とあるボーダー職員の話。   作:天青石

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2話

 (ゲート)発生の警報が鳴り響く中、躊躇いなく私は手に握り込んだ武器を、トリガーを起動する。使用者のトリオンによって動作するその武器は、私の起動するという意志によって動き出し一瞬で生身からトリオン体─トリオンで出来た戦闘用のボディ─へと私の体を換装する。先程まで来ていたスーツは綺麗な高空の色─深青色とでも表現するような色のジャージっぽい上着に早変わりしていた。

 

 トリオン体に装備されている通信で本部通信室に繋ぎ、状況を報告する。ゲートからは見たことのない巨大なトリオン兵が現れていた。

「こちら東雲、新型のトリオン兵ですね。対応するので誰か空いてるオペレーターに繋いでください。」

 木虎ちゃんはひとまず避難誘導優先、オペレーター繋がったらそっちの指示に従って。そう言って飛び出そうとすると、引き止める声がかかる。

「あの、僕も手伝います!」

 見れば、C級の白い隊服に換装した三雲君だった。C級隊員は訓練以外でのトリガー使用は禁じられていると昼間の一件でよく知っいるだろうに、その瞳には固い決意が宿っている。

 

 一瞬だけ悩む。すぐ側の市街地にいる市民と彼を天秤にかける。避けるべき最悪は、目指すべき最善は何かを考える。答えはすぐに決まった。

「訓練生、三雲隊員。君には救助と避難誘導を頼みます。但し、なんらかの要因でトリオン体が破壊された場合、即座に君も避難対象だ。これだけは譲れない。」

 

 何か言いたげな木虎ちゃんを遮り、通信を繋いだまま指示を出す。私では市街地への被害をゼロには出来ない可能性が高い。私は最善を人的被害ゼロだと定めた。トリオンによる攻撃以外で傷つかないトリオン体は建造物等の崩壊の中、救助と避難誘導を行うのに適しているのだ、協力してもらわない手はないと私は判断した。

「はい!」

 

 その返事を聞くと身を翻して、私はトリオン兵に向かって駆け出す。木虎ちゃんもその辺は割り切れる子だ、頭を切り替えてくれるだろう。

 走りながらトリオン兵を観察する。かなりの巨体でまるで宙を泳ぐように、市街地に向かって進んでいく。ただ走っても間に合わなそうなことを理解し、私はグラスホッパー─空中に設置できる足場のようなもの─を起動する。出現した光球を操作して正方形の板を2枚並べて設置する。1つは私、もう1つは木虎ちゃんが踏み、加速を得ると新型トリオン兵と並走するように橋の上を移動する。

 

『弓場隊オペレーターの藤丸だ、遠慮なく指示出してくぞ!』

 通信が入る。何か起こるかも知れない、そんな曖昧なグループチャットを見て本部で待機してくれてたのだろう。彼女─”藤丸のの”の少々荒っぽい、だが頼り甲斐のある声が聞こえてきた。こうした時、ののをはじめとした付き合いの長い同級生は私や迅君のことを信じてしっかりサポートしてくれる。そのことに心強さを感じる。

 

「のの、視覚情報他のオペとエンジニアに送って解析頼んどいて。後、木虎ちゃんと訓練生の三雲君のサポートできる人も呼んでくれると助かる。」

『もうやってる!木虎、それと三雲だったか?2人にはこれから本部のオペレーターが指示出す。もしトリオン兵が攻撃してきた時はあたしが警告出すから安心しな。』

 

 そんな情報共有をしてる間にも巨大トリオン兵は市街地の上空に到達する。するとトリオン兵から街に向かって”何か”を降り注ぐ。

 不味い、と直感的に感じた。再度グラスホッパーを起動、5枚程度に分けてトリオン兵に向けて直線的に並べる。踏み込み、私は一気に空中に飛び出してトリオン兵との距離詰めた。

 

『爆撃だ!撃ち落とせ!』

 オペレーターの声が響く。その声に応えるよう私は空中で誘導弾を起動する。右手付近に出現した輝くキューブ─シューター用の誘導弾を3×3×3に分割し、ののがレーダー上で設定してくれたターゲットに向かって探知誘導で撃ち出す。27発ではとても全ては撃ち落とせない。特に障害物もない空中だ、追尾以外のコントロールは一切考えずに次弾を用意して発射することを繰り返す。

 

 私の誘導弾が当たって誘爆が起きる。コントロールも威力も限界まで削って速度と射程に全振りした弾丸はギリギリ間に合ったらしい。街に直撃したものは辛うじてなかったようだ。だが、ギリギリだったのだ。爆弾が誘爆した高度はかなり低く、その衝撃は窓ガラスを割り、建物の一部を崩壊させ市民の頭上に降り注がせる。

 

 悲鳴が上がった。歯を食いしばる。木虎ちゃんのトリガーセットがこの状況にそこまで向いていないのは知っている。今、この場でこの巨大なトリオン兵に対応できるのは私だけなのだ。しっかりしろ!

『シノ、狙え!』

 

 ののがグラスホッパーで移動する先を指示してくれる。街の上空を一周して戻ってくる軌道を描くトリオン兵に合わせて川沿いの建物─3階立てくらいか?─その屋上に降り立つと私は迅君に言われて装備してきた狙撃銃トリガー、アイビスを起動する。

 

 アイビスは火力重視の狙撃銃だ。迅君が持っていけと言っていたのにも納得する。川の方まで戻ってきたトリオン兵の横っ腹に狙いをつける。狙撃は正直そこまで得意じゃない。精密性などの技術が求められるような射撃は私には無理だ。だけどそれを把握しているののが指示した狙撃ポイントで、これだけ巨大な相手を狙うのだ。大丈夫、当てられる。深呼吸を1つ、引き金を引く。

 

 当たった。確かに当たった。トリオン兵の横っ腹は抉れている。だが、それだけだった。トリオン兵は止まることなく円を描くような軌道で再び市街地へと向かう。

『チッ。シノもう一回来るぞ!』

 

 邪魔なアイビスを消して再びハウンドを起動、分割して準備をする。市街地上空で撃墜するわけにはいかない。トリオン兵が川の上に出るまで耐えるしかないのだ。だからその間にののに1つ提案をする。

「次、川の上に出たら飛び乗るから起動予測してポイント探しといて。中央か頭撃ち抜けばさっきよりは効果あるよね?」

『一応、他のトリオン兵と同じで正面にカメラぽいのがついてるから頭狙いだな。』

「了解。」

 

 爆撃、来るぞ!とののが全体通信に切り替えて警告を出す。グラスホッパーで移動しながら、ハウンドを次々と撃ち放ち、先程よりは余裕を持って撃ち落としていく。それでも爆発の衝撃は街を、市民を襲う。1度目の衝撃で脆くなっていた建物が崩れて悲鳴が響き渡るが、木虎ちゃんと三雲君を、オペレーター達を信じて撃ち落とし続ける。

 ののが視界にトリオン兵の軌道予測を表示して、その真下へと誘導してくれる。そして爆撃が終わり、トリオン兵が川の上空までやって来ると私はグラスホッパーで空中へ飛び出した。

 

 右手にまた別のトリガー─スパイダー─を起動する。出現したワイヤー、その片側の先端をトリオン兵に向けて射出し、突き刺す。そして刺さったそのワイヤーを手繰り、私はトリオン兵に飛び乗った。こういう時、木虎ちゃんが持ってるような巻き取りのオプション欲しくなるな。

 

 アイビスを頭部に向けて構える─その瞬間トリオン兵の背面から無数の触手のようなものが伸び上がる。

『防御!』

 

 ののが怒鳴る。その声で反射的に私はアイビスの起動をキャンセルして固定シールドを展開する。周囲に透明な緑色の障壁が展開した次の瞬間、わたしは爆発に包まれた。

『あっぶな…。』

 思わずののが呟く。私も戦闘中じゃなきゃ同じことを呟いていただろう。まあ、冷静になれば近接用の武器が無いわけないだろうに、頭からすっぽ抜けてた私が悪い。オペレーター様々である。

 

 その感謝は後で伝えるとして、私は再びハウンドを起動する。キューブを先程より多い4×4×4に分割し、いくつかの弾丸には山形の軌道を描かせて背後に回らせることで全方位に放つ。そうして近接兵器を一掃すると、今度こそアイビスを起動し頭部に向かって構える。この距離なら外しようがない。躊躇いなく私は引き金を引いた。

 

 トリオン兵の頭部背面が大きく損壊し、煙を上げる。高度がどんどん落ちていく。このまま川に落とせれば、そんな考えが甘かった事を次の瞬間には突きつけられた。ゴウン…と音を立てて背部に先程の近接兵器とはまた異なる物体が出現する。同時にトリオン兵は川に向かっていた軌道を変えて市街地に向かって高度を落とし始めた。

『トリオン反応密度上昇!多分自爆する気だぞ!』

 ののが送ってくる分析に従って自爆を防ぐ為に再びアイビスを発射する。しかし、先程と違い、装甲が抉れず凹むだけだ。明らかに硬化している。自爆するまでは倒されないとか良く出来たトリオン兵だな!

 

「硬っ!?ああ、もう!!」

 

 頭部方向、先程から煙を上げている部分へ向かい、損壊部に銃口を突っ込む。装甲が割れて内部から撃てるならまだダメージ入るだろ!?

 市街地に着くまでにトリオン兵を撃墜できるかの勝負だ。迫り来る街に焦りつつ、必死に引き金を引き続ける。煙が増え、高度が下がっていくが僅かに足りず、市街地の端まで到達してしまうその瞬間、

 

─ぐいっと引き留められるような挙動をした。

 

「!?」

 トリオン兵が着水し、沈んでいく。急いでグラスホッパーとシールドを展開、その場から離脱すると、水中で大爆発が起こった。街と反対側の岸辺に降り立ち、飛沫を浴びながら市街地を見る。多少の煙が上がっているが、トリオン兵の自爆が直撃することはどうやら防げたらしい。

 

 フーッと思わず大きく息を吐いていたが、ふと視線をずらすと制服姿の空閑君と目が合った。私よりも川に近い場所に立っている彼と。何故避難していないのか、無事で良かった、そんな感情が頭を駆け巡るが、良く見れば彼は目の前で戦闘が、大爆発があったのにかなり─不自然なまでに落ち着いている。まるで戦闘に慣れ切っているかのように。

 

 爆発直前の引き留められるような挙動を思い出す。そして、1番良さそうな未来に繋がっているのが私だという迅君の言葉も。これかあ、と直感的に思った。何が何やら分からんが、私が最善だと思う行動をすれば良いのだろう。

 

 チラッと市街地の様子を見る。まだ騒がしいし、煙も少々上がっているのだ、余りここに長居は出来ない。改めて自身の最善を確認する。私の定めた最善は人的被害ゼロ。あのぐいっと引き留められるような挙動は、それが引き起こした結果は人的被害を減らすものだった。こちらに敵意が無い、むしろ協力してくれたのだ。もし彼がボーダーが把握していない”何か”を持っていても私としては構わない、反対に感謝すべきだろう。

 

 さっきの爆発でトリガーの調子が悪いみたい、なんて適当な言い訳をして一度トリガーを解除する。ボーダーにどこまで報告するかはちょっと考えてからにしたかった。そしてそのまま、空閑君の元まで歩み寄る。

 

「シノノメさん、凄いじゃん。あんな大きな奴倒すなんてさ。」

 感謝を告げようとした言葉は彼に遮られた。どうやらボーダーに知られたくないという事だろうか。

「あー、”運が良かった”だけだよ。感謝しなきゃね。」

 笑顔を作り、どこかの誰かに感謝をする事にした。すると、ちゃんと伝わったのか、空閑君が少し驚いた顔をする。

「私にとって優先すべき事は、少しでも被害を減らす事だった。敵意が無いどころか、協力までしてくれた人に悪感情は抱かないさ。そこら辺どうだい?」

 

 念のため確認すると、空閑君は敵意が無いのを示すように両手を挙げた。まあ三雲君に、その行為を規則違反と言うボーダーに対する反応を見ていれば何となく予想出来ていた。ただ、ボーダーとしてじゃなくて私個人の考えだから、その辺考慮して行動してくれると助かるなあ…。そう付け加えると空閑君は神妙な顔をして頷いてくれる。それを見て私はトリガーを再び起動し、救助と後処理に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後は忙しかった。建物倒壊などに巻き込まれた人々の救助に、ボーダー本部からの要請を受けてやって来た救急隊員などへの状況説明、先に救助を行っていた三雲君や木虎ちゃんに向いていた苦情や陳情への対応などなど。そこまで責任がある立場でも何でも無いので出来ることには限りがあるが、これでもボーダーの正規職員なのだ。信頼するボーダーの大人達の姿に近付けるよう、出来る限りを尽くした。

 

 暫くすれば、被害への補償なんかを担当するボーダーの事務員さんやトリオン兵の回収にエンジニアがやって来たので、その人達に後は任せることとした。交代の際に後は任せろ、なんて肩を叩いて格好つけた馴染みのエンジニアさんに、じゃあ徹夜用のエナドリ差し入れときますねー、なんて何とか軽口を返しておく。

 

 悲鳴が聞こえる。悲しみや怒りに満ちた声も。まだはっきりとした状況は分からないが、人的被害ゼロでないことは明らかだった。必死に足掻いた結果だった。全力を尽くした結果だった。多分この場にある戦力でこれ以上はないだろうというくらいには力を振り絞っていた。それでも私はこの結果を最善だとは考えたくなかった。”最善だった”ともし迅君に言われても、それを理由に諦めたくはなかった。そんな我儘を抱えつつ、私は木虎ちゃん達と共に今回の報告の為に本部に向かうのだった。




 早速連続投稿です。いや投稿初日に戦闘シーンゼロはいかがなものかと思いまして。ワートリらしいと言えばそうなんですけれども。

 原作だとイルガーに対応する時、木虎ちゃんにオペレーターついてなかったぽいですよね。なのでオペレーターと比較的大火力持ちが揃ってたことで撃墜が早かったという想定です。このトリガー構成なら硬化後も何とかダメージを出す方法が有りそうですし。

 あ、主人公が女性なのは19歳組の戦闘員に女性がいないからですね。戦うカッコいい女性(に憧れる人)がいてもいいじゃない!

トリガーセット(イルガー戦当時)

メイン
・ハウンド
・スパイダー
・アイビス
・シールド

サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・バッグワーム
・シールド
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