エインウルズの日常譚   作:まむれ

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-05.爆発指数4-


 

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「へぇ、そうですかそうですか、私がフィールドワークの間にエインさんは楽しく過ごしていたと」

「いや待ってくれ、それは誤解がある」

 

 ロドスの部屋は実に居心地が良い。そこそこの広さの部屋そこそこの大きさの机と二つの椅子、柔らかいベッド、多少なら料理も作れる広さのシンク、小さいながらも冷蔵庫があるし電話も付いてるからトラブルへの対処も早い。壁の塗装が廊下と同じ無機質な灰色だと言う点を除けば満点と言っていいだろう。

 ただしそれは俺が一人である事が条件だ。今は来客がいて、しかも床に座る俺に対してその来客──少女はベッドに腰を落として俺を見下ろしている。

 目の前に座る少女は大学こそ出ているが推定で言えば二十年も生きていない。十五年前後と推測出来る。それなのに、今の俺は冷や汗が止まらない。なんという圧だ、数多の戦場を渡り歩いたこの俺をして背筋を嫌な気配が這って動き回っている。

 

「楽でしたよね? スズランちゃんに何もかもやってもらう生活は」

「いや全く休まらなかったが」

「ちゃんと片付けないと駄目ですよって私何度も言いました」

「それは、もうエフィの言う通りです」

 

 はぁとエフィの溜息。居心地が更に悪くなる俺。

 

『おやエイヤフィヤトラ嬢、帰ってきていたのですね』

『ゲッ……』

『ミッドナイトさん! はい、ついさっき』

『それでエインウルズが慌ただしく昇降口に向かった理由がわかりました』

『あいつは最近常に慌ただしかっただろ』

『おっとそうでしたね。ロドスで一番可憐な花が荒野のように粗雑な男を放っておかないものですから彼とその周囲は大騒ぎでして』

『……て、てめぇら』

『おはようからおやすみまで甲斐甲斐しくお世話されて三日で逃げ出したもんな』

『スポット、嘘はいけないよ。正しくは五日じゃないか。ニアール教官の妹のところへ転がり込んだのさ』

『それで教官に呼び出されてたのは面白かった』

『ゾフィア教官と合わせて二人に詰められて逃げ出したのも話題になっていましたね』

『上等だオラァ! 表出ろ!!』

『エインさん?』

『あっなんでもないです』

 

 帰艦して早々にエフィは俺を連れて職員達に何があったのか聞き取り調査を始めた。もうこの際しょうがないとして、本気で哀れみの目を向けられる事がかなり精神にキた。

 スポットとミッドナイトの二人はどっかで絶対ボコボコにしてやる。遠慮しないでほしい、クロージャとちょっと話せば砲兵から鹵獲した迫撃砲を水平射撃用に改造したものを出してくれるからデータ取りの役目を全うしないとな。

 

「女癖の悪さ、どうにかなりませんか?」

「……それは語弊があると思わないか?」

「胸に手を当てて自分の行動を鑑みてから言ってみてください」

 

 俺は言われた通り胸に両手を重ね、ロドスでの思い出を振り返る。

 じっと見つめてくるエフィ。俺はさっと目を逸らした。

 

「ほらぁ! やっぱりそーじゃないですかぁ!」

「ち、ちげぇっ! ちょっとこう……めぐり合わせの問題だ!」

「言い訳するにしても雑すぎますね!?」

 

 まあ、言われてみれば? 誤解を招くような事はあったかもしれないな? でも講習会を開いてからちょくちょくレッドらしき気配がするとは思うまいて。冗談交じりに「俺は良いから今度任務に出るプロヴァンスの護衛を頼む」とか言ったら後日本当にプロヴァンスが危ない時に現れた話聞くか? そのあと嫌味ったらしいフェリーンにちくちく長話されるし誰も得しなかった。

 とにもかくにも、尻尾関係は無罪だとして他に心当たりがない。エフィが誤解をしているのであって俺が好き好んでそんな艦内のゴシップ記事常連になった訳ではないのだとエフィへ丁寧に説いていく。

 

「大体、本当にだらしなかったらとっくにロドスを降ろされてるだろ。ドクターも忘れかけてっけど職員じゃないからな俺」

「そう言えば、そうでした」

 

 正規契約しちゃおうよーとドクターに誘われてはいるが、ちょっとやり残したことがあるのでのらりくらりと躱しているところだ。それが片付いたら入ってもいいかもしれないが、それまでは臨時契約で居座るとしよう。

 

「でもぉ……目を離したらすぐにこうですよ?」

 

 まあ、そういうこともあるかもしれねぇ。エフィがポケットから取り出した艦内新聞を見て背筋を正す。

 一部分を切り取って拡大解釈し、主語の大きな言葉と共に曖昧な表現で読み手の思考を豊かにする手腕は見事言う他ない。

 それに書かれているのが俺でなければ、賞賛の拍手を気持ちよく贈れただろう。

 

「『筆者が目撃した一場面、ロドスに滞在する傭兵エインウルズが人目を忍ぶように入っていく部屋はオペレーターブレミシャインの愛用するメンテナンス室』だそうですよ?」

「逆に聞くがスズランを引き連れたおかげで、多方面から熱烈な視線を浴びてる俺が用心しない理由はあるか?」

 

 エフィは俺に一瞬だけ目をやるとそのまま新聞の続きを読み上げる。

 

「『これが他の職員やオペレーターなら珍しいこともあるものだと気にも留めなかっただろう。しかし、目撃を恐れるかのように、話題のエインウルズがとなれば。筆者のジャーナリストとしての使命感が、物資ゼロの張り込み捜査を決意させた!』……良い人ですねー」

「理論武装は上手だな、カジミエーシュじゃあ天職だろうよ」

「『三十分、あるいはもっとか。無機質なロドスの艦内通路を、瞼の裏側にすら焼き付く程真剣に見続け、遂に沈黙が破られた。出てきたのは上機嫌なブレミシャインと、自前の装備を大事に背負うエインウルズ。両手を後ろで組み、少し屈んで下からエインウルズを見上げるブレミシャインに熟練の傭兵は形無しだった……』何か言う事はありますか?」

「俺の大事な武器を扱う整備士だ。機嫌を損ねたら訓練中に持ち手がすっぽ抜けたりするかもしれねぇだろ? そんな間抜けにはなりたくないから、ご機嫌取りはしなきゃなんねぇって訳さ」

「へぇ~~?」

 

 興味のあるところを読み終えたのだろう、新聞を横に置いて納得していませんとエフィは不満を隠さず頬を膨らませた。

 

「エインさんは機嫌を損ねたらメンテナンスを疎かにする人に大事な商売道具を預けるんですねぇ?」

「…………………………」

 

 それを言われた時の俺の顔がどんなだったか。

 少なくともエフィの溜飲が下がる程度には渋い顔をしていたに違いない。

 

「なあエフィ」

「はい?」

「どうしてそんな悪い子になっちまったんだ」

「どうしてでしょうね? 私、これでも飛び級して大学へ足を踏み入れた優等生だったんですよ?」

「よぉく知ってるさ。品行方正研究一筋、結構な事だったのにそれがこうして大の大人を理詰めの正論で追い込む可愛げのない女の子になってる」

「身近な人の影響を受けちゃったのかもしれません。特に、だらしがなくてお酒ばかり飲んで、情けない傭兵の男の人とかに」

「最悪だな、今すぐ良い子に戻るべくそんな奴から離れるべきだろうなあ」

「いやですよー!」

 

 くすくすと尤もらしく言い返してくるエフィに返す言葉が出てこない。地頭じゃあ負けてるのはわかっていたが、ロドスに来てから悪い事ばかり覚えている気がする。

 護送してる時はどこにでもいる頭の良い学生程度だったのが、人の弱みを相応な時に的確な突き方をする大人になったというか。

 言い返すのは簡単だ。少し話をずらして、それっぽく言葉をつらつらと並べて少しだけずらせば良い。

 が、それをむさ苦しい男の傭兵達ではなく少女であるエフィに対して行わない倫理感は持ち合わせていた。想像しただけで情けないからだ。

 

「よしよし、よぉくわかったよ。で、何が望みだ?」

「望み、ですか?」

「まさか理由もなく俺をこうして人様へ伝聞出来ない目に合わせてるわけじゃないだろ? 終わりにしようぜこんな茶番」

「何もありませんよ?」

「……は?」

 

 すとん、と据わった目に変わったエフィを見て自分が地雷を踏んだ事を理解した。

 

「フィールドワークに出る前、朝の食堂で散々私に対して大声で告白紛いな事をしておきながら? 外で頑張っている間に当の本人は? 女の子を自室に招き入れたり招かれたりしてたみたいですし?」

「オーケーオーケー。なあエフィ、思い違いをしてるんだよ」

「何も違いません!」

「ブレミシャインを頼ったのはスズランが十年も早く押しかけて来たからだ。そんでその原因はスズランに許可を出した挙句に軽率に合鍵渡したドクターのせい、俺はむしろ被害者と言ってもいい。艦内広しと言えど、後先考えずスズランに通い妻みたいな事をさせるのは、移動都市が動き出す直前に連結部へ上るぐらい愚かなことだろ? 俺がそんな危ない橋渡る奴じゃないって、一番わかるのはお前のはずだ」

「そうですね」

 

 にべもないとはこのことか。俺が丁寧に説明したのをたった五文字で返されるとは。

 

「そうですねって……おい?」

「私、公私はしっかりわけるタイプなんです。そして今は公私の“私”の時間……」

「なるほどつまり?」

「エインさんのばーか! 頓珍漢! 女ったらし! 浮気性! 見境なし!」

「知能が下がるような悪口の羅列やめろ! あと浮気性も見境なしも事実無根だ!!」

 

 とまあそんな具合で。

 この後一週間くらいお互い無言で過ごすことになった。そんな状況でもきっちりペアを組ませて作戦に組み込まれたものの、周囲の「大丈夫かこれ」っつー視線がうざくて仕方なかったのでしっかり歩調を合わせて負傷者出さずに終了させてやった。エフィも私情を仕事に挟むタイプじゃないのでさもありなん。

 まあこの作戦の後で一緒に飯食っていつも通りに戻ったのだが。あれだけ喧嘩してますな雰囲気だったのに一日経って急に前のように話すもんだからぎょっとされた。

 あと結局全部俺が悪いってなった。知ってたよ、そうなるって。

 

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