神聖魔導王エンディミオンの治める魔法都市エンディミオン、そこにある魔法使い養成学校エンディミオンスクール。
これはそこに通う、魔法使いを目指す少年少女の物語。

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遊戯王~エンディミオンスクールストーリー~

 たくさんの机と椅子が並び、前の方には黒色の長方形の板──黒板があるごく普通の教室。そこはその教室の生徒達の会話等で騒がしくなっていた。

 八時四十五分、この学校──神聖魔導王エンディミオンの治める魔法都市エンディミオンにある魔法使い養成学校エンディミオンスクール──の朝のHRが始まる五分前。教室の外からどたどたどたと荒い足音が聞こえてきた。

 

「みーんなー! おっはよー!!」

 

 バァンッと引き戸を開いて叫ぶように挨拶をする赤毛の少女。その姿に、前の方の椅子に座り本を読んでいた茶髪にメガネの少女は読んでいた本を閉じてはぁと一つため息をつくとしおりを挟んで本を閉じ、呆れた目つきで赤毛の少女を見た。

 

「ヒータ、毎日毎日遅刻寸前の生活はいい加減改めたらどうだ?」

 

「そー固い事言うなってアウス! 遅刻しなけりゃ一緒一緒! それよりもおんもしれーニュース手に入れたぜ!!」

 

「面白いニュース?……」

 

 茶髪の少女──アウスの注意を赤毛の少女──ヒータはにゃははと笑い飛ばし、いきなりそんな話題を出す。それに水色の髪をした少女が首を傾げた。

 

「そう! 聞いて驚けぇ!!」

 

 金髪の少女の首を傾げながらの問いかけにヒータは両腕を広げて叫ぶ。

 

「このクラスに転校生が来るんだってよ!!!」

 

 そしてそんな言葉が教室中に響き渡った。

 

 それから五分の時が経ち八時五十分、この学校のHRの開始を意味するチャイムが鳴るとほぼ同時に、金色の髪を長く伸ばした華奢な体躯の美青年と言える男性が教室に入ってきた。

 

「おはようございます、皆さん」

 

「おっはよードリアードせんせ! でさ、このクラスに転校生が入ってくるってマジ!?」

 

 男性──ドリアードの挨拶にヒータが一番に挨拶を返し、さらに噂の真相を確かめるように机から身を乗り出してドリアードに尋ねる。それに彼はやれやれという様子で苦笑を漏らした。

 

「おやおや。その通り、このクラスに新たに編入した方がいます」

 

 ドリアードは微笑を浮かべながら転校生がいる旨を説明し、教室の入り口を見た。

 

「どうぞ」

 

「……」

 

 そう、彼が促すと共に引き戸が開き、教室に一人の少年──黒色の少し刺々しい髪質の髪を短めに整え、端正な顔つきはまだ幼さを残し、その肌の色は闇の中に映える光のように色白で、眠たそうな半目や閉じられた唇が物静かな雰囲気を漂わせる。その近くに真っ黒な身体に一つ目の謎生物がぷかぷかと浮遊しており、その少年は教壇の前に立つとぺこりと一礼した。

 

「……ダルク」

 

 少年は生徒の誰とも目を合わせることなくただそう一言だけ告げると口を閉ざし、教室内が微妙な沈黙に支配される。

 

「あーえっと、オイラは御主人(ダルク)の使い魔の(ダーク)・ナポレオン! 気軽にナポ君でいいッスよ! なんなら御主人の事はダル君とでも──」

「……うるさい」

 

 と、真っ黒一つ目の謎生物──D・ナポレオンが名乗り、口がないのにどこで喋ってるのか分からないがぺらぺらと喋っているとダルクが静かにそう言い、D・ナポレオンは不服そうに半目を見せた後言葉を止める。それによって再び教室が沈黙に支配された。

 

「せーんせーっ!! オレの隣の席空いてるぜー。転校生の席ここでいいだろー!?」

 

「そうですね。ではダルク君、彼女の隣へ」

 

 と、その空気を払拭するかのごとく、いやむしろ空気なぞ気にしていないとばかりにヒータが手を挙げてそう言い、それにこちらもまた微妙な空気なんて気にしていないかのようにダルクをヒータの隣の席へと促し、ダルクは黙って荷物を持ったまま指定された席へと移動、荷物を机の上に置くと席に着く。

 

「よろしくな、転校生!」

 

「……」

 

 ヒータがにししっと元気よく笑って挨拶したのに対しダルクは目をそむけたまま何も返さなかった。

 

「では、朝のHRを始めましょう」

 

 そして改めて教壇に立ったドリアードがにこやかに微笑みながらそう言い、この日の学校生活がスタートする。

 それから時間はあっという間に過ぎていき、帰りのHRまで時間は過ぎる。

 

「では、今日の帰りのHRはこの辺にしておきましょうか……おっと、言い忘れていました」

 

 帰りのHRでの諸注意や報告、それを終えたと思ったらドリアードはそう呟く。

 

「まあ、言うまでもありませんが……最近女性を狙う通り魔がいます。現在は魔導警察が総出になって捜索に当たっていますが、皆さんも注意してくださいね?」

 

 ドリアードの言葉に女生徒達から「はーい」という返事が発され、その時チャイムが鳴る。

 

「では今日はこの辺で。用事がない人は早く帰るように」

 

 そう言ってドリアードは教室を出ていった。

 

「なあなあ転校生! お前どっから来たんだ好きなもんなんだ趣味はなんだ!?」

 

 その瞬間ヒータは目を輝かせ野次馬根性全開でダルクの机にバンッと手を叩きつけて質問攻めを始める。それにダルクは気だるそうに目を細め、若干ヒータから距離を取るように身体を引かせる。

 

「止めないか、ヒータ」

 

「んだよぉアウス」

 

 と、茶髪にメガネの少女──アウスがヒータを嗜めるように声をかけ、ヒータは頬を膨らませる。それにアウスはもう一度ため息をついた後、ダルクの方を向いて彼に握手を求めるように手を伸ばす。その時彼女の服を内側から押し上げている豊満な胸が少し揺れた。

 

「ヒータが無礼をしたな。ボクはアウス、地霊使いの称号を得ている者だ。と言ってもまだ勉強中だがね……」

 

 アウスはそう挨拶をすると、いつの間にか自分の隣に立っていた、水色髪を長く伸ばした少女に目を向ける。

 

「そしてこっちは水霊使い──」

「エリアよ。あなたは闇属性モンスターの使い魔を連れているという事は闇霊使い? 同じ霊使い同士よろしく」

 

 アウスが挨拶し、その次に少女──エリアが腕組みしながらそっけなく挨拶をする。

 

「……」

「アウスちゃんにエリアちゃんっすね。オイラはD・ナポレオンッス! 主ともどもよろしくッス!」

 

 アウスが挨拶して手を伸ばしているにも関わらずダルクは彼女から目を逸らして無視と言っても仕方のない行動を取っており、代わりにと言うかD・ナポレオンがアウスに挨拶。それにアウスもふっと笑い、同時に彼女の頭の上に巨大なビーバーが乗っかった。

 

「よろしく頼む。ああ、これがボクの使い魔であるデーモン・ビーバーだ」

 

「ちなみにオレは火霊使い、名はヒータだ! 使い魔は……おーい!」

 

 アウスが使い魔の紹介をするとヒータも自分の名を名乗り、それから教室の後ろを向いておーいと声をかける。と、教室の後ろの方でお座りをしていた、尻尾の先に火のついた狐がコーンと一鳴きしてヒータの方に走る。

 

「こいつがオレの使い魔、きつね火だ!」

 

 ヒータはきつね火を抱っこして紹介し、きつね火がコーンと鳴くとD・ナポレオンもよろしくッスと挨拶を返す。

 

「……ナポ、帰るよ」

 

「ふぇッス!?」

 

 と、ダルクは短くその二言だけ言うと荷物を持って席を立ち、すたすたと教室を出ていく。

 

「ご、御主人!? ちょ、すいませんッス!」

 

 D・ナポレオンもふよふよと浮遊しながら器用に頭を下げるように身体を前に傾け、慌ててダルクを追って教室を出ていく。

 

「ちぇ~。んだよあいつ、ノリ悪ぃなぁ」

 

「転校初日で緊張しているのだろう……しかし、残念だったな」

 

 ヒータがダルクの席に突っ伏しながら呟くとアウスがふっと笑いながらそう言い、残念だったなと続ける。

 

「転校生君歓迎ミニパーティのお菓子買ってきたよー!」

「おまたせ~。はむはむ」

 

 直後バーンッと扉を開いて、白色の綺麗な髪をショートカットにしアホ毛がぴょんと跳ねているのが特徴的な少女が明るく笑いながら教室に入り、その後に緑色の髪をポニーテールに結った大人しそうな少女が、白髪の少女と一緒に買ってきたのだろうお菓子を齧りながら続く。さらにピンク色の球体に羽を生やしたような生物と黄色い体色の仔竜がその後に続いて教室に入った。

 

「一足遅かったね、ライナ、ウィン。転校生君はついさっき帰ってしまったよ」

 

「えぇ~っ!?」

「むふふ~それは残念だなぁ~。じゃあお菓子は代わりにわたしが食べてあげよぉ~」

 

 その姿にアウスが悪戯っぽく笑いながら返すと白髪の少女──ライナが声を上げ、緑髪のポニーテール少女──ウィンは残念そうには見えない程ににやけながらそう言ってお菓子に手を伸ばす。

 

「やめなさいっ」

 

「あいたっ!」

 

 とその伸ばした手が別の手にはたかれた。

 

「も~何すんのエリア~」

 

「そんなにお菓子ばっかり食べてたら夕食食べられないでしょ?」

 

 ウィンのぶすくれて唇を尖らせながらの言葉にエリアがそう注意をし、荷物を持ったままアウス達の方を向く。

 

「私、もう帰るから」

 

「ああ。すまないな、頼むぞ」

 

 エリアの言葉にアウスがそう返し、エリアもこくんと頷く。

 

「行くわよ、ギゴバイト」

 

 そして彼女は二足歩行のトカゲのような使い魔──ギゴバイトを伴って教室を出ていった。

 

 

 

 

 

「ご~しゅ~じ~ん~」

 

 一方ダルクとD・ナポレオン。ダルクはうつむき猫背気味の体勢になってすたすたと早足に歩き、D・ナポレオンがその横を並走するように飛んでダルクを呼んでいた。

 

「せっかく自己紹介してくれたのに名前も名乗り返さないなんて失礼ッスよ~。そりゃ最初に皆の前で名乗ったとはいえそこは礼儀ッスから~」

 

 D・ナポレオンの注意もどこ吹く風という様子でダルクは歩いていき、やがて曲がり角で曲がると辺りに人気がないのを確認してからぐるんとD・ナポレオンの方に振り返る。

 

「……だ、だだだだだだってナポ君! あ、あああんなに大勢の人に注目されるだ、だけでもな、なな慣れないのに、そ、その後にあ、あんな、か、可愛い子に次々話しかけられるにゃんてよしょうもしにゃいし……」

 

「御主人、噛み噛みッスよ……」

 

 色白な顔を真っ赤に染め上げガクガクと震えながら涙目でそう言うダルクにD・ナポレオンは呆れた様子でそうツッコミを入れる。

 

「しょ、しょもしょも僕、同年代の人と一緒に勉強にゃんてしたことにゃいし……し、失礼じゃなかったかな……」

 

「あれで失礼と思われなかったら逆に驚きッスよ」

 

 どうやら緊張で声が出せなかっただけらしく、しかもまだ緊張が解けてない様子のダルクの言葉にD・ナポレオンはまだ呆れた様子で毒を吐く。

 

「そ、それにあのアウスさん? だっけ? あの人の胸おっきくって、それが目の前にあって、もう恥ずかしくって見てられなかったよ……エリアさんも美人だったし、ヒータさんも元気で可愛かったし……」

 

「御主人……」

 

 ダルクはわたわたとしており、D・ナポレオンは呆れたように言葉を絞り出す。

 

「はいはーい。いいから帰るッスよー」

 

「う、うん!」

 

 D・ナポレオンの言葉にダルクはうんと頷き、二人──一人と一匹と言う方が正しいだろうか──は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 さてえ一方&時間が過ぎて日が傾き始めた時間帯。エリアは両手一杯に荷物を抱え使い魔のギゴバイトにまで荷物──ほとんどが食材だ──を運ばせながら城下町を歩いていた。

 

「思ったより遅くなっちゃった……急がないと」

 

 エリアはそう呟いて歩みを早め、ギゴバイトもとてとてとその後についていく。

 

「ん?」

 

 と、エリアは足を止めて横を見る。その先には闇夜に覆われた裏路地があった。

 

「……こんな道あったっけ? でも方角的には……」

 

 エリアはぶつぶつと呟くと、裏路地の方に足を向ける。

 

「ギゴバイト、急ごう」

 

「ギゴッ!」

 

 そう言ってエリアは裏路地に駆けるように入っていった。

 

 そのまま彼女はすたすたと裏路地を歩いていく。しかし、その先に進んでいくごとに闇が深まっていくように思え、エリアの心の中に不安が宿るとそれは少しずつ大きくなっていく。

 

「……大丈夫かな?」

 

 彼女が不安気にそうぽつりと呟いた、その時だった。

 

「ギッ、ギゴッ! ギゴッ!!」

 

「ギゴバイト!?」

 

 ギゴバイトが突然威嚇するように吠え出し、エリアが驚いたように足を止める。

 

「ほほう? なかなか勘の良いモンスターを従えているようですねぇ?」

 

 闇の中から聞こえてきた、まるで相手を舐めるかのように気持ち悪い声。それに怖気を感じながらエリアは身構える。

 

「おやおや、お転婆さんの様だ」

 

 クックッと噛み殺すような笑いの中、闇の中から一人の青年が姿を現す。その右手には長い杖を携え、オレンジ色の服に深紅のマントの洗練された上品な立ち居振る舞いはまるで紳士の様。縦に細長い顔には大きな一つ目が浮かび、どことなく不気味な風貌だった。

 

「初めましてお嬢さん、私は魔導紳士-Jと申します。お気軽にJとお呼びくださいませ」

 

 青年──魔導紳士-Jは深々とお辞儀をしながら名前を名乗り、軽い口調でそう言う。

 

「……何かご用? 魔導紳士さん」

 

 しかしエリアは彼に対抗するかのように強い口調で彼に尋ねた。それに魔導紳士はくすくすと笑う。

 

「これはお転婆なお嬢さんだ……ええ、ご用は一つです」

 

 魔導紳士はそう言い、気のせいか興奮したかのような口調で続ける。

 

「私は“美”を何よりも愛する、美の伝道師」

 

「は?」

 

 興奮し頬を紅潮させながらそう言うのに、エリアは呆けた声を出す。

 

「そして、女性の最高の美とは」

 

 魔導紳士はそう言うと同時に杖を構え、エリアもはっとなる。

 

「傷つき、苦しむ表情そのものなのですよ!」

 

「ギゴッ!!」

 

 魔導紳士が杖を構えるのと、ギゴバイトがエリアの前に飛び出したのは同時だった。

 

「ファンタズマル・ミスト!」

 

「ギゴーッ!!」

 

「ギゴちゃん!」

 

 魔導紳士の杖から放たれた闇の霧がギゴバイトを包み込んでダメージを与え、ギゴバイトの悲鳴にエリアも悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

「ご~しゅ~じ~ん~」

 

 一方街路に聞こえるD・ナポレオンの声。それは呆れと怒りがないまぜになっているようなものだった。

 

「オイラ言ったッスよね? 目的地の地図はちゃんと準備しておけって。それに都合により今日初めて行く事になったんだからちゃんと余裕を持って着くようにしておけって言ったッスよね?」

 

「……」

 

 D・ナポレオンの説教の声にダルクはしゅんとなった様子を見せる。ダルクは目的地への地図を失くしてしまい、さらに二人は迷子になってしまっていたのだ。

 

「ったく。その辺の警備兵に道でも聞くッスか?」

 

「そ、それだけは!?」

 

 毒づき後提案、しかしそれにはダルクはびくっとした様子でそう叫んだ。と、その次の瞬間ダルクはピクッと何かに反応する。

 

「御主人?」

 

「ナポ君、闇の魔法の気配だ……」

 

 主の反応に気づいたD・ナポレオンがダルクの方を向くと彼は静かにそう呟き、それから数拍おいて突然警備兵が騒ぎ出したと思うと突然一つの方に向けて走り出す。

 

「魔法の気配がある方と同じだ……ナポ君、行ってみよう」

 

 ダルクは目を細めてそう呟くと走り出し、D・ナポはえ~と声を漏らした後主について飛んでいった。

 それから二人がやってきたのはごく普通の街路。しかしそこにある裏路地への入り口に大勢の人が集まっていた。その先頭にはこの魔法都市の警察がいる。

 

「すいません、どうしたんスか?」

 

「ん? うおっ、モンスター!?……と思ったらなんだ、マスター付きか……喋るモンスターなんて珍しいな……」

 

 D・ナポレオンが適当な野次馬に尋ね、野次馬はD・ナポレオンを見て驚くが直後その横に立つダルクに気づいて安堵の息を吐く。

 

「いやな、この裏路地から妙な魔力が漂ってるんだが。見ての通りその入り口に変な結界が張られてんだよなぁ」

 

 野次馬はそう言い、一体なんなんだろうなぁと呟くとまた裏路地の方に目をやる。

 

「ふむ、気になるッスね……」

 

「ナポ君」

 

 D・ナポレオンは目を細めて呟くが、ダルクはD・ナポレオンを呼ぶとくるっと踵を返し、その場を離れる。

 

「え、ちょちょちょ御主人!? あんたが気になったから来たんじゃないんスか!?」

 

「あの中、学校で会った誰かがいる」

 

「!?」

 

 D・ナポレオンはダルクに叫ぶが、それを遮る勢いで、だが静かに言う。それにD・ナポレオンは驚いたように硬直した。

 

「あの路地の中に充満しているのは闇の魔力。だけどその中に一瞬だけど別の魔力の気配、さらに言うとその固有魔力がさっき学校にいた時に感じ取れたものに近い」

 

「さ、流石御主人ッス……」

 

「そういうわけで、助けに行こう」

 

 ダルクが真剣な目でそう言う。と、彼の推理に驚いていたD・ナポレオンは途端に、にやぁっと笑った時のように目を細めた。

 

「お、なんスか御主人なんスか御主人? そういや話しかけられてたのって女の子ばっかりだったッスね? ここで助けて高感度アップッスか? 白馬の王子様ッスか!? いやオイラは分かってるッス皆まで言わなくていいッス! あの御主人がそんな事を考えるようになったなんて感無量ってやつッス!」

 

「……」

 

 D・ナポレオンはダルクの周りをくるくるちょろちょろと動き回りながらそう言い、それを聞いたダルクは目を閉じてうつむき額に怒りマークをくっつけ怒りに震えると懐に手を入れ、一枚の緑の(カード)を取り出す。

 

魔法(マジック・スペル)発動、[魔界の足枷]」

 

 彼がそう言いカードが光を放ったその時、D・ナポレオンの頭上に突然棘付きの巨大な石球が出てきたと思うとD・ナポレオンを押し潰し、さらにその石球についている枷がD・ナポレオンに取り付けられた。

 

「ぬおおおおお痛いッス重いッス痛いッス! しかも身体に力が入んないッス!!」

 

「主に逆らった罰だ。しばらく反省していろ」

 

「ごめんなさいッスごめんなさいッスごめんなさいッスー!!」

 

 D・ナポレオンの悲鳴に対しダルクはそう言い、それに対しD・ナポレオンは必死に謝罪の言葉を連呼し始めた。そして魔界の足枷が解除されてから、二人は人気のない場所へと移動。ダルクがD・ナポレオンに掴まりD・ナポレオンは必死に小さな翼を羽ばたかせて一軒の屋根の上に上がり、さっき人が集まっていた場所まで屋根を伝って戻ってくるとダルクは手を押し出す。しかしその手は途中で何かに阻まれた。

 

「ここまでが効果範囲か……」

 

「ん~、見る限りこれは光魔法の結界術ッスよね?」

 

「ああ。[光の護封壁]だろうな。術者の生命力を強度に変える、高度な(トラップ)タイプの結界術だ」

 

 D・ナポレオンの鑑定にダルクは肯定の意見を出し、再び懐から一枚のカードを取り出す。

 

魔法(マジック・スペル)発動、[罠はずし]!」

 

 発動するのはごく基本的な罠の解呪呪文。その魔法の光が止んだ時、光の壁には少年一人分は通れる穴が出来上がっていた。

 

「流石ッス御主人! でも、なんでさっきのとこでやんなかったんスか?」

 

 D・ナポレオンは主を褒めた後、何故さっきのところでやらなかったのかと尋ねる。それにダルクは「言うまでもないだろう?」とD・ナポレオンに言葉を向けた。

 

「目立ちたくない」

 

 その言葉にD・ナポレオンも「そうッスよね~」と返し、二人は光の壁の中に入っていった。

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 一方結界の中。魔導紳士に襲われているエリアは、魔導紳士の放つ魔力弾をギゴバイトを抱えてダイビングしかわしていた。しかし攻撃をかわしきれなかったり、かわしても両手がギゴバイトで塞がっているため受け身が取れず、身体中はすり傷だらけになっている。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「ああ、その苦しげな表情! なんて美しい!!」

 

「……変態」

 

 傷だらけになり体力も限界に近いのか荒い息をしているエリアを見た魔導紳士は歓声を上げ、それにエリアはそう毒づいた。

 

「さて、そろそろ楽しい時間もフィナーレだ……君を気絶するまで痛めつけた後、私の記憶を消去してあげないとね」

 

「っ!?」

 

 そう言う魔導紳士から突如として殺気が放たれ、エリアはその殺気に貫かれ動けなくなる。

 

「せっかくだ、君の得意な水魔法でトドメを刺してあげよう」

 

「あ、う……」

 

 魔導紳士がそう言って杖を構え、殺気に呑み込まれたエリアは怯えたまま動けなくなる。

 

「アイス・ストーム!!!」

 

 そして魔導紳士が叫び、氷の竜巻がエリアに向かっていく。それを見たエリアはギゴバイトを強く抱きしめ目を閉じた。

 

(トラップ・スペル)発動!!――」

 

 その時、そんな声が聞こえてきた。

 

「――[シフト・チェンジ]!!!」

 

 襲ったのは冷たい竜巻ではなく、謎の浮遊感。さらにその直後、空中から落ちた途中で誰かに抱き留められたかのような感触まで味わう。

 

「えっ?」

 

 エリアは驚いて目を開く。

 

「大丈夫?」

 

 その目の前には、色白な肌に何故か赤みが差している、今朝会ったばかりの少年の姿があった。

 

「ダルク、くん?……なんで?」

 

 エリアは呆然とした様子でダルクに問いかけ、彼は自分が立っている屋根の上にエリアを優しく下ろしてからふぅと息を吐く。

 

「た、たまたま通りがかってね。そしたらエ、エリア、さん、が攻撃されてたから咄嗟にシフト・チェンジで……」

 

「シフト・チェンジ……確か一種の転送系魔法だっけ? 自分もしくは近くにいるものを遠くのものと入れ替える……ん? って事は──」

「──ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 ダルクの説明を聞いたエリアが、ダルクが使用した魔法の内容を思い返し、何かの結論を導き出すと同時、D・ナポレオンの悲鳴が響き渡った。

 

「痛いッス冷たいッス痛いッス冷たいッス痛いッス冷たいッスー!!??」

 

「……ごめん、ナポ君。時間がなかったんだ……」

 

 どうやらエリア&ギゴバイト──転送対象のエリアが強く抱きしめていたためギゴバイトも一緒に転送されたようだ──の身代わりにD・ナポレオンがアイス・ストームをくらったらしい。

 

「キーッ!!!」

 

 と、魔導紳士が突如ヒステリックな声を上げる。

 

「一体あなたは何者ですか!? 私のかんっぺきな美の造形を台無しにしてっ!?」

 

「ん?……ふっ」

 

 魔導紳士の怒りの声に、ダルクはふっと笑う。

 

「エリアさん、ここにいてね?」

 

「え?」

 

 エリアにそう言い残して彼は屋根の上から飛び降り、着地して立ち直すと着ているマントを掴み、かっこつけて翻した。

 

「通りすがりの霊使いさ! 覚えておけ!!」

 

「ふざけるなあああぁぁぁぁっ!!!」

 

 ダルクの言葉に激昂したように魔導紳士は杖から闇の霧──ファンタズマル・ミストを放って攻撃を仕掛ける。が、ダルクは杖を持つ手を前に突き出して闇の魔法陣で障壁を張り、その攻撃を防いでみせた。

 

「なにっ!?」

 

「いくよ、ナポ君!」

 

「オッケイッス!」

 

 魔導紳士が驚愕に一つ目を広げ、ダルクが叫ぶとアイス・ストームから解放されたD・ナポレオンもダルクの方に飛ぶ。

 

「ダーク・プリーズ!」

 

 ダルクが叫んで左手を横に伸ばし、D・ナポレオンがダルクの頭の上に着地すると同時に彼の左手の向いている先に黒色の、直径がダルクの背丈程もある魔法陣が形成される。

 それは少しずつダルクの方に向かっていき、ダルクとその頭上のD・ナポレオンを通り抜けていく。その時ダルクの魔力が膨れ上がり、さらにD・ナポレオンもその姿が変化していく。具体的には角が伸び、翼も巨大化、身体自体も成長していく。

 

「……憑依、装着」

 

 その光景を見たエリアが呟く。自らが契約した使い魔を自らの身体に憑依し合体、己の魔力をも増大させる技術。

 だがそれには術者と使い魔の力量はもちろんの事、その間に深い絆が結ばれていることが絶対条件。少なくとも彼女は未だに一度も成功させたことがない高等技術だった。

 

「さあ、ショータイムだ!」

 

「な、舐めるのもいい加減にしなさいっ! アイス・ストーム!!」

 

 ダルクはテンション高く叫び、それに魔導紳士が叫んで氷の竜巻を放つ。が、それは今度はダルクが動くまでもなかった。

 

「御主人のせいッスけど八つ当たりさせてもらうッス!! ダーク・ボム!!」

 

 憑依装着の結果力が底上げされたD・ナポレオンの目から放たれる闇の弾丸は氷の竜巻に着弾すると同時に爆発し、D・ナポレオンは弾丸を連射、幾度かの爆発が繰り返された後氷の竜巻は消え去った。

 

「ば、馬鹿な……この私がこんなガキの使い魔ごときに……」

 

「遅いよ!」

 

「はっ!?」

 

 自らの自信ある術が使い魔ごときに打ち砕かれた魔導紳士は信じられないように立ち尽くすが、そこに聞こえてきたダルクの声で我に返る。ダルクはD・ナポレオンに当たらないように操作しながら魔力弾を放ってきており、すんでで気づいた魔導紳士は横っ飛びをしてかわすが、その魔力弾が爆発を起こし魔導紳士を吹っ飛ばす。

 

「がはっ!!」

 

「よし、トドメいくッスよ御主人!!」

 

「よし、コンビネーションだ!!」

 

 魔導紳士は地面に叩きつけられ苦しげに息を吐き、それを隙と見たD・ナポレオンとダルクは互いに頷きあうと集合する。

 

「ヒャハハッハハァッ!! かかったぁっ!! (トラップ・スペル)発動!!──」

 

 と、その瞬間魔導紳士が笑い声を上げる。

 

「「!?」」

 

「──[闇の呪縛]!!!」

 

 魔導紳士が叫び、同時にダルクとD・ナポレオンを虚空から出現した無数の闇の鎖が縛り上げる。

 

「しまった!?」

「う、動けないッス!?」

 

「ヒャッハハハハァッ!! 魔法・罠(スペル)(カード)はアンタの専売特許じゃないんですよォ!!」

 

 ダルクとD・ナポレオンが焦ったように叫び、魔導紳士は勝利を確信したように高笑いをすると懐からもう一枚の緑色のカードを取り出す。

 

「さあ、あの世にいきなさァーい!! 魔法(マジック・スペル)発動! [死者への供物]!!」

 

 魔導紳士が叫び、カードから光線がダルク目掛けて放たれる。

 

「マジ──」

 

 ダルクが呟く、がその言葉は途中で止まる。

 

「──エリアちゃん!?」

 

 いつの間に降りてきていたのか、エリアがダルクを庇うように光線の前に立ちはだかったのだ。そして、エリアがその光線を受け衝撃で吹っ飛ばされる。

 

「ぁぐ……」

 

「キィーヒャヒャヒャ!! そんな男を庇って死ぬなんてねェ!!」

 

 エリアは苦しそうな声を上げ、魔導紳士が笑い声を上げる。

 

「それはどうかしら?」

 

「ヒャ?」

 

 が、その次の瞬間エリアは二本の足でしっかりと立ち直した。

 

「ば、ばばば馬鹿なぁっ!?」

 

「おあいにく! 私だって魔法・罠(スペル)(カード)は使えるのよ! (トラップ・スペル)、[海竜神の加護]!! 我ら弱き水の民はすべからく海竜神のご加護に守られる!!」

 

 もう何度目になるだろう魔導紳士の驚愕の声にエリアは強気に笑いながら叫ぶ。その光線が当たった場所からその名を刻まれた赤い札(トラップ・スペル)が滑り落ちた。

 

魔法(マジック・スペル)発動、[サイクロン]!!」

 

 その隙にダルクはさらなるカードを使い、竜巻で呪縛の鎖を引き剥がして杖を構え直す。

 

「そ、そんな……こ、ここは逃げ──」

「おぉっと、足元ご注意~♪」

「──ふげっ!?」

 

 状況不利をようやく悟ったのか逃げ出そうとする魔導紳士にエリアが呼びかけ、その直後魔導紳士はずっこける。いつの間にか彼の足元が凍り付いていた。

 

(トラップ・スペル)、[アイスバーン]!! 水の民でないのなら氷に慣れてないでしょ?」

 

 いつの間にかエリアが握っていた赤色のカード。それを見たダルクはふっと笑い、D・ナポレオンにアイコンタクト。それにD・ナポレオンも頷くとダルクは杖を前方に向けて構え、D・ナポレオンはその先端にくっつくように構えを取った。

 

「くらえ、僕達のコンビネーションアタック!!!」

「全開でいくッスよー!!!」

 

 二人が叫び、ダルクは闇の魔力でD・ナポレオンをコーティング。ドォンという撃音と共にD・ナポレオンは銃から放たれた弾丸の如く猛スピードで魔導紳士へと突進。D・ナポレオンは魔導紳士を闇の爆発に巻き込んで自爆した。

 

「はらほれひれはれー……」

 

 D・ナポレオンの特攻によってついに気絶した魔導紳士は闇の呪縛によって縛り上げられていた。

 

「これで、後は警察に任せとこっか」

 

 ダルク──憑依装着は解除した──の言葉にエリアはうんと頷く。

 

「御主人、リュック持ってきたッスよー」

 

 そこに屋根の上に放置されていたダルクの荷物を取りに行っていたD・ナポレオン──ついでにギゴバイトが乗っかっている──が合流する。

 

「あ、ありがとうナポ君、あっ」

 

 ダルクも荷物を受け取ろうと手を伸ばすが、疲れていたのかリュックを取り損ねてしまいリュックは地面に落ちると倒れて中の荷物をぶちまける。

 

「わっ!? ご、ごめん!」

 

「御主人、久しぶりの実戦で疲れてるんスかね?……って、あれ?」

 

 慌てて地面に這いつくばり荷物を拾うダルクと、それを手伝おうとするD・ナポレオン。するとD・ナポレオンは一枚の紙に気づいた。

 

「御主人! 寮への地図あったッスよ!!」

 

「ほんと!?」

 

「あー、きっとリュックの底に沈んでたんスね……」

 

 D・ナポレオンの報告にダルクが叫び、D・ナポレオンはそう分析。するとエリアがその寮への地図を拾い上げた。

 

「……あれ、ここって」

 

「あ、エリアちゃん寮の場所知ってるんスか? だったら悪いッスけど案内してもらえないッスかね~?」

 

「知ってるも何も……」

 

 D・ナポレオンのお願いにエリアは引きつった笑みを見せた。

 

「ここ、私達が住んでる寮なんだけど……」

 

 彼女は引きつった笑みでそう呟き、そうダルクに尋ねる。それにダルクもぴしっと固まっていた。

 

 

 

 

 

「「エリアちゃーん!!!」」

 

 それから寮に辿り着いたエリアとダルクを待ち受けていたのは、まず白髪の少女と緑髪ポニーテール少女のエリアに対する勢いのある突進からの熱い抱擁だった。

 

「どうしたのエリアちゃん!! 怪我してるじゃないのー!」

「心配してたんだよ~!! お腹空いたー!」

 

「ご、ごめんねライナ、ウィン。あとウィンは素直なのはいいけどここは隠しなさい」

 

「えーっと……」

 

 白髪の少女──ライナと緑髪ポニーテール少女──ウィンの心配の抱擁にエリアは謝り、ダルクは手持無沙汰になる。

 

「んお? よお、ダルクじゃねえか」

 

「あ、ヒータさ、んぅっ!?」

 

 そこに聞こえてきた聞き覚えのある声にダルクは安堵したように声の方を向き声の主ヒータの名を呼ぼうとするが、彼女の姿を見た瞬間ダルクはのけ反る。ヒータは上はシャツ一枚、下はホットパンツという、純粋な少年にとっては目の毒な露出スタイルを取っていたのだ。まあ本人的には多分楽なのだろう。

 

「おいエリア、お前怪我してんじゃねえか? どうしたんだよ?」

 

「あーえっと、話題の通り魔に襲われてね。その、ダルクが──」

「あぁん? ダルクだとぉ!?」

 

 ヒータもまたエリアが怪我しているのに気づき、エリアが説明しようとするとヒータはダルクの名前が出た瞬間彼に睨みかかる。

 

「おいテメエ通り魔とか言ってエリア怪我させるたぁいい度胸じゃねえかアァアンッ!? オイコラこっち向きやがれっ!?」

 

「ム、ムリムリムリ……」

 

 速攻で凄むヒータと怯えるダルクという図。もっともダルクはヒータの格好に照れているだけなのだが、健康的な日焼けをしているヒータの肌に時たまちらちらと目を向ける辺りお年頃だろうか。

 

「ヒータ、その辺にしておけ」

 

 と、出てきたアウス──料理でもしようとしていたのかエプロン姿だ──が嗜め、ヒータはチッと舌打ちを叩く。

 

「ち、違うのよヒータ? 私が通り魔に襲われたところを、ダルクが助けてくれたのであって……」

 

「お、なんだそうだったのか。悪いなダルク!」

 

 エリアから説明を聞いた瞬間ヒータは快活に笑いながらダルクに謝り彼を広げた手でバンバンと叩く。

 

「先生から話は聞いている。まさか君が入寮生だったとはな」

 

「んえ? んな話してたっけか?」

 

 事情が分かっているらしいアウスの言葉にヒータが頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら聞き返し、アウスがやれやれとため息をついた後、ダルクの方を向き直す。

 

「ようこそ、エンディミオン寮へ。寮長である先生は補習授業や追試の採点で遅れているようでな。代わりにボク達が歓迎しよう」

 

「あ、よ、よろしくお願いします……」

 

 アウスがそう言って右手を差し出し、ダルクもおどおどとなりながらも右手を差し出し二人は握手をする。

 

「よろしくねー!!」

「しくー!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 と、ダルクの背後からライナとウィンが急襲する。

 

「じゃあボクはエリアの手伝いをしてこよう。ライナ、ウィン。後は任せた」

 

「うん! あたし光霊使いのライナ! 使い魔はハッピー・ラヴァーだよ!」

「わたしは風霊使いのウィン~。使い魔はプチリュウ~」

 

 ライナは明るく元気よく自己紹介をし、ウィンはほわほわと微笑みながら自己紹介する。その横でふよふよ浮遊しているライナの使い魔──ハッピー・ラヴァーとウィンの使い魔──プチリュウが可愛らしく鳴き声を上げ、D・ナポレオンが「よろしくッス」と使い魔同士挨拶した。

 

「あ、え、えっと、ダ、ダルクです……よろしく……」

 

 そしてさらなる美少女二人に接近されて挨拶されている現状にダルクはたじたじになり、顔を赤くしながら呟くように挨拶をしている。

 

 

 

「エリア、手伝おう」

 

「あ、うん。ありがと……でも食材って」

 

 三角巾にエプロン姿になったアウスは厨房に入って同じく三角巾&エプロン姿のエリアに手伝いを申し出、材料を切っていたエリアは器用に包丁を操りながらアウスの方を見てお礼を言い、でも食材はどうしたのかと尋ねる。買い出しに行っていたエリアは魔導紳士に襲われていた上に食材は全て戦いの余波でぐちゃぐちゃになっていたはずだ。と、アウスは悪戯っぽく微笑んだ。

 

「遅かったからな。ヒータと共に買い出ししておいた。そして料理を始めようとしたところで逢引していた君達が帰ってきたというところだな」

 

「ふ~ん……」

 

 アウスの説明にエリアはふ~んと言いながら材料を切っていく。と、その時包丁の勢いが上がり食材を切ってザクンという音が響く。そしてエリアは顔を真っ赤にしてアウスの方を向いた。

 

「あっ、あああ逢引って!? だ、だから私はたまたま通り魔に襲われただけで!?」

 

「冗談だ」

 

 エリアの言葉にアウスは薄く笑いながら返す。が、その笑みには何か面白いものでも見たかのような感情が含まれていた。

 

「しかし、クールビューティを気取っているエリアがそんな顔をするとはな。実はダルクに惚れたんじゃないか? 吊り橋効果と言ったか?」

 

「なっ、ななななな!?」

 

「あーいやいやそんな説明のつく心理要因のせいで惚れてしまったというと失礼だな。ここは今もなお人では説明できない心理要因、一目惚れをしてしまったという事にしておこう」

 

「あいえおうあうえいお!?」

 

 アウスのからかいにエリアは正に蒸気でも噴き出さんばかりに顔を真っ赤にする。その口からはもはや意味をなさない言葉が漏れ出るしか出来なくなっていた。さらに混乱しているのか両腕をじたばたと上下させている。と、アウスは「ははは」と笑い声をあげた。

 

「冗談だよ冗談。そんなエリアを見られるとは思えなくてからかいすぎた。すまない」

 

「……もう」

 

 アウスの言葉にエリアはぶすくれたように唇を尖らせ、料理に戻る。それにアウスは苦笑してからちらりと今ダルク達のいるホールに目をやった。

 

「む? ダルクがライナとウィンに手を握られているな」

 

「!」

 

 アウスの呟きにエリアは瞬時にホールに目を向ける。

 

「冗談だ」

 

 その瞬間アウスはしてやったりな笑みを浮かべながらそう言ってみせる。ダルクはソファに座らされてライナとウィン、そして便乗したヒータから質問攻めを受けておりたじたじになっている。が、別に手は握られていないというか指一本触れていない。

 

「アーウースー!!!」

 

 そしてエリアの怒鳴り声が響き渡った。

 

 

 

「ど、どうしたんだろ、エリアさん……」

 

 そのキッチンからの怒鳴り声を聞いたダルクはびくりと身体を震わせた後、ただ静かにそう呟いた。

 

「そうなんスよー! 御主人ってばこの年にもなって未だに女の子と話すのに慣れないって言うか、実は学校でのあれはかっこつけでもキャラ付けでもなくただ単に緊張してただけなんスよー」

 

「へー」

 

 その横では会話対象をシフト・チェンジされたD・ナポレオンがライナ達と話をしていた。

 それから会話が一段落した辺りで簡単な料理が完成したのかエリアとアウス──エリアは額に怒りマークをくっつけて頬を膨らませている──が料理を運びダルク達のいるテーブルに並べていく。

 

「ダルク」

 

「?」

 

 ダルクの横にさりげなく移動しながら料理の配膳をしていくアウスはさりげなくダルクに話しかけ、その声にダルクが反応してアウスの方を向くと、彼女はパチンとウィンクをした。

 

「君のおかげで、これから楽しくなりそうだ」

 

「えっ、あぅ、その……どういたしまして?……」

 

 突然の美少女からのウィンク&意味深な言葉にダルクは頬を赤くしながら、ただそうとだけ呟いた。

 魔法都市エンディミオンの魔法学校エンディミオンスクール。その寮での少年少女の新たな生活がこれから始まるのであった。




《後書き》
あけましてもう二週間ほど経っていますが改めましておめでとうございます。
こちらは現在正月ボケとなんかすごい寒さでやる気が失われ、執筆もままならぬ状況です。(笑)

というわけでというかなんというか、ネタ漁りをしていたら前に活動していたサイトが閉鎖するとなってとりあえず保存しておいた、当時書いてた小説(一話でエタりました)を見つけたので。せっかくだから投稿することにしました。何年前のだろうなこれ?
まあそういうわけなので、正直続きは期待しないでください。多分ダルクを主人公とした霊使いハーレムものを目指してたんだと思うんですけど、流石にもう何年前のものかも分からんものを発掘したやつの続きを書けとか無茶振りどころではありませんので。

というか実を言うと、ネタはあるんです。ただ書く気が起きません。「ネタはある、ストーリーも大筋纏まった、出演キャラも決まった。けれど書く気になれない」という作品が遊戯王だけで四作ある。
というわけで、その四作の概要アンケートに出すので。よろしければどれを読みたいかご投票お願いします。やる気を出すきっかけが欲しい……。

では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

これらの内読んでみたい話はどれですか?

  • サイバー流メスガキinアメリカアカデミア
  • サイバー流メスガキinアカデミア
  • もしも万丈目兄弟が互いにブラコンだったら
  • もしも十代に邪英雄使いの妹がいたら


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