転生したら帆波ちゃんだったので、綾小路君の相棒になってみようと思います 作:レイラレイラ
「嘘でしょ…………こんなことって…………」
森を抜けて見えてきた浜辺には、Dクラスの大勢の生徒が楽しそうに海を満喫している様子が見てとれた。
原作知識としては知っていたことだけど、実際に目の当たりにしてみると驚くのも無理はないと思える。
仮設トイレやシャワー室が設置されているのはもちろんのこと、日光対策のターフにバーベキューセット、チェアーやパラソルなどなど。
娯楽の限りを尽くした環境が用意されていて、まるで別世界のようだった。
「どういうつもりなのかしら。Dクラスはポイントを節約するつもりはないってこと?」
「これはポイントを全部つぎ込んでるかもしれないね。初日からこんな贅沢するってことは、それをしても何も問題がないっていう自信がなきゃ出来ないもん」
「分からないわね。Dクラスのリーダーが、満足に計画も立てられない無能なのがありありと伝わってくるぐらいよ」
無能どころか、この学校で生き残るのに適した人材なのは言うまでもない。
クラスポイントよりもプライベートポイントに龍園くんは重きを置いているし、この無人島特別試験において行われる彼の作戦は見事だと誉めたいぐらいだよ。
「だったら確かめに行こうよ。堀北さんも気になってるみたいだし」
「否定はしないわ。どういうつもりでこんな暴挙に出たのか、はっきりさせておきたいもの」
三人で浜辺に足を踏み入れ、周囲の様子を探りながら歩を進んでいく。
すると、怯えた様子のDクラスの男子生徒がこちらにやって来たので声をかけた。
「あ、あの…………」
「龍園くんが呼んでるから来いってことだよね。伝えようとしてくれてありがとう」
「い、いえ。龍園さんの指示なので」
とりあえず男子についていくことを決めて、私たちは彼の背中を追った。
何を勝手に決めてるのという堀北さんの突き刺さるような視線が痛かったけど、あまり居座り続けるのも不自然だから今はスルーしておこう。
「いやーびっくりしたなー。まさかこんな大胆なことしてるだなんて」
「帆波か。新しい腰巾着まで連れて、お前こそなかなか羽振りがよさそうじゃねえか」
水着姿でチェアーに寝そべって肌を焼いている龍園くんは、堀北さんを見て鼻を鳴らした。
龍園くんのバカにする態度にムッとした堀北さんが詰め寄ろうとするのを手で制すると、私はひとまず話を進めることを優先する。
「まさに夏のバカンスって感じだね。私もあやかりたいぐらいだよー」
「ほう? だったらお前も好きに遊んでいけよ。肉を食おうが水上スキーで楽しもうが自由だ。それとも俺と別の遊びでもするか? 専用のテントぐらい用意するぜ」
「あはは。私は遠慮しておくよ。ちなみに聞くけど、全部ポイント使っちゃった感じかな? だったら伊吹さんがいなくなってても探しに来る気配も無いのは納得だね。金田くんの姿も見えないし、Dクラスが明日にでもリタイアしそうなのは私の勘違いかな?」
「ククク。本当に面白い女だなお前は。何か言ったわけでもねえのに、少なすぎる情報でよくそこまで読めるもんだ。恐れいったぜ」
ちっともそんな風に思ってないでしょう。
そこまでしか読めないならお前はその程度だっていう思考が透けて見えるようだった。
少し揺さぶりをかけたぐらいじゃ動揺を見せないのは素直に称賛していいかもね。
「帆波の言うように、反抗してきた伊吹と金田がどうなろうと知ったことじゃねえ。何せ失うポイントが無いんだからな。これが俺のやり方だ」
「君のやり方を否定するつもりはないよ。ただ、伊吹さんのことは私たちが面倒を見るつもりだから。金田くんのことも探してみるつもりだしね」
「勝手にしろよ。余計に一人分の水と食料に寝床まで消費して困るのはお前らだからな」
言われなくても自由にやらせてもらうよ。
この特別試験のテーマにも沿っている事柄だし、幅広い対応の仕方があるってことを試験終了後に深く理解することになるだろうからね。
「私はひよりちゃんのところに行ってくるね。清隆くんと堀北さんも自由にしていていいよ。他ならない龍園くんのお墨付きだからさ」
木陰の方で涼んでいるひよりちゃんを見つけて、私は彼女の方に駆けていった。
龍園くんはAクラスと裏で密約しているのなら、私なりのやり方でAとDクラスに打って出よう。
最後に勝つのは私たちなんだから。
「よかったのか? 堀北を一人で行かせても」
Dクラスのベースキャンプを出た私と清隆くんだったけど、既に堀北さんの姿はなかった。
どうにも堀北さんが言うには、私がDクラスに対して深い探りを入れるようなことをせずに
多分Bクラスのベースキャンプには戻っているだろうから、もしも戻っていなかった場合には探しに行けばいい。
「ただでさえ強引に連れ出しちゃったわけだしね。それに堀北さんを今回の調査に同行してもらうだけで目標は達成してるから」
重要なのは堀北さんが私と一緒に他クラスの調査をしたという事実であって、最後まで協力してもらう必要はなかった。
下準備はもう既に整っていると言ってもいいかもしれない。
「帆波が言うならそれで構わない。オレはそれに従うだけだ」
「任せてよ。絶対にBクラスを勝たせてみせるんだから」
二人で談笑に興じながら折れた大木の根元から森に入って、大勢の生徒が通ったと思われる痕跡のある道を歩いている。
道に迷うこともないまま難なくCクラスのベースキャンプにたどり着くと、神崎くんが私たちに気づいたみたいでこちらに歩いてきた。
「一之瀬と綾小路か。さっそく来たんだな」
「今朝誘われたばかりだしね。近くまで来たからせっかくだから行ってみようって感じかな」
Cクラスの環境の明確な違いは井戸があるかどうかと、テントを広げるスペースがあまりないことくらい。
雰囲気自体もかなり朗らかな様子で、なんとか上手くやれているのが否応なしに理解出来る。
「よかったらなんだけど、お互いのクラスの状況について情報交換しない? 情報は多いに越したことはないしね」
「奇遇だな。俺の方からも申し出ようと思っていたところだ」
それぞれが情報開示の意思があったからか、情報のやり取りは比較的スムーズに進めることが出来た。
キャンプに必要な道具を揃えるのにBクラスとCクラスは細かい違いはあっても、同様に70ポイントの消費だったのには特に驚きはない。
効率やクラスメイトの精神的な負荷を考えれば、妥当なポイント消費であることは火を見るより明らかだったから。
暑さ対策や眠る時のビニールによる対策なども行っている様子で、神崎くんもやっぱりクラスリーダーの素質があるんだなと素直に感心を寄せていた。
ただ…………
「そっかぁ…………。
「ああ。女子生徒の一人が昨日の夕方に体調を崩してしまってな。恐らく環境の違いによるストレスによるものだろう」
環境の突然の変化は意外とバカには出来ない。
無人島でいきなりサバイバルなんて言われれば、肉体的なものは当然として精神的にも負担は大きくなる。
繊細な人ならそれだけで体調を崩すというのはおかしいことじゃない。
原作では
BクラスとCクラスのどちらからもリタイアが出たというのは、差が無くなったということでBクラスからすれば嬉しい誤算。
でも、一個人としてはその生徒が心配でならない。
環境の違いによるストレスについて私は嫌というほど知っているから。
「話は変わるが、以前の暴力事件でBクラスに対する貸しについては覚えているか?」
「覚えてるよ。その話を今するってことは、この特別試験で私たちに頼みたいことがあるんだよね」
「その通りだ。今回の特別試験だが、リーダーの正体当てに関して、お互いのクラスを除外するということでどうだ?」
神崎くんらしいというか、Cクラスらしい提案だった。
明らかに無茶な内容を要求するわけじゃなくて、お互いに利があって呑み込みやすい提案を用意していることからもCクラス側の善意あってのことだろうね。
こちらとしても断る理由はないし、私はその提案を素直に受け入れることにした。
「もちろんオッケーだよ。他クラスから狙われるかもって考えると不安になっちゃうもんね」
「警戒対象が少ないならその方がいいだろう。こちらからも積極的に当てに行くつもりではあるが、それでも不確定要素は排除しておきたいからな」
神崎くんがクラスリーダーということで、地道な戦略に加えて攻めの姿勢が見受けられる。
Bクラスとは協力関係を保ちつつ、Dクラスとの差を少しでも広げておきたい腹積もりなのかな。
「ところで、Aクラスのことで何かわかったことはないかな? ベースキャンプの場所とか」
「場所はわかるが、情報を得るのは難しいだろうな。見てみればわかるだろうが、秘密主義を徹底しているから実態は掴めなかった」
親切にも神崎くんはAクラスのベースキャンプのある方角を指差して場所を教えてくれた。
「Dクラスの場所を聞かないということは、二人はDクラスについて把握しているという解釈でいいか?」
「うん。さっき行ってきたんだけど、本気で試験に取り組むつもりがないみたい。ポイントを使いきって、もう贅沢が出来なくなったらリタイアする作戦かもしれない」
「同意見だ。この試験はプラスを積み重ねる試験だ。それを放棄している時点で龍園は負けている。今さら敵にはなり得ないだろう」
私と神崎くんが話し込んでいる間も、清隆くんは静観の姿勢を見せている。
さりげない動作でCクラスの観察をしているのは私以外に気づいていないみたい。
「お話中すいません。あの神崎くん。中西くんはどこにいるかわかりますか」
神崎くんに遠慮がちに話しかけてきたのは、Dクラスの金田くんだった。
原作通りにこのベースキャンプにたどり着いていたらしい。
「中西はこの時間帯は海に出向いているはずだ。どうかしたのか?」
「お手伝いに行こうと思いまして。余計なことでしたか」
「そんなことはない。なら、白波たちのフォローに回ってもらえるか? 俺から言われたと話せば問題はないはずだ」
「わかりました。ありがとうございます」
神崎くんの指示に従って、金田くんは千尋ちゃんのいる方に駆けていった。
「今のDクラスの金田くんだよね。実はBクラスも一人Dクラスの生徒を連れてきてるんだけど、伊吹さんっていう女子生徒なんだけどね」
「一之瀬のクラスにも来ていたのか。金田はDクラスと揉めたらしくてな、事情は深くは聞いていないが放っておくわけにもいかないからな」
私は伊吹さんがBクラスに拾われるに至る経緯を全て話した。
一通り話を聞いた後で、神崎くんが一層気を引き締めたのが雰囲気から察する。
「そろそろ行くぞ。あまり長居するのもCクラスに悪いしな」
「そうだね。でも、最後に用事を済ませてからでいいかな?」
清隆くんに促されてCクラスのベースキャンプを離れる前に、まだ金田くんが千尋ちゃんたちの手伝いをしていることをじ確認する。
「これはBクラスの纏め役としてCクラスにしたい大事な話なんだけど、聞いてくれるかな?」
「…………わかった。聞かせてくれ」
さっきまでとは違う私の真剣な雰囲気に、神崎くんも背筋をピンと立たせて聞く姿勢に入ってくれた。
私の作戦にはCクラスの協力が必須。
だから話せるだけのことは話すつもり。
「実は────────」
Cクラスとの話し合いが終わった後、私たちはAクラスのベースキャンプに向かった。
大きく口を開いた洞窟の傍には仮設トイレが2つ、シャワー室が1つ設置されている。
洞窟の入り口内部にはビニールを繋ぎ合わせた巨大な目隠しが広げられていて、中は当然だけど全く見えないようにされていた。
隠れるつもりはなかったけど、Aクラスの生徒にも自然と見つかってしまう。
「なんだお前ら…………ちっ、一之瀬か」
私の存在を視認した瞬間に察したんだろう。
Bクラスが来たということがすぐにわかって、どこのクラスだという問いが投げられることはなかった。
「ただでさえ堀北のやつのせいでイラついてんのに、おまけに一之瀬まで来るとはな。メッキの不良品どもはしつこいな」
「堀北さんがここに来た…………?」
初耳だった。
堀北さんがAクラスのベースキャンプの場所を知ってるはずもないし、Bクラスの拠点に戻らないままにあちこち動き回った末ここに辿り着いたのかな。
「また誰か来たのか。客人を呼んでいいと許可した覚えはないと言ったはずだが」
洞窟内部から出てきたのはAクラスのリーダー格でもある葛城くんだった。
葛城くんが私の姿を捉えたところで、何かを言われる前に彼に堀北さんについて聞いてみる。
「堀北さんがここに来たのは本当? てっきりBクラスのベースキャンプに戻ってると思ったんだけど」
「一之瀬か。堀北がここに来たのは事実だ。強引に中に入ろうとしたので、説得してどうにか帰ってもらった」
さすがに堀北さんでも無理矢理中に入ることは出来ずに、原作通りに葛城くんに言い負かされたんだろうね。
Cクラスの方に向かってさえいなければBクラスのベースキャンプに戻っているだろうけど、今回のこともあるし実際に目にするまでは確証は持てない。
「ごめんね。帰ったら私がちゃんと言っておくよ」
「そうしてくれ。クラスメイトの独断専行を止められなければ、全体の被害を被ることになるのはそちらなのだからな」
一度頭を軽くさげてから、私と清隆くんはBクラスのベースキャンプへの帰路を辿る。
すべてのクラスの偵察も終えて『得られるもの』と『得られたもの』は十分にあった。
Bクラスのベースキャンプに戻ったあとで女子側のテントを確認してみると、堀北さんが穏やかな寝息をたてていたので少しホッと胸を撫で下ろした。
帆波(憑依)に『■■のホワイトルーム生』的な二つ名をつけるとしたら
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慈愛のホワイトルーム生
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偶像のホワイトルーム生
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単純にホワイトルーム生No.2