転生したら帆波ちゃんだったので、綾小路君の相棒になってみようと思います 作:レイラレイラ
一之瀬帆波はオレにとってどういった存在なのだろう。
ホワイトルームに突然放り込まれた異物という認識程度にしか、オレはあいつを見ていなかった。
初対面のはずなのに親友か何かのように親しげに話しかけてくる帆波を鬱陶しく思いつつも、無視し続けていればいずれ離れていくだろうと考えていた。
ところがオレの予想通りにはなることはなかったのだ。
どんなに無視の姿勢を貫こうが、終始笑顔で話しかけてくるためにやがてオレも折れるしかなかった。
最初は仕方なく話を聞いていただけだったが、帆波から聞かされる外に関する知識はとても新鮮で自然と興味を惹かれたのを今でもよく覚えている。
次第にオレの興味は外の事よりも一之瀬帆波という個人へと移っていった。
ホワイトルームという環境下におかれながらも、人間味を失わないどころか他の生徒とも交流を持とうとしていた図太さもあるのかもしれない。
スコアについても同様で、あらゆるカリキュラムで帆波はオレに迫る記録を叩き出してきた。
オレに限りなく近い存在でありながら、オレとは毛色の異なる存在。
そんな帆波と話している時間だけは楽しかったんだと思う。
気づいたときには帆波の一挙手一投足に目が離せなくなっていった。
外の世界のことを楽しそうに話している時の帆波も、チェスで勝負している時の真剣な表情の帆波も、ふとした時に見せる照れた時の帆波にも全てに胸が高鳴る感覚に襲われた。
今まで感じたことのない感覚に、最初は戸惑ったものの不快ではなかったのでひとまずは身を任せることにした。
坂柳と話していた時の胸がざわつくような感覚を覚え、それが後に嫉妬だと気づく。
ならばなぜ、オレは坂柳に嫉妬したのだろう。
坂柳に帆波を盗られそうだと思った際にオレは確かに自覚した。
オレから帆波が離れていく姿を想像しているだけで、胸が痛くて切ない気持ちになるのは一言で言うなら…………
────オレは帆波のことが『好き』なのだと。
「さて、どうしたものか…………」
オレはとある悩みを抱えていた。
今日は7月20日であり、何を隠そう帆波の誕生日なのだ。
ぎりぎりまでプレゼントをどうしようかと考えたが、あれこれと悩んでいるうちに結局は決まらずに当日を迎えてしまった。
こういう時のプレゼントはその人の好きなものや欲しているものを普段からリサーチし、そこから決めるのがベターなんだと思う。
ホワイトルームにいた頃から帆波の事を聞かされ続けたオレにとって、今回の誕生日プレゼントを送るぐらいは造作もないことだと高をくくっていた。
例えばこれが堀北や櫛田あたりなら、適当なもので済ませていただろう。
しかし、いざ決めようとすると本当にこれでいいのかと考えてしまいなかなか踏み切れずにいる。
帆波の好きなものを踏まえて候補をいくら絞ろうが、どうしても躊躇ってしまうのは彼女にいらないものを与えて気を遣わせたくないと考えているからだ。
もう形振り構ってはいられないと、オレは端末を取り出すと佐倉に電話をかけた。
数度のコールの後、電話に出た人物の声を聞いて思わずひっくり返りそうになった。
『もしもし? 清隆くん、愛里ちゃんに何か用事でもあるのかな?』
同期のホワイトルーム生で唯一の生き残りであり、オレが長年想い続けて止まない一之瀬帆波がなぜ佐倉宛の電話に出たのだろうか。
「特に用事というほどのことでもないんだが、少し佐倉の様子が気になってな」
実際は佐倉の様子などではなく、プレゼントの件について相談をしたかっただけなんだが帆波本人に話すわけにもいかないため当たり障りのない話題で誤魔化す。
『もしかして、愛里ちゃんが風邪をひいちゃったこと聞いたのかな? 気を遣ってくれたんだね。わざわざありがとうね』
佐倉が風邪をひいていたのは初耳だな。
咄嗟に出した嘘だったが、偶然にも不自然じゃない話題にもっていけていたようだ。
「友達を気遣うのは当たり前だろ。もしかして帆波は看病しているのか?」
『実はそうなの。たまたま愛里ちゃんの部屋に行く用事があったんだけど、いざ行ってみたらベッドで寝込んでてね。今はお粥を作ってるとこ』
確かに端末からは帆波が料理をしている音が聞こえる。
これはオレも何かした方がいいのだろうか。
さすがに佐倉が風邪をひいたと聞いて無視するのも寝覚めが悪いからな。
「何かオレに出来ることはあるか? 必要なものがあれば買ってくるが」
『うーん、そうだなぁ…………。なら、消化にいいものとか買ってきて貰える? ポイントは後で私が払うからさ』
「それぐらいなら問題は無い。ポイントも不要だ」
『そう? 清隆くんが言うならお言葉に甘えちゃおうかな』
「ああ。任せてくれ」
電話を終えてひとまず危機は去ったと見るべきか。
いや、帆波からお使いを頼まれた以上はなんとしても遂行しなくてはならない。
どうせなら一緒に帆波へのプレゼントを見て決めることも出来るからな。
まさに一石二鳥というやつだ。
しかし、一人で行ってもプレゼント選びで多くの時間を使ってしまうのは想像に難くない。
あまり時間をかけすぎるのは不自然だろう。
そうすれば帆波も当然だが気づく。
オレはある人物の電話をかけ、救援を依頼することにした。
「いきなりで悪いな。頼みがあるんだが────」
「お待たせしました。すいません、準備に手間取ってしまって」
「構わない。急に呼んだのはオレだからな、むしろこちらが謝るべきだろ」
ショッピングモールで端末をいじりつつ待っていると、やがて一人の少女がこちらにやって来た。
オレと帆波の共通の読書友達であるDクラスの椎名ひよりだ。
悲しいことにオレは友達が少ないために、佐倉以外に頼れる友達が椎名しかいないのだ。
「それで、プレゼントを決めかねているということでしたね」
「そうだ。とりあえず歩きながら話さないか? あまり悠長にはしていられないからな」
オレは椎名とともに歩き出した。
そういえば椎名も帆波にプレゼントを送るつもりだと聞いているが、具体的に何を送るのかまでは知らないな。
「参考までに聞きたいんだが、椎名は何をプレゼントするんだ?」
「私はですね…………こちらの本を送ろうかと」
椎名が鞄から取り出したのは1冊の本だった。
「アガサ·クリスティの蒼ざめた馬か。なかなか良いチョイスだな」
「以前に帆波さんが読みたいけどタイミングが悪くて借りられないと仰っていたのを思い出しまして、たまたま本屋さんに出向いた時に1冊だけ残っていたのでちょうどよいなと」
それは何とも運がいいことだ。
椎名が本を送ると決めた以上は、オレも本を送るというのはどうにも新鮮味に欠けるだろう。
だが逆に言えば、本という選択肢を除外出来たともとることが出来る。
「そういえば綾小路くんは帆波さんと幼なじみなんですよね?」
「まあそうだな。帆波とは10年以上の付き合いになるな」
オレと帆波はホワイトルーム出身だ。
あのような施設においては10年どころか、1年もそういった関係を築くことすら凄まじい難易度になる。
帆波と高度育成高等学校に通えているのも奇跡に等しいことなのだと実感する。
「だとすれば帆波さんの好きなものの一つや二つ、分かりそうなものですけど」
「帆波の好きなものか…………」
一つや二つどころで済んだらどんなによかっただろうか。
帆波の好きなことや好きなものは、それこそ耳にタコが出来そうな程に聞かされているのだ。
だからこそ今こうして悩んでいるんだけどな。
いつまでも決めずにいるわけにもいかないので、とにかく候補を一つ挙げてみることにした。
「スイーツはどうだろう。ケーキとかもいいかもしれないな」
「なるほど。確かに帆波さんは甘いものがお好きでしたね」
椎名の言うように、帆波は甘いものに目がない。
ただ最近はポイントを無駄使いしたくないからと、スイーツを食べる機会が減っているのも事実だ。
「誕生日ケーキということですか。それはいいアイディアだと思います」
善は急げだとオレたちはケーキ屋へと足を運ぶ。
だが、途中で思わぬ存在に出くわしてしまい必然的に足が止まる。
「おい、何やってんだ綾小路…………って、何だよ隣の美少女は!?」
「帆波ちゃんだけに飽き足らず、二股かこの野郎!」
同じBクラスの池と山内が殺意がぎらぎらと輝いている視線を送ってきている。
須藤がいなかったのは不幸中の幸いか。
「逃げるぞ椎名」
「えっ? あ、綾小路くん!?」
今にも殴りかかって来そうだったので、椎名の手を引いてさっさと退散する。
ここで無用なトラブルを起こしたら後で帆波に叱られそうだしな。
「待てや綾小路!」
「その首置いてきやがれ!」
いや物騒過ぎるだろ。
今時のチンピラでもそこまでは言わないんじゃないか?
曲がり角を何度も利用することで池たちの視界から一時的に逃れ、その隙を突いて壁に手をぶつけて椎名が見えなくなるように身体で隠す。
「綾小路のやつ、何処行きやがった!?」
「佐倉のこともあるし、とんだハーレム野郎だぜ!」
どうやらあらぬ誤解をかけられているようだ。
確かに男よりも女の友達は多いが、それだけでハーレム呼ばわりはやめて貰いたい。
言っても聞かないだろうから、オレにはどうしようもないんだけどな。
「間一髪か…………」
あの二人が消えるのを確認してから、オレは椎名からそっと離れる。
「すまなかった。あの二人は少し厄介なことは事実なんだが、根はいいやつらなんだ。悪く思わないでやってくれ」
謝罪も含めて声をかけたが、椎名は何も答えてはくれない。
それほどに彼女の不興を買ってしまったのだろうか。
「椎名?」
「は、はい。大丈夫です、気にしていませんから」
「そ、そうか…………」
少しばかり顔が赤いが、まさか椎名までも風邪をひいてしまったのか?
ざっと観察してみた限りでは風邪の症状らしきものは見つからないので、とりあえずは問題なさそうだが。
椎名から目を離して周囲を見渡してみると、とある店が視界に入る。
「椎名。立て続けに悪いんだが、もう少しだけ付き合ってくれないか?」
「わかりました。帆波さんのためですから、最後までお付き合いしますよ」
「助かる」
あれからオレたちは一通りの買い物を済ませ、帆波の部屋に集まっていた。
佐倉は残念ながら安静のために部屋で眠っている。
体調面を考慮すれば仕方のないことだが。
「お誕生日おめでとうございます。帆波さん」
「わぁ~! ありがとうひよりちゃん! これずっと読みたかったんだよね!」
「喜んでもらえて何よりです。出来れば読み終わった後で感想を聞かせてくださいね」
「もちろんだよ。なるべく早く読むようにするからね」
椎名から早く渡せという視線が飛んでくる。
なにぶん誰かにプレゼントを渡すのは初めての経験なんだ。
どうしても躊躇ってしまうのは、特段恥ずかしいことではないはず。
「あー…………その、誕生日おめでとう。オレからもプレゼントを渡したいと思うんだが、いいか?」
「何が貰えるのかな? すっごく楽しみ!」
帆波の期待に満ちた表情を見て、スッと肩の荷が降りたような気がする。
オレは胸ポケットに入れていた縦長の箱を取り出し、帆波に手渡した。
一瞬だけ首を傾げて不思議そうに見つめた帆波だったが、開けていいかと訪ねてきたので首を縦に振って了承する。
丁寧に包装紙を取り外していく様を見ていると、普段は感じることのない緊張で胸がどきどきしてしまう。
包装紙を外し終え、箱の中から出したのはルビーが嵌め込まれた三日月型のネックレス。
たまたま視界に入ったアクセサリーショップの店頭に出されていたものだが、そんなものは些細なきっかけに過ぎない。
「帆波に似合うんじゃないかと思って購入したものだ。迷惑でなければ受け取ってもらえないか?」
「迷惑なんてとんでもないよ! 一生大切にする! 本当にありがとう清隆くん!」
一生というのは大袈裟だと思うが、帆波が嬉しいのならオレはそれだけで充分だ。
これは余談だが、ルビーの石言葉は『愛の象徴』だそうだ。
綾小路くん視点で書くのは想像以上に大変でした
さりげなくひよりんにフラグを立てる男
ルビーの石言葉には純愛や情熱的な愛というのもあるそうです
失礼だな純愛だよ
はい、最後にふざけてごめんなさい!
次から3巻に入ります
帆波(憑依)に『■■のホワイトルーム生』的な二つ名をつけるとしたら
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慈愛のホワイトルーム生
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偶像のホワイトルーム生
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単純にホワイトルーム生No.2