ほぼ同時投稿の[策士(下)]と表裏になってます。
ゲンから千空へのクソデカ感情の描写がありますが、筆者にBなLの意図や、腐った意向はないです。
「おうおう! モズっつったか? てめー、アマリリスとほむらを、何で
科学王国だ、と見得を切った勢いのまま、そうモズに詰め寄るクロムの言葉に、ゲンは目を見開いた。
(──相変わらず、クロムちゃんは目の付け所が鋭~い♪)
モズの行動を振り返るに、彼はコハクたちが“侵入者”であることを、早々に察していた。
その上で、モズは──“侵入者”である
「……なるほどなるほど~♪ うんうん、俺わかっちゃった~♪ モズちゃんの気持ち~♪」
にこにことわざとらしく笑いながら、ゲンはモズの顔を覗き込むようにしゃがみ込む。
「──モズちゃんは、イバラに死んで欲しかったんだね?」
覗き込んだモズの瞳が、かすかに揺らぐ。──動揺。
「あいつが頭首を石にしちゃったから?──ううん、違うね。イバラを消して、自分がトップになりたかったのかな?──あ、当たりだ。う~ん、向上心強いね、モズちゃん。男の子だねぇ~♪」
モズは必死に表情を取り繕おうとしているけれど、瞳の動きは笑えるくらい雄弁だった。
「……ゲン……心を読むって、ホントに……?」
アマリリスの感心と怯えが混じった呟きに、モズの目がますます動揺した。
(わぁ、アマリリスちゃん、ナイス!)
そういえば、前にそんなような軽口を叩いたが、ここでこう活きるとは。
「何で今までイバラのこと殺さなかったのか? 簡単だよね、石化武器があるから! 遣い手のキリサメちゃんは頭首様のこと知らないし──モズちゃんから言っても、信じてもらえない? あんま仲良くないんだ、残念だねぇ」
これまで集めた情報のピースから導き出される推論を、さも心を読んだように告げてやれば、モズの顔が怯えるように強ばっていく。
「“侵入者”がイバラを始末してくれたらいいな~って思ってたんだね? ごめんね~、期待に応えられなくて。俺たち、そもそもイバラなんか眼中になかったからさぁ~」
「……じゃあ、何が狙いだったんだよ」
一方的に
(なまじっか“最強”だったもんだから、こういう駆け引きの経験がないんだね~。すっごいやりやすい♪)
自然とゲンの笑みは深いものになり、モズの顔はますます強ばる。
「う~ん、何だと思う?」
モズの視線が左右に揺れ出した。必死に頭を回しているのが、手に取るようにわかる。本当に、素直なことだ。
「──石化、武器……」
やがて、はっとしたように呟いたモズの言葉に、意味深に微笑んでやる。イエスともノーとも言わず、ただ、無言で。
ゲンの顔を見たモズの目に、確信が宿る。
(──これで、モズちゃんの中で、俺らの狙いは『最初から“石化武器”だった』ことになった)
本当は、この島に石化武器があるなんて知らず、プラチナを取りに来ただけなのだが。──まあ、現状、石化武器の奪取を目的に動いていることは事実だ。嘘じゃない。
「目的さえ達成すればさ、俺ら、帰るし。──モズちゃんにとっても、悪い話じゃないんじゃない?」
そこで、上から覗き込んでいた視線を外して、転がるモズの横に並ぶように座る。──敵対ではなく、連帯の位置どり。
「石化武器が島からなくなっちゃえばさ、イバラを消してモズちゃんがトップになるのも簡単でしょ~?」
「……お前らが、俺にそれを使わない保証は?」
強ばった問いに、きょとんとした顔を向けてやる。──挑発。
「なんでわざわざモズちゃんを石化させる必要があるの? 普通に勝てるのに」
「──ッ!」
屈辱か憤怒にか、モズの顔が赤く染まる。
「……不意打ちで一度勝てたからって、いい気になるなよ……! 次はもう、こうは行かない!」
「──だ、そうだけど? 実際のところ、どうなの? 氷月ちゃん」
「彼相手なら、不意を突かなくたって勝てますよ」
ゲンが回したパスに、氷月はすかさず応えてくれた。
「天賦の才に胡座をかいた怠惰の輩では、代々継がれた尾張貫流槍術、五百年の研鑽は決して破れません」
「……ご、ひゃく、ねん……?」
確信と誇りを込めた氷月の言葉に、モズが驚きに目を見開く。
(ありゃ、ちょっと予想しない方向に意識が逸れちゃったな。まあ、いいけど)
モズの興味に合わせて、ゲンは軌道を修正する。
「興味ある? 弟子入りでもしちゃう?」
「──誰がするか!」
反射的な反発。よし。
「うんうん、そうだよね、モズちゃんの方が強いんだもんね。──だったらさ、俺らと賭けしない?」
「……賭け?」
「そ。氷月ちゃん対モズちゃん、リベンジマッチ!」
モズの目の色が変わる。──
「モズちゃんのこと、一回帰してあげる。で、今夜、改めて氷月ちゃんが後宮に乗り込むから、そこで再対決しよ。モズちゃんが勝ったら、俺らは全員モズちゃんの
ちょいちょい食いつきやすい言い回しを選んで、具体的な条件をつける。
「ど? この賭け、乗る?」
形だけ、そうゲンは尋ねたが──モズの答えなど、もう疾うに知れていた。
「──モズにインカムを持たせたのは、拙かったかも知れない」
連絡用にと
「コハクが持っていたインカムを、回収できていない。イバラは目敏い。モズが同じ物をつけていったら、気づいて“盗聴”されるかも」
「ゲッ、盗聴!? ヤベーじゃねぇかよ、キッショォオオ!」
思わぬ指摘に、陽が悲鳴のような声を上げる。
「あー……確かに、そういう可能性もあるねぇ~」
だが、ここで
「──じゃ、モズちゃんへの連絡は、『全部イバラにも聞かれてる』って前提でしよっか。大丈夫、俺が巧くやるから♪」
「……そうだね……こういうの、アンタ以上に巧くできるヤツなんていないよ」
「お褒めにあずかり光栄の至り~♪」
やや引き気味のニッキーの言葉は、ゲンにとっては最高の褒め言葉だ。
「いや~、謀略と虚偽で20年も島に君臨する策士との騙し合いか~。不謹慎だけど、ちょ~っと燃えちゃうね~♪」
「おーおー、頼もしいこって。ビビって竦まれちまうより、100億万倍おあがりてぇわ」
自身を鼓舞するつもりで吐いた言葉より、もっと質のいいガソリンが、千空から注がれた。
──千空。科学王国の──ゲンにとっての、王様。
もちろん、ゲンはちゃんと知っている。千空はゲンのことを、氷月と同じように“対等な同盟者”として見ていると。
けれど、ゲンが持ちかけた薄っぺらい“コーラ同盟”を、千空が一本のコーラで報いてくれた時から──否、この
ゲンは、己が文明の中でしか
だから、
それと同時に、ゲンは千空へ庇護感にも似た感情も抱いている。石化がもたらした時の暴虐により、最愛の父と永遠に隔たれてしまった少年。──哀れだと思うし、それでも前を向いて進んでいく彼の在り方を、尊く思う。
王への忠誠めいた感情と、子どもに対する庇護感。千空に対するこの二つの感情は、どれだけ矛盾して見えようと、どちらも紛れもなくゲンの本心だった。
そも、人間の感情なんて、芸術家の描いた騙し
その騙し
──イバラの内面という騙し
自身が虚偽によって成り上がったが故に、自分以外の全てを疑って動いている。決して、誰のことも信じない。
しかし、20年間もの長きにわたり、偽りの
そこが、イバラの泣き所だ。ヤツは知らないのだろうが、ゲンはもう
ゲンは、もともと笑みの形を描いていた唇を、より凶悪に吊り上げる。
「──任せて、千空ちゃん♪ メンタリストのジーマーな本気、見せてあげる」
──完全勝利を、この王へ、科学王国へ、捧げてみせよう。
「モズちゃんVS氷月ちゃんin後宮! これはモズちゃんとの約束通りやるけど、それだけじゃ芸がないから~、陽動として利用しちゃおう♪」
「陽動? 裏で何か仕掛けるの?」
すかさず反応した羽京に、にっこり笑って頷く。
「そそ。そもそも、俺らにとって脅威なのは、あくまで
適当に、そばにいたマグマを指名して、
「どうしてキリサメちゃんは、イバラに従っているんでしょうか?」
「あん? そんなもん、イバラに騙されてるからだろ?」
「う~ん、50点! 正確には、『イバラの言葉を、“頭首からの命令”だと信じてるから』♪ 」
ゲンの言葉に、金狼がはっと目を見開いた。
「そうか。“本物の頭首”をこちらの味方につけてしまえば、キリサメはもうイバラになど従わない……!」
「──ッ!」
その言葉に、ソユーズが息を呑む。
「銀狼ちゃんが命がけでゲットしてくれた、ジーマーで値千金の情報よ。──
復活液を持つ自分たちなら、それが出来る。
「陽動は、氷月ちゃん。あと、モズちゃん以外の兵の露払いに、金狼ちゃんと──大樹ちゃん。盾持って、金狼ちゃんのサポートしてくれるだけでいいから」
「俺か!?」
ここで自分の名を出されるとは思わなかったのか、大樹が驚いた顔をする。
「おい、なんでわざわざ、人を殴れもしねぇコイツを選ぶ? オレの方が──」
「うーん、マグマちゃんだとね、ちょっと体格が違いすぎるのよね。ソユーズちゃんと」
「俺!?」
今度はソユーズが目を剥いた。
「そ。この策が決まれば、“次”は必要ないんだけど──念のために、タネは多めに仕込んでおきたいからね~」
相手はイバラだ。どれだけ念を入れても入れすぎということはない。
「で、陽動の裏で動く本命班は、二人。──案内役のほむらちゃんと、説得役のソユーズちゃん」
「任せて」
ほむらの頼もしい即答。
「──わかった。必ず……
ソユーズも、決意を瞳に宿して、頷いた。
『約束通り、これから槍遣いが行くよ~。弟子と盾役も一緒に行くけど、ただの露払いだから、二人の対決は邪魔しませ~ん。モズちゃん、リベンジマッチ頑張ってね~』
ゲンは、モズへの連絡を
(まあ、これが決まって、“次”がないまま決着! っていうのが、一番なんだけども~)
しかし、一つの策に全てをかけて予防線を張らないというのは、策士として余りに無謀で間抜けだ。
陽動班は、石化装置を持つキリサメが出てきたら撤退と、事前に取り決めた。自然、本命班のタイムリミットもそこになる。時間制限に阻まれて、途中撤退はありえる話だった。
実際、割合早い段階でイバラがキリサメを投入してきたため、陽動班は早々に撤退する羽目になった。──それでも、モズとの“賭け”には、無事勝利したが。
『はい、こっちの勝ち! これで次は、最初から石化武器ありきの動きになるよね。じゃ、モズちゃん、また連絡するから、ちゃんと約束守ってよ』
ゲンがケータイ越しに、モズへ(そして、盗聴しているだろうイバラへ)そう告げ終えた時、本命班も戻ってきた。
自前の隠密力で潜り込んだほむらと、彼女が盗んできた兵の制服をまとって後宮に潜り込んだソユーズは、残念ながら頭首の復活を果たせなかったらしい。
しかし、それは、タイムオーバーによる任務未達成ではなく──
「──頭首の石像が、壊れてた?」
「顔の右半分が抉れるような形で破損していた。周囲に落ちていた破片を集めても、明らかにパーツが足りない。──あれは、もう、治せない」
ほむらが淡々と報告する横で、ソユーズは頭を抱えている。
「……ごめんね、ソユーズちゃん。キツいもの、見せちゃったね」
「──違う。そうじゃない……いや、父さんが助からないのは、ショックなんだけど、そうじゃなくて……」
思わず謝ってしまったゲンに、ソユーズはそう
「父さんの姿を見て、思い出したんだ……俺は、見たんだ。イバラが、父さんを石化する場面を」
「──ッ!」
ソユーズの告白に、皆が息を呑む。
「それで、殺されそうになって……母さんが、俺を抱えて、逃げて……」
「……予想はしていたが、やはりそうだったか。──よく、思い出してくれたな、ソユーズ」
ソユーズを労うように、龍水がその肩へ手を置いた。
「ならば、イバラは貴様にとって父の仇。そして、俺の
「──まさか殺すの?」
反射のように、案ずるとも咎めるともつかない声を上げた羽京に、龍水は笑う。
「まさか。不殺が合理的であるという前言を翻す気はないし、奴の死を俺たちが背負ってやる義理もない。──石化による罪は、石化によって
「──ッ!」
再び、一同が息を呑んだ。
「文明が復興すれば、いずれ司法制度も整う。法が相応しい裁きを与えられるようになるまで、奴には石になっていてもらうとしよう」
「──なるほどな。拘留しとく代わりに、石化するってか」
千空は納得したように頷いたが、羽京は眉を寄せる。
「……施法される前に遡っての訴えは、さすがに無効なんじゃないかな」
「その時はその時だ。──復興後の世界に、奴の居場所があるとも思えん。己の無力を嘆いて余生を過ごせばいい。イバラのような輩には、それが一番重く苦しい罰になるだろうさ」
初めて聴く、龍水の侮蔑めいた声音。
「……確かに、禁固刑の一種だと思えば、石化も、まあ妥当かな」
そう言って、羽京は龍水の言を呑み──一番の当事者であるソユーズを、見た。
「──ソユーズは? それで、いい?」
「……イバラのことは、正直、許せないけど……だからと言って、皆を、人殺しの仲間にはしたくない。だから──俺も、それでいい」
ソユーズは、そう、覚悟を持った眼差しで、断言した。
「──じゃ、そうするための、具体案を練ろっか♪」
あえて明るく、ゲンは告げる。
──腹の中で、イバラにもっとも相応しい末路を、練り上げながら。
数日後、約束通り科学王国の
そこにいるのは、フード姿の槍遣い二人と、盾持ちの男。先日と同じに
「皆、目を伏せて。──5
手にしたものにそう告げて、投げる。
(でも、これは、モズちゃんを試すための
イバラの性格なら、そうする。そうと知った上で、それをドローンで絡め取る。
見慣れない飛行体にキリサメは目を剥くも、投擲物と繋がる縄を惜しげもなく放し──
「──キリサメ」
本物の石化武器を取り出す手は止めないまま、呼ばれた名に反応して、彼女の視線が反射的にそちらを向く。
そこに居た男──盾を脇に置き、フードを外して露わになったその顔に、キリサメは目を見開き──
「……ご、頭首、様……?」
「違うよ。俺は、ソユーズ。頭首の
「──はぁッ!?」
──このカミングアウトに、モズが一番驚いていたそうで、ゲンは後から聞いて、ちょっと笑った。
そう、後から。この筋書きはゲンが書いたけれど、その場面をゲンは見られなかったのだ。
ゲンはその時、イバラを
キリサメと兵たちの説得は、ゲンの描いた筋書き通り、成功した。
──二十年も重ね続けたイバラの虚偽は、表面こそ巧く取り繕われていたが、一枚剥がせばボロだらけだったから。
頭首に瓜二つの青年が言う──「赤子の頃に、イバラによって父が石になる場面を見た。口封じに殺されそうになって、母と共に島を出た」と。
──頭首による百物語の語り聴かせは、いつから、どうして行われなくなった?
──イバラの指示で石化させられた、後宮の侵入者。「君たちの頭首は」──その言葉の続きは?
何より、この二十年間、石化武器を預かる腹心のキリサメさえ、御簾越しの声さえ聞けないという現状は、一度指摘してしまえば、決して無視できない異常で──
「……私は……私たちは、ずっと……イバラに
「──キリサメ」
ふがいなさと怒りに震えるキリサメに、ソユーズが語りかける。
「こういう言い方は卑怯かも知れないけど──悪いと思うなら、どうか、父さんの仇討ちに手を貸して欲しい」
頭首の面影を色濃く宿す、その息子にそう言われて、忠誠心と責任感の強いキリサメが、拒むはずもない。
──そして、彼女は、
遠方から望遠鏡で現場を見る羽京の合図に合わせて、ゲンからマイクを奪った千空が、口を開く。
(──別に、俺がやっても良かったのに)
けれど、何だかんだ責任感の強いゲンの王様は、その役目を
「5
──緑の輝きが、20年間君臨し続けた偽王を包んで、消えた。
* * *
ペルセウスからの通信が途絶えてから、一週間が過ぎた頃、
『──12800000
灯台に据え置かれた通信機が、
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