とあるボーダー職員の話。   作:天青石

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 今回は戦闘描写の練習を兼ねての小話です。前よりはキャラの解像度が上がって来たかなあ…?


閑話②

 左手の拳銃を向けようとして、目の前に迫ってきた弧月に対して慌ててシールドを張る。何とか止められたと思ったら相手はシールドで止められた反動で今度は下から切り上げる様に弧月が振る。シールドをメイントリガーに切り替えてそれを防ぎながらサブの拳銃の引き金を引くが、相手も銃口をよく見て集中シールドでしっかり止めてくる。

 だが、何とか距離を空ける事に成功した。メイントリガーのハウンドを起動し半数は直線、残りは散らして回り込む様に放つ。

 

 相手もこのままだとフルアタックされると分かっているのだろう、此方がハウンドを起動した時点でアサルトライフルを起動、射撃戦に切り替えている。そのままバックステップでどんどんと距離を空けられ、拳銃の射程圏内から出られてしまう。

 シューターとガンナーでは射程ボーナスや発射時の手間などから基本的に正面からの撃ち合いはシューターが不利だ。仕方なく建物で射線を切りバッグワームを起動、隠れ合いを始めた。

 

 ここは柿崎隊の訓練室で作り上げた市街地フィールド。ザキ君から次のランク戦の対戦相手にシューターがいるという事で対策を兼ねて個人戦をしないか、と誘われたので1対1の真剣勝負をしていた。

 

 ライトニングを起動しようか、と一瞬考えてすぐにやめる。トリガー構成を知られているのだ、狙撃は絶対に警戒されている。隠れ合いをしながらオペレーターも無しに適切な狙撃ポイントを探して、更に警戒している相手に当てられるとは思えなかった。それよりは隙を見つけてフルアタックを狙いに行きたい。

 

 相手もバッグワームを使っているのだろう、お互いの位置は分からない。だがザキ君はグラスホッパーなどは持っていないはずだからあんまり長距離を素早く移動できないはずだ。こっそり距離を詰めての建物越し旋空弧月とかされるのが現状1番怖いか。

 

 いつの間にか真っ二つにされることを避ける為、裏路地から建物の非常階段を駆け上がり高度を取っておく。そのまま屋上に飛び上がり、路地にいるであろうザキ君を上から探す。どうにか先に見つけたいところだが…。

 

 路地を見下ろしながら建物の上を移動していると背後にレーダー反応が急に現れる。えっ、と此方もバッグワームを解除して振り返りながらシールドで全身をカバー出来るよう張る。見ればペントハウスを切り裂いて迫る旋空弧月。

 横に薙ぎ払うような一閃は当然のように広げたシールドを割ってくる。私はギリギリのところでグラスホッパーを踏み、斜め後方に飛び上がったが間に合わず、両足を切断される。それを見てザキ君がそのまま勝負を決めに来た。

 

「っにゃろ!」

 足が無くなった状態でグラスホッパーを展開、必死に下がりながらハウンドを起動して半数は直線で残りは高く打ち上げる。だが、ザキ君は冷静にアサルトライフルに切り替え、射撃を混ぜながらシールドで距離を詰めて来るので此方はサブトリガーをシールドに使わされる。フルアタックさせてくれないなあ!

 

 高く打ち上げた事により時間差で降り注ぐ弾丸の雨を頭上で展開したシールドで防ぎながら近付いてくるザキ君。コレ建物から飛び降りたところで旋空で斬られてお終いだな。方針を切り替えもう一度ハウンドを散らして射撃、今度は分割量を増やして置き玉も混ぜる。

 目視で20mを確実に切ったと判断、左手の拳銃を真っ直ぐ近づいて来るザキ君に向けるが、アサルトライフルによってフルアタックを阻止して来るのでサブトリガーで固定シールドを展開、耐える方向に切り換える。

 

 ザキ君がメテオラを使用、爆発で此方の視界を奪って来る。置き玉を探知誘導で撃つがレーダー上から反応が消失、目標を見失って弾丸が彷徨う。嘘でしょ!?

 固定シールドを解除、最後に見たザキ君の位置から推測してグラスホッパーをその進行方向一面に広げる。視界が悪いのは相手だって同じ、踏ませて体勢を崩すのが狙いだ。視界さえ晴れればハウンドで狙える、例えフルガードされてもこっちがフルアタック出来れば勝てる!

 

 刹那、視界が斜めに傾く。目の前には爆風を突っ切って来たザキ君がいた。軽く飛び上がり、弧月を振り抜いたその姿は消えかけのバッグワームを靡かせていた。

 

『戦闘体活動限界、ベイルアウト。』

 

 一矢報いようと起動しかけていたハウンドを放とうとするが、分割が終わったところで機械音声と共にベイルアウトシステムが作動。視界が真っ白に染まった。

 

「ぐわー。負けたー!」

 バッグワームは上手すぎ、悔しい!と呻きながら柿崎隊のオペレーター、宇井ちゃんに頼んで訓練用に設定していたベイルアウト用のマットから起き上がる。丁度、ザキ君も訓練室から出て来たところだった。

 

「今のグラスホッパー読んでたの?」

「いや、グラスホッパーだとは分かってなかった。ただ、グラスホッパーかスパイダー、あとは見えてなくてもハウンドを散らして腕か足を狙って来るとかはしてくるだろうと思ったからな。上に逃げておけば弧月を振る腕は守れるだろうと思ったんだ。」

 

 それは読んでるって言うのよ、うわー悔しいなあ。と呟きながら宇井ちゃんに頼んでザキ君と一緒にログを見ていく。ザキ君のシューター対策なのだから当然、反省会までセットである。

 

「ここ、私が建物の上来るの分かってた?」

「シューターやスナイパーなら射線を通せる方が良いだろうからな、此処は読めた。」

 

 ログを見ていくとまず、話題に上がったのは私が屋上に出たシーンである。確かにそうだなあ、やっぱり射線は通したいと思ってしまう。特に今回はオペレーター無しだからバッグワーム使われると視線誘導でハウンド使いたくなっちゃうなあ。といった私の意見を伝えていく。

 

「オペレーターがいたらやっぱり違ったのか?」

「ハウンドとかバイパーなら曲射すれば良いからね。オペレーターに大体の位置を予測してもらって狙うとかはあるかも知れない。那須ちゃんとかは絶対やって来るよ。」

 成る程、と考え込むザキ君。ついでに落ち着いているから考えられる意見を述べていく事にする。

 

「後は隠れ合いをするなら置き玉に注意かな。メテオラとかが代表的だけど、ハウンドとかでも普通に出来るしオペレーターの補助ありなら逃げるよう見えて実は誘い込んでた、なんて事も普通にあるかも。」

 今回は壁越し旋空が怖すぎてさっさと建物の上に出ちゃったけどね、と付け加える。まあ、この辺はチームとして戦略を練っていくとこだろう。

 

 ログを進めていく。次に注目したのはやはりバッグワーム使用についてだ。

「バッグワームはどうだった?」

「ハウンド使う側からするとめちゃくちゃ嫌な一手だった。」

 

 メテオラも合わせてたから視線誘導も探知誘導も使えないのはホント厄介だった。冷静になればトリオン量にものを言わせて弾を散らしてシールド広げさせて、最後拳銃で相打ち狙いに行くという手が良かったかも知れないけど、探知誘導を使おうと考えてたのにその反応がいきなり消えた時点で焦ってしまった。

 

「アレ、私がハウンド散らして来たら弧月と反対のシールド?」

「ああ。見えないし探知できないならシールド割るほどの火力は出せないと思ったんだ。」

 

 うーん、完璧に詰めに持ち込まれてしまった。屋上出て先に見つけられなかった時点で厳しかったなあコレ。旋空の火力が高すぎるから間合いを維持し続けなきゃいけなかったのにあっさり、それも視覚外から詰められてしまった。

 よく考えたらザキ君、旋空使うにはバッグワーム解除しなきゃいけないし、屋上に出るよりは隠れ合いの方が勝率高かったのではないか?向こうだって此方の位置は分からない訳だし。

 そんな意見を出すとザキ君が反論して来る。

 

「そうだなあ、でも上取られるのも嫌じゃないか?」

「それはそう。」

 上からバッグワームのままアサルトライフルで撃たれたら嫌すぎる。けど、初撃さえ銃声とかで反応できればハウンドで充分応射出来るしガンナーよりは上下の位置どりに左右されにくいかも知れない。

「まあこの辺は結果論かなあ。」

「そうだな。ランク戦だとまた変わって来るだろうし。」

 

 ありがとな、付き合ってくれてと感謝を述べられるが私としても対人戦の経験は貴重なのでwin-winである。一通り反省会を終えた後、ログや訓練室の設定をしてくれた宇井ちゃんにお礼を言ってからザキ君が入れてくれたコーヒーを飲みつつ、強くなりたいねー、そうだな。なんて会話を交わす。

 

「ザキ君隊長になってから色々小技増えたよねー。」

 今回のバッグワームとか使うのとか凄い良かったし、使うタイミングも完璧だった。と感想を話すとザキ君は今の悩みを話してくれる。

 

「でも隊長としてはどうなんだろうなあ、ランク戦だと勝ててないし。」

「私そもそも隊長なんて出来ないからあんまりアレコレ言えないけどさ。」

 作戦考えて、必要な時に判断下せるだけで充分じゃない?というと、ザキ君が額に皺を寄せながらこんな事を言う。

「虎太郎や文香達の能力を引き出せるような判断が下せてないからダメだろ。」

 

 どうしたら良いと思う?と聞かれ、うーんと頭を悩ませる。私隊長経験ないから判断下せるだけで凄いと思うんだけどなあ。

 

「判断下す側の事はよく分からん!だから判断待つ側の考えとして聞いてね?

 私としては方針決めてくれるからこそ、全力を出せると考えてるよ。何に意識を割いて、何は無視して良いのか決まるだけでパフォーマンス上がるし。もし悩むとか時間稼いで欲しいって言うならその方針でどうにかする。ザキ君の隊はチームが合流すれば落とされにくいし、相手を観察するっていう手も考慮すれば良いんじゃない?」

 

 あとはザキ君が耐えるから何がなんでもコイツ落としてこい!みたいな方針もありかも知れないねー。なんて適当な意見も続けて言う。正直固定のメンバーで組んだことないからよく分かんないんだけど。

 

 そうか…。と何やらザキ君は悩みを深めてしまった様子でちょっと慌てる。待って待って、そんなに私の意見参考にしないでくれ…!

 

「ええっと、それこそ虎太郎君や文香ちゃん、宇井ちゃんに直接聞きなよ!どんな指示出しが良いとか人それぞれだと思うし。私は粘るのとかサポート役が点取役よりはまだ得意だろうからそういう考えなだけで、ガンガン行きたいとかあるかも知れないしさ!」

 

 ねえ、宇井ちゃん!?とオペレーター席にいる彼女を振り返りながら慌てて言うとそーですね〜。と苦笑いしながら返してくれる。ほら隊を組んだ事ない私の意見なんて置いといて、チームメンバーでそう言う事は話し合いなよ!そんなふうに口早に言いながら私は席を立つ。

 呼び止める声を無視してコーヒーご馳走さま、ランク戦頑張ってね!とだけ告げると足早に隊室を飛び出す。ああ、力になれなかったどころか余計なことを言ってしまったかも知れない。そのことにちょっと凹みながら、私はとぼとぼと廊下を歩くのだった。




 とある原作開始前の1日。正隊員達に声をかけられれば烏丸のように仮想敵役をやったりしている模様。今回はザキさんがそこまで合わせてもらうのは申し訳ないといって通常のトリガーセットで行ったが、要望があればトリガー構成を変えたりしている。

 ザキさんとのコミュやオペレーター無しでのシノの戦闘を書いてみました。書いてて思ったんですがコイツ、オペレーター無しだと弱いな。本誌でも話題になってましたが隊長経験の有無は結構大きいのに、そもそも固定メンバーでのチーム戦の経験すらないのは大変かも知れない…。
 一応、シノは方針が決まっているならそこそこのパフォーマンスが発揮できるという想定で書きました。黒トリ争奪戦とか特にそうですね。作戦や状況を常に考えるのではなく、得意分野であるサポートに全振りで苦手なアタッカーの一部は迅が受け持ってくれるという状況だからこそあそこまで粘れた。盤面を作るのは得意だけどその盤面自体を考えるのは苦手みたいな。シューターだしその能力が育てばもっと伸びるかも知れないですね。

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