ウマ娘に転生したRTA走者   作:装甲大義相州吾郎入道正宗

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目を覚ますと乱れた髪のまま朝食を作っている後ろ姿。相手に明るく挨拶されるも昨日の続きを無言で催促し、最終的に受け入れてくれるステークス。

優勝は、逆の立場になっちゃう覚えたての理子ちゃんでした。


第四話 胎動のパルヴァライザー(粉砕者)

当然といえば当然の話なのだが。

 

何年も民間レースで優勝を独占する内、運営側から殿堂入りという名の出禁を食らった俺は、無期限の温泉旅行券を手切金として貰ったのを最後に稼ぎ柱を失ってしまった。

ついでとばかりに幼馴染だったビワちゃんとブライアンだが、中央トレセン学園に推薦されて学生寮に入ったらしく当分の間、帰って来ないとの事。

 

つまりわざわざ【県を跨いでレースに出走していた】意味が無くなったのである。

毎週土曜。交通費をケチって陽が登らぬ内から運動場目指してヘトヘトになるまでランニングしなくても良いのは嬉しいが、懐も心もだいぶ寂しくなってしまった。

 

一応、民間レースでお世話になった特選ニンジン農家さん繋がりで、朝堀りニンジンの配達アルバイトを紹介して貰っているが稼ぎの程はお察しである。…いや今まで甘い汁を吸い過ぎたのがいけないのだ。楽して金を得ようというのがそもそもの間違い。

ニンジンをニンジンとしてでは無くニンジンと謳ったニンジンという名の拝金行為などニンジンに対する冒涜…。

 

これからは真っ当なウマ娘として、ニンジンでも齧りながら過ごすのがオールベター。波風立てずに波任せである。

 

 

 

「【驚愕】のステータスを検知。何故あなたが此処にいるのですか、主任」

 

そんな思いで地元の公立中学に入学し、数週間が経った頃。体育の時間に他クラスとの合同で徒競走が行われた時の事だ。

別クラスだったせいで今まで気が付かなかったが、どこかで見たウマ娘が初対面にも関わらず俺に近づき、謎の役職で呼んだ。

 

「…主任って、もしかして俺のこと?」

「はい」

「あ、そーなんだ。……なんで?」

「回答します。お父さんより立場や実力が上の者を役職名で呼ぶ慣例があると情報提供がありました。よって貴方を主任と呼ぶのが適切だと判断します」

「あ、そーなんだ」

 

謎の曲解に戸惑いながら同じ言葉を返すが、相手は機嫌を悪くした様子は無い。

なるほどサイボーグウマ娘とは良く言ったものだ。感情の±が少ない。

 

「再度、質問します。近隣を平定した貴方の実力があればトレセン学園に充分入学が可能だった筈。それが何故、このような場所に?」

 

そういう意味か。

 

「あんなとこで頑張るとか、キャラじゃないしね」

「疑問。高速化を伴うアップデートにはトレセン学園が最適です。何か他に策でも?」

「あー…何か勘違いしてるみたいだけどさ」

「?」

「学園みたいな私立校に入る金銭的余裕は無いし、そもそもURAに興味が湧かないんだよ、俺は」

「???」

 

何だその宇宙ネコ顔は…。話す機会が掴めなかったビワちゃんやブライアンは例外として、近所に住んでいるなら俺の家庭事情を知らない訳でも無いだろうに。

 

何せ母は相変わらず自宅に引き籠って仮想の充実生活を満喫しているので半ニート状態。

煩わしい世俗と関わって、ふとした拍子に現実を思い知るのを本能的に避けているようだ。そのため近所付き合いやPTAといった地域に馴染むような事もせず、ずっと一人のまま過ごしている。

たまに周囲のお節介が押し掛けても、突然ヒステリックを起こしたり、そもそも会話が成立しなかったりとお手上げ状態で今では完全にヤバい人認定だ。

 

その娘である俺にも、必然的に好奇の視線は向けられたのだが…こちらはまぁ同情の割合が多い。

主な原因は以前、女なんだから体が細いのは当たり前だと思って普通に食事をしていたら、小学校の授業中に昏倒。診断結果が極度の栄養失調だと判明した件だろう。

 

どうやら漫画的に面白い表現でウマ娘は大量の食事を摂っている訳では無いらしく、普通のウマ娘ですら成人男性基準のカロリー摂取量では基礎代謝にも届かないとの事。特に食べ盛りの子供なら尚更で給食の一食だけをマトモに食べても賄えるものでも無い。

医者にはどうしてそんな事も知らないのかと怒られてしまった。

 

無論、精神年齢が子供では無いのだから、そんな事は知っている。

ただ金の使い道は母を優先しているので手が回らないだけだ。

母の食事はもっぱら映えやすい物ばかりで栄養バランスは皆無。高級な出前物や通販系は一食の美味しさを追求する為に油分や味付けを濃いめにするのが多いからだ。

かといって健康に良い普通の食事を用意しても食べてくれないので、俺が食材を吟味し、栄養も整えた映え料理を作る他ない。そのお陰でかなり料理の腕も上がった、と思う。

それでも最初は思うように食べてもらえず、時にはぶち撒けられたりしたがある日、朝に作り置きの食事を置いて帰宅すると綺麗に平らげた食器が並んでいた。

それ以降も俺が在宅している間は決して手を付けないが、少しずつ食器が綺麗になる日が増えている。

それだけで、俺は精神的な満腹になれた。

母には俺こそが、必要なんだと実感出来た。

 

世間ではこんな俺達を憐れむ風潮があるが大きなお世話である。ウチはウチ。ヨソはヨソ。金が無くとも価値観は人それぞれ。

 

小学校の頃はよくその事をイジメのネタにされたものだが、そこはウマ娘の世界。「文句があるならレースで決着を付けな!」と合法デュエリスト理論で周囲の声を黙らせてきた。

そして悲壮感を出さない為にも、敢えて良く笑うようにして、時にはユーモア溢れる言葉遣いを心掛けた結果。今では近所に君臨する孤高の一匹ウマ娘…。

 

 

 

…あれ、俺もかなりの変人なのでは…?

 

 

 

「まぁとにかく。競走バになるつもりが無いってのが1番の理由かな。…周囲のご期待ってやつに応えられないのは、残念だけど」

「ステータス【暫定的納得】を取得。胸部に微細な異常を検知していますが、バイパス処理します」

 

顔は無表情だが、尻尾は不機嫌そうにパチンパチンと鞭のように暴れている。

そんなやり取りを他所に、体育の時間は順調に進み、競争の順番が回ってきた。同じ小学校上がりで俺の知る者はサッと目を逸らし、噂だけ知る者は興味深そうにこちらへ視線を向けている。

そして奇しきも同時にスタートするのは、あのウマ娘。

 

「よろしくお願いします、主任。貴方の粉砕者(パルヴァライザー)としての力を見せてください」

「…何それ」

「私が考えた格好いい二つ名です。他にも殲滅者(アナイアレイター)支配者(ドミナント)も候補にあります」

 

どや顔でふんすッと鼻息を漏らす。

そんな厨二みたいな…いやリアル中学生か今は。

 

というか、わざわざ話し掛けてきたのはソレを言いたかっただけだな?

てっきり何か重要イベントでも発生するのかと思ったがとんだ肩透かしだ。二つ名なんて自分から名乗るようなものでもあるまいし。

 

「ミホりんの場合は確か…坂路の申し子、だっけ?」

「センスを感じない名です。……ミホりん?」

「アハハッ!まぁ安っぽい言い方だけど、三冠を目指すならそれぐらい鍛えないとね」

「!何故、私の夢を…あとミホりんについて詳しく…」

「時間だ。見せてみなよ…ウマ娘の可能性ってやつを」

 

納得いかない様子の隣を他所に、スタートに備えて体勢を整える。

 

ウマ娘ってのは育成次第で本物時代とは異なる未来を歩める存在だ。この子がどんな先に向かうかは不明だが、努力次第で距離適正の壁を超えて、夢が叶えられるのは事実。良いトレーナーが見つかるのを今からでも祈ろう。

 

(…俺自身にそっちの才能が備わっていれば、そんな未来もあったのかね)

 

今の俺はウマ娘としての人生を歩んでいるが、トレーナーとして生きる道も有りかもしれない。

何せ趣味だったRTAは、最適解を求める為にチャートと呼ばれる既定路線が如何に早く安定するか、試走や検証は欠かせない要素であり、並外れた忍耐力と根気強さが求められる。

天性の才能より、学び積み重ねた知識が物を言うRTAの経験を活かして今の内に勉強でもしておこうか。

 

特に今は前世の知識で勉強しなくとも進級出来る状態である。トレーナー試験がどれだけ難関だろうと、敵とイベントの乱数を丸覚えするsagaシリーズガチRTAよりは簡単だろう。

 

義務教育が終わるまであと3年。それまで色々試してみるかな。

 

 

 

「戦闘モード、起動しまーす!」

「ミホノブルボン、発進ッ」

 

 

 

 

 

明らかに中学生レベルではない二人の激戦が繰り広げられる直前。

運動場に面した通用門を挟んで別のトラブルが発生していた。

 

「こ、困ります!勝手に校内へ入られては…」

「アポイントは取ったって言ってるだろう」

「そ、それは知っていますが、まずは応対室でお話でも…」

「何?教師風情が僕に歯向かうっての?」

 

生活指導担当教諭は困り果てていた。

校長から本日中に中央URA関係者が視察目的で来校するとは聞いていたが、突然高級そうなリムジンで敷地内に乗り上げたかと思えば、顔の下半分をマフラーで隠したスーツ姿の男性が下車。そのまま校内に入ろうとしたのだ。

普通、お偉いさんが来る時はまず校長が応対し、その後同行しながら視察するのが通例なので、本当にURA関係者なのか一抹の不安でもある。

 

胸に付いたURAの証たる金バッヂは確かに偽物とは思えない精巧さ。出来る事なら素通ししたいが、万が一にも人違いではシャレにならない。相手にしているのは天下のURAなのだ。

 

日本URAは巨大企業連である。

全税金の約50%を国庫に収め、興行の度合いによって株価を変動させる。その影響力が国家の政策どころか司法にすら及ぶのも当然の帰結だろう。増してそんな相手に恨まれたりすれば、例え法で守られた身だとしても、法律以上に重い刑罰に問われてしまうのは公然の事実である。

 

非常に稀な話だが、レースに無頓着な人物からすれば、たかが娯楽スポーツの運営団体1つがそこまで大きな権限を持つなど眉唾物だろうが、この世界において特にウマ娘による競技は古来より神聖視された伝統興行として受け継がれた歴史がある。それは半ば宗教観念化しており、日常から切っても切り離せない存在となっている。

 

例えば、今でこそ身近に当たり前の、酒、自動車、携帯電話。

これらも元を正せば、たった一つの嗜好品に過ぎなかったが、その存在は年月を掛けて人間の生活に密着し、必要不可欠な物として受け入れられているのと同じ原理だ。

 

特にウマ娘達のレース。競バを制する者は世界を制すると言っても過言ではない。

 

それら関係各社を一括で掌中に収める巨大企業URAの権力に比肩し得るものは、同様のURAのみ。歴史を紐解けば第一次世界大戦時、既に各国のウマ娘同士による代理戦争が勃発し掛け、一説によると笹針による改造を施した強化人間がナニカサレ……。

 

そこで自分の担当教科である歴史に片足を突っ込んでいた生活指導教師は、雑念を頭から振り落として現実と向き合った。

 

兎にも角にも、目の前の人物に対して万が一でも機嫌を損ねてしまえば、一族郎党果ての地まで追い詰められても不思議ではない。

 

「あの…本当に、困りますので…」

「使えない奴だな…僕の、この、バッヂが!見えないかい!」

「すっ、すみません!」

「チッこれだから愚民は嫌いなんだ。…あぁ!もう少し待ってておくれ、僕の可愛い()()()()()()()()

「…はーい」

 

不意にスーツの男性が猫撫で声を後ろに向けると、リムジンの中で隠れるように…隠れてしまうサイズの小さなウマ娘がオレンジの髪を隙間から見せている。

 

「君はいつでも可愛いねぇ…。おい、サッサと門を開けろ!」

「ひっ…」

「ーーーちょっと待って」

「っと、どうしたんだい?」

 

怯える教諭を他所に、ぴょんという効果音がしそうな身軽さでリムジンの座席から飛び出すマヤノトップガン。彼女は男にとって久方ぶりに舞い降りた幸運の天使である。

 

目の前で走る有象無象の生徒達と同じ年齢でありながら、ウマ娘としての才能が既に傑出しておりまるで()()()()()()()()ような貫禄すら見せる才能。

身体がまだ本格化という成長期を迎えていないので表向きは控えられているが、既に中央トレセン学園所属のトレーナーからはスカウトが引っ張りダコ。もしデビューを果たした年は彼女によって支配される、とまで期待される娘だ。

 

そんなマヤノトップガンに、男は何故か一目置かれていた。

気になる雰囲気がする。という何とも曖昧な理由だが、それでも空前の僥倖であるのは間違いなく、上手い事丸め込めば専属トレーナー契約を結ぶのも夢では無い。

 

男は10年前の二の舞を踏まないよう、優しい大人の仮面を被って接する。飼い犬如きが手を噛むなど立場を弁えろというのだ。

 

(まぁどんなクソガキでもレースで勝てるなら、それで充分だからな)

 

だから日常の破天荒はどんな物であろうと、甘んじて受け入れるのが男の役目だった。

今日もマヤノトップガンが言う、運命の相手を探して遠路はるばる地方まで車で送迎したのだ。相手が誰か興味は無いが、せめて一流の世界に土足で踏み入るような野蛮な人間でない事を祈るのみ。

男は未だ痛みが燻る顎をマフラー越しに撫でながら動向を見守った。

 

「ーーーマヤ、解っちゃった」

 

校門越しに目を見開いたかと思えば、柵を掴んだまま微動だにしない。まるで自分を檻に入れて自制している獣のように力んでいる。

 

そんな様子を露知らず、男が視線を運動場に目を向けると、地方のトレセン学園にも通えなかった非才のウマ娘達が駆け回っていた。

普段の精鋭を見慣れている身からすればお粗末極まりない、かけっこの範疇。時間の無駄だと鼻で笑った。

 

運動場を駆ける黒いウマ娘。

ボサボサの黒毛を靡かせ、白いメッシュが入った片目隠れの前髪と、平均より一回り高い身長を支えるのが不安なくらい華奢な手足。一見すれば病人にも見えるその娘を、少しだけ気にしながら。

 

「…ねぇ、トレーナーになる必要な条件って何?」

「おやおや、僕の仕事に興味を持ってくれたのかな?そうだな話すなら何処かオシャレなカフェでゆっくり」

「ねんれい制限は、あるの?」

「……いや、特に設けては無いよ。試験と面接に合格さえすればどんな人物であろうとURAは門戸を開いているとも」

 

無論、生半可な才能や家柄程度では、どれだけ試験で高得点を獲得しようとも、面接で弾かれてしまうが。

 

「そっか。なら大丈夫だね!だってまだ3年もあるんだもん。少しぐらい変わっても私達のキラキラは壊れたりしないから!」

 

頭に疑問符を浮かべる男を他所に、マヤノトップガンは笑った。

柵を握る手を全く緩めないまま、笑った。

 

目の前で走る黒いウマ娘を瞬きもせずに凝視し、同時にスタートを切った栗毛の少女すら睨みながら。

やがて競走が終わり、互いが健闘を称え合う様子も見逃さないまま。

 

「ーーーそれじゃあ帰って練習しないとね!それと…」

 

男は肩透かしを食らった内心を隠して、マヤノトップガンの言葉を待つ。そして語られたのは彼のエリートとしての人生を更に彩る、やはり自分は選ばれた人間だと確信するに至る提言。

歪に持ち上がる口角が止められない。マフラーのおかげでバレてはいないが、それはきっと悪党の笑みだった。

 

 

後に、彼が手掛けるチームには何故か…己が踊らされている事も知らずに、真意を秘めた最強クラスのウマ娘達が集うようになった。

 

皇帝、女傑、変幻自在、異次元の逃亡者、幻のウマ娘。

 

彼女らは中央URA界隈に悪い意味での紆余曲折を齎しながら、日本競バ界を支配する。

特にトレセン学園に在籍する名将、古参、新進気鋭といった各トレーナーに割り振られた誇りある星の名前と栄光の瞬きを、踏み躙るようなチーム名を持って、新たな秩序を生み出す真のパルヴァライザー。

 

それは最も有名な星々を束ねる、十三の黄道帯を背負った星座の主。

 

そして。

異なる世界において、カプリコーン杯やジェミニ杯といったイベントを統合し、真ルートと呼称されるに至った、人外魔境の難易度を誇るシナリオの正式名称。

 

その名は、

 

 

 

 

 

 

 

次回 ゾディアック

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