小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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具体的な描写ないし平気かなとも思ったけど、怒られたくないので、R15つけました。
モズに対する筆者の個人的な解釈が入ります。この世界線のモズはこんな感じ。


正体

 モズには、武人としての己が、いわゆる“天才”であるという自覚がある。

 七つの時に、暴力を振るってきた父を返り討ちにした時から、モズは誰にも負けたことがない。

 戦いとなれば、相手がどう動くつもりで、自分がどう動けばいいのか、誰に教えられるまでもなくわかる。それがモズの当たり前で、自分以外の人間が()()出来ないことを、いっそ不思議に感じる。

 だから、モズは人間相手に“勝てない”と思ったことは一度もないし、何かに恐怖を覚えるという経験も、殆どなかった。

 モズが“恐ろしい”と“勝てない”と思う対象は、今のところ、たった一つだけ。──頭首一族に伝わる、石化武器だ。

 短い呪文を吹き込むだけで、周りの人間を石にしてしまう恐ろしい武器。さすがのモズだって、動けなくなってしまっては、戦って勝つことなど出来ない。だから恐い。

 頭首から石化武器を任されているキリサメは、美人なのにとんでもない堅物で、ちっともモズに絆されてくれない。宰相・イバラから「頭首の命だ」と言われれば、彼女は迷わず、モズのことも石にしてしまうだろう。

(──それが、イバラの嘘とも知らずにね)

 モズは、知っている。──本物の頭首は、とっくの昔に石にされてしまっていることを。

 謁見の間の御簾越しに見える影は、頭首の石像だ。その石像を体よく利用して、島内を牛耳っているのがイバラ。キリサメは、そんなことも知らずに、もういない頭首へ忠誠を捧げ続けているのだ。

 モズは、イバラを恐ろしいと思ったことはないが、ウザったくて面倒臭い相手だとは思っている。

 あいつは、自分では絶対モズに“勝てない”と知っているから、絶対モズと二人にならない。石化武器を持つキリサメか、大勢の兵か、どちらかを必ず側に控えさせている。

 雑兵がどれだけ居たってモズの敵ではないのだが、彼らを蹴散らした瞬間、モズは“反乱者”になってしまう。例えそれでイバラを殺せても、後がない。キリサメは、モズの言葉になど耳を貸さず、モズを石にするだろう。

 また、イバラはモズが()()()()()ことも知っているので、後宮でモズが()()()()することを許しているのだ。今のままでも、お前はいい思いができるんだから、黙っていろ──そういうことだ。

 実際、モズが一番好きなことは()()なので、イバラのやり方は正しい。──読まれている、という事実に、ムカつくといえば、ムカつくけれど。

 モズは、可愛い女の子や、綺麗な女の人が大好きだ。彼女たちと遊ぶことが、モズにとって人生最大にして唯一の楽しみだった。

 武人としての自分に並べる相手など、どこにもいない。その純粋な事実は、モズに退()()を感じさせた。

 けれど、女たちと遊んでいる間は、そんな退()()を忘れられる。華やかな彼女たちは、見ているだけでも目に楽しいし、彼女たちとの駆け引きも愉しい。

 元帥であるモズに取り入ろうと、様々な手練手管を用いてくる様には感心するし、逆に、モズに目を付けられまいと逃げ回る相手を追いかけて、そこからゆっくり絆すのも面白い。

 そうして、モズに肌を許してくれた女性たちの、やわらかい温もり。それは、何にも代え難くイイものだった。

 その点、イバラはとんでもなく悪趣味だ。あいつは、嫌がる女を無理矢理屈服するのが大好きなのだ。モズには全く理解ができない。

 モズも一回だけ、好奇心から試してみたことがあるけれど、無理矢理押し倒した女の子に、恐怖と拒絶の眼差しを向けられた時点で萎えた。そこで止めて、それから二度としていない。イバラは、あれの何が愉しいんだ。

 それまで、モズにとって()()がイバラだろうが頭首だろうがどうでもよかったのだけれど、『イバラがいると後宮の女たちが可哀相だな』と、その時初めて思った。

 だから、隙を見て()()()やろうと思うのだけど、まあ、前述の通り隙がない。本当に面倒臭い。

 そうこうしているうちに、また後宮選抜の時期が巡ってきて──その前の日に、変事が起きた。

 見たことがないほど、というか、人が作った物とは思えないほど、巨大な船が現れたのだ。

 それが島の外から来たのは明白で、モズはそのことに衝撃を受けた。

(──この島の外にも、人間が居るんだ)

 モズにとって、“世界”とは“この島の中”だけだった。船で漕ぎ出たって、見えるのは海だけ。他はない。それで完結していた。

 けれど、そうではないのだと、その海の向こうにも、“世界”は続いているのだと、そこに人間もいるのだと、モズは知ってしまった。

 その巨大船に乗っていた人間は、すぐさま頭首(イバラ)の命を受けたキリサメによって石にされてしまったが、それでも、モズは“これで終わりじゃない”“きっともっと面白いことが起こる”とワクワクしていた。

 そうして、迎えた翌日、後宮選抜に出向いた先で、()()()()

(──すごくカワイくて、すごく強い()が居る……!)

 見目の良さも戦士としての格もキリサメ並み。そんな娘の存在が、今まで噂にさえのぼらなかったこと自体が()()だ。

 つまり、この娘は今まで島に存在していなかったのだ。──この娘は、あの巨大船に乗ってきた人間の一人だ。

 コハクという名らしいその娘と(つる)んでいるのは、3人。

 一人は、間違いなくこの島の娘だ。以前から、“島一番の美少女”と名高かったアマリリス。

 他の二人は、多分、コハクと同じ、外からのお客さんだ。

 ふっくらした唇が美味しそうな小柄な女の子──ほむら。気弱そうに装っているけれど、身のこなしに隙がない。強そうな感じはないが、侮ると隙見て刺されそうな気配がある。

 そして、見た目は完全に“美少女”なのに、本当は“男”らしい、銀。──モズも、最初は騙されたけど、他の娘を見る目が“男”のものだったことで、気づいた。

 一方、イバラは完全に騙されているようで、怯えつつも精一杯強がっている様子の銀を、今回の“お気に入り”にしたようだった。

(ウケる。──まあ、男ならどうなってもいいし、むしろ良かったかな)

 それに、おそらく銀は、そこそこ()れるクチだ。モズから見れば雑魚だし、ビビりにすぎるけど。いざとなったら性別明かして、イバラの度肝を抜いた隙に逃げるくらいは出来るだろう。その後、死ぬまで命狙われそうだけど。

 ──コハクたちが来てから、後宮は大騒ぎだった。毎日何かしら変事が起きた。犯人は間違いなく彼女たち。

 けれど、イバラが“侵入者”を見つけるため、“侵入者”たちの首魁と目した男の石像を「壊せ」と命じた時、一番ノリノリで壊したのは、何故かコハクだった。

(……嫌いなヤツだったのかな?)

 誰もが自分のボスを好いているとは限らない。モズ自身がそうだ。多分、そういうことなんだろうと、モズはその件は流した。

 でも、黙ってみているのも厭きてきたので、銀がイバラに呼び出された夜、モズはコハクに直接ちょっかいをかけることにしたのだ。

「──侵入者って君だよね。教えてよ、仲間の皆が隠れている場所」

 確実に、コハクの仲間は、後宮に居る3人だけではない。“外”と連携して動いている気配がある。

 モズの問いに、コハクは不敵に笑って、

「──仮に、私が侵入者だとして、仲間の居場所などという最高機密を、易々と吐露するとでも思うのか?」

 そうして、彼女が服の裾から取り出したのは──縄の先に刃をくくりつけた、紛れもない武器だった。

 それを見た見張りの兵たちが、すぐさま彼女を取り押さえようとしたが──コハクは、それをバッタバッタとなぎ倒していく。

(やっぱり、超強い。カワイくて強いなんて最高じゃん)

 是非、()()()なりたい。モズがそう思った矢先──

「あ~↑!!? もう容赦しねぇぶち殺してやる!!」

 筋肉バカのオオアラシが、そんなふざけたことを宣ったので、モズは周りの兵ごと、バカを吹っ飛ばした。

「何勝手なこと言ってんの? カワイイ子がもったいないじゃん。ブサイクならいいけど」

 味方のはずの兵を吹っ飛ばしたモズに、コハクは一瞬怪訝そうな眼差しを向けるも、モズが自分の味方をしたとは思っていないようで、

「──約束通り、手合わせ願おうか……!!」

 後宮選抜の場で、モズが叩いた軽口を覚えていてくれたらしい。そんな言葉と共に、武器を構えて飛びかかってきた。

(んー、この()、やっぱ強い。強いけど──)

 モズには残念ながら()()()()

「気づいてるはずだよね、とっくに? 絶望的な戦力差。君が束になっても、俺一人に敵わないって」

「ハ! ご高説を聞くまでもない、刃を交わす前から知れていたとも!」

 モズの言葉を、コハクは不敵に笑い飛ばす。──額に、汗をにじませながら。

「だからなんだというのだ! そんな言葉で私が心折れて、仲間を売るとでも?」

「んー……ならさぁ、コハクちゃん、俺と()()()なろうよ。仲間よりも、俺のことが好きになったら、教えてくれるでしょ」

「ふざけているのか?」

 コハクの声に険が増すが、モズは大本気である。

「カワイくて強いとか最高じゃん。俺、コハクちゃん、超タイプだよ。コハクちゃんは? 俺とかどう、見ての通り超強いよ?」

「──強さとは、心の強さだ」

 モズのアピールに、コハクはきっぱりとそう言い切った。

「信念のために一歩一歩、延々と楔を打ち続けられるような、そういう男に私は惹かれる。──おお、困った。モズ、君はまるで違うようにみえるぞ?」

「──コハクちゃんは、可愛いのに可愛くないね」

 明白な“お断り”を残念に思いながら、モズはとりあえず、コハクを()かして捕らえようと、槍を握り直し──

「──コハクちゃぁああああん」

 その時、上から、目の前の彼女を呼ぶ、情けない声が降ってきた。

 思わず仰げば、イバラに追われているらしい、銀の姿があって、

「助け──」

 言い切る前に、彼は背後からイバラに刺された。

(──あー、あれは、助からないな)

 冷静にそう判断したモズの前で、コハクが弾かれたように動き出す。

 落ちていく銀を追って、コハクも樹の下へと飛び降りる。──モズは、それを追わなかった。

(まあ、仲間との最期のお別れくらい、させてあげよう)

 しかし、お気に入りだったろうに、どうしてイバラは銀を殺したのか。性別を偽っていたことがバレたのか、それとも──

 その答えは、間もなく知れた。銀を抱えたコハクが、島の頂点である謁見の間の屋根に上がり、声を上げたことで。

「聞け、皆の者!! 君たちの頭首は──」

(ああ……銀は石像(アレ)見ちゃったんだ)

 そして、今際の際に、コハクにそれを告げ──それを聞いた彼女は、それを島中に告発しようとしている。

 しかし、それを許すイバラではない。キリサメが投げた石化武器で、コハクは銀と一緒に石になってしまった。

(……つまんないの)

 せっかく、楽しめそうな相手だったのに──そう思ったモズの視界で、動く人影。

 「頭首のお力がくる、石になりたくなければ目を閉じろ」というイバラの嘘を信じて、誰もが目を伏せてうずくまる中、静かに場から離れていく姿が二つ。

(そうだ、まだ、あの()たちが居たじゃん)

 コハクの仲間──ほむらと、アマリリス。

 気づかれないように後をつけることなど、モズには容易い。やがて、二人が辿り着いたのは、島の側面を抉ったような洞窟だった。

(へー、こんなところあったんだ)

 モズは初めて知った。多分、イバラも知らない。道理で、侵入者たちが見つからないわけだ。

「──キリサメは、頭首が石像だと知らねぇ……!!」

 二人から距離をとって追っていたモズが洞窟に入った時、そう断言する声が響いた。

 侵入者は思った以上に大人数で、そこそこ強そうなのも居たが、モズが()()()()と思う相手は見当たらない。

 だから、モズは普通に、声をかけた。

「──んー、そうなんだけどさ、よくわかったね。何で?」

 途端、場に緊張が満ちて──すかさず、一同を庇うようにモズの前に飛び出してくる人影。

 攻撃の意志は感じられなかったけれど、こちらの実力を見せてやるつもりで、モズはその男を吹っ飛ばした。

 一撃で伸したつもりだったのに、驚いたことに、相手はすかさず飛び起きて、再び盾のように立ちふさがる。

「すごいな、君の耐久力。──でも、そんなの時間稼ぎにしかならないけど。こっからどうするつもりなの、これ?」

「──殺しますよ、構いませんね?」

 モズの問いに、刺すような声が返る。

(──んー、この中では一番強いかな)

 声の主は、長身痩躯の男。手にした得物は、槍だ。

(うん、勝てる)

 改めてその立ち姿を見て、モズはそう判断した。──これは、努力の秀才タイプだ。自分みたいな天才じゃない。

「構うわ。()るなつっただろうが」

 と、心底ゲンナリした様子で槍遣いを制止したのは、先ほど「キリサメは頭首が石像だと知らない」と断言した声だ。

(コイツはハチャメチャに弱い)

 見るからにヒョロっちい。武器をまともに構えることすら出来なそうだ。

 しかし、このタイミングで声を上げると言うことは、一同の決定権を担うリーダーなのだろう。──戦闘力ではなく、頭の切れが武器のタイプか。

「『殺す殺されるという状況を生まない』と言う君の前提は、既に破綻していますよ」

「……ほーん、さすがのテメーの槍術でも、コイツを生け捕りは無理か。そりゃ残念なこって」

(そりゃそうだよ)

 生け捕りどころか、殺す気でかかって来られたって勝てる──

「……安い挑発ですが、そう言われては仕方ありませんね」

「──は?」

 何言ってんだコイツと、モズが思うより速く──強烈な一撃が、鳩尾に入った。

(──!!?)

 息が、詰まる。

 ──何が起きた。何をされた。まだ、槍の間合いにすら入ってなかったはず──

 モズが混乱とダメージで動けないうちに、複数人に捕り押さえられて、やたら手際よく縛りあげられてしまった。

 後ろで縛られた手に関しては、指すら自由に動かせない。どうなってるんだ、これ。やったのは、ほむらだ。

(やっぱり、この娘も一筋縄では行かないタイプだった……)

 縄だけに、なんてくだらないことを思ってしまった。頭が現実を拒否して、変な風に動いている。

「──恵まれた才覚に胡座をかいて、私を格下だと見なし、油断しましたね?」

 地に転がされたモズを、冷えた眼差しが見下ろす。

「一見、取るに足らないと思える相手でも、隙を見せれば、噛まれて手傷を負うこともあるんですよ。生きて学べてよかったですね。せいぜい、次に活かして下さい」

 ──遠回しに、「今の一撃で殺せたけど、あえて殺さないでおいてやったぞ」と言われた。

 確かに、今の攻撃が刃によるものだったら、モズは致命傷を負っていただろう。柄の方で突かれたから、こんなもので済んでいるのだ。

「──経験者は語るってか。含蓄のあるお言葉だな、氷月先生」

 ケケケ、とリーダーの男が揶揄するように笑う。

「……指示通りに働いた部下に、まずかける言葉がそれですか? 千空クン」

「あ゛? テメーいつ俺の部下になったよ?」

 不機嫌そうな槍遣い──氷月の言葉に、リーダー──千空が目を剥く。

「…………じゃあ、君、私のことを何だと思ってたんです?」

「対等な同盟者に決まってんだろ。──は? テメーずっと、俺の部下のつもりで居たのか???」

 二人の間に、妙な沈黙が落ちて──

「はっはー! 思わぬところで認識の齟齬が露わになったな! まあ構わん! どちらも等しく俺のモノだ!」

 バッシィン! という威勢のいい音と共に、別の男の声が高らかに断言する。

 ──その声の主の姿を見た瞬間、モズの喉から悲鳴じみた声が飛び出した。

「──お前、何で生きてる!?」

「フゥン? そういう言い方をするということは、さては俺の石像が砕かれる場面を見ていたな、貴様?」

 コハクにバキバキにされていた石像と同じ顔の男が、生きて、喋っている。

「答えは簡単だ。──俺たちにとって、石化も、その状態で砕かれることも、解決できる問題に過ぎんということだ」

 不敵な笑みで告げられた断言に、モズは絶句した。

(──本当に……?)

 石になったら、そこで終わりだと思っていたのに。

 そこから蘇る術が、本当にあるというのか──

「だとしても、できればバラバラになるようなことは避けてね……切実に……」

 疲れたような女の呟きで、モズは短い自失から醒める。

「いつも(ワリ)ーなぁ、杠大先生」

「そう思うなら、砕かれるのを前提にした作戦とか、出来れば組まないでね……」

「あ゛ぁあ゛ぁ、善処すんわ」

「遠回しなノー……」

 少女──杠の、切実な響きの言葉に、千空は人の悪い顔で笑うだけだ。

「……お前ら……()なの?」

 ようようモズの口から出てきたのは、あまりにもぼんやりとした、しかし心からの問いかけだった。

「おうおう! 教えてやるから、耳かっぽじってよく聞きやがれ!」

「彼は縛られてるから、耳はほじれないぞ、クロム!」

 鉢巻き姿の少年──クロムが威勢良く吠えれば、最初に盾になった偉丈夫がボケたことを言う。鉢巻きの少年が、たまらずコケた。

「いや、喩えだよ!」

「む、そうだったのか!? すまん!」

「……マジで何なの?」

 もう、自分が何を見せられているのかも、わからない。

 遠い目をするモズの前で、気を取り直したらしいクロムが、改めて吠える。

 

「俺たちは──科学王国だ!!!」

 

  * * *

 

 ──ペルセウスからの連絡は、まだ、来ない。

 




世界線変動:氷月先生のお力で、モズが“青の洞窟”で捕縛される。(2/12追記→)必要に迫られないから、千空が銃作らないな、このルート!?(今更気づいて筆者自身が驚いている)

ついにゴーザンくんのパートが一行になってしまった。
というか、モズパートも、氷月がキリっと〆るつもりだったのに、気がついたら科学王国民がボケ倒しはじめて……どうしてこうなった?


次の18話、投稿した後に大ポカに気付いたので、一回下げます(2月4日時点)
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