に何も断りもなくいなくならないよ」
「……うん」
「でも嬉しいなぁ。そんなに泣いてくれるほど私の事を好いていてくれたんだ……」
「悪いかよ……」
「ううん、嬉しいよ和人君」
涙を流しそうになってる俺の顔を彼女は自身の胸に預けて安心させようとする。
とくん、とくんと彼女の心音が心地いいと感じながら、暫しの間俺はそのまま明日奈に身を任せる事にした。
もうしばらく、狐な彼女との生活が続いていく。
「そういえば、御婆ちゃんから連絡があってね」
「御婆ちゃん……?」
「和人君の事を話したら、紹介しなさいって」
「……明日奈の御婆ちゃんってなんなんだよ」