とあるボーダー職員の話。   作:天青石

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 ストックは放出していくスタイル。自分は5話くらい投稿されてないとあんまり読まないタイプなのでそこまでは頑張ろうと思います。


3話

「まだ人が揃っていないようだからな、先に彼の隊務規定違反に関して話し合っておこう。」

 

 ボーダー上層部が勢揃いのなか、会議室にある長机のお誕生日席、つまり城戸司令の真正面に座らされている三雲君がちょっと可哀想だった。城戸司令、自分直属の隊員である三輪君まで横に立たせちゃって怖いったらありゃしない。

 本部まで戻ると上層部会議で報告を求められたので、私と三雲君は会議室までやってきていた。すっごい張り詰めた空気してるので発言したくないなあ…。

 

「2度の訓練以外でのトリガー使用。この事実に間違いはないか?」.

 忍田本部長が三雲君に確認を取ると三雲君は「はい」と素直にはっきりと答えた。その様子に正直だなあ、と思いながら一応訂正を入れる。

 

「あの、通信ログを辿ってもらえれば分かりますが、2回目の救助活動に際して使用した時は私が指示を出していますので彼に責任は有りません。」

「何故そんな指示を出したのかね!?隊務規定を、その理由を知らん訳ではないだろうに。」

 鬼怒田さんが私の訂正に対して怒りを露わにする。鬼怒田さんは開発室長、C級のトリガーの仕様を当然よく理解しているのだ、その危険性も含めて。そりゃこういう反応をするだろう。

 

「あの場に居た正隊員は私と木虎隊員のみであり、人的被害が相当発生することが予想されました。少しでも被害を減らす為には救助や避難誘導を行える人員が1人でも欲しかったのでC級のトリガーであってもトリオン体に換装すれば比較的安全にそうした行為が行えると判断し、彼に指示を出しました。オペレーターとの連携も取れており、彼にリアルタイムで指示を出せる状況で、直接戦闘を行うわけではない彼のトリオン体が破壊される可能性は低いと判断してのことです。もし破壊された場合は即座に避難行動をとるようにも指示を出していました。ですが、勝手にリスクを見積もり、判断をした事は事実です。本部の判断を仰ぐべきでした。」

 

 そう、理想論を言うならば私が行うべきは本部への”提案”であり彼への指示ではなかった。あの場で行動を起こすまでに時間をかけるわけにはいかなかったから勝手に判断してしまったが、万が一彼のトリオン体が破壊されてしまったら私の判断で1人の命を奪っていた可能性まであったのだ。

 

 C級のトリガーには正隊員の使用するものと違ってベイルアウトが付いていない。これは戦場でのトリオン体が破壊されて仕舞えば生身でその場に放り出される事を意味するのだ。トリオン体が破壊される可能性の、その危険性の判断はただの職員である私が現場で行って良いものではなかった。

 更に言えばベイルアウトの有無を、C級のトリガーの仕様を敵に見せる可能性まで考慮しなければならなかったが、その話題は一応伏せておく。三雲君は”敵”の姿をまだ教えられていないだろうから、あんまり言及すべきではないだろう。

 

 申し訳ありませんでした、と頭を下げるとフンッと腕を組み直され、私の話は終わりになった。まあ、本部側としても被害減らす為の判断としては一理ある程度ではあったということだろう。現場にいた面々の中でも正規職員であるのは私だけであり、かろうじて責任を取れる立場ではあった。褒められる行動ではないが、明確な規定違反ではないしそんなに重たい処分にはならないだろう。

 

 そこまで話をしたところでドアがノックされる。見れば迅君と本部長補佐の沢村さんが入ってきた。あれ、なんか沢村さん機嫌悪そう…?

「迅悠一、お召しにより参上しました。」

 会議室内の雰囲気をぶち壊すように、元気良い挨拶が響く。なるほど、本部のエンジニアが手こずっているのだ。未来視の使い所ってわけだろう。

 

  御苦労、本題に入ろう。そんなふうに城戸司令が会議を進める横で迅君は三雲君に話しかけて、自己紹介してる。ボーダー上層部とは長い付き合いで気心知れた間なんだろうけれど、結構フリーダムだよなあ。

 

「待って下さい、まだ三雲君の処分に結論が出ていない。」

 

 忍田本部長が待ったをかける。鬼怒田さんや広報部の根付さんは隊務規定違反を理由に除隊一択のようだが、忍田さんがそれに対して救助活動の功績や嵐山隊の間に合わなかった中学校での一件を挙げ、緊急時への対応能力から処分よりも戦力として扱うべきだと反論している。まあボーダーの戦闘員はいつだって不足していることもあり、実力主義的な一面もある。強ければ良いってわけではないが、トリオン兵を倒せて、正義感が強い訓練生をただ処分するなんて惜しいという感覚は私にもある。

 

 その辺どうなのよ、と迅君をチラリと見ると何やらスマホをいじっている。うーん?あんまりこの論争重要じゃないのか?

「本部長の言うことには一理ある。…が。」

 一頻り意見が出たところで城戸司令が口を開く。

 

「ボーダーのルールを守れない人間は、私の組織には必要ない。」

 もし今日と同じようなことがまた起こったら、君はどうするね?続けて城戸司令が三雲君に問いかける。すると三雲君はそれは…、と言葉に詰まる様子を見せた。

「…目の前で人が襲われてたら。…やっぱり助けに行くと思います。」

 その返答を聞いて、ああ、この子本当に正直だなあと思った。…この答えなら確かに忍田本部長達の論争はあんまり重要じゃないか。

 

 彼個人のことを、その誠実さを好ましくは思う。けれど、ボーダー組織の一員としての彼はきっとこのままではダメだろう。

 ほら見たことか、と鬼怒田さんや根付さんが反応を返し、そんなことよりもイレギュラー(ゲート)への対応策についてです、と話を進めた。

 

「分かっているだけでも重軽傷者は100名以上!建物への被害は数知れず。幸い、まだ死者は出ていないようですが重体の人はいます。第一次近界民大規模侵攻以来の大惨事ですよ!」

 

 やっぱり被害が結構出てしまっている。4年半前の街を、今日聞いた悲鳴を思い出す。ここに、ボーダーに神様はいない。だから全力を尽くしたところで救えないものがあることは覚悟している。それでも悲しんで、悔しく思って次こそはと足掻き続けると決めたのだ。だからその報告を、これからとるべき対策を話し合う会議で俯いているわけにはいかない。

 

 冷静に、現状を確認していく。被害の大きさ、そこから予想される市民の動きや問題。根付さんは広報部の立場からそれらを語っていく。まあ、補償なんかでお金がかかる、と言った話は営業担当の唐沢さんの必要なだけ引っ張って来ますよの一言で粗方解決したが。この辺が上層部の、大人達の頼れるところである。では、問題のイレギュラー(ゲート)そのものへの対応はというと。

 

「開発室総出でも原因が掴めんのだ。今はトリオン障壁で(ゲート)を強制封鎖しておるが…。それもあと46時間しかもたん。」

 鬼怒田さんが苦々しく言う。そう、(ゲート)がそもそも開かないようにすると言う割と最終手段まで使っているのだ。この障壁、コスパがよろしくないと言うか(ゲート)をただ閉じてるだけなので、この46時間でなんとかしなきゃ意味がなくなってしまう。しかし、エンジニア達は現状糸口すら掴めていないと…。

 

「…でお前が呼ばれたわけだ。やれるか?迅。」

 

 林藤支部長─迅君の直接の上司だ、因みに私は本部所属なのでまた違う─が迅君に尋ねる。そう、迅君のサイドエフェクトである未来視はこういう”詰み”に見える盤面をどうにかできる。彼に頼って、なんとかこの世界は今まで戦って来れたのだ。

 

「もちろんです。実力派エリートですから。」

 どうにかなるのかね!?なんて声を聞きながら迅君はいつも通り振る舞う。その様子を見ながら私はよし、と1つ頷く。ここでの最善は決まりきっている。なら私が迷う必要なんてない。

 

「その代わりと言っちゃなんですけど、彼の処分はおれに任せてまかせてもらえませんか?」

 肩に手を置かれた三雲君本人も含めて会議室にいる面々が驚く。

「…彼が関わっているというのか?」

 重々しく城戸司令が口を開く。

「はい。おれのサイドエフェクトがそう言っています。」

 その一言で空気が変わる。今までの積み上げが、彼への信頼がそうさせるのだろう。

「…いいだろう、好きにやれ。」

 

 城戸司令のその一言で方針が決まった。明日の会議予定やら本部としての対応など具体的な動きを最低限決めてその場は解散となった。と、迅君からスマホに動画が1つ送られてくる。見ればニュースか何かのインタビューだろうか、三雲君と木虎ちゃんの救助活動にお礼を言う市民の姿が映っていた。なるほど、この動画使って根付さんにアピールしてこいって事だな?

 

 迅君と鬼怒田さんが何やら軽く打ち合わせている横を通り、根付さんに話しかける。

「根付さん、この動画見てください。これ、如何にも”広報向き”では?」

「ふーむ…!これならボーダーの株を回復させられるかも知れないねえ…!」

「とりあえず、広報部の方に動画送っておくので後はお任せしますねー。」

 サクッと根付さんにお願いしておく。未成年のボーダー隊員の扱いは1番慣れてるのだ、任せておけば間違いはないだろうという信頼がある。

 

 振り返れば迅君は鬼怒田さんとの打ち合わせがちょうど終わったようだった。話題の三雲君は、と会議室内を見回せば何やら会議中ずっと黙っていた三輪君と話していたようだった。そのことに違和感を覚える。

 

 三輪君の城戸司令横と言う立ち位置、そして隊服を着ている、つまりトリオン体で会議に参加していることを考えるに形の上だけかも知れないが彼の役割は”護衛”だ。まあ、他にも私の知らない情報を持っているとかもあり得るが、今日戦闘に参加していた面々の情報はもう本部で分析してるだろうし、重要な情報なら会議で共有しないのも変だ。なのでひとまず護衛と仮定して考えると、この場にいるメンバーで信用がないといえば、一応三雲君になるのか?

 でも、C級の隊務規定違反なんて初めてではないのだ、三雲君よりもしょうもない理由でのトリガー使用なんて山ほどあるし、違反した状況を見れば危険人物とは余り考えられないように思う。

 

 そこでふと、彼と共にいた空閑君のことを思い出す。空閑君関連だとして、ボーダーもまだ詳細を掴んでないとかならまあ、ありうるのか?ちょっと情報が足りない気もするが、一応彼に関することは慎重になっておくべきかも知れない?でも私個人で判断できることでもないしなあ…。後で迅君にぶっちゃけて聞いてみるのもありかも知れないと頭の片隅に置いておく。

 

 やる事が決まった人から次々と退室していく。三雲君を連れた迅君と一緒に退室する時にチラッと部屋を見れば残っているのは三輪君と城戸司令だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迅さんはもう目星がついているんですか?イレギュラー(ゲート)の原因…。」

「いや、全然。」

 三雲君の問いかけにサラッと迅君が返事している。迅君、それ知らない人からすると割と絶望の答えだよ?

「んー、となると今すぐは動かない?なら報告書書いてオペレーター陣とかと情報共有しときたいんだけど、それで良い感じ?」

 迅君に確認を取る。目星が、あるいは何か具体的な未来が見えているなら今すぐ行動を起こすだろうけど、どうやらそういう雰囲気ではない。今はゲートが開かないのでその間に新型トリオン兵の情報とその対抗策練って各隊オペレーターやエンジニアと共有しておいてしまいたいな。ののにもお礼を伝え損ねているし。

 

「そうだな。ひとまず今日は解散で、明日の朝集合って事でよろしく!」

 三雲君が困惑しっぱなしだが、迅君は説明する気がないようだった。まあ、多分考えあってのことだろうし、あんまり余計なことはしないでおこうかな。

「えっと、三雲君。まだ時間があるのは確かだし、ボーダー側もさっきの被害でバタバタしてる。その辺片付けてから明日行動開始って事でお願いしても良い?」

 はあ、とひとまずは頷いてくれた三雲君に本部内の道案内をざっくりして今日は帰した。まあ、もう夜遅いしね。中学生をあんまり拘束するわけにもいかない。

 

 そうして三雲君が帰った後、迅君もさっさと暗躍に向かおうとしたところを呼び止める。

 

「迅君、私は最善の未来に繋げられた?」

 

 空閑君に関しての対応がこれでいいのかだけは確かめないといけない。迅君にとっての最悪は私にとっても望ましいものではないと思うからその辺、何か問題があればきちんと教えてくれるだろう。

 

「ああ、ちゃんと繋がったよ。」

 

 彼は振り向き、予想通りきちんと答えてくれる。頼りきっちゃいけない、絶対視してはいけない。それでも彼の一言だけでこんなにも安心できる。そんな彼に憧れて追いかけて、彼がヒーローでも神様でもないと知ったのに。

 

「明日も”友達”として遠慮なく頼るからよろしくなー。」

 

 対等で、友達でいたいと願う私の事をよく分かったうえで言葉を選んでくれる。のの達もそうだけれど、私は友達に恵まれたと本当に思う。

 ヒラヒラと手を振る彼に手を振りかえして見送る。そしてパンッと一度手を打ち、気合を入れる。ののや他にも親しいオペレーター陣を中心にチャットで声をかけ、新型トリオン兵の報告書作成と対抗策研究に取り掛かるのだった。




 1話冒頭のシーンは入隊後半年〜1年弱後くらいに「せっかくだし同級生で合宿みたいなことしよう!」と嵐山が提案した為、玉狛支部で行われたイベントです。当時入隊していたのが誰か分からない(弓場ちゃんとかイコさん、藤丸、橘高さんあたりはBBFに載ってない…。)ので誰がいるかはぼかしております。迅、嵐山、柿崎、月見はいたと思われる。
 昼間はトレーニングルームで個人戦やら何やらしまくって、夜は菓子パしつつひたすら騒いでいた模様。イベントの詳細を林藤さんが聞いてニッコニコで招いたらしい。多分迅は玉狛に住んでただろうし、友達の(住んでいる)家で間違ってないだろ、うん。
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