Dr.Monster~科学でモンスターの謎を暴け~ 作:アママサ二次創作
火をつけることに成功した翌朝、即ち目を覚まして2日目。火を絶やさないようにと数時間おきに起きては集めていた薪をくべていたので十分に休めたとは言い難いものの、休んではいられない。
まだ裸でいるにはいささか寒い朝の冷気に身を震わせ。大きく伸びをした千空は、視界の端に写った物を見て動きを止めた。
灰色の表皮に、背中のヒレなど一部に黒い線の入った数匹の生物。まさしく恐竜であるように見える生物の群れが、千空の反対側の岸で川の水を飲んでいた。
それを刺激しないようにそっと立ち上がった千空は、じっくりとそれを観察する。
「パラサウロロフス、だっけか? 恐竜が蘇ったのか?」
人類が生まれる遥か以前に死んだとされている生物。現代ではその痕跡として残るのは化石ばかりだ。それが生き返っている。目の前の生物が大昔の恐竜と同一の生物だとすれば、1つの仮説が立てられる。
『石化光線が影響を及ぼしたのは、人類と燕だけではない』。
それは、考えてみれば当然のことだ。そもそも燕の石化すらが、人類に影響が起きてないときには既に発生していた。そうすると、石化光線の影響に優先度、あるいは影響に対する耐性のようなものが存在していてもおかしくはない。そしてそれが、人間よりもより耐性の高い生物が存在した場合、人間が石化した後に何かしらの影響が発生した可能性もある。
そして、石化、というのがあくまで人間と燕に対する影響であるだけで、他の生物に対しては別の何らかの変化を及ぼしている可能性は当然のことながらある。
今は、そうした仮説は立てたところで検証の出来ない、言ってみれば無駄なものだ。
だが発想というのは浮かべようとして浮かぶものではない。逆に、特にそのことについて考えていないときにふと浮かぶことはよくある話だ。だからこそ、浮かんだ考えはその都度整理して、記憶しておく必要がある。
川の向こう側の恐竜のような生物のうち特に大型の個体、おそらくは群れのボスか親であろう個体は千空のほうにちらりと視線を向けたが、『フモ゛ーウ』という鳴き声をあげてすぐに視線をそらした。千空が危険な相手だと認識されなかったのだ。
「昨日みたいなのが水飲みにくるとしたらここにいるのもちとまずいか……」
一瞬考えて、千空は寝る場所や焚火の場所を変えることに決めた。水場は生物が集まる場所である。それに比べれば、そこから多少とはいえ離れた場所の方が一応の遭遇の頻度は下がる、はずだ。生態系が変化している以上その常識が間違えている可能性もあるのだが。
「さてと、まずは石器だな。後は食い物。魚はいるんだがな……」
ぼやいていても始まらないので、河原や水中からいくつかの石を拾い上げて取り敢えず石で石を叩いて割ってみる。この状況での怪我は治療の手段が無いので、指を打たないように細心の注意を払う。
石を無駄に砕くこと数回。ある程度石の割り方の法則が見えてきた。割るというよりはえぐり取る。そして面と面ではなくなるべく端と端をぶつけ合って削り取る。さらにはある程度の形が出来たら、大きな岩の側面に出来かけの石器をこすりつける部分で少しずつだが削っていく。砥石のようなものだ。
「くっくっく、意外と楽しいじゃねえか」
試行錯誤。調べまくり、試しまくる。かつては様々な書物などの情報と最新機器でやっていたそれを、今は素材と自らの身体という原始の道具でやる。
だが、やることは変わらない。ひたすらに調べ、それを記録し、今度は違うことを試す。その繰り返しを人は科学と呼ぶ。
昼頃に一旦休憩して火を焚きなおし、再度石器づくりに励んでやがて夕方を迎える頃には複数の石器を完成させることが出来た。斧やナイフに近いもの。それらがあれば、今後木の利用や、それこそ先程見つけたような肉になる動物を狩るのも可能になる。もっとも先程のあれは、大きさからして狩られる可能性も高そうではあるが。
「あーくぞ。腹減ったな」
結局今日も一日ツールづくりに時間を取られたために食料を探すことが出来なかった。水の確保は出来ているとは言え、食料の方もなんとか、それこそ山菜やきのこなどでも良いので見つけなければ行けない。
千空がそんなことを考えているとき。
ガサガサ。
千空の後ろの茂みが音を立てた。
「動物か?」
その音に千空は身構える。うさぎや鹿などの小動物であれば良いが、これが熊やあるいは考えたくないがライオンであった場合。シンプルに食われる。
そう考えた千空は静かに焚火の側から離れて後ずさりを始める。背を向けて走って逃げ出すのが、熊などを刺激すると聞く。なるべくそっとその場を離れよう。
と。
茂みの向こうから小さな何かが飛び出してきた。
『ニ゛ャ゛ッ!?』
茂みに引っかかったのか、顔から地面に突っ込み悲鳴のような声をあげたそれ。柔らかそうな灰色の毛並みをした、千空の腰ほどの大きさの生物。その鳴き声は非常に聞き慣れたものだが、視界に入ってくる情報が千空を混乱させた。
(猫にしちゃあ、でかくねえか?)
そう考えているうちに、地面に突っ伏していた、というか勢いよく地面に顔面を埋めていたそれは顔を引き抜き、ブルブルと身を震わせる。
それは、たしかに猫であった。少なくとも顔つきなどは、千空のよく知る猫に類似していた。
そしておそらく持ってきたのであろう体の下に転がっていた木の枝に刺さった魚を。
“
「は?」
千空が思わずそう声を漏らしてしまったのは仕方の無いことだろう。そもそも、猫が両手を使うというのが千空の常識から大きく外れていた。
一方の猫も、そこで千空の存在にようやく気づいたのか、『ミャ?』と可愛らしい声をあげて首をかしげている。人間に対する恐怖心や警戒心というのは持っていないらしい。もっとも人間が3700年の間不在であったことを考えれば、人間の存在なんて知っていても覚えていないだろう。
千空がそのまま動かないままでいると、猫は焚火の側へと近づいていき、そこに魚の刺さった串を突き刺す。
それを見た千空に再び衝撃が走る。
この動物は。
火の利用を知っている。
火の側に魚を立てて焼き始めた猫は、その後千空の方へと歩いてきた。四足歩行の状態にも2足歩行にも慣れるらしく、千空の側まで来ると通常の猫の歩きから体勢を起こして二本足で立ち上がった。
そして千空の方を見ると、恐る恐るといった感じで手を伸ばし、その足や腕などをポンポンとたたき始める。初めて見るものにたいする好奇心、と言ったところだろうか。
それを驚かさないように千空も手を動かして、そっとその猫の頭部を撫でる。すると猫らしく目を細めて喉を鳴らしているのが聞こえた。手を使ったり火を使ったりとしているものの、どうやら猫としての特性も持っている、らしい。
やがてそれに満足したのか、猫は再度魚のところへいくと、それが焼けているかどうかを確認している。そしてそれに食らいついた。
取り敢えずそれの危険性が低いことを確認した千空は、自分も焚火の側に座り込む。腹が減っている状態で目の前で何かを食べられているのはなかなかに拷問だが、かといって暗くなりつつある森を歩く勇気も、目の前の得体のしれない生物に喧嘩を売る勇気もない。というか、体力ミジンコの千空では普通に喧嘩したらボロボロにされる。普通の猫ですら、本気で喧嘩をすれば人間を圧倒できるのである。
と。
先程からチラチラと千空が見ているのと同じように千空の様子を伺っていた猫が、食べかけの魚を持って千空の方にやってきた。そして千空にそれを突き出してくる。
「俺にくれるのか?」
「ミャー?」
千空の話した内容を理解している様子はないが、千空が魚に手を伸ばしてもそれを引っ込めること無く、千空が掴むと猫はそれから手を離した。火が通ってるのを確認して千空がそれにかぶりつくと、猫は『ミャー』と満足気な声で鳴いている。そして、千空に背を向けて森の中へと消えていった。
「なんだったんだありゃあ……猫がああ進化したのか? 猫人、って言えば良いのか?」
暗くなりつつある中で、再度魚を火にあてて火が通ってない部分を焼きながら、千空は今しがた出会ったばかりの生物について考える。
目覚めてからここまで、赤い空飛ぶ怪獣に、黄色と青の怪獣、それにパラサウロロフスに類似した動物、そして二足歩行する猫。
生態系が大きく変化したのは確実だ。そしてその原因には、おそらく自然進化ではなく、あの石化光線がある。人間が猿から類人猿をたどって新人に至るまで、数万年以上の時間がかかっている。それと比較すると、例え猫が類人猿と同じような進化のルートをたどるとしても、いささか進化のペースが早すぎる。
「どういう基準で影響を与えてんだ?」
一見無作為、無茶苦茶に見えるものでも、この世のものである以上そこには必ず何らかのルールが存在する。その何らかのルールに則って石化光線が影響を与えた。
「そもそも……これは誰がやったんだ?」
石化光線の影響の基準や法則もそうだが、そこもまた謎である。これほど大きな影響を与える何か。どこかの科学者が実験でやらかしたのか、あるいは人類以外の何者か、例えば敵対的な宇宙人が放ったのか。他にも、ウイルスなど自然由来の何か、であるかもしれない。
「あの瞬間光線が来た方角……地平線の向こうってことはかなり遠くだな。なんかあんのか?」
千空は考えることをやめない。
と。そうしてしばらく考えていると、先程の猫が戻ってきた。今度は何かを腕に抱えている。千空の目の前に置かれたそれは、きのこや木苺などの食べ物であった。
「くれるのか?」
そう答えても返事はないが、代わりに木苺を千空の口元に突き出してくる。おそらく先程魚を見ていたせいか、千空が空腹であると認識されているのであろう。
ありがたいことなのでそれらをもらい、火を通さなければならないものには火を通す。
この石化した世界で。
1人で文明を立て直そうと思っていた千空に、奇妙な仲間が出来た。
アイルーの登場、千空に親切か、ただの動物か、とか、そもそもアイルーの文明レベルどれぐらいにしようかなとか思いましたが、文明レベルは火を使うものの原始的で千空には親切、なぐらいにしました。
この小説では千空はひとりじゃないよ!
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