とあるボーダー職員の話。   作:天青石

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7話

 三輪君とのお悩み相談会の後、私は毎日の通信室勤務に加えて戦闘員としての防衛任務や合同訓練、C級やB級に対してのアドバイザーボランティアなどをこなす日々を送っていた。迅君から空閑君が玉狛支部に入隊したこと、合わせて三雲君が転属することなどを聞いたが、なかなか会いに行く余裕もなく彼らとはチャットで軽く話す程度であった。

 

 それもそのはず、迅君から対人戦の練習しといた方がいいよー。なんて割と具体的なアドバイスを聞いていたからだ。どういうことか分からないが力不足で嘆くことは避けたい。最近サボり気味だったこともあり大慌てで友人達や仲の良い後輩達に声をかけ、珍しく毎日のようにランク戦ブースに通うことになったのだ。

 

 そんな日々を数日送り迎えた12月18日。昼間に遠征部隊─今回はトップ3部隊がネイバーフットに向かっていた。─が無事帰還したその日。迅君に夜まで准君と一緒にいるよう言われたので嵐山隊の隊室にお邪魔し、彼らのお仕事、新入隊員向けのオリエンテーションの用意などを手伝っていた。正直もう少し事情を聞きたいが、聞いたら良くない未来に向かう可能性があることも理解してはいる。その辺は友人の倫理観、道徳感を信じて待つことに決めていた。

 

「うーん、やっぱり嵐山隊が使ってるトリガー人気だねえ。まあ、メディア露出あるのがそれだけともいうんだけどさ。」

 

 見たことない武器には手を出しにくいよねえ、と言いながら現状提出されている新入隊員の使用トリガーを眺めていく。嵐山隊はスコーピオンに銃トリガーの組み合わせが多い為そのどちらかを使いたがる子が多いのだ。

 

「佐鳥もいますよー!?なんでスナイパー希望者少ないの…?」

「狙撃は難しそうってイメージがあるのかなあ。私は君のスタイル好きだよ。」

 

 真似はできないけど。と嘆く佐鳥君─嵐山隊のスナイパー─をフォローする。遠くの人でも助けられるからスナイパーというポジションを選んだ彼のことは本当に尊敬してる。ただツインスナイプは意味がわからないけど。

 

「佐鳥先輩、手を動かしてください。」

 木虎ちゃんが冷たく言う。うん、この感じはいつもの嵐山隊だ。

 

「シノ、ちょっといいか?シューター希望者向けのデモ映像を頼みたい

んだが…。」

「あれ、前に撮ったのだとダメだっけ?」

「ああ、トリオン量を平均値にして取り直した方がいいんじゃないかと思ってな。シノは結構多い方だからその辺合わせて撮り直して欲しくて。」

 

 それくらい良いよー。と准君の頼みに頷きトレーニングルームに向かおうとした、その時。

「嵐山隊長、忍田本部長からの通信です。」

 全員に聞いて欲しいとのことですが、どうしますか。オペレーターの綾辻ちゃんがそう問いかけたことで忙しくも和やかな時間は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。警戒区域を嵐山隊と共に駆ける。相手が強い事は良く知っているから正直結構緊張している。頼ってもらったのだから何とかその分の働きをしたいが、何も出来ずに落とされる可能性だって十分ある…。

 

「シノはいつも通り迅のサポートを頼む。俺達より迅に合わせる方が慣れているだろう?」

 

 シノのサポートは俺達がするから任せておけ。そう准君に言われるが、不安なものは不安である。普段の個人戦が真剣でなかったわけではないが、ここまで実戦での対人は初めて。緊張しないわけがなかった。

 

『ドンと任せておけば良いのさ、シノ。それともアタシ達が信じられないのかー?』

 

 そんな事ないよ、とオペレーターに入ってくれたののに応える。嵐山隊の戦闘員だけで4人いるのだ、綾辻ちゃんだけではキャパオーバーなので忍田本部長から今回の作戦の連絡が来た時に、たまたま本部にいたののに私のオペをお願いした。大丈夫、1人ではない。私にできる全力をしよう。そう心に決めてすぐ、向かい合う迅君と太刀川さん達が目に入った。

 

「嵐山隊、現着した。」

 見ればA 級1位から3位の太刀川隊、冬島隊、風間隊に7位の三輪隊とそうそうたる顔ぶれだ。ソロならこの中の誰にも勝てないかも知れない。

 

「忍田本部長の命により玉狛支部に加勢する!」

「忍田本部長派と手を組んだのか…!」

 太刀川さん達が驚いている間に迅君の半歩後ろに位置取る。いつも通り、サポートしやすい位置に。

 

「東雲さん、アンタまでなんで…!?」

 三輪君が切実な声で問いかけてくる。君はそんなに私の事を信頼していたのか。

 

「理由はまあ、色々あるよ。空閑君と実際に知り合ってその人柄を知った事とか、私の考える最善の形とか。でも1番は─友達の為かな。」

 

 忍田本部長からの連絡で知った事情を思い出す。空閑君がネイバーであり、ブラックトリガー─人の命を代償に作り出す強力なトリガーを持っていることを。その力だけでネイバーに対する考え方の違いから生まれた派閥のバランスが崩壊する可能性があるから城戸司令はこうやって強引に奪いに来たことを。でもそんな事より私を動かしたのは迅君が、友人が協力を求めてきたという点だった。

 

「友達の為!?そんなことの為でアンタはネイバーを庇うのか!?」

「そうだよ。君からしたらそんな事だろうけど、私はその為にボーダーにいるんだ。」

 きっとこの場で彼には理解してもらえない感情を、考えを言葉にする。そんなこの場では不毛な会話を断ち切るように迅君が口を開く。

 

「おれだって別に本部とケンカしたいわけじゃない。退いてくれると助かるんだけどな、太刀川さん。」

 まあ、退いてくれないんだろうなあとは思う。太刀川さん楽しそうな顔してるし。

 

「未来視のサイドエフェクトか。ここまで本気のお前は久々に見るな、面白い。」

 ほら、あのバトルジャンキーめちゃくちゃいい顔してるよ。

「お前の余地を、覆したくなった。」

 彼が弧月を抜くのを合図に全員が構える。交渉決裂だ。

「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近距離型のアタッカーが一気に距離を詰めて来る。嵐山隊の面々と共に射撃で牽制するが、この程度高レベルのアタッカー達ならシールドと身のこなしで確実に距離を詰めて来る。

 

 一番最初に斬りかかってきたのは風間隊の2人─歌川君と菊池原君だ。どちらも風間隊のコンセプト通り軽量型のブレード、スコーピオンを使用している。

 

 斬りかかってきた菊池原君のブレードを厚く展開したサブのシールドで受け止め、ハウンドで応射する。流石に素早く躱されてしまうが距離は取れた。視界端に入った歌川くんは迅君にいなされ、受け太刀しようとして彼のブラックトリガー─風刃に叩き折られた。

 

『後ろ、ワープ!』

 ののが叫んだのに慌てて振り返りながら距離をあけようと必死に下がる。風間さんがスコーピオンを振りかざして踏み込んできていた。

 完璧に間合いに入られている。ギリギリで身を逸らすがとても避け切れない。右肩に刃が食い込む。

 

「ッ!?」

 迅君にカバーしてもらいながらそのまま両断されることを避け、転がる様に回避しながらスパイダーを起動、風間さんの身体と地面を繋ぐように展開する。追撃しようとしていた風間さんはスパイダーを避ける為に急停止する。

 

 火線が風間さんに集中して彼を下がらせる。ベストはスパイダーで動きを止めて嵐山隊のクロスファイア当てる事だったがまあ、そう上手くはいかないよな。私が普段スパイダー使ってるのは当然知られているし。

 

 見れば迅君と太刀川さんが鍔迫り合いをしているところへ菊池原君が斬りかかろうとしていたので左手の拳銃て早撃ちして彼のシールドを叩き割って下がらせる。弓場ちゃん仕込みの技術だ、当たれば結構痛いぞ。

 

 そこへ上からハウンドが雨のように降り注ぐ。出水君の援護射撃だと瞬時に理解してシールドを自分と迅君の上に展開、嵐山隊と合わせて少し後退したところに飛んできた狙撃は、迅君が視覚共有で指示してきた位置に集中シールドを展開して防ぐ。迅君の視覚情報と私の視界をリンクさせる事でピンポイントの防御などを指示してもらうことができるのだ。専用のシステムを栞ちゃんに組んでもらってはいるが、それでもののにめちゃくちゃ負担をかけている。

 

「冬島さんこっわ。」

「厄介だな。」

「向こうの方が前衛が厚いのも辛いですね。」

 

 此方の後退に合わせて太刀川さんが放った旋空を准君のメテオラで誤魔化し、距離を大きく離すことで仕切り直しとて、作戦会議をする。それにしてもトラッパーの冬島さんが怖すぎる。今日帰ってきたばかりでそこまでトラップ設置は出来ていないと思いたいが、ショートワープ1つ有るだけでだいぶ変わって来る。

 

 木虎ちゃんが言った前衛の厚さも問題だ。風間隊3人に太刀川さん、三輪君にどこかに隠れているだろう米谷君。弾幕は此方の方が厚いけれど、寄られて仕舞えば嵐山隊の面々もスコーピオンに切り替えざるおえない。弾幕張り続けて寄らせないように徹底しても、彼らの技術と冬島さんやスナイパー陣のサポートがあればどうしたって距離を詰められる。

 

「…次はこっちを分断しに来そうだな。」

『三輪君と出水君、アタッカー陣で分かれようですね。スナイパーはどちらに来るでしょうか。』

 綾辻ちゃんがレーダーから分析する。うーん、そうなるのかあ。

 

「どうする、迅。」

「別に問題ないよ。何人か嵐山達に担当してもらうだけでもかなり楽になる。」

 迅君はブラックトリガーで有るのでバックワームを使えない。必然的にマッチングを選ぶのは向こうになるのは厄介だな。

 

「うちの隊を足止めするなら多分三輪先輩達ですね。」

 嵐山隊の時枝君が理由と共に推測する。そのまま皆で意見を出し合い、作戦を立てていく。

「シノはおれのサポートを頼む。上手いことやれよ、嵐山。」

「そっちもな、迅、シノ。」

 私はちょっとカッコつけて無言で拳を突き出すと2人共応えてくれる。そうして私達は再び戦闘に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び太刀川さん達と対峙する。見える範囲でいるのは風間隊の3人と太刀川さんという近接特化な面々だが、スナイパーが1人はいるだろうと予想は付く。未来視がある迅君はともかく、私が狙撃を完璧に躱すことは厳しい。射線が制限される立地だが、常に意識を割かなければならないのはかなりしんどいなあ。

 

『トラップの反応が幾つかある。ショートワープだと思うが警戒しとけよ!』

 

 相変わらず迅君の半歩後ろという、中距離サポーターにしてはかなり前にポジショニングする。彼から離されてアタッカーに寄られたら1人であっさり落とされるのが目に見えている。注意しなければならない。

 迅君に斬りかかってきた太刀川さんに半数、残りの半数は後ろで構えている風間さんに向かってハウンドを射出する。あっさりシールドで防がれ、躱されるがアタッカーをフリーにしないことが一番重要だ。フリーにしたら絶対間合いに入られる。

 

 此方に向かってきた菊池原君は再びシールドで防ぐ。彼の後退に合わせて降り注ぐ歌川くんの放ったアステロイドはメインのシールドで対応、何も動かず私を信頼してる迅君のこともカバーする。

 

 当たらないだろうことを覚悟しつつグラスホッパーを起動、踏ませて接近してきた太刀川さんの体勢を崩そうとするが軽々躱される。アタッカー2人くらいなら同時だろうと迅君が絶対に対応してくれる。それくらい強い事はよく知ってるから、安心して前衛は任せる。

 

 視界に赤いポイントが出現する。躊躇いなく迅君から共有されたそのポイントに集中シールドを展開、狙撃を止める。迅君を狙ったもう一撃は本人が首を捻って余裕で躱している。3射目がないのは当真君はこっちにいないのか、それとも当たらないなら撃たないという彼の信念に基づいてのものか。まだ警戒は怠れないが、射線が見えたチャンスは逃さない。アタッカー陣から迅君に庇ってもらいながら彼の背後でライトニングを起動、ののが送ってくれる情報を元に狙いをつける。

 

 三輪隊のスナイパー、古寺君の心臓を狙うが、腕に着弾する。まあ構わない、ガンナーやスナイパーに共通するが腕の欠損はそのまま戦闘不能を意味する。古寺君、他のトリガー使ってないはずだし、片手で撃てるほどの変態技量もまだないはずだ。ほぼ無力化したと思っていいだろう。

 

 アタッカーが此方を囲もうとする素振りを見せるとすぐに2人で後退する。時間稼ぎに徹することは作戦会議で伝えられていた。だから落とされない事に重点を置く。向こうの想定した戦闘域から外れられれば冬島さんのサポートもなくなる。

 迅君が相手のアタッカーに、相手のアタッカーは私に切り傷を与えていく。ジリジリと損耗していく事に焦りはあるが、人よりはトリオンに余裕がある。まだ平気だ。

 

「随分と大人しいな、迅。昔の方がまだプレッシャーがあったぞ。」

 太刀川さんが揺さぶりをかけて来る。流石に違和感はあるみたいだ。

 

「まともに戦う気なんてないんですよ。この人は単なる時間稼ぎ、今頃玉狛の連中がネイバーを逃しているんだ。」

 菊池原君が言う。まあ、そう思ってもおかしくはない消極性だ。迅君はブラックトリガーである風刃をただのブレードとしてしか使ってないし、トリオンを温存しているようにしか見えないだろう。

 

「いいや、迅達は予知を使って守りに徹しながら、此方のトリオンを確実に削っている。」

 気付かれた、と思った。

 

「こいつらの狙いは俺たちをトリオン切れで撤退させる事だ。」

冷静に此方の作戦を見破ってくるあたり流石だなあ、風間さん。私はライトニングを解除して覚悟を決める。こっからは向こうも様子見はやめるだろう。

 

「なるほど、あくまで俺たちを帰らせる気か。「撃破」よりも「撤退」の方が本部との摩擦が少なくて済む。」

 戦闘になるとホント頭回りますよね、太刀川さん。じゃなきゃアタッカー1位な訳ないけど。

 

 戦闘中に後始末の心配とは大した余裕だな、と風間さんに言われる。

「いやですね、全面戦争なんてごめんだから勝ち方考えてるんですよ。余裕がないから頭使って戦ってるんです。」

 私が頑張ってあちこち協力関係築いてきたのに無駄にされたらたまりませんからね。そう風間さんに返すが、風間さんの言う余裕と私の言う余裕は視点が、見てる点が違うのだということは分かっている。それでもこれが私と迅君が最善だと考えた戦い方なのだ。

 

「やっぱりこの人達は無視して玉狛に直行しましょうよ。」

 菊池原君がそう提案する。目標はブラックトリガーなのだから、私達を追い回してもムダだと。

「確かにこのまま戦ってても埒が明かないな。玉狛に向かおう。」

 埒が明かないままが良かったんだけどなあ…!

「…やれやれ。やっぱこうなるか。」

「!!」

 

 迅君が斬撃を壁面に伝播させる。ギリギリで反応を見せた風間さんと太刀川さんにハウンドを展開されるであろうシールドを割る気で集中させて放つ。

 壁から出現した斬撃によって菊池原君の首が宙を舞い、ベイルアウト。私の弾丸は風間さんのシールドを破り左腕を欠損させる。贅沢を言えば弧月使いの太刀川さんの腕の方が欲しかったかなあ…!

 

「出たな、風刃。」

 

 周囲に光の帯が出現した風刃を目にしても動揺しない隊長2人に気を引き締める。1人と片腕分有利になったところでまだスナイパーもトラッパーも健在。何も油断できない。

「仕方ない。プランBだ。」

 迅君の言葉に頷き、位置関係を確認する。さあ、戦闘再開だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二ラウンド開始と言わんばかりに太刀川さんの猛攻が始まった。旋空でぶった切られないように視界には捉えつつ、私の対応すべき相手─透明化トリガーであるカメレオンを使い始めた風間さんと歌川君に探知誘導でハウンドを放つ。風間さんは先程の負傷からトリオンが漏れているのが見えるのも大きい。ののにサポートしてもらいながら目に見えない相手に向かって弾幕を維持する。しかし風間さんが素早く判断しカメレオンを解除、シールドを展開して自身と歌川君を守る。流石にいい連携だな!

 

『囲まれるぞ!』

 

 ののが警告してくれるので立ち位置を2人で後退する。瞬間、戦闘している道路の奥からマズルフラッシュが見えたので反射的に集中シールドを展開する。まあ、弱い方から落とすよねー!

 

 そんなふうに狙われつつもギリギリで粘りながら私達は後退を続ける。もう少し壁に囲まれた空間まで行ければ、風刃が有利に立ち回れる条件が揃うんだけどなあ!

 

 だがそうそう此方に有利なポジションまで移動させてはくれない。太刀川さんはもう迅君に任せて、ずっと歌川君が不意打ち狙って来るのを必死に交わしながらどうにか反撃で負傷させようとするが風間さんが完璧なカバーに入ってくる。なんだったらそのままカウンター決められそうになるのを迅君にカバーして貰いつつ、時折飛んでくる精密狙撃ちは集中シールドでどうにか対応する。そうやってなんとか私がフリーになった瞬間だった。

 

 突然、迅君が私にシールドのポイントを指示するので展開、太刀川さんのブレードを割れかけながら止める。その瞬間、隙ありと見たのか私に斬りかかる為に姿を現した歌川君に風刃のブレードが地面を伝播、彼を真っ二つにする。

「今です!」

 ベイルアウトしながら彼が叫ぶ。視界端のレーダーに急にショートワープの反応が出る。

 迅君の背後から狙撃が飛んでくる。彼の心臓部目掛けて。

「ッ!?」

 

 射線が彼の視界から外れてるばかりか、距離が近い。2枚抜きされる覚悟で太刀川さんも動いている今、私が防がなきゃ迅君が落ちる!集中シールドを迅君の背後に展開、彼への狙撃を防ぐがその隙に風間さんに足を落とされる。これは間に合わないな。

 

 恐らく三輪隊の奈良坂君だろう、その正確な2射目が私に向かって来る中、迅君が鍔迫り合いから強引に距離を離しただろう太刀川さんと私を置いて迅君に向かう風間さんの背後あたりに()()()()()を展開する。

 ここでベイルアウトするならトリオン残量は関係ない。使い切るつもりで幾つものエスクードを地面から生やし、壁に囲まれた空間を強引に作り出す。

 次の瞬間、私は頭を撃ち抜かれてベイルアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベイルアウト用マットに背中から落ちる。作戦開始前に弓場隊の空いているそこに登録させてもらっていた私は慌てて体を起こし、ののが操作しているモニターを後ろから覗き込む。戦闘は、終了していた。

 風間さんと太刀川さんは恐らくエスクードに伝播させた背後からの風刃の斬撃でベイルアウト、現在残っているのは奈良坂君と冬島さんだけであり、未来視持ちの迅君に2人だけで命中させるのは至難の業なので戦闘終了といったところだろうか。

「嵐山達の方も佐鳥が決めて、勝敗はついてる。お疲れ様、シノ。」

「うん、ありがと。のの。おかげで助かったよ。」

 でも最善ではなかったかもなあとちょっと思う。あのまま消耗戦で撤退の方が色々良かったのではないか。そんな考えがずっと頭に残っている。

 

「これ以上はなかった。」

 ののに強い口調で言われる。そう、ののが正しい。今の私の実力でこれ以上はなかった。空閑君は守れたし、ボーダーと彼が敵対関係になる事もこのまま行けばない。最悪は避けたのだ。嘆くのは勝手だか、その事を無かった事にするのは仲間達に失礼だろう。

『そうよ。これで最善じゃないとか、私達の部隊のこと弱く見られてるみたいで不快だわ。』

 いつの間にか蓮ちゃん─三輪隊オペレーターの同級生─から個人通信が繋がっている。戦闘相手からすぐに連絡が来るがまあ、そこまでネイバーに強い憎しみがない限り、一般隊員にとって派閥争いなんてこんなものである。

「そうだね、蓮ちゃん、のの。ごめん。それとありがとう、みんな全力でやってくれて。」

 お礼を言うとののが拳を突き出して来たのでコツンッと合わせて私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室にまでの通り道にあるベンチに座ってホットコーヒーを飲む。先程迅君が、ちょっと取引して来るわ〜。と会議室に乱入して行ったのを見送ったところだった。しばらくすると何やら不満げな表情の風間さんと太刀川さんがやってきた。取り敢えず会釈しておく。

「よお、シノ。やってくれたな。」

「そっちこそ、見事撃ち抜いてくれたじゃないですか。」

 蓮ちゃんの作戦でしょう?アレ。と尋ねると太刀川さんはそうそう、アレで決めるつもりだったのによー。なんて返して来る。

「エスクードを入れて来るとは予想外だったな。」

 今度は風間さんに言われる。アレなー。

「実は昔から迅君と組む時は割と使ってたんですよ。風刃と相性良いからって。」

そもそも風刃使うようになってから迅君と組んでの戦闘がそんなになかったですけどね。そんな事をぶっちゃける。一度見られてしまったならもう隠す必要もない。本来は味方だし。

そんな雑談をしていると会議が終わったのだろう、迅君がぼんち揚食べながら此方に向かって歩いて来た。

「よう、ぼんち揚食う?」

そんないつも通りの会話の筈だった。太刀川さんの一言を聞くまでは。

 

「…まったくお前は意味不明だな。何あっさり風刃渡してんだよ。」

 時間が止まる。どうして、なんで。だってそれは。

「ブラックトリガー奪取の指令は解除された…。風刃を手放す気があったなら最初からそうすれば良かっただろう。」

「昨日の段階じゃ風刃に箔が足りなかったと思うよ。」

 会話が続いているがそれどころじゃない。君がそれを手放すなんて、そんな事。

「そうやって風刃を売ってまでネイバーをボーダーに入れる目的は何だ?何を企んでいる?」

「玉狛に新しく入った遊真ってのが結構ハードな人生送っててさ。おれはあいつに「楽しい時間」を作ってやりたいんだ。おれは太刀川さん達とバチバチやり合っていた頃が最高に楽しかったからな。」

 知ってる。ずっと見て来たんだから。それに風刃の価値だって、取引の意味だって理解してる。それでも。

「いまいち理解できないな。そんな理由で、争奪戦であれだけ執着していたブラックトリガーを…。あれはおまえの師匠の形見だろう?」

「形見を手放したくらいで最上さんは怒んないよ。むしろボーダー同士のケンカが収まって喜んでるだろ。」

 

「君は、どうなの…!」

 いつの間にか私は立ち上がっていた。だってそうだろう、君がどれだけ必死でその形見を勝ち取ったのか私は見てた。

「最上さんは怒らないかもしれない、でも君は?ボーダー同士のケンカなんてもので手放して良いものじゃないでしょ!?」

「遊真の、可愛い後輩の為だから別に惜しくないよ。」

 その言葉に、その表情に何も言えないまま手を握りしめる。笑って、いつもみたいに余裕そうで、なのに寂しそうなその瞳に。

 

「…強くなるよ、私。」

「シノ。」

「友達にそんな顔させるのを最善なんて言いたくないから。」

 これだけは譲らない、譲れない。私は友達が辛そうなのを放って置けるような性格してないから。

 その決意だけ伝えて私は踵を返す。この場で何もできない事が悔しかった。




 今回、補助で使っていたシステムはシノと迅の位置座標と視覚情報をリアルタイムでリンクさせるものです。イメージとしてはfpsゲームでピン刺して共有するのの自由度が高い版な感じ。リアルタイムでの大量の情報処理が発生するので戦闘員側もオペレーター側もかなりの処理能力を食われるような代物で、オペレーター1人につき戦闘員2人が限界です。

 冬島さんが加わったのに対してシノと藤丸の2人でなんとか拮抗できたかなあという戦力想定で書きました。原作だと迅はここの戦闘、ほぼオペレーターの支援なしなのやばいな。今回は準備時間が足りなかった(昼間に堂々とやると玉狛側にバレる可能性がある)ことと迅が戦闘位置を選んだことでトラップがかなり少なかったという設定でショートワープのみの描写にしました。そろそろA級ランク戦が見たい欲が…。トラッパーの詳細が待たれる。

 シノが慣れているのは臨時部隊での戦闘なので、フルメンバー揃っている嵐山隊に合わせる経験はほぼない&あんまり意味がないので迅のサポーターになりました。アタッカー勢を迅に止めてもらえなかったら一瞬で落とされてた模様。中距離の射撃戦が得意ではあるが、出水相手だと技術とトリガー構成で押されるかなあ…。人数差もあってフルアタさせられなかったので結構描写が押され気味になりました。本当は弓場ちゃんに習った早撃ちでシールド割って決めにいったりとか考えてたんですが、アタッカー勢の人数と技量考えたらとても無理だったのでサポートに全振りさせました。

トリガーセット(黒トリ争奪戦)

メイン
・ハウンド
・スパイダー
・ライトニング
・シールド

サブ
・アステロイド(拳銃)
・グラスホッパー
・エスクード
・シールド
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