小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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絶対千空は大樹と杠にクソデカ感情持ってる。
はよ結婚しろって思ってるし、二人の子どもが生まれたら親差し置いて親バカ(叔父バカ?)になるタイプ。
(個人の見解です)


捕捉

 ──作成したカメラによる航空写真と、コハクとスイカの活躍により、ついに相良油田が発見された後。

 既に作成してあったモーターボートでオイルテストしようと、油田から汲み上げたものを給油していた時、通りがかりの大樹が鼻をひくつかせながら言った。

「なんだ惚れ薬か! 好きな子でもできたのか、千空ーーー!?」

(???)

 この幼馴染みの頓珍漢な言動には慣れている千空だが、あまりにも自分から縁遠いワードをぶっ込まれ、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

 しかし、その疑問はすぐに、大樹が続けた言葉で氷解した。

「あの日、科学室で作ってくれたじゃないか! 杠に告白する俺の勇気のために。俺達が石化したあの日、最後の時に──」

(──ああ、そうだった)

 今いる日常(せかい)が崩壊するなど、夢にも思っていなかった、あの日──この幼馴染みに投げた、くだらない冗談。

 連鎖のように、あの場にいた科学部の仲間が脳裏に浮かんで──千空はごまかすように、わざとらしく声を上げて笑った。

「言った!! 言った、テメーに惚れ薬って! まだ信じてやがったのか雑頭、ガソリンだ、ありゃ」

「なにーーー? そうだったのか!」

 本気で驚いた顔をする幼馴染みの変わらなさに、その安定感に、安堵する。

(……こいつが、こいつと杠がいなきゃ、俺はきっと、どっかで()()()た)

 いつだって笑顔で、「千空なら」「千空くんだから」と絶対の信頼を向けてくれる親友たちを、もしも、この石の世界(ストーン・ワールド)で見つけられないままだったら。

 どこかで、もう無理だと、出来ないと、疲れて、諦めて──百夜が遺してくれた科学土産すら見つけられ(出会え)ないまま、きっと自分は()()()いた。

(……あー、やめやめ。柄でもねぇ。こんな()()()()()()は、脳の無駄遣いだ)

 内心の感傷を振り切るように、千空は不敵な声音で告げる。

「先入観(ゼロ)のテメーが、同じ臭いっつってんなら、間違いねぇ。相良油田様も、あの日ペットボトルキャップから作ったのと同じ、炭素数5~12、超高品質のガソリンだ……!!」

 フゥンと興味深げに呟いた龍水が、

「つまり千空、貴様が最後に作った、旧世界で最後の科学は、ガソリンだった──新世界で俺達はついに今、そこに追いついたというわけだ」

 千空以上に不敵な顔で笑って、断言する。

「そして、ここからは追い抜いて行く!!──はっはー! そのガソリンでついに飛び出すぞ、日本を。人類未踏の新世界へ! 大海原へ!! 科学の船でな……!!!」

 

 ──そうして、飛び出した大海原で、捕捉され()たのだ。

 

 人工衛星に代わり地上の灯台から流した、強力電波。それに乗ったルリの声が、かき消される。

 明らかに意図的に、自分たちの使う周波数に被せて発せられた、膨大な電波に。

「……ま、まさか、Dr.X……!?」

 ゲンが震える声で呟けば、羽京とクロムの顔が強ばった。しかし──

「──違う」

 耳障りなノイズ音が、一定のリズムで、執拗に繰り返される。

 短音と長音で構成されるモールス信号。三文字のアルファベット。

 

 ──“WHY(何故だ)

 

(──Dr.Xが、復活者が、この状況で問うなら、“誰か(Who)”だ。“何故(Why)”じゃねぇ)

 “何故(Why)”もクソもない。電波の向こうの誰かも、自分と同じように起きたのだと、復活者ならすぐにわかる。同じように電波技術を取り戻した身なら、やはりそれについて問うまでもない。

 つまり、このモールスの送り主は──3700年前に石化し、今になってそれを破った復活者では、ないのだ。

(なら──何者だ?)

 それこそ愚問だった。──そんなこと、そんなもの、決まっている。

 口の端を吊り上げながら、千空は通信機のマイクを手に取った。

「──よぅ、テメーか? 人類石化の黒幕は」

 歯を剥き出し、嗤いながら、語りかける。

「ようやく会えたな──」

 胸を焦がす激情を、吐き出すように。

 

「待ちくたびれたぜ、3700年──唆るじゃねぇか……!!!」

 

 ──科学の世界に神は留守だ。

 だが、もしも、どこかに神がいるなら──地獄が、あるなら。

 人類石化の黒幕は──3700年という時の暴虐で、父と自分を、永久に隔てたその元凶は、

(──必ず、地獄(そこ)にブチ込んでやる)

 この掴んだ糸を放さなければ、いずれそこに堕ちる己ごと、きっと引きずり込める──

 

 ──などと、まあ、一瞬は、そんな仄暗い感情に囚われたものの。

『──……ロム!? 千空!?』

 千空の言葉に応えるでもなく、そのままぶっちりとモールス信号が切れ、代わりに通信機からルリの声が聞こえた瞬間、千空の意識は速攻で“次”にすべきことに移った。

「──あ゛ー、電波飽和が消えて、灯台からの電波が入ったか。……こっちは無事だ、ルリ。ちぃーっと予想外のことが起きて通信が切れたが、全員かすり傷一つ負ってねぇよ。船も無事だ。今からそっちに戻る」

『ああ……よかった……! お帰りをお待ちしていますね』

 千空の返答に、ルリの声が安堵したものになった。

「おい、ソナーマン、呆けてねぇで仕事しろ。GPS使えるうちに帰んぞ」

 まずは地上灯台によるGPSが使えるうちに、陸に戻らねばならない。千空の言葉に、フリーズしていた羽京が再起動した。

「──あっ、ご、ごめん!」

 慌ててアンテナをかざし直すソナーマン。龍水も操舵の方に意識を切り替えたようだった。

 しかし、ゲンとクロムは何とも言えない表情で、

「……千空ちゃん……ついさっきまで悪鬼の形相だったのに……」

「いや、(ワリ)ー顔は、わりといつものことだけどよ……切り替えクソはえーな、千空」

 千空はさすがに気まずい心地で、自分の顔を撫でる。──悪鬼とまで言われるほどの表情(カオ)をしていたか。

「──キレる相手が引っ込んじまったんだから、キレ続けるだけエネルギーの無駄だろ。んなことにリソースが割くくれーなら、今やるべきこと考える方が合理的だわ」

 負の感情に拘泥するのは、時間とエネルギーの無駄だ。紛うことなき千空の本音だったが、クロムは口をへの字に曲げて首を捻った。

「……エネルギーの無駄って言やぁそうかもしれねーけどよ……感情ってそんな電気のスイッチみたいにオン・オフできるかぁ?」

「う~ん、千空ちゃん、ジーマーでバイヤーね~」

 ゲンにいたっては、口調こそおどけているが、目はこっちの一挙一動を鋭く観察している──メンタリストモードだ、これは。

「別に無理して抑えてる訳じゃねぇよ、マジにな」

 苦笑して告げる千空を、ゲンはしばしじっと見つめていたが──やがて、諦めたように肩をすくめた。

「キレて周りにあたり散らかさないのはいいことだけど、それで溜め込んである日突然暴発するのは、もっと迷惑だからね? ジーマーで無理だけはしないでよ、千空ちゃん」

「……だーかーらー、してねぇっつってんだろ……」

 なお念を押す心配性のメンタリストに、最後には呆れた心地で、千空は溜息のような声音を返した。

 

  * * *

 

 ──膨大な電波による、謎の存在からの、謎のメッセージ。

 その報せに、誰もがざわついたが、

「悩んでても分からんからな! 千空たちに任せて、俺達はやれることをやるぞ。さあ仕事だー!!」

 こんな時でも、大樹は、名の通り安定感がすごいな──と、ゴーザンは思った。

 フランソワとコハクも肯く。

「心より同意いたします、大樹様」

「うむ、船頭多くして船山に登る。対処は中の会議の連中に任せるべきだ。実際の現場に立ち会った──」

 コハクは、“科学王国戦略会議室”の看板がかかった部屋へ視線をやりながら、続けた。

「おそらくは、科学王国で最も切れ者の、五知将に……!!!」

(──五知将……!? 何それカッコいい……!)

 ゴーザンが感動したのもつかの間、コハクは秒で眉を寄せ、

「いや、クロムは──微妙なとこか。頭はいいが、性格的にチョロいからな」

「──チョロくねーよ!!」

 聞こえていたらしく、会議室から首を出して叫ぶクロム。

「そういうとこだぞ」

 コハクの一言に、ゴーザンも思わず内心で頷いてしまった。

 

 ──しかし、それからそう間もなく、クロムは面目躍如の超絶グッジョブをぶちかます。

 

 “ホワイマン”と命名された電波の送り主の居場所を探るため、千空により作成されたレーダー。

 クロムはそれを金属探知機として応用運用し、鉄鉱石ザックザクの鉱山を、一人で発見してきたのだ。

(……クロムさんは、俺が“チョロい”とか思っていい相手じゃなかった……)

 いや、実際大分チョロいんだけど、それ以上に、“デキる男”すぎる。──思い返せば、最初の水車もクロム主導で作成されたのだ。

(……でも、性格のチョロさと、科学者──発明家? としての有能さのギャップが、逆に心配になる……)

 なんか変な人に騙されて、いいようにその才能を利用されそうでコワい──と、一瞬思ったが。

(いや、そんなヤツはそもそも、クロムさんに近づけもしないわな)

 クロム以外の五知将は皆、何だかんだクロムに甘い。多分、変な思惑でクロムに近寄ったが最後、その相手は破滅する。よってクロムが変な人に騙される心配は要らない。

 その結論に安心して、ゴーザンは自身の仕事──鉄鉱の採掘に集中することにした。

 

 ──石油と鉄鉱を得て、加速度的に復興していく文明。

 一度は頓挫したかに見えた造船も、龍水作の1/48スケール模型船と、千空作のパンダグラフ拡大器(+ゴリラチームのパワー)によって、再び進行し出した。

 しかし、大自然の摂理によって、強制的な“一回休み”が挟まれる。

 ──ゴーザンにとって、この石の世界(ストーン・ワールド)で迎える、二度目の冬が来た。




世界線変動:モーターボードで電波飽和受けた時、真っ先にDr.Xが疑われる。濡れ衣。

マンガの、ホワイマンに啖呵切ったときの、あの千空の表情、圧巻ですよね……
っていうか、ドクストは常に表情の描き方が巧い。Boichi先生の画力、しゅごい(溶けた語彙)
原作の稲垣理一郎先生もヤベーけど。どうやったら、こんな神なキャラたち生み出して、あんなトンデモないのに説得力のあるストーリーが編めるんだ。頭おかしいんじゃないのか(ホメ言葉です)
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