やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続   作:角刈りツインテール

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受験生である作者が何故が受験前の夏休みになって突然戻ってくるとかいう怪異現象。


015 それでは吸血鬼を始めよう。前

俺は視野が広く、思いつめることなんてめったにない。故に目移りもしない。

前言は固く守り、信念も変えない。

すべてを得ようとなんてせず、平穏な日常だけを望む。

それが俺だ。比企谷八幡だ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「わ、私はそんなこと知らなくて……」

「———へぇ、『知らなくて』かぁ……」

 

はっはー、と。

忍野はいつものように笑った。

いつものように、ごく自然に———その瞬間、世界が凍ったような感覚に陥った。俺は身震いし、額に汗が流れ、体中の器官が俺自身に警告を告げる。しかしそれとは反して蛇に睨まれたうさぎのように体が全く動かない。

確かに今までも忍野を不気味だと思ったことがあるが、ここまではっきりとした恐怖を感じたのは初めてだった。

忍野の言葉は完全に由比ヶ浜を責めているもので、明らかにこう言いたげな表情をしていた。

 

 

『知らない、なんて言い訳で許されるのかな?』

 

 

人がを1人殺しかけておいて。

俺を、比企谷八幡を、殺しかけていて。

あの日の夜、もしも雪ノ下が来ていなかったら俺は今頃———。

ゾッとしなくもない。というか、マジで怖かった。チビるかと思った。

が、しかし。

誰が悪いのか。それはただの客観的事実に過ぎない。

悪いのはあくまで———悪魔。

レイニーデヴィル。

「……忍野。俺は別に怒ってねぇんだが」

「君は優しいね」忍野は、にこりと笑った。「優しくて———イライラしてくるよ」

う、と息が詰まりそうになる。

違うと言いたくても何を反論すればいいのかわからず、結局何も言えないままで終わった。

過度な優しさは無責任だ。怒らないことは一見して良いことであるかのように語られるが、それは本物ではない。もっと別の、ちょっとしたことで崩れる偽物だ。

偽物。

『本物』なんかではない。

偽物というのは今の俺のことで、だからこそ何も言い返せない。ただ唯一、

「そんなんじゃありませんよ俺は。もっと———もっと、腐りまくってます」

とだけなんとか返して黙った。

忍野は俺の冗談を聞いて、『全て分かってる』とでも言いたげな笑みを浮かべた。心音が大きさを増す。ふわりと吹いた生暖かい風が気持ち悪くて仕方がなかった。

「はっはー、確かにそうかもね」

そう笑って、再び由比ヶ浜の方を向いた。それからじっと彼女の顔を見て黙る。次に何を発するか、見極めているかのように。いや、実際にその通りだったのだろう。由比ヶ浜の言葉をただ待った。

どうするべきか分かっている由比ヶ浜が。

それを言葉にできるまで待ち続けた。

しばらく経って深呼吸の音が聞こえた。そして。

「……ヒッキー」

由比ヶ浜は声を震わせながら俺を呼んだ。

「なんだ」

 

ゆっくり、ゆっくりと由比ヶ浜は言葉を紡いでいく。

 

「どうやったら———許してくれるかな」

「っ! だから俺は怒ってるわけじゃ」

「———違うの」

違う、とはつまり俺が怒っていないということは既に分かっているということで、なら本当の意味はどこにあるのか。答えは簡単だ。由比ヶ浜は今、自分が許せていない。

俺を傷つけたことも勿論だが、一番は恐らく猿の手に願ってしまったこと自体だ。軽い気持ちとはいえそれは願ってはいけないことだった、と自責の念を抱いている由比ヶ浜に「そんなことない」なんて無責任なことを俺は言えなかった。その場凌ぎにはなるかもしれないかったが、それが根本的な解決になるとは思えない。

 

願いはジーニーに告げてしまった時点で既に願いではない。

それは『意志』なのだ。

 

「こんな手、切っちゃえばいいかな」

「おい由比ヶ浜」

「ヒッキー……手伝ってくれないかな」

「由比ヶ浜ッ!」

ついあげてしまった怒鳴り声に自分でも驚く。俺はこれほど感情的な人間だっただろうか。一体いつからこうなってしまったのだろうか。

俺も、由比ヶ浜も。

「そうだよね。ヒッキーの手は煩わせられないや。ごめんね。自分でするのは流石に怖いから車にでも引っ張って貰えば———」

「だ、から、そうじゃなくて——!」

俺は再び怒鳴った。そうじゃなくて、何なのだろうか。自分でもよく分からなくなってしまっていた。

そして、俺は忍野に尋ねる。

「おい忍野。どうやったらこいつを退治できるんだ」

「はっはー、退治なんて、比企谷くんは元気がいいなぁ、何かいいことでもあったのかい?———ただまぁ、ひとつだけ方法がないこともない」

「! なんだよ、さっさと教えろよ」

「レイニーデヴィルは願いを叶える———例え持ち主の意に沿わぬ形だとしても、願いを叶える怪異なんだ。だから、それが叶えられないことをレイニーデヴィルに分からせればいい」

「願いが叶えられないことの、証明」

俺はその言葉を繰り返した。この場合の願いとは、『俺を殺すこと』。俺のことを殺せないと理解して諦めてもらう。なるほどたしかに理にかなっている。だがどうやって。

「どうって君。戦うほかにあるのかい?」

「いや、それだって結構物騒じゃねぇか」

それじゃ人のこと言えないだろ。

お前だよ良いことあったのは。

だけど———確かに、それしかない、とも思う。

レイニーデヴィルに格の違いを分からせてあげればいい。

吸血鬼と悪魔の差。それが一体どれほどのものなのか素人な俺にはさっぱり分からん。故に危険な賭けではあるが。

さて、どうする俺。

「ヒッキー」

……なんて、考えるフリなんてしても、結局結論は決まってるんだがな。

 

「やる」

 

その一言を聞いた忍野は、いつものように「はっはー」と笑い、「そうこなくっちゃね」と言った。

嫌な笑みだった。

 

時刻は今日の深夜十二時。

いよいよ、戦いが始まる。




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ちなみに

  • 前作から見てる。
  • 続から見てる。
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