やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。続 作:角刈りツインテール
そんな感じの第六話、よろしくお願いします!!
温泉街。
それは即ち観光客が多いことを指す。加えてそれは彼らを狙った土産屋が多いことを指す。京都では特にそれが顕著に現れており、四方八方に土産屋が聳え立っていた。
「人が多い。帰る」
「ちょ、ヒッキー冗談だよね!?」由比ヶ浜が言う。
「これが冗談に見えるか?」
「?見えるけど……え、うそ本気なの?」
「冗談だ」
ぽかぽかと肩を叩かれた。全く痛くないし肩たたきにすらならないレベルだった。つーか可愛いなおい。
さて、昼に京都に着いてから時刻は午後3時を過ぎていた。ピークは過ぎたとはいえまだ暑さは続いている。どこかでソフトクリームでも食べたい気分だ、と思っていた矢先。
「あ!ねぇねぇソフトクリームあるよ!うわぁ黒糖味……絶対美味しい……」
ちょうど目の前に販売している店があった。なんて偶然。いや、運命か。どちらにせよ、これは食べないわけにはいくまい。帰ったら小町にでも自慢しよう。
「じゃ、折角だし食うか」
「そうね」雪ノ下も素直に頷いた。「あぁでも……悪いけれど先にトイレに行かせてもらってもいいかしら」
「あ、じゃあ私も〜ごめんヒッキー3人分買っておいて!」
「は!?おいちょっと待っ……」
俺も行きたい、と言おうとしたが既に両者とも消えてしまっていた。全く、どうすんだ、大丈夫か俺。ワックの注文でさえキョドってしまうというのにソフトクリームなんて買えるのだろうか…いつもは小町に頼んでるからなぁ。
「マジで俺小町無しで生きていけないんじゃねぇのか」
値段を確認し、列に並ぶ前に財布の中身を取り出そうとしたその時———
「———?」
爆音。
続いて。
「はぁっ!?」
ドーン、となにかが勢いよく衝突してきた。俺もその巻き添えを喰らい吹き飛ぶ。
「え———」
ちょっと待て。
何、これ。
怪異か?
死ぬのか俺。
そう思ってしまうほどの衝撃だった。
今のは比喩でなく軽トラックのそれだ。
現に俺は今頭の後ろから血が出ており———つまるところ、俺が吸血鬼じゃなかったら死んでいたかもしれない。
一体何者だ———と立ち上がりながら投げた人物を確認しようとするもそれは叶わなかった。
なぜか。
「あの……大丈夫ですか」
何とびっくり、飛んできたその物体は人間だったのだ。
いや、なんでだよ。
そんでどうしてこんな大事に限って場面で人影がなくなるんだ。
「あ…はい、大丈夫で」
「あ!おーい!いーたん大丈夫かー!」
俺の言葉を遮る、快活な女性の声が聞こえてきたため目線をそちらへ移す。そして俺は再び仰天する羽目となるのだがこればかりは仕方ないと思う。この男を投球したであろう人物が女性で———しかも全身真っ赤だったらそら驚くだろ。いやまじで全身赤い…服はまだしも髪まで赤いって…京都の街並みとアンマッチすぎる。高い看板みたいに条例で出歩くの禁止されねぇのかな。
「わりぃなうちのいーたんが迷惑かけたみたいで!」
「いや、それは貴方が投げたのが悪いでしょう」
「るっせーな、私の名前を苗字で呼んだんだからこれくらい当然だろ」
「何時代の人間なんですか……それよりも急ぎましょうよ哀か…潤さん。約束の時間に遅れます」
「ん?あぁそういやそうだったな。約束なんてすっかり忘れてたぜ」
「戯言ですよね?」
「どうだろうな。つーわけで少年、色々悪かった!お詫びと言っちゃなんだが名刺やるから困ったときはいつでも連絡してくれ!じゃ!」
「あ……うっす……」
「えぇ、では」
そう言ってお辞儀した少年。一見してみると礼儀正しいように見えるが違う。108のスキルを持つ俺にはわかる。
彼の目は俺以上に腐っていて。
まるで感情のないような。
人生を諦めているような、そんな———
———なんて意味のない考察をしている間に彼らは消えていた。
「まじで何もないんですね…はぁ、ただの日常パートかよ」
嵐のような人だ、と思いながら名刺を見る。
「哀川潤…………請負人?」
そこに書かれた文字を声に出して読み上げ、困惑する。なんだよ請負人って。奉仕部ばりに聞かない名前だぞ…いや、さっきのは本当に何だったんだろうか。怪異というにはあまりに生き生きとしていたし問題はないはずだが。いや、ある意味問題といえば問題なのか…。
とりあえず俺から言えることはただひとつ。
「お待たせ〜……あれ、ソフトは?」
「あ」俺はつい目線を逸らす。「えっとですね、それはあれがあれでして…あの、お二人とも、落ち着いて?」
「……比企谷くん?」
テメェらまじで許さねぇからな。
♦︎♦︎♦︎
「おいひ〜!」
「やっぱりただで食べるものは美味しいわね」
「それには同感なんだけどな……」
あのあと、罰として3人分奢らされた。最悪だよほんと。請負人だかなんだか知らんがだったら俺のソフトクリーム代くらい請け負ってくれよ…どうせ金持ちなんだろ。
今回の俺、損しかしてないぞ。
「いや、なんかごめんね?お金今更だけど返そうか?」
「別にいい。未来への投資だと思えばギリ大丈夫」
「ギリなんだ」
「まぁ、それも比企谷くんらしいといえばらしいのだけれどね」
「そうそう!この前もさぁ……」
仲睦まじいその姿にこれは思わずほっこりしてしまった。この笑顔が見れる限り日本は平和なのかもしれなかった。リコリスの皆様、どうか頑張ってください。
「……ん、どったの?」
田舎のおじいちゃんのような俺の目線に気がついたのか、不思議そうに尋ねる由比ヶ浜。
俺は「なんでもねぇ」と返して「ほらさっさと決めるぞ」と言った。
我々は今、土産屋の前でストラップを見ている。
キューピーや京都のゆるキャラだと思われるヒヨコ?などご当地のさまざまなストラップが並んでおり…あれ、なんでくまモンのストラップが……?お馴染みの何故お土産店にあるのか分からない厨二臭満載の剣とドラゴンのストラップもある……これほんとどこにでもあるな。ということはある程度の売り上げは維持できているということなのだろうか。おいおい、日本大丈夫か。
「私これにする!」
由比ヶ浜が手に取ったのはネット民に馴染みの深い、所謂『しょぼん』のストラップだった。まぁ猫だし可愛いんだけどな。猫といえば……。
「…………っ!」キラキラした目でそのストラップを眺めている雪ノ下が俺の横にはいた。でしょうね、猫だもんね。
「なぁ折角だからおソロにしようぜ。ほいこれ」
「プライドが許さなかったのか最後まで手を伸ばそうとしなかった雪ノ下に、俺はしょぼんのストラップを手渡す。
「珍しいね、ヒッキーがお揃いにしようだなんて……」
「珍しいっていうか、したことないっていうか……」
「可哀想ね。まぁかく言う私も初めてなのだけれど。だから嬉しいわ」
ありがとう、と雪ノ下。その一言で、彼女の今まで罵声を全て許せたような気がした。
「……ほ、ほら、早く会計するぞ」
気恥ずかしさを誤魔化したくて俺はレジへ急いだ。
後ろから女性陣のクスクス笑いを聞くのは、修学旅行ではこれが2度目だ。
♦︎♦︎♦︎
残り時間もあと30分となったところで俺たちは特に用事もなくあたりの雰囲気を楽しみながら散歩に興じていた。時間を無駄遣いしていると言われそうだがこれもなかなか悪くない。古都の名前は伊達ではなく、至る所に昔の日本を感じられてかなり面白い。少なくとも歩きスマホしている陽キャグループよりかはこの旅行を楽しんでいる自信があった。この俺が楽しめるなんて予想だにしていなかったので驚きである。
散歩を続けてかれこれ10分。さてそろそろバスへ向かおうかとなったそのとき、由比ヶ浜が何かに惹かれて立ち止まった。
「へぇ〜何これすごい可愛いじゃん!」
彼女が立ち止まったのは古い骨董品店。趣がありすぎて逆に怪しささえ感じてしまうその建物のなかから由比ヶ浜はあるものを見つけ出した。
「猿の……手?」
そう、名札に書かれていた。加えて、『それに願い事をすると願いが叶う』と。
「うさんくさ……」誰にも聞こえないように呟いた瞬間、横から「胡散臭いわね」と通常音声の声。ちょっと雪ノ下さん?空気読みましょう?
「いや、でも1000円だし、これ可愛くない!?」
可愛い……か?いや、少なくとも俺の中ではしわくちゃの腕の模型を可愛いとは言わないのだが、と雪ノ下へのアイコンタクトを試みると同感よ、と帰ってきた。あらやだ以心伝心。
「ま、別に財布に支障もないんだしいいんじゃねぇの?買うなら早く買ってこいよ」
「うん、そうする!」
たたた、と店の奥へ向かった。
「「はぁ……」」
「「あ」」
「……はっ」「……ふふ」
似ていると最初に雪ノ下に出会った時にそう感じたのだが、どうやらそれは間違っていなかったらしい。それは付き合い始めてから顕著に現れてきており、そのたびに恥ずかしくなる。
同時に、由比ヶ浜のあの予言も正しかったのかもしれないと思い返す。
———ゆきのんとヒッキーはいつか必ず付き合う。
俺が吸血鬼になってなかったとしても、別の道を辿って雪ノ下とともに歩む結末に行きついていたのかもしれない。まぁ今の関係はそれより随分と歪なものだが悪くはない。つーか、むしろいいと思う。
誰も不幸にならずに生きることの何が悪いんだ。
俺はそう思う。
否———そう、思っていた。
京都ということで戯言シリーズよりいーちゃんと哀川潤を出してみました。多分物語にはなんの影響もないのでわざわざ調べてもらわなくても大丈夫です。
ちなみに
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前作から見てる。
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続から見てる。