Dr.Monster~科学でモンスターの謎を暴け~   作:アママサ二次創作

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第14話 海へ

「しっ、静かに」

 

 前へ出ようとする猫たちを手で制した千空は、ポケットからケムリ玉を取り出しつつ、眼前を通り過ぎていく青い甲殻を背中に備えた熊のようなモンスターを見送る。千空同様に息を潜めた猫たちもその背中を静かに見送り、その背中が遠くの木の陰に消えたところで小さく息を吐き出した。

 

「案外やり過ごそうと思えばいけるもんだな」

「静かに、ニャ」

 

 千空の言葉に呼応するようにそう告げる猫の手にする籠の中には、尻尾が青いままの大きなトンボがいて、退屈そうに羽を揺らしている。

 

「やっぱり駄目か。捕まえてると反応しねえな……。飛んでないと駄目、ってことか? なら次は紐で縛ってみるか」

 

 籠を抱えたアキの頭をなでてやりつつ千空はそんなことを考える。アキの後ろには、それぞれに小さめのポーチと石槍、石斧を所持したハル、ナツ、フユ。

 

 拠点周辺から探索を初めて一ヶ月ほど。ある程度活用できそうな植物や生物は見つかったものの、探索は難航していた。

 

 ギャウギャウと響く複数の鳴き声に、千空は眉をしかめる。

 

「またか」

 

 その声に猫達が槍を構えるが、それを制して手にしていたケムリ玉を包む蔦の葉を石のナイフで切断する。それを声のした方へと投げれば、木にぶつかると同時に弾けたように白い煙が飛び出し、一瞬であたりを覆い尽くした。

 

「帰るぞ」

 

 千空の言葉に猫たちはいつもの鳴き声ではなくうなずきを返して、引き返す千空の後を追う。

 

 千空達がその場を去って数分後。薄れた煙の中から数匹の、オレンジと紫の体色を持つ体高1.5メートルほどの恐竜のようなモンスターが飛び出してくる。キョロキョロと周囲を見渡すそいつらは、やがて何も見つからないとわかったのか引き返していく。

 

 

 本格的に探索をはじめてから1ヶ月。探索は思うように進んでいない。千空達の行く手を阻むように、3700年後の世界の脅威。

 

 モンスターが、立ちはだかっていた。

 

 

******

 

 

「ここも駄目、か。となると少し迂回するルートか、どっかのタイミング……むしろ夜の方が良いかもしれねえな」

 

 ツリーハウスに戻った千空は、机の上に広げられた大きな革に木炭で描かれた地図に、今日奴らと遭遇した場所をばつ印で記入する。地図の南東側、海に近づく方向は軒並みばつ印がつけられている。その他にも、ひと目でわかる熊や巨大な翼竜のようなモンスターをデフォルメしたアイコンもちらほらと見受けられるそれは、千空と猫たちの1ヶ月の成果だった。

 

 土器づくりも大型小型の土器が完成し、保存食料としての干し肉もある程度蓄え。いよいよ遠出、そして海に到達して塩やら貝殻やらが確保出来た後はいよいよ考察していた石化した人間の復活に着手しようと考えていたのだが、その海に到達するという段階で今のところ千空は行き詰まっていた。

 

 探索を始めた当初は、むしろいろいろなことがうまく進んでいたように思う。それは千空の観察眼もそうだが、猫たちが片言だが言葉を話すようになったおかげでもある。

 

 例えば、ケムリの実を改造して作ったケムリ玉に使用する特殊なツタや、大型のモンスターが接近すると尻尾が赤く光りだす大型のトンボ、猫たちとの会話で言いやすいようにキザシヤンマと名付けたそれなんて猫たちの言葉によって千空が存在に気づき、皆で探しにいったものだ。

 

 モンスターという言い方も猫たちとの会話のために考えた。動物との区別はシンプルだ。空を飛ぼうが地面を走ろうが木を登ろうが、虫だろうが翼竜だろうが恐竜だろうが獅子だろうが熊だろうが、こちらに対して攻撃的、あるいはその可能性がある奴らは全てモンスターとして。

 

 それ以外は、例えかつては存在していなかった種、例えば頻繁に水辺を訪れるパラサウロロフス似の生物のような種でも『積極的な攻撃性がなく、また命にかかわる攻撃はしてこない』生物は動物と呼称することにしたのだ。これによって、モンスターといった瞬間に危険だとわかるようにしたのである。

 

 ちなみに件のパラサウロロフス似の生物、猫たちにアイデアを募ったところ『アプトノス』と名付けられたそれは、千空と猫たちの手によって一匹が駆られご馳走となったことで、モンスターの区分から外れる事となったのである。

 

 そして今。

 

 千空の海への到達を邪魔しているのは、そのモンスターのうち一種。大きさは小型と言い切れる程度のものだが、何分群れとしての数と群れの他の個体を呼ぶ鳴き声が厄介な『ジャギィ』と名付けた種である。

 

 大型のモンスターを避ける、あるいは奴らから隠れるすべはある程度見つけることが出来た。

 

 大型のモンスターは捕食行動を行っているときに限っては足音だったり、あるいはその周囲におこぼれを預かりに集まる頭部だけ赤い全身真っ黒の鳥だったりと、遠くからでもその存在をある程度察知することが容易いのだ。それ以外の場合には気づけずに接近してしまうこともあるが、そういった場合には奴らも腹ペコではないようで今のところ積極的に襲ってきたことはない。即座に離れれば大丈夫な部類だ。今度凶暴な種が見つからないとも限らないので警戒はしなければいけないが。

 

 そして仮に大型モンスターの捕食のターゲットにされた場合には、ケムリ玉とハジケクルミを活用することでどうにかしている。モンスターも別に絶食腹ペコ状態ではないので、ちょっと痛い目を見せたり姿を隠せれば諦めてくれるのだ。むしろそれで激昂するような相手は何かしら目立っているので、全力で避ける方向で行動している。

 

 ケムリ玉は以前見つけたケムリの実を加工して割れる直前の状態にし、その周囲を柔軟性の高い特殊なツタの葉で包んでおいて使う前に葉に切れ込みを入れることで投げた直後に煙を吹き出すようにしたものである。加工の難易度は高いものの、猫たちが率先して作ってくれているし、千空も3個に1個ぐらいは成功している。これは使える場面が相当にあるし、煙によって嗅覚まで塞いでくれるようでかなり重宝している。必需品とも言えるだろう。

 

 もう一つのハジケクルミは、ある程度強い衝撃を受けるとすさまじい勢いで破裂する大きなクルミのような外見をした果実だ。千空はこれをクルミだとは断じて認めていないのだが、初めて見たときに『クルミ』とこぼして以降猫たちがそう呼ぶので諦めてその呼び方にした。弾ける勢いは凄まじく、川でとれた魚にぶつけたら魚は中程からちぎれ残った部分にはクルミのかけらが刺さっていたし、おそらく千空や猫たちであれば骨にひびぐらいは簡単に入るだろう。

 

 そんな代物なので、モンスターに狙われても顔に向かって数個ぶつけてやれば後を追ってこなくなるので最終手段として機能している。今のところ使えたのは、大きな青い熊の眼の前ではちみつに手をだすという馬鹿をナツがやらかしたときだけであるが。

 

 加えて、薬草もそのまま持つのではなくある程度すりつぶして煮詰めた状態で小さな土器に入れて持ち歩いている。濾過していないのでいい具合にどろどろで、うまいこと傷口に軟膏のように塗りつけられるのだ。以前治りが他のときよりも良いときがあったように思えたのは目下調査中であるが、今のところ手がかりが無い。

 

 そういうわけで、大型の奴らだけであればある程度自由に歩き回れるぐらいの道具は揃っているのである。

 

 にも関わらず探索が難航しているのは、今目指している海の方に、おそらくはジャギィの群れの縄張りがあるからだ。角度を変えルートを変えて接近しても、必ずどこかのタイミングでアイツラが視界に入る。向こうから接近してくることもあるし、千空達が先に気づいて距離を取ることもあるが、気づかれないままに通り抜けるのは至難の技だろう。

 

 正直ジャギィの1,2匹程度ならどうにでも出来る。実際千空とアイルー達で石槍で攻撃したときには撃退することが出来た。

 

 だが奴らは10匹以上の群れなのだ。鉤爪と牙は鋭く、振り回す尻尾の一撃は槍越しでも手がしびれるぐらいには重たい。まともにやり合うには戦力不足だ。

 

 だからこそ、千空はどうにか奴らを超えられないかと苦心しているのである。

 

「こっち、ニャ?」

 

 千空が地図を前にうなり声を上げていると、ハルが地図の左上の方角。千空が目覚めた方角をタシタシと叩きながら話しかけてきた。

 

「そっちはまだ後だ。先に海でほしいもんが色々とあるんだよ」

 

 海を先に目指している理由。それは塩の獲得。そして他にも海で取れるものから作れる石鹸が上げられる。

 

 このモンスターワールドで、かつての科学の名残はもはや残っておらず。となると致命的なのが怪我だ。今のところは薬草の回復能力でどうにかなる程度の擦り傷ですんでいるので治療も出来ているが、少し大きなキズが出来て破傷風になったりすると一発でアウトである。だからこそ、清潔さを保つための石鹸はどうにかしてゲットしたいのである。

 

 そこまで準備ができてようやく、拠点を離れて外泊。

 

 すなわち。

 

 千空が目を覚ましたところにあるであろう、その『石化を解いた何か』を探すのに時間を費やすことが出来る。

 

 後味のついていないキノコや魚、肉にはいい加減飽きが来た。早く海行きたい。

 

 そのためには、ジャギィの群れをなんとか突破しなければならない。アイツラの獲物を用意して引き付ける手なんかも考えたが、リスクがかなりある。となるとやはり、アプローチを変えてみるべきだ。

 

「夜に火なんかつけてたら一発で場所がばれるだろうが……つかあいつら」

 

 天候条件と月の満ち欠けに左右される月光と、人為的に用意できるものの目立ちすぎる火について考えていた千空は、そこではたと思いつく。

 

 まだ試していないことがあった、と。最も原始的で、効果的に獣が恐れるそれ。

 

「松明、作ってみるか」

 

 人類の進化の発端になったそれ。

 

 即ち。

 

「モンスターとは言え獣なら、火を恐れんじゃねえか?」

 

 

石神村がどう原作から変化しているかについて。  モンハン世界だとハンターのいる村になってるかな、とか、自然の生命力が高いので原作より人が生きてそうだなとかあります。 後は、石神村は原作だと鉄を扱うという考えがなかったので、武器はボーン系、モンスターの骨を加工したのとかがメインかなとか。 回答選択肢はたくさん作っておきます。

  • 原作そっくり。モンスターは避けている
  • 規模は原作 ボーン武器でモンスターと戦う
  • 規模が大きい ハンターいる
  • モンスターに襲われるので規模は原作
  • モンスター素材加工で発展した村
  • モンスター素材加工でちょっとだけ発展
  • モンスターによって滅亡の危機(イビル等)
  • 瑠璃を助けるのに秘薬がいる

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