216番道路、ロッジゆきまみれにて。
「…ああ、いきかえるぅ~。テンガン山超えたら雪がむっちゃ積もってて驚きましたよ~」
少女は暖房器具の前で暖をとっていた。
少女の名前はヒカリ。ポケモンを愛してやまない彼女は、現在エイチ湖へと向かっていた。
「ん?嬢ちゃんこのあたりは初めてかい?」
ロッジの主人が無精ひげを触りながら尋ねてくる。
「はい、ちょっと用事があって。」
「…ああ、なるほど。ジムリーダーに挑戦ってところか!? あそこのジムはてごわいぞぅ!!」
…エイチ湖を見た後はキッサキシティに行くから間違ってはいない。少女は笑ってうなずく。
「わたしら、けっこーつよいんです! もうバッジも6つ集めたんですから!」
「ほー、やるねえ!! …ただ、注意しなよ。 この辺は遭難者が出やすい。
運が悪いとそのまま…なんてこともある。 無理だと思ったらここに戻ってきなさい」
実際、戻ってこれなかった人間を知っているのだろう、主人の声はまじめだ。
「…わかりました。」
「うむ。 …そういえばこのへんでは大昔、人を化かすナニカがいたらしい。
大昔はポケモンのことなんざロクにわかってなかったから、危害を加えてくるポケモンは今の比じゃなかったんだろうなぁ…。」
「へー、面白い話ありがとうございます、おじさん。 ヨシ、いこう!!」
ヒカリはロッジから出て、大自然に挑む。
ロッジから出た少女を待ち構えていたのは、数十m先も見通せないほどの猛吹雪だった。
「これはすごいわね…!! たしかに油断したら体力尽きて冷凍食品になりかねないわ…!」
襲い掛かってきた野生ポケモンを捕獲しながら、ヒカリはニヤリと笑った。
これまで、野生ポケモンやトレーナーと数多くの戦いを繰り広げた彼女だったが、天候までが敵対してくる経験はなかったからだ。
この吹雪の中では、彼女のポケモンたちも少しづつ体力を奪われてしまう。
慣れない環境の中で、ヒカリとポケモンたちは疲労していく。
「…これ、あとどれくらいでエイチ湖に着くの…? ちょっときつくなってきたわ…」
「ウキャ…、!! キー!!」
ゴウカザルが指をさした方向を見て、ヒカリは顔を明るくする。
「…民家だ。 ちょっとだけ休ませてもらおうか、ゴウカザル。」
ヒカリは初めての相棒に笑いかけると扉を叩いた。
「すいませーん、少し休ませてもらえませんか?」
…返事はない。
「…?? 空き家かな。」
ヒカリが中に入ると、中は古そうなものばかりだった。
木で作られたモンスターボールらしき球体や、荒いひもでまとめているらしい本がそこらへんに転がっている。
「なんだか、タイムスリップしたみたい。とりあえず休憩しよっか、みんなーでておいでー!」
ヒカリはポケモンたちをボールから出し、傷薬を使った後みんなで軽い食事をする。
彼女がチョコレートバーをほおばっていると、扉の開く音が聞こえた。
「…おや、迷子かい?」
入ってきたのは、ヒカリとそう変わらないであろう少女だった。
「あ。…ご、ごめんなさい! 空き家かと思ってた、あなたの家だったんだ。」
慌てるヒカリに、少女は笑いかけた。
「ふふ、謝らないでほしい。困ったときはお互いに助け合う、当然のことさ。………。」
ヒカリの顔をじっと見つめる少女に、ヒカリは困ってしまう。
「…??? あの、わたしの顔になんかついてます?」
「………。ああ、きにしないで! 知り合いに似ていたから、少し驚いただけ。」
少女は一瞬、どこか遠いところを見るような顔をするが、すぐに元にもどった。
「今日は泊まっていきなさい。人を招くのは久しぶりだから、旅の話を聞いてみたいな」
「うん、いいよ。 ええっと、なんて呼べばいいかな。」
「…好きに呼んでいいよ?」
少女に話をしながら、ヒカリは少女の格好に疑問を覚える。
…なんだか、今の時代に合っていないような感覚があったのだ。
少なくとも今まで生きてきたなかで、少女の格好を見たことはない。
ここは本当に自分が生きていた世界なのだろうか、雪原を歩いているうちに時を超えたんじゃと不安を覚えたヒカリは、少女に問いかける。
「このあたりって、あなたみたいなかっこの人どのくらいいるの?」
ヒカリの言葉に、少女は考え込む。
「………。最近は見てないかな。」
その言葉にひとまず安心したヒカリは、少女の目に危険な光が灯ったことに気付かない。
それは言うなれば、獲物を見つけた獣の瞳。
異様な雰囲気に気づけなかったヒカリだが、これはしょうがない部分があるだろう。
なにせ野生ポケモンに襲撃を受けないであろう安全圏だとばかり思っていたのだ。
これが
…悪人ならポケモンでやっつければいいやと油断していたというのもあるが。
「…ねえ。よかったらここにずっといないかい? ひとりはさびしくてさ。
ここにいる連中はかなり強いから、修業にももってこいだと思うけれど。」
「あー、いやちょっとエイチ湖に行くから、明日になったらここを出るよ。」
少女は真っ青になった。涙を流しながら必死になってヒカリを説得し始める。
「………
奴は自分のテリトリーに入った人間を容赦なく廃人にする!」
「ん…!? なんか地雷踏んだかな!!?」
少女はぶつぶつと独り言をつぶやくと、ヒカリの目を見る。
「ああ、そこにいたのか。 ずっとさがしていたんだよ?」
その目は、ヒカリではない誰かを映していることにようやく気が付いたヒカリは、
ボールからポケモンを繰り出そうとするも先手をうたれてしまう。
(…ッ!! 眠らせるつもりか! 指示を出す余裕もない。 あとは、この子たちに任せるしかなさそうね…)
ヒカリは完全に眠る前に、なんとか2個のモンスターボールのボタンを押す。
ヒカリは最も信頼する
「はぴっ! …はぴぴ!?」
「ウキ。 ………ウキャアア!!」
ハピナスは眠りこける主人に驚くが、ゴウカザルは敵に怒りを見せる。
「君たちに用はない。その子はぼくが守り続けるから、どこかに行きなよ。」
少女、いや少女に化けたなにかは、2匹に冷たい言葉を投げかけたが、返答はない。
「交渉決れ…!?」
ゴウカザルのインファイトが敵の顔を打ち抜く…かと思われたが、霞を殴ったかのようにすり抜けてしまった。
「はぴーッ!?」
「……チッ! キーーー!!!」
「…ふん、ぼくを殴れなくて残念だったな。それじゃ、こっちはにげさせてもらう!」
意識を失ったヒカリをお姫様抱っこし、小屋から逃げようとする相手に2匹は追撃する。
ゴウカザルのかえんほうしゃは、インファイトと異なりすり抜けることなく少女の幻影に当たる。
その幻影が掻き消え、1匹のポケモンが現れた。
それは、白い身体と赤くて長いたてがみのポケモンだ。
…かつて、このシンオウ地方にいたが、現在では生息していないとされるそのポケモンの名は、ゾロアーク。
その最後の生き残りかもしれないゾロアークは2匹をにらみながらも、愛おしそうにヒカリを撫でている。
どうやらゾロアークは、テレパシーを用いてヒカリと会話していたらしい。
ゾロアークはヒカリを近くの木の下に寄りかからせると、2匹の前に立ちはだかる。
「…ふん、少しはやるらしい。だが、互いに諦める気はなさそうだ。
…ここで、果てろッ!!」
ゾロアークは黒いオーラの球を作るが、ゴウカザルは眉をひそめた。
なぜならば、ゾロアークが使った技はシャドーボール。
…2匹にダメージを与えることができないが、なぜか嫌な予感がしたゴウカザルは目を離さない。
ゾロアークはシャドーボールを地面にたたきつけ、雪を巻き上げた!
ゴウカザルはそのシャドーボールがおとりだと気付いた。あの白い身体なら雪の中に隠れるのは容易いだろう。
ゴウカザルはこの雪原を最大限に利用される前に、巻き上げられた雪をなんとかしようとして技をくりだした。
…目の前にゾロアークはいないが、ゴウカザルは敵意のある視線がまだ残っていると感じていた。
ゴウカザルは手を雪の積もった地面につけ、目を閉じる。
視覚では敵に気づけないため、それをあえて絶ち、罠を張る。
ハピナスはゾロアークを探すためにせわしなくキョロキョロしているが、おっちょこちょいな彼女では見つけることはできそうにない。
目をつむったゴウカザルにゾロアークは雪の中でほくそ笑む。
(…無駄なことを! ぼくと違ってお前らは吹雪の中で戦うことに慣れていない!
この爪でその無防備な首をえぐり取ってやる!!)
ゾロアークはゴウカザルの真下から奇襲を仕掛けようとする、が。
「!!!?」
くさむすび。相手の足元に草を生やし、前に進もうとした相手を転ばせるトリッキーな技だ。
ゴウカザルはこの技を、ゾロアークを拘束するために使ったのだ。
ゴウカザルは、笑った。身体をくさむすびによって縛られたゾロアークに、火炎を纏った全力のタックルをぶち込んだ!!
ゴウカザルの全力の一撃は、ゾロアークを吹き飛ばす。
「ガ、アアアアアアアアア!!!」
致命傷を受けたゾロアークは、焼け焦げた胸部をおさえ絶叫する。
涙を流しながら、ゆっくりとヒカリのもとへ向かおうとするゾロアーク。
とどめを刺そうとしたゴウカザルをハピナスは制止する。
すでに戦意はない相手に攻撃するのはなにか違うと彼女は思っているからだ。
(ああ、わかっていた。 ぼくにだってわかっていたのだ。
…すでに、ぼくの愛した主人はいないのだと。)
ゾロアークははいずりながらもゆっくりとヒカリの近くに行こうとするが、思うように進めない。
(…最後の仲間が死んでから、長い時を過ごした。
目的もなく生きるのに疲れたそんな時に、主人と同じ顔をした少女に出会ってしまった。
自分の感情がぐちゃぐちゃにかき回されて、独り占めにしてやりたいと思った。)
ゾロアークは指一本も動かせなくなったが、それでもかすんだ視界でヒカリを見続ける。
(…ああ、つかれた。 やっと、かのじょ、に…あえ………)
力尽きたゾロアークは、まるでそこにはじめからいなかったかのように、この世界から消えていった。
ゴウカザルたちはヒカリに駆け寄ると、体を揺する。
「…うわ! ど、どうしたのゴウカザル!? ……ヘクチッ!」
くしゃみをしているが元気そうなトレーナーに、2匹は笑いかけた。
民家に戻ると、ヒカリは呆然とすることになった。
明らかに廃墟で、長く使われてないのは明白だった。
そこにあったものはだいたいほこりが積もっている。
「…化かされてたんだなあ。 はー、えらい目に遭ったよほんと!
おつかれさま、ゴウカザル、ハピナス。」
彼女は2匹が入ったボールを撫でると、軽くボールが揺れた。
ふと、ヒカリは壁に飾られたお面が目に留まった。
古いものだが、ほこりが積もっていないそれは、きつねの面だ。
直接戦った2匹が見れば、ゾロアークをモチーフにしたものだと気付くだろう。
ヒカリはそれを手に取る。…大切にされてきたものだと彼女は悟った。
「……。ほこりまみれにするのはなんとなく嫌だな。もらっていこうっと。」
お面をカバンに入れたヒカリは民家を立ち去った。
ヒカリの旅は、まだまだ終わらない。
《ヒカリ》
ポケモントレーナーの少女。今回はピー○姫ポジション。
《ゾロアーク》
ヒスイのゾロアーク。性別はオス。
かつてユクシーに知恵を与えられ、テレパシーを使えるようになった。
…だからこそユクシーをものすごく恐れている
さいみんじゅつはイリュージョンの応用。
主人が大好きだったが死別し、その子孫かもしれないヒカリに執着するが、
ゴウカザルに敗北する。
主人大好きすぎて割と似た女の子に化けているやべーやつ。
《ゴウカザル》
ヒカリのパートナーでありエース。頭の回転が早く、今回使ったくさむすびのトラップのような頭脳派プレイも得意。
《ハピナス》
技構成は、でんじは、ちいさくなる、たまごうみ、てだすけ。
味方のアシスト能力はピカイチだが攻撃できない。
今回はあんまり活躍できなかった。