小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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原作で流された写真のシーンを掘り下げようかな~って思ったけど、何かうまく膨らませられなかったので、ばっさり切りました。


決意

 スイカの世界は、千空と出会ったことで()()()()()変わった。

 千空がくれた科学の眼は、どうしようもないものだと思っていたボヤボヤ病から、スイカを救ってくれた。

 それだけじゃない。千空と出会ってからのスイカの世界は、スゴいモノと素敵なコトで、いっぱいだ。

 ラーメン、電気、病を倒せる薬、わたあめ、水車、恐くない冬、クリスマス、誕生日のお祝い、望遠鏡、ケータイ、レコード、自動車、気球、パン、写真、フランソワの料理、スキー、チョコレート、学校、冷凍庫、水着──他にも、あげきれないほど、たくさん、たくさん。

 千空は「俺だけの手柄じゃねぇわ」って絶対言うけれど、スイカはちゃんと知っている。たしかに千空だけの力じゃないかも知れないけど、千空がいなかったら、このうちのどれ一つにだって、スイカは一生出会えなかったのだ。

 だから、スイカは千空のお役に立ちたい。他の人のお役に立つのだって、もちろんうれしいことだけれど、スイカが一番にしたいのは、千空のお手伝いなのだ。

 だから、スイカは、どうしても完成した大型船──ペルセウスに乗りたかった。そして、千空のお手伝いが、したかった。

 けれど、悪い人との戦いになるなら、小さいスイカでは、きっとお役に立てない。だから、きっと船には乗せてもらえないし、こっそり乗っていってついて行っても、足手まといになってしまう。

 そう、思っていたのだが──

「──最初の航海は、俺は陸に残るよ」

 船の完成が間近になった頃、船が出来たら兄が乗っていってしまうと、こっそり寂しがっていた未来。そんな彼女を安心させるように、司がそう言った。

「え? 司、船に乗らないんだよ!?」

「……アメリカに、もしかしたら、悪い人もおんねんやろ? 兄さん、千空さんのこと、守るて約束してたやん」

 目を見開くスイカと未来に、司は小さく笑って、

「慣らしもせず、いきなり地球の裏へ出発するほど、千空も龍水も無謀じゃないよ。テストも兼ねた最初の航海は、ここからそう遠くない島への、宝探しだって」

「──宝探し!?」

 なんてわくわくする響き。スイカは、未来と一緒に思わず目を輝かせてしまった。

「うん。千空のお父さんたちが宇宙から戻ってきた後、暮らした島らしいんだ。百物語によれば、そこに、千空のために遺された宝箱があるんだって」

「なんやて……!?」

「うわぁ、きっとすっごいお宝なんだよ!」

「ああ、間違いあらへんね!」

 スイカは未来と手を取り合い、ひとしきりはしゃいで──ふっと気づいたのだ。

(──捜し物なら、きっとスイカもお役に立てるんだよ!)

 スイカの“名探偵”っぷりは、千空にも認められている。それなら、それだったら──

(スイカは、千空のお役に立つんだよ!!)

 絶対に、絶対に、千空と一緒に船に乗る──そう、スイカは決意したのだ。

 

  * * *

 

「ゴーザン。君には、俺と一緒に陸へ残って欲しいんだ」

「──はい?」

 思いも寄らない相手から、思いも寄らない言葉をかけられて、ゴーザンは目を丸くした。

「ああ、うん。もちろん、千空に話は通してあるよ、俺の独断じゃない」

 司はそう言い添えるけれど、そうじゃない、そこじゃない。

「いや、そこは疑ってないっスよ。そうじゃなくて、『陸に残る』? 司さん、船乗らないんスか?」

「うん。次の本番はともかく、今回はね」

 目を剥くゴーザンに、司はさっくり事情を説明してくれた。

(ああ……最初の航海は近場でテスト……そりゃそうだ……)

 頭のいい千空たちが、いきなりぶっつけ本番で地球半周なんて馬鹿なマネ、する訳がなかった。

「けど、だとしても、何で司さんが残るんスか? 最大戦力じゃねーっスか」

「──最大戦力()()()、だね」

 ゴーザンの言葉に、司は憂いるように瞼をふせる。

「……ちょっと、不穏な老人どもが、いるだろう?」

「……あぁ……」

 司が言う“不穏な老人ども”にすぐに思い至ってしまって、ゴーザンは呻いた。

 一度は司に破壊されたものの、狂気の三次元ジグゾーによって修復された石像たち。その一部は、小麦が収穫できるようになって以降、少しずつ復活液で石化から解放されている。

 その殆どは、既に復活していた者たちの身内であり、彼らに問題はない。再会できた身内と、確率の奇跡を喜び合いながら、懸命ながらも幸福そうに暮らしている。

 問題なのは、司が初期に壊した石像。断面を繋いだとはいえ風化の影響が案じられ、優先的に起こすことにした人々──の、更に一部。

 なんというか、ちょっと面倒な不平屋が、数人混じっていたのだ。

 もう、本当に何にでも文句言うのだ。飯が不味い、寝床が悪い、仕事がキツイ──という具合に。

 いや、文句言うだけなら全然いいのだが、わざわざ仕事してる人間を捕まえて、愚痴るのだ。しかも、仕事の片手間で聞き流していると「聞いてるのか!?」とキレ出す。気の弱そうな相手を選んでこれをやるのだから、性質(タチ)が悪い。

 そりゃ、石化前の世界に比べりゃ飯も寝床も不自由だ。でも、それはテメェだけじゃなくて皆そうなんだよ。それを少しでもよくするために働くんだよ──ということを、丁寧に言ってやれば、一旦は大人しくなるのだが、しばらくすると、またやる。

 ただ、近くにわかりやすく強そうなマッスルが居れば、気の弱そうな相手にも絡まないということが判明したため、現状、不平屋たちはマッスル軍団に囲まれて、雑用をこなしている。

「んー……でも、あいつらだけなら、司さんが残るまでもないんじゃ? 俺の他に、何人かガタイのいいの残しとけば……」

 ゴーザンの言葉に司の眼差しが(くら)くなった。

「──どうも、彼らの不満の()は、千空らしくてね」

「……は?」

「『息子と変わらん歳のガキに偉そうに仕切られて、あんただって腹立つだろう?』──カズキのお父さんが、彼らの一人にそう言われたんだそうだ」

 カズキは、幸運にもいち早く親と再会できた、旧司帝国のモヒカンの一人だ。

「カズキのお父さんは、話を適当に合わせて、連中の本音を聞き出してくれた。長々と益体もない話を聞かされたようだけど、突き詰めると『旧世界で無名だった()()()()()が、何を偉そうにしているんだ』ということらしい」

 ゴーザンは、呆れて、しばらく声も出せなかった。

 ──千空を、()()千空を、“ただのガキ”呼ばわり?

「……千空さんがどういう風に復活したとか、復活液作ったとか、ここまで文明戻したとか、そういうことって、後続組にも、ちゃんと説明してあんスよね?」

「したよ。ゲンが、わかりやすくね。──彼らに言わせると『あんな話、デタラメだろ』ということらしい」

 いや、確かに、千空の為してきたことはブッ飛び過ぎていて、反射的に『嘘だろ???』となるレベルだが、

「……いや、どこ見て生きてた???」

 千空の凄さは、科学王国で生活していれば、嫌でも目につくだろうに。

「さあね、自分に都合のいい妄想の世界じゃないかな」

 そこでゴーザンは気づいた。──司の表情も声も穏やかなままだったから、わからなかったが、

(司さん、めちゃくちゃキレてるじゃん……)

 目が、完全に据わっている。

「しかもね、『あのガキがしばらく居なくなるっていうなら、その隙に俺らでここの指揮権を奪えないか』とまで言ったらしくてね」

「馬鹿だろ無理だろ」

 現実も見えてない馬鹿どもに、誰が従うっていうんだ。

「そうだね、無理だ。彼らが指揮権を持つような機会は、億が一にも来ない。けれど、わざわざ隙を晒して、馬鹿に馬鹿をさせることもないだろう? 連中の起こす騒ぎで、怪我人が出るようなことは避けたいし」

 穏やかに、どこまでも穏やかに、司は言った。

「彼らも、俺が残れば変なことはし(に殺されたくは)ないだろう?」

 何かヤバい副音声が聞こえたが、ゴーザンはそこから意識をそらすように、司に訊ねる。

「……いや、それ、逆に俺要ります???」

「馬鹿がこちらが想定する以上に馬鹿だった場合、何か騒ぎが起きた時に、石神村の出身者たちとも連携を取りたいから。その仲介を頼みたいんだよ。初期亡命者の君は、村の皆と仲がいいだろう」

「え、仲介とか要ります? 結構村の人とも馴染んでるじゃないっスか、司さん」

「その()()()()()()()()()()()は、皆船に乗ってしまうよ」

「──あ、あ~……なるほど……」

 司と馴染めるような剛胆な面々は、確かに皆、船員に選ばれそうだ。

「未来を通じて、小さい子たちとも仲良くなれたかな、とは思うんだけど……子どもに、馬鹿な大人の馬鹿な話は、聞かせたくないからね」

 司が言うと、凄まじく重い言葉だ。

「──ウッス、わかりました。俺でよければ、協力します」

「うん。ありがとう、ゴーザン」

 ゴーザンの返答に、司は目を和ませて微笑んだ。

(──千空さんたちの留守の間、絶対変な騒ぎは起こさせねぇぞ)

 ゴーザンは、そう強く決意した。




世界線変動:硝酸の洞窟が無事なので、原作よりも復活者が少し多い。

現状、原作との人数差は20人くらい。ダンパー数はみ出したので、ゲンが慌ててそこで止めた。
表向きの理由は、既に見つかってる復活者の身内は全部起こしたから、という感じ。
ちなみに、害にしかならないように見えるヤベー大人たちですが、実は地味に役に立ってます。
彼らの言動に皆ドン引きして「自分はああはならんどこ」と真面目に働く感じ。反面教師。人の振り見て我が振り直した。
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