とあるボーダー職員の話。   作:天青石

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8話

 強くなるとは言ったものの。覚え始めなどで急激にレベルアップする時期はもう過ぎてしまっているわけで、シフトの合間にコツコツ個人戦をこなす日々が続いていた。

 

 通信室勤務以外にもやる事とやりたい事は山程ある。この前の争奪戦で中断されてしまった新入隊員向けのオリエンテーションの準備、C級隊員向けのアドバイザー、B級も参加できるポジションごとの勉強会の企画、そしてトリガーテスト。

 もう本部に泊まり込んでしまおうかと思ったが、両親のことを考えると出来るだけ帰りたかった。この辺の感覚は家族、特に弟と妹を溺愛している准君の影響が大きかった。あんなに幸せそうな様子見ると流石に影響されるよ。

 

 そんなこんなで今日はトリガーテストの日。朝から開発室に向かい、いつも通り声をかける。

 

「すみませーん、東雲です。誰か起きてますかー?」

 おー、と疲れた声が返って来る。なんでエンジニアっていつも疲れてるんだろうか。

 

「シノちゃん今日はよろしくねー。」

 今日は起きていた榊さんがこっちこっちと手招きしてくれてるので早速そちらへ向かうと、ほいコレとトリガーホルダーを渡される。

 

「今日は仮想戦闘ですか?それとも起動?」

「実際に起動してみてくれる?それでトリオン供給システムに不具合出ないかチェックしたいから。」

 はーい。了解です、なんで軽く返事を返す。

 

「じゃあこのまま屋上でスナイパーとシュータートリガー使ってみて。こっちでモニターしながら細かい指示出すから。」

 言われた通り基地の屋上に向かい、テストの準備を行う。今榊さんが中心になって作っているのは拠点防衛用の特殊トリガーだ。

 

 このトリガー、”防衛用トリガー”とでも言うべきそれは簡単に言うと本部基地等に貯蔵されたトリオンを使用できるトリガーだ。今までの防衛装置はコンピュータ制御が殆どでオペレーターが管制するものだったが、戦闘のプロじゃないオペレーターが扱うよりも戦闘員がその膨大な貯蔵トリオンを使うのが効果的ではないかと言う発想によるものだった。

 今のところトリオン量にものを言わせてイーグレットとアイビスの特徴を両立させた狙撃銃とサラマンダーの特徴を持ったシュータートリガーが実用段階一歩手前まで来ている。オペレーターにがっつりサポートしてもらう前提だが、個人的な所感として高火力の攻撃を自由に放てるのは結構良さげである。

 既存の固定砲台はどうしても射角があるし、火力の調整もできないからなあ。弾幕張るにはいいけど柔軟に対応するならこっちの方が適しているだろうと榊さんは言っている。

 

「屋上、トリオン供給口着きました。何からやります?」

 目の前には本部の地下にある貯蔵庫に繋がっている機材がある。屋上に複設置してあるこの機材に専用トリガーのトリオン体で触れて接続すればオーケーと言うわけだ。ちなみに通常のトリガーだと臨時接続で大量のトリオンが移動するのに耐えられないので不具合が出てしまう。

 

『取り敢えずスナイパーの方から行こうか。あ、建物に当てないでよ?』

 わかってますよ、と応えて準備する。

「それじゃあトリガー起動します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りテストを終え、データを取っていたエンジニアの皆さんに所感を伝えると今日の仕事は終わりとなる。テストの日はトリオン能力に影響があるかもしれないので基本的に他のシフトは入れないようにしているのだ。

 

 久しぶりに時間がたっぷりあるしC級のブースに顔出してから個人戦やろうかなあ、なんて思っていると蓮ちゃんから個人チャットで連絡が飛んで来る。何やら隊室に来て欲しいとのことだったので良いよー、と返して早速向かうことにする。

 

「東雲です。蓮ちゃんに呼ばれて来ました。」

 ノックをして中から蓮ちゃんの返事を待つ。すぐにどうぞと言う声と共に扉が開けられる。中には蓮ちゃんのほかに休日で早くから本部に来ていたのだろう、三輪君がいた。そういえば、三輪君に会うのはあの夜以来だ。

 

 呼ばれたからきたよー、どうしたの?と軽く尋ねる。蓮ちゃんの答えは予想外のものだった。

 

「三輪君に貴方がボーダーにいる理由をちゃんと話してあげて頂戴。」

 今度は時間あるからしっかり伝えてあげて。と言われ驚く。三輪君の方を見れば何やら真剣で、悩んでいる様子だった。

 

「構わないけどなんで蓮ちゃんわざわざ…。」

「あら、隊長が悩んでいるならそれを助けるのが隊の仲間でしょう?」

 

 それはそうか。良いオペレーターだね、なんて言いながら三輪君に向き合うように座る。が、何と切り出したものか。しばらく静寂が流れる。

 

「…三輪君に納得してもらおうとか共感してもらおうは思わない。戦う理由も価値観も人それぞれだから。ただ、君が何か引っかかっているならそれは解消したいからね。んー、何から話せば良いかなあ。」

「…東雲さんは、友達の為にボーダーにいると言いました。それは迅の為ですか?」

 

 三輪君のその問いかけに出来るだけ誠実に応えようと言葉をゆっくり選ぶ。

「迅君だけじゃないかな。蓮ちゃんだってそうだし、ボーダー全員が友達…とはいえないけど、まあ知り合いにあんまり辛い思いはして欲しくはない。特に仲の良い友達には。私の根底にあるのはそう言う思いだよ。」

 今回は君に辛い思いをさせる結果になってしまったようだからダメダメだけどね。そんなふうに付け加える。

「でも東雲さんもネイバーに家族を傷つけられたんだろう!?何でネイバーの味方なんかできるんだ!」

 

 ああ、やっぱりそこか。4年半前の光景が蘇る。私を突き飛ばして逃したせいで瓦礫に押し潰される母、駆け寄ろうとする私を引き摺ってでも逃がそうとする父、そんなこと関係なく襲ってくるトリオン兵。そうだよね、憎いよね。でもね。

 

「ネイバーも人それぞれって先に迅君から聞いちゃったからなあ。私達と同じで良い奴も悪い奴もいる。それを知った上で空閑君と出会って、敵意が無い事を知った。なんだったらイレギュラー(ゲート)の時に助けてもらった。だから私が味方したのは空閑君であって、ネイバーじゃない。」

「何で信じられるですか…!裏切るかも知れない、敵意を隠しているかも知れないでしょう?」

 それを言われちゃうと、結構痛いなあ。納得しなくて良いからね。そう前置きをする。

 

「迅君がそれが最善って言ったから。盲信するわけじゃないけれど、彼が最悪を見逃すようならこの世界はとっくに滅んでいるよ。」

 

 納得いかなそうな表情の彼に理解してもらう為に言葉を続ける。折り合いをつけなければきっと先に進めないだろうから。

「私ね、4年半前旧ボーダーの人に、迅君に命を救ってもらったんだ。それから暫くは彼のこと神様かヒーローみたいに思ってたよ、絶望してたところから救い出してもらったんだから。でもね、1年くらい経った後だったかなあ。」

 

─彼が神様じゃないって突きつけられちゃった。

 

「防衛任務明けの早朝だったかな。いきなり迅君が走り出してさ、道路に飛び出して居眠り運転に轢かれそうになってた人を助けたんだ。轢かれそうになってた人はなんとか無傷、当然お礼を言われたよ。」

 

けれど、と言葉を続ける。

「運転手は電柱に激突、重症だった。救急車を呼んで、警察も来て誰もが死者が出なくて幸いだったって言う中、迅君は辛そうな表情してたんだ。まるでその未来しか選べなかった自分のせいだって言うように。私が見た彼はね、常に最善でみんなを救える神様やヒーローなんかじゃなくて、足掻いてそれでも救えないものに苦しむただの人だった。」

 

 あの朝を、東雲から覗く朝日が照らす彼の表情を私は一生忘れない。勝手に神様のようだと思い込んで、彼がいれば大丈夫なんて安心して。私はその足掻きも苦しみも知らなかった。

 

「迅君は自分が取りこぼしたものに苦しむ人だ、最善を尽くしてそれでも手が届かない人がいる事を自分のせいだって思う人なんだ。」

 

 傲慢でしょ?と問いかけると渋々と頷かれる。そうだよね、でも。

「人の不幸を減らそうと、最善を選ぼうとして悩む彼の倫理観を、道徳観を私は信じてる。別に私の考えに納得しなくて良い、好ましく思わなくても良い。けどね、彼が最善だと考える未来は君にとって最悪でないことが多いと思うよ。」

 

 私はそんな色々抱え込んでる友達に笑っていて欲しいなあって思ってる。それだけ。そう話し終えると三輪君はまだすっきりしてないような、でも先ほどの訳が分からないという顔ではなかった。

 

「東雲さんは迅に恩返しがしたいってことですか?」

「違う違う。友達や知り合いが辛そうな顔してるの無視して自分が幸せになれないっていうだけ。我儘だよ。」

 三輪君だって米谷君達が何か困ってたりしんどそうなのを放っておくの気分良くないでしょ、それと同じ。そう言うとその動機はまだ理解できるようで、納得の色が浮かんでいる。

 

「何度も言ってるように納得しなくて良いよ、価値観なんて人それぞれなんだからさ。ただ私や迅君の行動が君にとってデメリットばかりじゃないって事は分かって欲しい。じゃないと今回のこととか折り合いが付けにくいと思うからさ。」

 

 私に話せるのはこんなところかな。またこういう話でも、関係ないことでも気軽に連絡してくれて良いからね。そう言って蓮ちゃんにあとはお願いね、と目で伝え隊室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また別の日、私は玉狛支部を訪れていた。京介君からヘルプの連絡が来たのである。何やら彼の弟子になった三雲君がシューターを目指すので基礎を教えて欲しいとのことだった。

 

「それで師匠の京介君に確認するけど、私が教えるのはシューターの基礎でいいのかな?」

 師匠の指導方針に従うよ。と京介君と三雲君に向き合ってソファーで話し合う。三雲君の戦い方に口出しするわけにはいかないからね。

 

「修は戦うっていうイメージがそもそも余り湧かないようなので、基本的な動きを見せてくれると助かります。弾丸の分割とか調整に関しては俺でも分かるので実践で具体的にどう使うかを教えてやってください。」

「なるほど、じゃあ同じトリガーセット使って私が戦って見せようか。相手はトリオン兵?それともランク戦を想定する?」

 

 確か三雲君はレイガストを使った防御型のシューターって形だったはず。私でもそこそこの動きを見せることが出来るだろう。

「まずはトリオン兵でお願いします。対人戦はその後何本かログ残しておいてもらう形でお願いします。」

 オッケー、早速始めよっか。というと2人と共にトレーニングルームへ向かった。

 

 普段実戦で使ってこそないが、開発中のレイガストとスナイパー各種のトリガーテスターを務めてきたのだ、トリオン兵相手に負けるようなことは無い。

 レイガストで受けてアステロイドでトドメを刺すパターンや、反対にアステロイドで動きを止めてレイガストとスラスターでトドメを刺すパターンなど意識して様々な戦い方を、ゆっくりわかりやすく見せた。ログも残るしこれなら参考になるだろう。

 

 一通りやってみせ、三雲君の質問などに答えると彼の動きは明らかに良くなった。まあ、まだまだ判断が遅かったりそもそもの動きが固かったりするが、どこまで強くなるかはこれからの彼の頑張り次第でもある。

「良い弟子だね。才能があるわけじゃ無いけど努力家だし良く考えてる。」

 京介君にそう言うと彼も頷く。頑張れよ、師匠!

 

 その後、良い機会だから遊真君と小南ちゃんの模擬戦祭りに少し混ぜてもらうことにする。2人とも強すぎないか?

 

「シノノメさんは部隊に入ってないんだよな?」

「そうだねー、なんだかんだ入ったことないや。あとシノで良いよ、言いにくいでしょ。」

 それじゃシノさんで。そう呼んでくれる空閑君とは結構打ち解けられた気がする。

 

「部隊に入ったことないなら、シノさんは遠征には興味ないの?」

「そう言うわけじゃないんだけど、たまたま機会がなかったって感じかな。」

 私が1番活躍できるのは個人や部隊の戦力としてじゃないみたいだって迅君に言われてねえ、人に教えたり師匠と弟子引き合わせたり、”ボーダー”が強くなれるように色々頑張ってきたんだよ、なんて話す。

 

「なるほど…?シノさんは迅さんのこと凄い信用してるんだな。」

「そりゃまあ、友達だからね。喧嘩でもしてなければ悪意のあるアドバイスはされないと思ってるよ。」

 

 ねえ、今度は私が色々聞いてもいい?向こうの世界ってどんな感じ?と尋ねると彼は色々教えてくれた。私の知る日本とは全く異なる、でも確かに私達と同じような人が生きている世界について。

 

「シノさんは嘘付かないな。」

 オレ、サイドエフェクトで分かるんだ。暫く話してからそんな事を言われて、彼の警戒心が解けるのがやけに早かった事に納得がいった。嘘を付かれてるかもって疑う必要がないならそりゃそうなる。

 

「必要があれば私だって嘘付くよ。あと、嘘はつかなくてもそもそも黙ってるとか誤魔化すとかはするだろうし。まあでも、君が生きてきた世界に比べればまだ、この国は嘘をつく必要が少ないのかも知れない。その上でそのサイドエフェクトは便利かも知れないけど大変だね。」

「大変だって思うのか。」

 

 ためらいなくうん、と頷く。

「サイドエフェクトで色々抱え込んでる人を知ってるからね。良いことばかりだとはあんまり思えないなあ。」

 

  そんな事を話しながら彼らとの模擬戦を繰り返す。ちなみに結果はボロボロだった、特に小南ちゃん相手は。シールド普通に割ってくるのは止めてくれ。




 東雲縁連が忘れられない朝は2つあります。人に理想像を勝手に押し付けていたことに気付いた瞬間と、友達として対等でいようと約束した瞬間。きっかけは迅でしたが、嵐山は広報もやっててすごいなぁとか月見さんは戦術も学んでてどんどん強くなってくなあなんて憧れては、どこかでその努力や苦悩を突きつけられる瞬間があったでしょう。イコさんとか弓場ちゃんにもそういうことがあったかも知れない。柿崎さんとはみんな凄いね、なんて言い合っては一緒に頑張ろうなんて励まし合ってきたかも知れない。友達と同じ分野ではきっと勝てないと思っていじけてたところを迅にアドバイスもらったり、友達に背中を押されてテスターなどに手を出して、ようやく自分がやってきた事に自信を持てるようになった人。そんな主人公です。

 ひとまず彼女が本編のような人になるまでのきっかけが描けたので満足しました。基本的に友達は皆凄いと思っていて憧れてたところに、その努力や苦悩を叩きつけられて、少しでも力になりたいと願うようになった。こんな主人公で今後面白くなるのか、とか暫く悩むつもりです。そもそも大規模侵攻書くの凄い難しいですし。多分続きを書くとしてもだいぶ期間が開くと思います。
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