小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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コハクと司が仲良くしてるけど、筆者にカップリングの意図は特にないです。
というか、このシリーズで恋愛描写書く可能性があるのは、公式な大杠とクロルリくらいです。千←ルナは、まだわからない。遠すぎ。
筆者は関西弁わからない民なので、未来の口調がおかしかった場合、有識者の皆様におかれましては、誤字修正機能とかで指摘してくだしあ。


指導

 コハクにとって“冬”とは、長らく恐ろしいものだった。

 寒さとそれに伴う飢えで、容赦なく村の仲間を奪っていく季節。長く病と闘っている姉も、今度こそは連れて行かれてしまうのではないかと、冬が来る度に怯えていた。

 コハクのそんな認識を、村に来て最初の冬で、千空はしれっと覆してしまったが。

 姉の病は、千空の知恵と皆の努力から生み出された万能薬で、既に完治していた。

 更に千空は、飢えと寒さから人を守る科学を、村に齎した。秋の食料を春まで保存できるガラスの瓶詰め。各家に備え付けられた暖かなストーブ。

 凍える心配もない暖かな部屋に皆で集まり、いつ糧食が尽きるかと怯えもせず一緒に食事をとれる。そんな優しい冬を、コハクは想像したことさえなかったのに。千空はそれを当然のように現実とした。

 冬が過ぎて雪が溶ければ、司帝国との戦が始まるという状況も相俟って、銀狼が「もういっそ春が来なきゃいいのに」とまで言ったほどだった(「いや、それはいつか保存食が尽きて詰むぞ」と千空にツッコまれていたが)。

 だから、コハクは、また巡ってきた冬を、もう恐れることはなかった。ただ、造船などの作業を否応なく中断させてしまう、降り積もる雪を、忌々しくは思い──

 けれど、その忌々しい雪も、千空の科学の前では素晴らしいものになるのだと、コハクはまた新たに知った。

「──めっぽう楽しいな! このスノーボードとやらは!!」

 板の上に乗って、雪の上を滑る──言葉にしてしまえば下らないことのように聞こえるのに、実際にやってみると、とてつもなく面白い。

 既に千空の知恵により生み出されていたカーボン。めっぽう軽いのに、耐久性もめっぽう高い、素晴らしい素材。それで作られたスノーボードとやらは、人が乗ってもビクともせず、雪に沈むことなくよく滑る。

 雪の上を自由自在に素早く移動できる、この爽快感たるや。コハクはもはや、スノーボードの虜だった。

「コハク、すごいんだよ! もうスノーボードを乗りこなしてるんだよ!」

 下まで滑りきったところで、可愛い妹分のスイカに褒められ、コハクはますます上機嫌になる。

「おお、スイカ! これはめっぽう楽しいぞ!──スイカは、スノーボードではなく、スキーを選んだのか」

 スイカは、幅広の板一枚で出来るスノーボードではなく、両足に細長い板をつけ、両手にストックというらしい棒を持つ、スキーセットを身につけていた。

「司が、未来とお揃いにって、買ってくれたんだよ」

 少し申し訳なさそうなスイカに対し、

「兄さん、ほんまおおきに! スイカちゃんとお揃い、めっちゃ嬉しい!」

「スイカには、いつも未来と仲良くしてもらっているから、そのお礼だよ」

 スイカの隣に並んだ未来と、二人の後ろに控えた司が、そう声をかける。二人も、スイカと同じくスキー装備姿だ。

「ストックを櫂とも杖とも使える分、スキーの方がスノーボードよりも安全そうだ。さすがの判断だな、司」

「──うん。未来やスイカに、怪我はして欲しくないからね」

 コハクの言葉に、はにかんだ様子で微笑する司。

(この男と、こんな風に笑い会う日が来るとな)

 しみじみと、そんな風に思う。

 初めて見た“場面”が非道かった上、恩人であり、後には長にもなった千空の命を付け狙う悪漢だと、コハクの中での司の印象は、長らく最悪だった。平気で村に放火してくる氷月を右腕と頼んでいるあたりも、それに拍車をかけていた。

 しかし、停戦を経ての和平後、その悪印象は覆った。──司の暴挙が、『最愛の妹を永遠に喪った』という絶望の裏返しだったと、知れたことで。

 石化前の世界で『治る見込みのないきょうだい』を、それでも諦められずに足掻いていた司は、かつてのコハクそのものだった。

 その()()()()()をついに“喪った”と、そう思い至ってしまった時の、彼の絶望の深さも、まざまざと思い描けてしまって──そうなってしまえば、コハクが彼を悪く思い続けることは、もう不可能だった。

 そして、司について知るほどに、印象はよくなっていった。真摯で物腰の柔らかい言動。自ら手に掛けた石像について、一つ残らず覚えていた責任感。その修復に尽力する姿。氷月とほむらの放火については、そもそも指示どころか把握もしてなかったという事実──

(いや、最後の一点に関しては、長として、大分問題だと思うがな)

 つくづく、司は頼む相手を間違えていたとしか言いようがない。氷月は、彼が思うよりずっと毒気の強い男だった。

 その氷月も、千空と条件付き同盟を結んでからは、一切不穏な行動はとらなくなったが。今では、金狼相手に槍の稽古をつけるほどにまで、毒気が抜けている。

(司は、戦士たちの将であって、統治者ではなかったのかもしれないな)

 武力でもって頂点に君臨する司の姿は、おそらく、氷月のような優れた武人ほど、野心を掻き立てられるものだったのだろう。──武でもってあの男さえ下せば、自分がそこに立てる、と。

(そういう意味で、氷月にとって千空は、とても取って代われる相手ではない)

 千空の統治は、彼の持つ叡智を芯にしたものだ。石化前の世界で築かれたという、人類200万年の叡智。それをそっくり修めたかのような、その頭脳。

 武でもって下すことは容易くとも、そうしてしまえば、もはや彼の持つ叡智の恩恵には賜れなくなる。その事実が、千空を守っている。

 氷月に限った話ではない。あのマグマさえ、千空の有用さを認めて、排除という手段を選ばなくなったのだ。

 ──しかし、だからこそ、誰にも代われない千空にかかる負担は、とてつもない。

(──だからこそ、クロムには、もっとしっかりして欲しいのだが)

 残念なことに、石神村の生まれで、頭脳面で千空の助けになれそうなのは、クロムくらいしかいない。彼には、千空の持つ知識を少しでも多く引き継いで貰い、千空の負担を少しでも減らしてもらわねば。

 と、千空に教わる立場のクロムを思い、連鎖で千空の師であるというDr.Xのことが、コハクの脳裏に浮かんだ。

(──千空の負担を減らせそうな一番の知恵者が、千空の頭を悩ます原因と化しているのだから、とんでもない皮肉だな……)

 けれど、そんな問題のある人間に師事した千空が、その同類にならなかったことは、きっと全人類にとって僥倖だった。もしも千空が、千空の師の思想をそのまま受け継いでいたら──正直、想像もしたくない。

(──『人間の強みは多様性』……その通りだな、千空)

 千空が、そう言ってくれる人間だったから、コハクと司がこんな風に話せて、スイカと未来がはしゃげるような“今”があるのだ。

「──コハク? どうかしたんだよ?」

 スイカに声をかけられて、物思いに沈んでいたコハクは、はっと我に返った。

「いや、何でもないぞ、スイカ。──司は、スキーの経験はあるのか?」

「うん。行ったのは一度だけだったけど、それで、それなりに滑れるようにはなったよ」

 この男の“それなり”は、おそらくは“完璧”に近い。

「では、スイカと未来のついでに、私にも教えてくれないか?」

「構わないけど……道具は? 今から買ってくるのかい?」

「いや、スキーの道具も、スノーボードと一緒に買ってあるのだ。ただ、板の上に乗ればいいだけのスノーボードと違って、スキーは板に足を固定するのが手間に思えてな」

「うん……コハクらしいと言えば、らしいね……」

 ──司先生のスキー教室のおかげで、コハクはもちろん、スイカと未来も、この日のうちにそれなりに滑れるようになった。

 

  * * *

 

「──ゴ~ザン~~~!」

「今度はどうしたんスか? 銀狼さん」

 半泣きになって寄ってくる銀狼に、ゴーザンは首を傾げた。

 何故だか銀狼は、しょっちゅうゴーザンに泣きついてくる。金狼やコハクに怒られた時とかに。

 泣きつかれても、ゴーザンには「謝れば許してもらえるっスよ」とか「それはあっちも悪いっスね」とか、毎度雑なフォローしか出来ないのに、それでも銀狼はまた来るのだ。不思議である。

「金狼がさぁ! 氷月に槍習うって言い出したんだよぅ! ゴーザンも止めてよぉ!」

「──へぁっ!?」

 いつもと違う流れに、ゴーザンの口から変な声が出た。

「……え、金狼さんが、氷月に、槍を習う???」

 いや、それ、反対するようなこと?──と、ゴーザンは思ったのだが。

「ね! 驚くよね、ゴーザンも! だって、金狼、アイツに一度刺されてるのに!!」

 顔をくしゃくしゃにした銀狼の気持ちを、その言葉で察して、何も言えなくなった。

「金狼、下手したら死んじゃうとこだったのに!! 信じらんない! 何で氷月なんだよぅ!」

「あー……」

 ゴーザンは気まずく頭をかきながら、

「あのですね、一応、俺もその襲撃の時、氷月側だったんスけど……?」

「ゴーザンはいいのッ! 金狼にやられた側だし、その次の時、氷月のことぶっ飛ばして、ほむらのこと教えてくれたしッ!」

 わかりやすいようなよくわからないような銀狼ジャッジである。

 ──多分、銀狼だって、今更また氷月が金狼を害するなんてことはないと、頭ではわかっているはずなのだ。

 それでも、金狼と氷月が槍を向け合う姿を想像すると、どうしてもイヤな記憶が蘇って、不安になるのだろう。一種のトラウマだ。

 そんな銀狼の気持ちはわかるのだが──しかし、やる気になってる金狼を止めるなど、ゴーザンにはどうやって無理だ。

 だとすると、ここは何とか、銀狼の方に納得してもらうしかない。

「──あー……じゃあ、怪我させたお詫び、って思うようにしたらどうです?」

「……んん?」

 考え考え紡いだゴーザンの言葉に、銀狼は首を捻った。

「あの襲撃で、氷月は金狼さんに怪我させた。だから、そのお詫びに、氷月は自身の技術を金狼さんに譲る。そういう風に考えたら、どうっスか?」

 アスリートにとって、技術は一種の財産だ。それを慰謝料の代わりにもらうのだと考えたらどうか。

「金狼さんが強くなったら、もう氷月にだって刺されないっスよ」

 ぶっちゃけ、状況は何一つ変わっていないのだけれど、何とかそう考えることで、折り合いをつけてはもらえないだろうか。

「──そっ、かぁ……」

 しばしして、銀狼は呟き──そして、大げさな仕草で頷いた。

「そうだよね、怪我させたんだから、お詫びしてもらわないと! 稽古はそのお詫び! そういうもの!!」

 自分に言い聞かせるようにそう声を上げてから、銀狼は身を翻す。

「──金狼に、仕方ないから許してあげるって、行ってくる!」

 何とかなってよかった──来た時と同じように唐突に去っていく銀狼を見送りながら、ゴーザンはほっと安堵の息を吐いた。




世界線変動:司が未来ちゃんとウィンタースポーツしてる。氷月が金狼に槍を教え出す。

銀狼がゴーザンに泣きつくのは、ゴーザンは自分を雑に扱わない、下に見ないと、肌で察しているからです。
アニメ知識で硫酸採取回の銀狼の活躍をしっているゴーザンにとって、どんなに普段が情けなかろうと、銀狼を“ナメて見る”なんてことはできない。そういうことなのです。
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