転生したら帆波ちゃんだったので、綾小路君の相棒になってみようと思います   作:レイラレイラ

29 / 39
やっとここまで来たなって感慨深い思いです


第3巻
無人島生活の始まり


 夏休みも8月に入ったことで、本格的に暑さが増したような気がする。

 

 かき氷のブルーハワイを思わせる常夏の海に、何処までも広がっていそうな青い空はそんな不快な暑さも忘れさせてくれるほどに綺麗だ。

 

 澄み切った空気と心地いい潮風が精神的な安らぎさえ与えてくれている。

 

 私たちが乗っている豪華客船も外観は当然のこと、施設も非常に充実している。

 

 一流の有名レストランだけでなく、演劇が楽しめるシアターや高級スパまで完備されているという贅沢尽くし。

 

 さらにはそれらの施設を無料で利用することができるから、ポイントを節約したい生徒からすれば大助かりの対応だと言える。

 

 でも、それは細やかな誤魔化しでしかない。

 

 みんなはこれが2週間の豪華旅行と思ってテンションマックス状態のようだけど、その実態は無人島で一週間の特別試験+豪華客船で優待者当ての特別試験という地獄のような日々が続くんだよ。

 

 こういう時は原作知識が無かったらどれだけ幸せだったことかと考えてしまう。

 

 もっとも無人島に到着した時点でその幸せも打ち砕かれるんだから、突然地獄に放り込まれるよりは心の準備が出来るだけマシなのかもしれない。

 

 莫大な予算の使い方について断固抗議をしたいところだけど、一高校生の私がどうこう言っても耳を貸さないのはわかっているからしぶしぶ諦めよう。

 

 いっそのこと、割り切って楽しんだ方が精神的にも楽だしね。

 

「よし! 今日からの2週間頑張らないとね!」

 

「憂鬱そうな顔してたり、急に元気になったり。忙しいな帆波は」

 

「あはは…………何て言うかさ、これからまた何かの試験があるかもとか思っちゃうとどうしても心から楽しめないなって。ならせめて元気だけでも出さないとやってけないでしょ」

 

「でも、帆波ちゃんの言うこともわかるな。この学校のことだから、楽しいバカンスとはいかないと思う」

 

 愛里ちゃんの疑問はもっともだ。

 

 何も知らない人間ならともかくだけど、この高度育成高等学校に通っていれば多少は思うことだろうから。

 

「そういえば清隆くんは男の子とは話さないの? あんまり話してるところ見ないけど」

 

 気を紛らわせようと振った話題だったけど、何故か清隆くんは気まずそうに視線を逸らしてしまった。

 

 私は何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。

 

「実は男子とは話しづらいんだ。気づかないうちに男子から恨みを買ってしまったみたいでな」

 

「えっと…………」

 

 周囲に悟らせないようにさりげなくクラスメイトの様子を探ってみると、清隆くんに対する男子の視線が親の仇を見るような尋常じゃない状態にあるのは確かみたい。

 

 特に池くんと山内くんなんて血の涙を流しているように幻視してしまうほど凄まじい何かを感じる。

 

「非モテの敵めぇ…………!!」

 

「ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって…………!!」

 

 本当に何があったんだろう。

 

 清隆くんなら仮に襲われても撃退出来るだろうから、それほど心配はいらないと思うけど。

 

「だ、大丈夫だよ。綾小路くんには私たちがいるから!」

 

「佐倉…………」

 

 ナイスフォローと言いたいところなんだけど愛里ちゃん、それはかえって火に油を注いでいるだけなんだよ。

 

 半分私たちが原因だろうから。

 

「「この恨み晴らさで置くべきかぁ…………!!」」

 

「清隆くん…………強く生きてね」

 

「帆波頼む。オレを一人にしないでくれ、いつ背後から襲われるかわからないんだ」

 

 君は気配で悟れるよね。

 

 ならきっと大丈夫だよ。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 突如『奇妙』なアナウンスが船で流される。

 

 今のうちに島を観察しておいた方が後々有利になるため、清隆くんと愛里ちゃんを連れて島が見えやすい位置に移動する。

 

 一斉に生徒たちが集まるものだから、どうしても窮屈感が拭えない。

 

 ベストポジションを確保出来た私たちを押し退けようとする男子生徒たちが現れ、こちらに蔑むような視線を送ってくる。

 

「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」

 

 この横暴な態度は十中八九Aクラスだろうね。

 

 全員が全員こういう人たちじゃないだろうけどさ。

 

「不良品? それって私たちのことかな?」

 

「他に誰がいんだよ。Dクラススタートの現Bクラス。どんなに取り繕おうが、根本が不良品なのは事実だろ。こっちは天下のAクラス様なんだよ」

 

 重要そうなスポットはある程度見当はついてるし、別に譲ってあげてもいいんだけどね。

 

 この場に残っているとトラブルの火種を大きくしかねない。

 

 現に須藤くんなんて臨戦態勢に入りかけてるもの。

 

「いいよ、譲ってあげる。アナウンスでも言ってたけど、意義のある景色が見れるんだから独占するのもよくないしね」

 

 言外にAクラスが独占するのはダメだよと注意するけど、多分伝わってないだろう。

 

 あとは葛城くんが上手くやってくれることを祈ろう。

 

 Bクラスのクラスメイトたちと一緒に船首から離れると、Aクラスのみんなはガヤガヤと楽しそうに騒ぎだした。

 

 その光景を面白くなさそうに見つめる池くんたちを他所に、須藤くんが心配そうな様子で私のところにやって来た。

 

「気にすんなよ一之瀬。お前が優秀なのは俺たちが一番知ってるんだからよ」

 

 どうやら須藤くんなりに励ましてくれているらしい。

 

 態度には出ちゃってたけど、口と手が出なかったことで須藤くんは精神的にかなり成長出来ているのがわかる。

 

「心配してくれてありがとう。須藤くんの方こそ大丈夫?」

 

「これ以上は一之瀬に迷惑かけたくねえからな。7月のこともあるから尚更な」

 

「そっか。せっかくの旅行なんだし、みんなで楽しまないと損だよ。それじゃあまた後でね」

 

「い、一之瀬!」

 

「?」

 

 そろそろ話も終わる頃合いかなと思って清隆くんと愛里ちゃんのところに戻ろうとしたら、妙に慌てた須藤くんに呼び止められた。

 

 須藤くんにしては珍しく口ごもってる印象を受ける。

 

「その…………なんだ、もう8月になるだろ? そろそろ一之瀬のこと、名前で呼びたいんだが。いいか?」

 

 急に改まるから何事かと思ったよ。

 

 それくらいなら全然構わないのに。

 

「入学初日にも言ったけど、好きに呼んでくれていいんだよ。須藤くんがいいならだけどね」

 

「そ、そうか…………。ありがとな。ほ、帆波」

 

「どういたしましてだよ、須藤くん」

 

 軽く手を振って須藤くんと別れたあとで清隆くんたちと合流する。

 

 しばらく二人と談笑していると、瞬く間に島と船の距離が近づいていた。

 

 それからぐるっと島の周りを回り始める。

 

 島の全体を注意深く観察している生徒は極一部。

 

 まあ無理もないことなのかな。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

 注意事項と指示がアナウンスによって伝えられ、いよいよプライベートビーチへの上陸が近いらしい。

 

 清隆くんと一旦別れて、私と愛里ちゃんはグループ部屋に戻った。

 

 体育の授業でも使われるジャージに着替えると、再びデッキへと足を運ぶ。

 

 島が徐々に近づくにつれ、1年生のテンションはうなぎ登りになっている。

 

「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りてもらう。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出した後、下船するように」

 

 拡声器を持った先生の指示に従い、生徒たちが順番に客船の階段を降りていく。

 

 甲板で待たされている生徒からは不満の声が絶えない。

 

 日陰になりそうなものもないし、夏場の直射日光を浴び続けるのは誰でもキツいだろうから気持ちはよくわかる。

 

 堀北さんも遅れて合流してきたものの、普段の姿から考えると違和感を嫌でも感じ取ってしまう。

 

「何だか具合悪そうだよ。先生に言って休ませてもらったら?」

 

 原作と同様に風邪をひいているのはすぐにわかった。

 

 つい最近に愛里ちゃんも風邪ひいていたから余計に気づきやすい。

 

「必要ないわ。それにあなたに心配されるほど柔な鍛え方はしていないもの」

 

 堀北さんから明確な拒絶の意思が伝わってくるけど、その声には覇気がないために体調面のことも合わせてまるで説得力がなかった。

 

「それならいいんだけど、もしも辛かったら遠慮しないで言ってね」

 

「あなたって本当にお人好しね。他人を構わないと死んでしまう病気にでもかかっているのかしら」

 

「あはは…………」

 

 いやいや病気になってるのは堀北さんの方だからね。

 

 風邪の状態でも堀北クオリティは健在なようだった。

 

 体調が悪い中であまり長話させるのも悪いし、とりあえず堀北さんに話しかけるのを中断する。

 

 下船は思ったよりも時間がかかっているようで、ビーチに降りる生徒に対して先生たちの厳しい荷物の検査を行っているから当然なんだけど。

 

「帆波」

 

 私の隣で順番を待っていた清隆くんが声をかけてくる。

 

「お前の予想通りかもしれないな。この念入りなまでの警戒っぷりは普通じゃない。今回のバカンスは少しやっかいなことになりそうだ」

 

 清隆くんには、特別試験があるかもしれないという予想を事前に話してある。

 

 といっても具体的にどうにか出来るわけでもないんだけどね。

 

「嫌な予感ほどよく当たるものなんだね」

 

 予感というか既に知ってることなんだから当たって貰わないと困る。

 

 暫くしてから私たちの番がやって来て、厳重な検査を受けた後でタラップを降りる。

 

 地獄のサバイバルがまさに今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

帆波(憑依)に『■■のホワイトルーム生』的な二つ名をつけるとしたら

  • 慈愛のホワイトルーム生
  • 偶像のホワイトルーム生
  • 単純にホワイトルーム生No.2
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。