やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続 作:角刈りツインテール
ガシャゴン、と馴染み深い音を立てながら自販機がマッ缶を排出する。すかさず俺はそれを回収し蓋を開けた。そしてそのまま自転車を押して歩き始める。
時刻は午後7時を過ぎている。どうして性懲りもなくこんな真夜中に下校しているのかと問われれば、平塚先生に頼まれた用事があって強制的に手伝われたのだ。
いい加減自分でやれよ…。
ちなみに本日、由比ヶ浜は風邪につき休みをとっている。この時期に?と不思議に思わないでもないが早計な行動で地雷を踏んでしまってはいけない。何か伝えるにしてもメールくらいにしておこう。
それにしても人が少ない。折角だから歌でも歌おうか。夜の空気に飲み込まれないようなポップな歌がいい。ウマ娘か。ウマ娘だな、そうしよう。
「君の愛馬が♪ すきゅんどきゅん走りだ———あ」
人がいた。
しかもうまぴょいしている最中である。恥ずかしいことこの上ない事実に俺の顔はあっという間にオーバーヒートした。108のスキルの一つ『隠密行動』を用いて「…っす」とでも言って逃げようかと思ったのだが。
「———。—…——・————。———」
それは叶わなかった。何故なら、それは見覚えがある人物で、だが未だ会ったことのない何者かだったから。
「え」
俺は一体何を言おうとしたのだろうか。それすらも分からないまま、開いた口は塞がらなくなる。それは慣用句的な意味でもあり、事実でもあった。
「がッ……!?」
何故なら俺は
そのパンチは脇腹を抉り、アスファルトには血が流れた。
「う……あ…!」
今のは一体なんだ。
俺が知っているこいつは、こんな非人間的なスピードで動くことなんてできないし、なんなら一般の女子より運動能力が低い。
なのに今の攻撃はキスショット———とまでは行かないまでも、それに近しい感覚を覚えた。
その人物を俺は確かに知っていて、だけど何か違和感を覚えた。
ゆらり、ゆらりと先程のスピードとは打って変わって酔っ払いのように歩み寄ってくるレインコート。その顔は闇に包まれていて、引きずり込まれそうで———どこまでも不気味だった。
と、そこでようやく違和感に気がつく。むしろどうして今まで気がつかなかったのだろうかと疑問を抱くほどに大きな違和感———そいつの腕は人間とは思えないほどに太く、猿のように毛深かった。まるで、由比ヶ浜が修学旅行で購入していた猿の手のように。
「はぁ…はぁ…」
……不味い。
意識が、保たねぇ。
視界が狭まっていく。
吸血鬼の回復能力で死ぬことはないと思うが、寝ている間に殴られ続けたら流石に死ねる。不味い、どうする俺。どうすればこの状況を切り抜けられる。
30秒。
30秒だけでも時間を稼げたら回復も終えて逃げられるのだ。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ———!
「比企谷くん?」
そのとき、誰もいなかったはずのこの場所に第三者の声が聞こえた。そのせいかレインコートも肩を震わせて動きを止める。
「ゆ……雪ノ、下、逃げ」
「逃げる?何から?それよりも比企谷くん、その傷は———!?」
「は?だ、だから、こいつから———」
いつの間にか回復していた腹を右手で労りながら左手でアイツがいる場所を指さす。
アイツがいる場所。
「は…どこに消えた…」
レインコートは少し目を離した隙に消えていた。肉脳筋キャラかと思われたがどうやら他人に見られるのはまずいという程度の判断はできるらしい。はぁ、と脱力すると再び痛みが襲ってきた。どうやらまだ完全には治っていないらしい。全盛期からすれば恐ろしい退化である。まぁ俺がもしただの人間だったら今頃すでに死んでいるのだから文句は言えまい。
「…大丈夫なの?」
俺と同じ目線まで倒れ込み、心配そうに患部を見つめる雪ノ下。どことなく猫っぽさを感じるその体勢に可愛いなぁと思いつつ立ち上がる。
「大丈夫だよこんくらい。今まで雪ノ下から食らってきた精神攻撃に比べたらなんのこっちゃねぇ」
「そうやって軽口が叩けるのなら、本当に大丈夫なのでしょうね」
でも、と雪ノ下。
「あなたが大丈夫と言っても私は心配だわ。あなたの家、まだかなりあるし一旦うちにくるのはどうかしら」
「いやいやいやそれはまずいっていうかなんていうか」
「何が?」
「いえ、是非お邪魔させていただきたいと思います」
今の鋭い眼光まじで怖かった…なんならさっきのレインコートよりも怖かったわ。漏れるかと思った。
「つか、こんな遅くまで何やってたんだよ」
「塾よ。もう少しでテストがあるから勉強しておかなければと思って」
「学年順位一桁が何を言ってらっしゃいますか」
「貴方だって国語はいいじゃない。前回なんて負けてしまったし。悔しいから今回のテスト勉強は国語を重点的にすることにしているの」
「やめろよ、得意教科っつても他の教科と比べたらなんだからガチ勉強されたらすぐ抜かされるんだって」
なんて軽口を言いながら俺は別のことに思いを巡らせていた。
レインコートの人物の正体。
推測、なんてものではなくそれはもはや確信に近かった。
その腕は猿のようで。
だが、それ以外はアイツと全く同じで—————
「それから、比企谷くん」
「あ?なんだよ」
「勿論家族はいないのだけれど———変な気を起こさなようにね」
雪ノ下は顔を赤らめながら、にこりと微笑んだ。
うーん…出来るかなぁ…。
あまりにも不安だったので俺は「善処する」とだけ呟いて歩幅を伸ばした。
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ちなみに
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前作から見てる。
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続から見てる。