転生したら帆波ちゃんだったので、綾小路君の相棒になってみようと思います 作:レイラレイラ
私、一之瀬帆波は桔梗ちゃんをつけたことを後悔しかけていた。
放課後の勉強会を終えて一人で帰る桔梗ちゃんをつけたはいいものの、屋上に続く扉の前にたどり着いたところでそれは始まった。
「あ──────ウザい」
普段の桔梗ちゃんとは似ても似つかない低く重たい声。
それ自体は彼女の本性を知っている私にとって驚くことでもなかったけど、後悔の理由が明かされるのはここからだった。
「一之瀬のヤツ、善人気取ってポイント稼ぎかっての。どうせあんなの顔に出してないだけで男子どもにちやほやされて鼻の下伸ばしてるに決まってんのよ」
すごい言いたい放題言われてる…………
確かに私が目立ちまくってるから桔梗ちゃんの方に注目が行くことが少なくなってるけど、思いもよらないところでヘイトを集めていたみたい。
まさか堀北さん以上に嫌われることになるとは思わなかったよ。
「あいつさえいなければ、私だってもっとクラスの人気者なのに。最悪最悪最悪。ほんっとうに最悪」
薄々分かってはいたけど、私は相当桔梗ちゃんに嫌われてるようだった。
極度の承認欲求を持った傲慢な性格が桔梗ちゃんの本性。
もちろん私みたいなタイプが彼女に好かれるわけがないよねと思いつつ、例え表面上のものだったとしても友達としてうまく接してくれていた。
だけど納得出来る部分があるのもまた事実。
それは私のしていることや、今の自分の立場が桔梗ちゃんの承認欲求を満たすことの邪魔を故意じゃなかったとしてもしていることになるから。
これについては素直に悪いと思ってる。
でも、クラスのみんなのためにもどれも必要なことだったから。
言い訳にしかならないことは分かってるつもり。
こういう誰かのためっていうのも桔梗ちゃんの嫌いなところなんだろうし、とてもじゃないけど信じられないんだろうね。
たくさんの人に囲まれて笑顔でいる私を見て、こうして人の目のないところで吐き出していないと耐えられないほど鬱憤をためていたことも。
放ってはおけなかった。
気づけば勝手に足が動いて桔梗ちゃんの近くまで来ていた。
「桔梗ちゃん」
「っ! なに、あんた聞いてたの?」
「…………うん」
ゾッとするぐらいに冷たい瞳。
桔梗ちゃんの過去を知っているとは言っても、ここまで冷たい目をするものなのかとても信じられなかった。
しかもその理由の一端に私も入っていると考えれば、途端に申し訳なくなってくる。
「そう。もしも話したら、その時は容赦しないから」
「話さないよ。桔梗ちゃんは誰にも知られたくないんだよね? だったら言いふらしたりしないし、私の胸に留めておくから」
「はぁ…………相変わらずムカつく。そういうところよあんたの嫌いなとこ」
そう言われても、そういう性分というか意識してやめられるものじゃないし。
面と向かって嫌いって言われたことないから、どう反応したらいいのか分からないや。
「桔梗ちゃんって、いつもここ来て愚痴吐いてるの?」
「だったら何。文句でもあるわけ」
「文句っていうか、一人で愚痴言っててもすっきり出来ないと思うんだよね。いっそのこと私に愚痴を聞かせてみない?」
「は、はぁ!?」
桔梗ちゃんが驚きのあまり階段を踏み外しかけて、すんでのところで支える。
すぐに私から離れた桔梗ちゃんは顔を赤くして怒鳴ってきた。
「バカじゃないの!? なんでよりによって、堀北レベルで嫌いなあんたなんかに聞かせてやんなきゃいけないわけ!?」
「何でって言われても、桔梗ちゃんは私のこと嫌いなんだよね? 嫌いな相手に直接言うんだから、これ以上ないくらいすっきりするんじゃないかな?」
「なに、それ。意味分かんないんだけど」
「だからね、どうしても辛くなったら夜とか電話してくれていいんだよ? 言いたいことがあったら直接聞くし、悩み事でもいいかも」
「…………」
あれ、黙っちゃった。
別に難しいこと言ったつもりはないんだけど。
「…………なんで」
「え?」
「なんで嫌いって言われたやつに、そんなこと言えるわけ!? どこまで善人ぶれば気が済むの!? バカみたい!」
「そう! それだよ!」
「…………は?」
私は桔梗ちゃんの手を両手で挟み込んで、ぐっと顔を近づける。
もしも桔梗ちゃんが誰かに認められたいなら、私がそうしてあげればいい。
どんな愚痴だって聞くし、自分だけだとどうしようもないことがあったら助けたい。
私に出来ることなんてほとんどないかもしれないけどね。
「桔梗ちゃんが色々と抱え込んじゃう子なんだなって、やっと知ることが出来た。今の桔梗ちゃんも桔梗ちゃんなんだから、私は受け入れるつもり。嫌いなら嫌いでいいよ。そんな桔梗ちゃんも私は好きだって誓える。だから、ね? 愚痴を言える相手が一人でもいたっていいんじゃないかな」
私の素直な気持ちを言葉にして桔梗ちゃんに伝える。
変に直そうとするのは彼女の否定にしかならないし、愚痴を聞いたからって満たされるわけじゃない。
だからこれは私の自己満足。
それでほんのちょっとでも気持ちが晴れるならいいと思う。
「…………」
桔梗ちゃんは何も言い返す様子を見せずに、私の横を通りすぎていく。
さすがに一回で説得なんて無理だったかな。
「…………ねえ」
立ち止まった桔梗ちゃんは振り返らずに、静かに私に声を発した。
「えっ?」
「さっきの、あんたに愚痴を言っていいってやつ。本当?」
今桔梗ちゃんがどんな顔をしているのかは見えないけど、声音だけでもなんとなくわかる。
中学時代は匿名ブログでしかストレスを発散する手段がなかった。
そこにもしも、本音をぶちまけてもいい相手がいたなら。
ほんの少しは安心出来るんじゃないかなって。
「もちろん。遠慮しないで私に話していいよ」
「…………変なヤツ」
最後にポツリと一言だけ言い残して桔梗ちゃんは去っていった。
堀北さんとの因縁まではまだどうにもできないけど、その布石くらいは打てたらいいな。
「それでうまくいったの?」
「どうかなー。手応えはあったと思う」
あれから私はすぐに部屋に戻ってから着替えて、お風呂を済ませたところにインターホンがなった。
扉を開けた先には雫ちゃんモードの愛里ちゃんが。
お隣とは言っても、外にその状態で出るのは相当勇気が必要だったのは想像に難くない。
愛里ちゃんを部屋に入れて、今は二人で寛ぎつつ雑談中。
話している内容は桔梗ちゃんのことだけどね。
クラスのみんなともかなり話せている今の愛里ちゃんでも、やっぱり桔梗ちゃんのことは苦手だったみたい。
彼女の本性にも薄々勘づいていたみたいで、少し前にそれとなく伝えている。
さすがに具体的な過去を話すわけにはいかないから、どういう人物かついてだけね。
「そっか。それならよかったかな」
「愛里ちゃんもやっぱり心配だった?」
「うん。溜め込んでると辛いのはよく分かるから。それに帆波ちゃんも気にしてたでしょ? たまに櫛田さんの方見てたから」
「にゃはは。気づかれてたかー」
「気づくよ。帆波ちゃんが言ったんじゃない、人の目を見ることは大切だって」
本当にさりげなくチラ見するだけだったんだけど、愛里ちゃんもよく気づけたなと思う。
ずっと私を見ているなら気づいてもおかしくないけどね。
羞恥心から頬を指で掻いていると、チンと電子レンジが音をたてた。
降ろしていた腰を持ち上げて、中からホカホカのハンバーグを取り出す。
昨日の夜に食べようと思ったんだけど、調子に乗って作りすぎちゃってね。
朝ごはんにもハンバーグ、お昼のお弁当にもハンバーグで夜もこうしてハンバーグを食べることになった。
冷凍すればしばらくは大丈夫だとしても早めに消費したくて愛里ちゃんにも食べてもらってるわけで。
もちろん清隆くんにもお弁当のおかずとして食べてもらったよ!?
美味しかったって言ってくれたときは、まさに天にも昇る心地だったなぁ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまー。食器はシンクに入れといていいよ。後で洗うから」
「わかった」
夜ご飯を食べ終えると雑談を再開する。
そこからは本当になんてことはないおしゃべりが続いた。
一時間ぐらい話した後で、愛里ちゃんが眠そうになったから解散する運びになった。
そろそろ雫ちゃんモードの御披露目も視野に入れてもいいかもしれない、そう考えながら愛里ちゃんを見送る。
このまま順調に事が運べばいいんだけどな…………
櫛田の帆波を罵倒している台詞書いてるとき、すっごい泣きたい気持ちになりましたが頑張りました
帆波(憑依)に『■■のホワイトルーム生』的な二つ名をつけるとしたら
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慈愛のホワイトルーム生
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偶像のホワイトルーム生
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単純にホワイトルーム生No.2