やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続 作:角刈りツインテール
プラチナ受かっているといいね。
同日の午後12時。満月が煌々と照り輝く、怪しくも艶かしい雰囲気が漂う暗闇の中、俺と忍野メメは背中合わせで語り合っていた。
「貴重品は僕が持っといてあげるから安心しなよ」
「いや、勝手に触るなよ?」
「はっはー、信用されてないなぁ。君を吸血鬼から戻してあげたのは誰だと思っているんだい?」
忍野は傷ついた様子も見せず、飄々と笑ってみせた。先程、見ていてイライラすると言った相手に、である。この人は普通の生活を送っていたら、相当世渡り上手な人間なのだろうなと思った。まぁ、今だって各地の廃墟を点々としているという違う意味で世渡り上手ではあるが。
「早く日本でもベーシックインカムが導入されて欲しいもんだね」
「それには俺も同意だな」
「あぁ。雑草だけで空腹を満たす生活が終わると思うと実に感慨深いよ」
「同意しねぇよ!?」
そこまで命懸けではない。本当に何なんだその生活。今からしなけりゃならん戦いとどっこいどっこいじゃねぇか。違う。俺はただただ働きたくないだけだ。月7万円の支給だとすれば、千葉での生活は流石に困難だとしても、地方に移住すれば働かなくても余裕で生きていけるだろう。
①働かない。
②愛する千葉を離れる。
うわぁ、何その選択……選べるわけねぇだろこんちくしょう。
「…………面倒かけるな」
「いいよ」
パシ、とリュックを投げる。いとも容易く空中でキャッチをしたのを見たところ、それなりに運動能力は持ち合わせているらしい。なら貴方が戦ってくれればいいと思うんですが、何故傍観者を決める気満々なんですかね……。
あぁ、そうか、それでは駄目なのか。
俺が一人で戦って。
勝って。
それも、圧勝で完膚なきまでに叩き潰して勝つ。
そして、猿に格の差を理解させる——————それがこの勝負の目的だ。誰かが勝てばいいなんて容易な話ではない。故にこれは世界中で俺にしか出来ない仕事。極力仕事はしたくないものの、恋人のためなら仕方あるまい。自分がこんなキザな台詞を言うとは思っても見なかったが、彼女のためなら何でもできるとはこのことなんだなぁと始めて実感した。
だから——————俺が。
「行ってくる」
「あいよ」
♦︎♦︎♦︎
ヒュウ、と割れた窓ガラスの隙間から肌寒い風が吹き抜ける、とある教室。かなりの広さだ。恐らく集会か何かをしていた場所なのだろう。
が、今現在ここに小学生は——————人間はおらず。
「…………」
「…………」
ただ静かに、吸血鬼と悪魔が双方を睨んでいるのみだった。
レイニーデビル。
W・W・ジェイコブス短編に出てくる、持ち主の「意に添わない」形で願いを叶えるいわくつきのアイテム『猿の手』の怪異——————ではなく。
古くからヨーロッパに伝わる悪魔で、人の悪意や嫉妬などのネガティブな感情を引き出し、その願いを叶える低級悪魔である。家出した子供が雨の日に猿の群れに食い殺されたという伝承を起源に持つ。
その姿は、多くは雨合羽を着た猿で描かれる。
契約として、人の魂と引換に3つの願いを叶える。そして、3つの願いを叶え終えた時、その人間の生命と肉体と乗っ取ってしまう、というものである。
「なぁ」
最初に動いた——————言葉を発したのは、俺。
「今、
しかし俺の言葉に対する返答はなく——————悪魔は足を一歩前に向けた。
それが返事のようなものだった。
俺も応じて動く。
が。
いつの間にか猿は目の前に———
早———!
「…………っ!」
自分の身体の一部から大量のコウモリを生み出し、間一髪、猿の攻撃を防いだ。
人はそれを、比企谷シールドと呼ぶ。
当然ながらこれは、吸血鬼の物体生成能力の賜物。普段は搾りかすの名に相応しいショボい力しか発揮されないが、忍野忍に血を与えた場合のみ、共に吸血鬼性が向上するのだ。そして、応用すればこんなこともできる。
「悪い、由比ヶ浜!」
——————比企谷ブレード。
両腕から2本の黒い刃を生成。驚きなのか停止している猿に向かって、走り出し、そのまま切りつける。
由比ヶ浜は、悪魔は痛がる素振りを見せている。つまり今の攻撃がしっかり効いているということだ。このままならいける。勝てる。勝てる。勝てる。
そう、思っていた矢先。
「憎い」
ぽつり。
由比ヶ浜のものとは思えないどす黒い声が何かを呟いた。
「な、なんだ——————」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!」
「由比、ヶ浜……は!?」
ゾッとする隙もなく。
目の前。目と鼻の先。
フード姿の悪魔の眼光がこちらを睨んでいた。
コウモリを——————が、間に合わない。
俺は抵抗するまでもなく、いつの間にか土手っ腹に悪魔のキックを喰らっていたのだった。
ドン!と壁に打ち付けられ、コンクリートが綺麗な円形に凹む。余裕があったら「ヤムチャしやがって……」のようなボケをかますことができていたのかもしれないがそれも叶わない。敵わない。
「い…………てぇ……」
ゲホ、と2、3度咳。地面に血の色が染みた。
まさか、ここまで強いとは思っていなかった。普段の由比ヶ浜からは想像もつかない破壊力。内臓が潰れているかもしれない。腹部が痛い。明らかに、この前より強い。一体、何故なのか——————。
…………靴?
あの時は、恐らく、長靴。雨の悪魔なのだからそうだろうというただの憶測だが、少なくとも今とは違う。
今。
彼女の靴は。
まさか——————
「ヒールかよこんちくしょう……!」
そりゃあその靴で蹴られたら痛いに決まってんだろ馬鹿野郎!
わざわざ相手を強化してどうすんだ!
「憎い憎い憎い憎い憎い!!!!」
「ガハッ——————!」
起き上がる寸前、再びキックが俺を襲った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
立ち上がろうと、地面に手をつく。
ぐにょりと君の悪い感触。
視線を向ける。
自分の腸だった。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
悪魔が、それを鷲掴みし、引っ張る。
普通の人間なら腸は千切れて。
というか、十中八九死んでいただろうが、
吸血鬼の不死身は内臓にまで及んでいた。
千切れない。
なら必然、
身体は引っ張られることになる。
死にはしない。
が、
中途半端に吸血鬼化した俺は、
痛みを感じない境地にまでは、
未だ達していない。
というか、
めちゃくちゃ痛い。
お腹が。
耳が。
目が。
鼻が。
足が。
心が。
痛い。
痛い。
痛い。
痛々しい。
ぐるぐるぐるぐると、
メリーゴーランドのように回される。
酔いなんてそんな、
生やさしいものではなく、
今にも死に絶えてしまいそうな、
されど死ねない、
中途半端な、
この状況。
風圧で耳が聞こえない。
悪魔が何か怒鳴っている気もするし、
怒鳴っていない気もする。
ふわりとした気味の悪い感覚が続く。
これでは圧勝どころか。
ただの勝利でさえ、危うい。
どうする、どうする、どうする、と振り回されながらも思考を重ねる。が、貧血でそれもままならない。
もう無理かもしれねぇ——————そう諦めかけたその時。
「——————あら、二人して楽しそうね」
部外者の人影が、視界の片隅に見えた。
いや、部外者ではない。当事者とも言えよう。俺と由比ヶ浜と共に生きようとしている、奉仕部のメンバーの1人であり、俺の彼女。
「な、んで……」
それは俺の声だったか、由比ヶ浜の声だったか、不明だ。
だが一つ確かな事実がある。悪魔は遠心力で加速した僕の腸から、驚きのあまり突如手を離してしまったのである。
…………え、嘘ですよね?
『憎い』、流石に多すぎましたね。反省。
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ちなみに
-
前作から見てる。
-
続から見てる。