「実力派エリート、ただいま戻りました!」
あの後、私と迅君はラッドの実物を持って本部に一度戻った。迅君が鬼怒田さんや根付さんにラッドの解析とレーダーの調整、市民への緊急放送と情報提供の呼びかけ準備などを頼んでいる横で私は人海戦術になりそうなのでC級を含めた全隊員に出動要請を出して欲しいことを忍田本部長に伝える。
グループチャットの方にはすぐに本部から指令が来るので詳細はそっちで、とりあえず害虫駆除を一斉にやると思われるので覚悟しといて欲しい、と言った内容の文章をラッドの写真と共に貼っておいた。
そのまま迅君とは別れて通信室に向かう。そして通信室長にレプリカさんに聞いたことは伏せつつ、市民からの情報提供がある事、人海戦術が取られるだろう事などを伝える。室長も事態を把握すると素早く対応を始めた。
広報部と連携して市民からの情報提供をまとめる体制の構築、開発部からの解析結果を元に行うレーダーの調整、B級以上の各隊のオペレーターとの連携体制、C級隊員へ指示を出すためのオペレーターの確保、かなり広範囲での作戦なので必要とされるだろう車などの移動手段の確保…。やる事は山程あった。打つ手なしでどこか暗い雰囲気だったボーダー本部が一気に活気付く。私も通信室勤務の職員として駆け回り始めた。
「シノ、支部所属の隊との連携準備頼む!前に必要なシステムについては教えたよな!?」
「了解です!!開発室からレーダーのプロトタイプ送られてきたんでチェックお願いします!」
通信室内はまるで戦場だった。各支部のオペレーター達に連絡を入れれば皆すぐに反応を返してくれる。大規模作戦用の情報共有システムを起動すればすぐに各支部オンラインになり、支部の窓口に寄せられたり隊員達が既に見つけたラッドの情報などが共有されていく。
「今手元にある情報はシステムの方に上げといて!後、リアルタイムで必要なシステム組んでるんで作戦時間近づくまではデバッグお願いできる!?」
各支部オペレーター達のそう頼むと彼女達から一斉に了解の返事が返ってくる。そう、ボーダーのオペレーター達は学生だろうが優秀なのだ。同じ依頼を本部所属の各隊オペレーターにも頼むと室長にその事を報告する。私にはのの達のようにリアルタイムで戦闘をサポートするような能力は余りないし、佐崎さんみたいにプログラムを組むこともできない。でも、あっちこっちに顔出して協力関係を築いてきたのだ。必要な人手をかき集めることくらいはしてみせる。
「室長、システムのデバッグを各隊オペレーターが手伝ってくれるそうです!いくらか回してください!」
「助かる!後でなんか奢るって伝えといてくれ!」
「女子学生甘く見てると後悔しますよ!?まあいい、シノ!今送った分だけ頼んどいてくれ!」
「了解です、佐崎さん!」
あっちこっちから声がかかる。専門的な業務がさほどできない代わりに、雑用をこなしたり各隊オペレーターを始めとした学生組との連絡係を務めたりとタスクをひたすら消化していく。
「レーダー最終調整終わりました!起動します!」
担当の人の声が響くと、皆が一瞬手を止めてメインモニターを見る。そこにはトリオン兵を、ラッドを示す赤い輝点が街を覆い尽くしていた。
「ッ!」
誰かが息を飲む。こんな沢山の反応をこの場にいる誰も見たことがなかった。数千を超える、というレプリカさんの声が蘇った。覚悟はしていたが流石に来るものがある。だけど。
「区域分けと人員配置急げ!戦闘員を待たせるな!」
数が多い?ならそれをひっくり返せる作戦を司令部や開発室が考えるだろう。なんだったら戦闘員やオペレーターがその場で思い付くかもしれない。昨日の新型トリオン兵対策だってそうだったのだ。この程度で絶望している暇なんてない。
「開発室から小型トリオン兵の詳細報告来ました!本体に攻撃能力はなく、トリオン障壁が展開されている間、イレギュラー
そうして準備を進めていくとあっという間に作戦開始時刻を迎えた。
『さーて、いくぞ皆。』
迅君から通信が入る。さあ害虫駆除だ。
小型トリオン兵の駆除作戦は昼夜を徹して行われた。C級隊員も動員した作戦は初であり、準備時間が短かったこともあって様々な問題が発生もしたが全員でフォローし合ってどうにか乗り越えた。昼頃から始まった作戦だがらレーダーがクリアになる頃にはもう夜が明けていた。トリオン障壁が展開できるタイムリミットまで10時間以上を残しての作戦終了だった。
『よーし、作戦終了だ。皆よくやってくれた。おつかれさん!』
初めと同じように迅君からの通信が入る。通信室で喜びと疲れが満ちた歓声が上がる。オペレーターも戦闘員もエンジニアも、誰もが限界だったがそれでも成し遂げた。私達は街を守り抜いたのだった。
大きく伸びをする。学生組はともかく、職員達はまだまだ後処理やら警戒やらが残っている。とは言え、まだトリオン障壁が展開中でゲートは発生しない。それだけでかなり余裕ができるのだ。私はデスクに置いてあるエナジードリンクに手を伸ばした。もう一踏ん張りである。
その後、職員達で臨時シフトを組みどうにか通常業務をこなしていった。こういう時、疲労などで身体的なパフォーマンスが落ちないのがトリオン体の良いところである。精神的疲労は勿論あるが。私以外にも戦闘員上がりなどでトリオン能力が高めのオペレーター達は結構いるので、そうした人がまずシフトに入りシフト外の人達は仮眠室で爆睡していた。
『シノー?メガネ君今回の手柄でB級昇進させるからトリガーの用意とか頼んでもいいか?』
個人通信で迅君から連絡が入る。成る程、ラッド発見の手柄は確かにそれをするのに十分だ。ただ…。
「いいけど、明日の朝イチねー…。まだ本部、臨時シフトで修羅場ってるから…。」
エンジニアには話通しておくし、簡単な説明は私も付き合うから…。そう付け加えて返事を待たず通信を切る。何やら大事なことのようだが、昇進とかの手続きをやってる余裕はないのだ。まあ、不味ければなんかアクション起こしてくるでしょ。
そんなこんなで昼過ぎまでの勤務を終えるとトリオン体を解除し、フラフラと帰路に着く。正直今日も仮眠室に泊まってしまいたかったが、家族と過ごすのが1番だな!と言う友人の姿が脳裏を過ったので帰ることにした。うん、いつでも君は光り輝いているなあ…。
「ただいま〜…」
「お帰りなさい、大変だったみたいね。」
お風呂沸かしてあるし、何か食べたいなら用意するわよ?と母さんと父さんが出迎え、気を遣ってくれる。何か食べてシャワー浴びる、と答えとりあえず着替えにいく。最近のスーツは洗濯機で洗えてホント助かるよ。
部屋着に着替えてリビングに向かうと母さんがスープを出してくれる。気遣いに、その優しさに礼を言い、食べ始めると付けっぱなしのテレビから流れるニュースが目に入った。当然内容は今回のイレギュラー
「お疲れ様、守ってくれていつもありがとう。」
思わず手を止めて画面を注視していると、そっと母さんが声をかけてくれる。だが市街地が崩れる光景が、悲鳴がフラッシュバックする。母の車椅子が目に入る。4年半前、私を守って動かなくなった足が。
「守るってやっぱり難しいね…。」
無意識のうちに呟く。全部は守れないとは覚悟している。神様もヒーローもいないって知ってしまったから、その難しさも苦しさも学んだから。
「それでも頑張るって決めたんでしょう?実際、私とお父さんはその頑張りで昨日守ってもらったわ。」
知っている。レーダーを見ていたのだから、自宅の側にラッドの反応があったことくらい気づいていた。ボーダー職員の東雲縁連は、それでも動揺せずに最善を尽くせた。でも家に帰って、家族に会って、食事をしたらただの縁連に戻ってしまった。友達が、家族が大好きな19歳の縁連に。もう終わった事なのにもしも間に合わなかったら、なんて恐怖が今更襲ってくる。
「俺も母さんも、ボーダーのお前に守ってもらった。だから家にいる間くらいは親に守らせなさい。」
ずっと静観していた父さんが静かに、だが力強く言う。まるで幼児にするようにわしゃわしゃと私の頭を撫でる。
その言葉に、温かさに安心してこくり、と頷く。ああ、大人に─両親には敵わないなあ。
一眠りして起きると、窓の外は夕焼け空だった。のそのそと布団から腕を伸ばし、スマホを手に取る。通知がそこそこ来ていてちょっと驚きながら一つ一つ確認していく。
迅君からは三雲君の昇進関連の話だった。やばい、忘れてたと慌てて馴みのエンジニアさんにチャットを送っておく。一昨日からデスマーチだった筈だけど明日の朝までに見てくれるかなあ…?まあ、最悪明日の朝突撃して当直の人に相談しよう。
次は業務連絡だった。今日の夜シフト来れるか、との事だったので了解を返信しておく。室長からは個人チャットで最近の女子学生には何贈ればいい?と相談が来ていたのでこちらには日持ちするお菓子とかが無難じゃないですかね?と返しておく。
同級生からはしばらくしたら本部行くけど車一緒に乗ってく人いるか?という問いかけが来てたので手を挙げておく。夕飯食べてからでもいい?と聞くと了解してくれるのでお願いしておく。
その他にも昨日から協力してくれていた隊員に対して改めてお礼のメッセージを入れる。そこまで終えると起き上がり、両親に予定を伝えにいった。
家族揃って夕食を終えるとスーツに着替えて上着を着込む。もう12月になっている。油断したら風邪をひきそうだ。
いってきます、と声をかければ当然いってらっしゃいと送り出してくれる。近くのコンビニの駐車場まで行けば友人達は既に待っていた。
「お疲れ様!」
「お疲れー。」
友人達─嵐山准と柿崎国治がこっちに向けて手を振っているのに応えながら小走りでそちらに駆け寄った。
「お疲れ様、2人もこれから防衛任務?」
同学年かつ同期の2人はボーダーの戦闘員として良い腕をしているし、今ではそれぞれ後輩達を率いる隊長だ。
「ああ。シノはオペレーターの方のシフトか?」
「いや、今日は戦闘員の方。臨時シフト急に組み直したみたいだから確認してみないとわかんないけど、多分2人と一緒だよ。」
准君に聞かれ、推測を答えておく。そう、職員としては通信室所属だがこういう深夜帯を含む防衛任務なんかは臨時部隊として結構組み込まれるのだ。
「高校生組あんまり引っ張り出すわけにもいかにいしなあ。でもシノ達と一緒なら気楽でいいな。」
あ、夜の運転久しぶりだから2人も注意しといてくれよ?そう言いながらザキ君がエンジンをかける。本部までならそんなに遠くないが、安全運転するに越したことはない。
特に危険運転もなく本部まで辿り着くと改めてシフトを確認する。本日のシフトは戦闘員が私、准君、ザキ君でオペレーターは羽矢ちゃんだった。同級生しかいないので結構気楽である。
22:00。交代の時間になったのでトリガーを起動する。赤、オレンジ、深青色と色とりどりの隊服で廃墟となった街に私達は繰り出した。
『こちら、王子隊オペレーターの橘高羽矢です。いつも通りお願いね。』
「羽矢ちゃんよろしくー。」
オペレーターから通信が入ったので軽く打ち合わせる。といってもお互い気心が知れた仲だし戦闘スタイルもよく分かっている。羽矢ちゃんが言う通り、”いつも通り”にやれば問題ないだろう。
『隊長役は誰がやるの?』
「私パス」「嵐山だな」
私とザキ君が即答する。臨時部隊の場合、戦闘時に混乱しないようその場のトップを決めるのが普通だ。今回はこの4人の中で唯一A級である准君になるのは妥当ではある。
「別に誰がやってもこのメンバーなら構わないだろうに…。」
「ならランク順でいいだろ、シノは部隊組んだ事ねえし。」
何やらぼやく准君にザキ君がそれっぽいことを言っているが、別に部隊経験がない私以外だったら誰でもいいんだよなあ。私は入隊してからタイミングがなかったり、他にやる事があったり、ぶっちゃけ迅君に誘導されたりして部隊に所属することがなかった。
別に防衛任務参加するだけであったらそれでも構わないんだが、対人戦を想定したり、より強敵に対応するならばやっぱり固定のメンバーで戦う経験積んどきたいなあ、とは思っている。ゲートが発生していないので担当区域を巡回する中、私はそんな考えを彼らにぶっちゃけていた。
「じゃあ、ウチの隊入るか?文香や虎太郎達もお前の事尊敬してるし、スナイパー出来るからポジションのバランスも悪くないだろ。」
『あら、スナイパーなら私達も欲しいわよ?シノ確か蔵内君と仲良いでしょうし、王子隊も悪くないんじゃない?』
「何、急に勧誘してくるじゃん…。」
思わず呟く。急にどうしたんだ、君達。
「そりゃ部隊に所属してないスナイパーは貴重だからな。しかも今のB級以上の隊員ほぼ全てと面識があって関係良好、臨時部隊での経験豊富で誰とでも合わせられるサポート能力。更にはシューターとしての腕も良い。こんな優良物件放っておく人はいないさ。」
ザキ君の言葉に目をまん丸にする。私そんなに優秀じゃないんだが?そこまで持ち上げられるとちょっと気持ち悪い。
「私の腕スナイパー名乗れる最低ラインだよ?しかもコミュ力MAXみたいな表現してるけど別にそんなことないからね…?」
「C級やB級成り立ての頃にお前の世話になった人が何人いると思っているんだ。確かに天才的な技術はないかも知れないが、シューターやガンナー、スナイパーの基礎的な技能を一通り抑えて、それを適切に使うことができる。加えてその技術を他人に教えたり、適切な師匠見つけて来るなんてそうそうできることじゃない。」
あんまり自分の評価低いのはどうかと思うぞ。准君にそう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。うーむ、B級以上で活躍してる人達に比べると力不足だと感じるんだけどなあ。
『実際のところどうなの?どこかのチームに入るつもりはあるのかしら。』
うーん、と考え込む。強くなるならそれが1番なのだけれど、
「開発室のテスターやら通信室の勤務があるから現実的ではないかなあ…。迅君にも結構好きに使われてるとこ見るにもうしばらくはこのままかな。」
『あら、残念。』
そこでアラートが鳴る。その音に全員無言で行動を始める。
『
「シノ、狙撃で先手を取ってくれ」
OK、と准君の指示に応えてグラスホッパーを起動、准君とザキ君が踏めるよう展開する。同時に大きくジャンプして近くの民家の屋根に上がる。彼らがゲートの方向へ移動する姿を視界の端に捉えながら、羽矢ちゃんの誘導に従い狙撃ポイントで狙撃銃─ライトニングを起動する。
ライトニングは火力の代わりに弾速と連射性を重視したスナイパートリガーである。つまり最も”当てやすい”と言えるのだ。この間使った火力重視のアイビスとはある意味正反対のコンセプトである。狙撃の腕がそんなに良くない私が普段セットしているのはこの取り回し良いライトニングの方であり、アイビスを実戦で使うなんてそうそうないことである。当てるの難しいし、そんな火力普通いらないし。
ライトニングを膝立ての姿勢で構え、
『1体討伐、残り5体ね。反応からして3体はバドと思われるわ。』
『こっちも確認した。バド3体にモールモッド2体だな。モールモッドはオレと柿崎、バドはシノ頼む。』
バドとモールモッド─比較的小型で飛行するタイプのトリオン兵に近接戦闘型のトリオン兵─か。結構多いな。モールモッドは近づかれるとしんどいので准君とザキ君が受け持ってくれるのは助かる。
そんなことを思いながら、ライトニングの狙いを准君達の方に向かうバドに向ける。移動目標に対しての命中率そんな高くないんだよなあ…。
1発目は脇を掠める様に、2発目は中央を撃ち抜く。うん、いつも通りだ。
『バド2体接近。もうハウンドの射程入るから切り替えてね。』
先程射線を見られてから移動してないし、トリオン反応を消すバッグワームも使用していない。当然向かって来るバド達に対してオペレーターが警告を出してくれる。その言葉でライトニングを解除、ハウンドを起動した。トリオンキューブを5×5×5に分割、誘導強度と発射角度をバラして左右から回り込む様に射出する。同時に左手で起動した拳銃を構える。バドは誘導半径の内側に入り込もうと私に向けて移動してくるが、真正面の相手なら外さない。左手の拳銃の引き金を引き、アステロイドで2匹とも撃ち抜く。
「バド3体討伐完了。そっちは?」
『こちらも無事終了だ。お疲れ様。』
ザキ君が答えてくれる。まあ、2人共モールモッドに負ける様なことはないから予想通りの結果である。
その後も雑談や相談やらをしつつ、
イレギュラーゲート解決、その後の日常。ラッド駆除は多分人手がとにかくやばかったのだと思います。なのでその辺の裏方話を想像して書かせてもらいました。広報、開発室、通信室全部修羅場ってだろうなあ。
後半は19歳組での防衛任務のイメージです。原作の防衛任務の描写もっとください…。でも葦原先生の健康が1番です…。
シノの狙撃の腕はかなり悪いです。多分C級から上がるのにめちゃくちゃ時間がかかる程度には才能がないです。本人の気質的にも中距離、シューターが1番あっている模様。スナイパートリガー自体は開発の頃からテスターを務めていたので一通り使えはするし、合同訓練にも出来るだけ顔を出しているがどうにも性に合わないとのこと。荒船君のメゾットがなければもっとヤバかったらしい。
柿崎さんは車の免許取ってそうという勝手なイメージにより運転してもらいました。絶対安全運転してそう。嵐山はどうかなあ…?
トリガーセット(防衛任務時:通常)
メイン
・ハウンド
・スパイダー
・ライトニング
・シールド
サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・バッグワーム
・シールド