やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続   作:角刈りツインテール

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これ我ながらかなり良いタイトルなのでは…?


014 猿は去らずにあくまで嗤い続ける。

「ひょっとしてそれは———神原、じゃないのかい?」

忍野はそう尋ねた。

いつものヘラヘラした雰囲気はどこかへ消し去り、静かに。それはどこか、エピソードを殺そうとした俺を諭したときの表情と似ていて、自然と身震いしてしまう。

「……知り合いなのか?」

俺の言葉に忍野は考えるような素振りを見せる。その時にはもう素手の威圧感は嘘のように消え去っていた。

「んー、まぁ知り合いといえばそうなるのかな。持ち主の姉と接点があってさ」

まじか。こいつに女性の知り合いがいたとは思わなかった。てっきり男だらけの謎のサークルでしっかり陰キャしていたのだとばかり……。

いやむしろ周りに女子を侍らせて誰よりもチャラチャラしていた可能性もある。どちらでも想像がついてしまうあたり、こいつのキャラの掴みづらさが窺える。

「そ、それって前に言ってた大学のサークルですか?」

由比ヶ浜も気になったのだろう、そんな疑問を出していた。そういえば、と思い出す。吸血鬼期間だったか、それ以降だったか曖昧だが以前、忍野が教えてくれたことがあった。怪異関連のサークルに入っていて、それがきっかけでこの道に進むことを決めたのだと———踏み外したのだと。

「そうそう。神原……まぁ名前は違うけど、元々僕の先輩だったんでね。はっはー、それにしても縁ってのは凄いねぇ」

言葉ではそう言っているものの、忍野の顔はどこか苦々しい。どうやらその先輩に対してあまり好意的な感情は抱いていなかったようだ。出来ることなら会いたくないが彼女も怪異絡みの仕事をしているのだとすれば、俺が怪異に関わっている以上どこかで出会ってしまうかもしれない。是非とも今後は、忍野と同じ雰囲気を持つ奴が通りすがったら回れ右させてもらうことにしよう。やれやれ、俺が回れ右する立場になるなんて思ってもいなかったぜ。中学時代は俺がされてたからな。廊下を歩いていたら即座に道を開けてくれていたまである。どんだけ嫌われてんだよ俺。

……それにしても、このおっさんが苦手とする人物。

陽乃さんみたいなのだったら困るけど……まぁ、あんなのが2人も3人もいてたまるかという話である。

目的を達成するためには手段を選ばなかったりニコニコ顔で恐ろしいことを言ったりする人ではあるまい。

まさかな。

ありえないありえない。

まさか受験前の人間を粉々にして文字通り地獄送りにするような恐ろしい人間ではないだろう。…と、信じている。

閑話休題。

「で、その悪魔って何なんだ?」

「レイニーデビル」

忍野は怪異の名前を言い放つ。

 

「レイニーデビル———その名の通り、雨合羽を着た悪魔だ」

 

♦︎♦︎♦︎

 

W・W・ジェイコブス短編に出てくる、持ち主の()()()()()()形で願いを叶えるいわくつきのアイテム『猿の手』の怪異———ではなく。

 

古くからヨーロッパに伝わる悪魔。

契約を行使する際願った人間と同化するのが特徴で、人の悪意や嫉妬などのネガティブな感情を引き出しその願いを叶える低級悪魔。

家出した子供が雨の日に猿の群れに食い殺されたという伝承を起源に持つ。

雨降りの悪魔。

泣き虫の悪魔。

 

———その姿は、多くは雨合羽を着た猿で描かれる。

 

 

契約として、人の魂と引換に3つの願いを叶える。そして、3つの願いを叶え終えた時、その人間の生命と肉体と乗っ取ってしまう。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

大方、忍野の説明はこんな感じだったと思う。

俺は衝撃を受けた。恐らく、由比ヶ浜も。

現在の境遇と全く同じだったのだから当然だ。

確かに今、由比ヶ浜の腕は猿———いや、悪魔———めんどくせぇなもう猿でいいか———と同化している。

全くもって何もかもがどうかしている。

だが納得はできる。何故悪魔が人の願いを、意に沿わない方法ではあれ叶えてくれるのか。それはあちら側に利益があるからに他ならない。ノーリターンで願いを叶えてくれるような甘い猿はいないし、いわんや悪魔をや、である。この場合はそれが人の魂だったのだ。なんて分かりやすい。そして、なんて恐ろしい怪異なんだろうと背筋が凍る。

同時に三つ叶える前で良かった、と安堵も覚える。

基礎知識は身につけた。では二つ目の質問に移ることにしよう。

「じゃあどうやったらソイツ退治できんの?」

「おいおい退治だなんて。物騒だなぁ比企谷くんは。何かいいことでもあったのかい?」

そして、ふぅ、と火のついていない煙草の煙を吐くような素振りを見せてから静かにこちらを睨みつける。

 

 

自分から指を突っ込んでおいて———いささか都合が良すぎるんじゃないのかな。

 

 

ごくりと唾液を呑む音。それは果たして誰のものだったか。

俺か、もしくは。

しかし少なくとも。

 

 

 

「………私は」

 

 

 

忍野の台詞が由比ヶ浜を責めるものだということだけは確かで、俺にはまるで悪魔の笑い声のように聞こえた。




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ちなみに

  • 前作から見てる。
  • 続から見てる。

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