転生したら帆波ちゃんだったので、綾小路君の相棒になってみようと思います 作:レイラレイラ
あれから成果は芳しくなく、あっという間に金曜日を迎えた。
むしろ何かしらの成果が上がっていたらそっちの方が後々で問題になってくるんだけどね。
そんなことよりも、学生寮のポスト前で私はショックのあまり動けずにいた。
いつまでも動く様子を見せない私に訝るような人の視線を向けてくるものの、今の私にはそれらを気にする余裕はなかった。
早朝のランニング帰りに念のためポストを覗いてみたところまでは問題がなかったのに、そこから一枚の手紙は出てきたことが何よりの問題だった。
ハートの可愛いシールが貼られた可愛らしいラブレターだったんだよ。
なんでこうなったのか、整理しなくちゃいけない。
まだ中身を見ていないから確実なことは言えないけど、差出人はCクラスの千尋ちゃんで間違いないと思う。
同じクラスにいたならまだ分からないでもないよ。
Cクラスに生徒ともたまにお話したりするし、千尋ちゃん本人とも一応は顔見知りだ。
そう、顔見知りの範疇を抜き出ていない。
教室に行ってもせいぜい一言か、二言交わすぐらいの関係なんだよ。
あの子に好意を持たれるようなことは何一つしていないし、全くもって心当たりがない。
そうだ、手紙を読んでみよう。
中身確認すれば千尋ちゃんの真意が分かるはず。
「何してるんだ?」
「にゃーっ!」
後ろから声をかけられて猫みたいな悲鳴を挙げてしまった。
どっかの桔梗ちゃんと比べて素で言いました。
「わ、悪い。驚かせたか」
「なんだ清隆くんかぁ。びっくりしたよー」
手紙の方に意識を集中させてたせいで気配に全く気づかなかった。
普段だったらこんなことは絶対にないのに。
「清隆くんにしては珍しいね。こんな朝早くに」
「今日は少し早く目が覚めたんだ。二度寝するには半端な時間だしな」
万が一遅刻しそうになっても、私が起こしに行ってあげるから心配はいらないのに。
「それでどうしたんだ? こんな所で突っ立って、部屋に戻らないのか?」
「実は…………」
清隆くんに手紙を手渡すと、一瞬目付きが鋭くなった気がしたけど瞬きした時には元に戻っていた。
何か気になることでもあったのかな。
「誰からだ?」
「分かんない。まだ中は見てないから」
さすがにCクラスの千尋ちゃんからだよなんて答えるわけにはいかないからね。
「ここは目立つ。部屋に戻ってから中を見た方がいい」
「う、うん。そうだね」
清隆くんに促されて、二人で私の部屋に向かった。
好きな人の前でいつまでも汗臭いままでいたくなくて、自室に入ってすぐにシャワーを浴びる。
向こうはリビングで、こっちはシャワールームとは言っても清隆くんが私の部屋にいる中で裸という状況に心臓が破裂するんじゃないかというほどの羞恥心に襲われることになった。
放課後になり、私は学校の玄関前まで清隆くんと愛里ちゃんと一緒に来ていた。
ひとまず告白される体育館裏に行く前に覚悟だけはしておきたくて、二人に言って集まってもらったんだ。
手紙の差出人はやっぱり千尋ちゃんだった。
入学して見かけた時から気になっていたこと、最近想いに気づいたこと。
もともと男性は好きじゃないみたいだし、千尋ちゃんの好みが私みたいなタイプだったならどのみちこうなるのは決定事項だったかもしれない。
金曜夕方4時に集合ということで、二人と話し合うために30分は余裕を持たせてある。
「ごめんね二人とも。私こういうことは初めてで…………」
「正直意外だった。帆波ちゃんは告白とかいっぱいされてると思ってたから」
それが全然ないんだよね。
この世界ではホワイトルームに拐われたせいで誰かに告白される経験すらなくて、前世では目立たない系女子だったからそういうのには縁遠かったから。
千尋ちゃんのことを思えば、きっぱりとお断りするのがお互いのためだっていうのはわかってる。
私だって前世からずっと清隆くんのことが好きで好きでしょうがなくて、物語の存在だから伝えることすら出来なくて歯痒い日々を過ごしていたから。
でも千尋ちゃんは違う。
この世界で私のことを好きになって、これから気持ちを伝えようとしてくれてる。
逃げちゃいけないのはわかってるんだけど、どうしても勇気が出てきてくれない。
「もうすぐ時間なのに、行きたくないとすら思ってるなんて情けないよね」
「ちょっとだけ分かるな。その人の気持ち」
愛里ちゃんが切なそうな表情で私を見据えていた。
その言葉にはこれ以上ない重みがあって、とても実感のこもったものだった。
「帆波ちゃんが情けないなんてことはないと思う。でも、千尋さんっていう人は断られるかもって恐怖と、帆波ちゃんは相手を傷つけたくないって恐怖と戦ってるんだよね。どっちも怖いなら、なおさらきちんと向き合わないといけないんじゃないかな」
「…………愛里ちゃん」
「オレからもいいか?」
清隆くんがズイッと前に出てくると、普段の無気力そうな瞳が嘘のように真剣に私の目を覗き込んでいた。
そういう場面じゃないと分かってはいても、やっぱり心臓が強く脈打ってしまう。
「誰かに告白するってのはそんな生易しいものじゃないだろう。毎日ように悶々とした時間を過ごして何度も何度も頭の中でシミュレートして。それでも告白できなくて。いざ告白するって思ったときでも、喉元まで出かかった『好き』の言葉は中々出てこない。伝える方も、伝えられる方もそれ相応の覚悟がいるはずだ。────オレも言えた試しが無いしな」
最後の方は全然聞こえなかったけど、清隆くんの言葉がずっしりと私の心にのしかかってきた。
親友と好きな人にここまで言われていつまでも臆病風に吹かれてはいられない。
私も勇気を出さないとね。
「愛里ちゃんも清隆くんもありがとう。二人のおかげで頑張れる気がしてきたよ」
「もしもしつこく言い寄ってくるなら言ってね! 私が何とかするから!」
気持ちは嬉しいけど、愛里ちゃんはまずストーカーにビシッと言うとこから始めようね。
怖い目には会わせたくないけど、放置もできないのもまた事実だから。
「そろそろ時間だろ。早いとこ準備しておいた方がいい」
話し込んでしまっていつの間にか4時まで10分前になっていた。
体育館裏に急いで向かう。
まだ恐怖が抜けきったわけじゃない、でも不思議と迷いはなかった。
千尋ちゃんの告白に対して私はきっぱりと断った。
涙を流しながら小走りで去っていく姿はあまりにも痛々しいもので、もしも清隆くんに告白してフラれてしまったら私も同じ立場になるのかなと考えてしまう。
その日が来るかどうかは分からないけどね。
「覚悟を持って挑んだはずなのに、断った瞬間にこっちまで泣きたくなってきちゃったよ」
寮まで続く並木道の手すりに二人は腰かけていて、清隆くんの左隣愛里ちゃんがいたから私は右隣に腰かけることにした。
「帆波の気持ちはしっかり伝えたんだろ? だったら心配はいらないさ」
「私も綾小路くんの言う通りだと思う」
「あはは。二人が言うならそうなんだろうね」
もうかなり日が傾きかけていて、赤い夕陽がちょっと眩しい。
「本当に今日はありがとう。変なことに付き合わせちゃって」
「いいさ。たまにはこんな日があっても」
「帆波ちゃんが完璧な人じゃないって分かって、私も嬉しかったから。お礼なんていいよ」
完璧…………か。
本当に完璧な人間なんて、この世界でもいないよ愛里ちゃん。
ホワイトルームで約10年を過ごして苛烈なカリキュラムをこなしても、まだまだ私には出来ないことはかりだもの。
暗くなりかけた気持ちを取り払うように、ぐーっと両手を空に向けて伸ばして私はぴょんと地面に降り立つ。
「火曜日までまだ時間はあるし、それまでやれるだけのことはやってみようと思う。二人に迷惑かけちゃったぶん増し増しで行くからね」
「そんなにはいらない。適度に頼む」
さすが自称事なかれ主義者。
二人きりじゃない時は気が抜けることをさらっと言ってくるね。
斜め上のイベントこそあったけど、これからもうまくやっていこうと意気込みながら三人で寮に戻った。
「あ、帆波ちゃん。明後日の日曜にカメラを修理に出しに行きたいからついてきてもらってもいいかな? 一人で行くのがちょっと怖くて…………」
──────えっ?
どんな世界線になろうが千尋に好意を持たれる帆波さん
次話は私服デートとしゃれこみます
帆波(憑依)に『■■のホワイトルーム生』的な二つ名をつけるとしたら
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慈愛のホワイトルーム生
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偶像のホワイトルーム生
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単純にホワイトルーム生No.2