小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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書きたいとこだけ書くので、当たり前のように時間は飛びます。
そして、アニメ化されてない原作単行本のネタバレ入ります。


師匠

 ──ゲンが偽リリアン作戦を千空へ提案し、文字通りに首を突っ込んできたクロムも含め、3人仲良く地獄に堕ちようと言う話でまとまった後。

「──まあ、アメリカ復興に関しちゃ、もしかすっと嘘から出た真になるかもしれねぇがな」

「え、どゆこと? 千空ちゃん」

 千空がぽろりとこぼした言葉を耳に拾って、ゲンは思わず目を瞬いた。

「あ! アメリカって何か聞き覚えあんなと思ってたけど、アレか! 千空の科学の師匠が住んでたトコだろ!」

「えっ!? 待って待って、千空ちゃんの師匠!? 何その話、俺知らない!」

 クロムが思い出したとばかりに手を打つが、ゲンは初耳である。

 そりゃそーだ、と呆れたような調子で千空が言った。

「その話した時、テメーはその場にいなかったからな」

「えぇ……何で教えてくれなかったのクロムちゃん! そんな面白そうな話!」

「いや、俺が責められるのかよ!?」

「ククク、キャンキャン吠えんなメンタリスト。今から情報共有してやっからよ」

 千空の言葉に、ゲンはとりあえず素直に矛を収めた。その方が話が早いので。

「まず前提として、俺ぁ小学校の頃からロケット自作してたんだが、独学じゃ早々に行き詰まってな。先人からのアドバイスを求めて、あっちこっちの研究機関にレポートメール送りまくったんだわ」

「いや、前提からバイヤーぶっ飛んでる~……それに応えてくれたのが、そのお師匠様?」

「おう、さすがに察しがいいなメンタリスト。唯一返信をくれたのが、現役NASA勤務の科学者様、Dr.Xだった」

 そして、千空は確信に満ちた声音で続ける。

「あれだけの科学者が、石化現象なんて超絶唆る新作科学を食らっておいて、その解明もしないまんま()()()()するかよ。──絶対に、Dr.Xは、石化中も意識を飛ばしてねぇ」

「……千空ちゃんや大樹ちゃんみたく、硝酸だけで復活できるだろうってことね?」

 石化中も意識を保ち、思考という形でエネルギーを使い続けることで、石像の中の()()が消費される。その消費量が一定量を越えた状態で硝酸に触れると、石化状態から復活できる──その話は、ゲンも千空から聞き及んでいた。

 まあ、その必要な消費エネルギー量がざっくり2兆(ジュール)越え──時間換算で約3700年分というのだから、常人には到底達成し得ない条件である。

(俺なんか、秒で意識飛んだもんなぁ……)

 ゲンは改めて、千空とその親友である大樹の意志の強さに、畏怖にも近い感慨を抱く。──そして、その千空をして“できる”と断言された、その師匠にも。

「ああ、そうだ。そんでもって、自然発生した硝酸に触れるだろう可能性は、この日本よりアメリカの方がずっと(たけ)ぇ」

「だから、その師匠もきっと千空みたく石化を破ってる! そんでアメリカってトコを、もう復興してるかもってことだな!」

 クロムが興奮した様子で告げた言葉に、千空はひょいと肩をすくめて見せた。

「まあ、まだ時間的に、完全復興にはほど遠いだろうがな」

「千空ちゃんが起きたのが、去年……じゃないや、もう一昨年の4月でしょ。そのDr.Xも同じくらいに起きたとして……だいたい20ヶ月くらいかぁ。うーん、確かにまだまだだろうねぇ」

 ゲンのその言葉に、千空は軽く首を傾けて、

「俺より早く起きてる可能性もあるが……半年以上の差はねぇ、はずだ。多分」

「うん? 何で半年?」

「俺と大樹の時間差」

「あぁ、そっか。同じ頭脳派二人の誤差が、頭脳派の千空ちゃんと肉体派の大樹ちゃんの誤差より大きいとは考えにくいもんね」

 千空の推論に納得して、ゲンは別の質問を投げることにした。

「ところで、Dr.Xってあからさまにペンネームの類だけども、ご本名は?」

「知らねぇ。5年以上、ずーっとメール越しのオンライン授業だった」

「え、意(が~い)! NASAっていったら、千空ちゃんパパの職場でもあるでしょ。会おうと思えば会う機会あったんじゃない?」

 ゲンの問いに、千空は何故か気まずげに視線を逸らす。

「え。何、その反応」

「あ~……俺が一つ訊ねりゃ十を教えてくれるような、おありがてぇ先生だったんだが……その十のうちの五くらいが、ミサイルやら細菌兵器やらの物騒な話っつー悪癖持ちでな」

「はっ?」

 予想外の方向に飛んだ千空の言葉に、ゲンの口から間の抜けた声がもれた。

「いや、ちょ~っと待って? 相手、千空ちゃんが小学生だって知ってた?」

「最初に送ったメールは、NASAの子ども質問室宛だったからな。年齢も添えた」

「うっそでしょ小学生相手に細菌兵器の話???」

「いや、細菌兵器の話は中学ん時だな。それがきっかけで、俺は抗生物質の作り方を調べた」

「えっ、そうなのか! じゃあ、その師匠もルリの命の恩人なんだな!」

「いや、ただの反面教師!!」

 細菌兵器が()()()()()()なのか知らないクロムは、無邪気にその師匠を讃えるが、ゲンは悲鳴のような声でツッコんでしまった。

 そこに、千空が何とも言えない笑みを浮かべて、追加の爆弾を投げてくる。

「『科学があれば、賢い人間が衆愚を正しく導き、支配することができる』──ってのが、Dr.Xの持論だった」

「アニメに出てくる悪役マッドサイエンティストの思想じゃん!!」

「クク、メンタリストもそう思うか」

 そういう言い方をするということは、他ならぬ千空も、Dr.Xのことを“そういう人物”と評しているのだ。

 ゲンは痛くなってきた頭を抱えつつ、

「……会う機会がなかったんじゃなくて、会わないようにしてたのね……その判断は賢明だと思うけど、何でメールのやりとりは5年も続けちゃったの、千空ちゃん……」

「科学的知見は確かだったんだよ。何聞いても、こっちを子ども扱いしねぇで、ちゃんと答えてくれたしな」

「そこだけ聞くといい先生なんだけども~~~」

 呻くゲンを、しばし人の悪い笑みで眺めていた千空だが、

「──さて、メンタリスト。プロファイリングのお時間だ」

 真顔になって告げられたその言葉は、ゲンの脳裏に恐ろしい未来図を呼び起こさせるものだった。

 

「このDr.Xが、この石世界(ストーン・ワールド)で目覚めたとして……()()()()?」

 

 ──どうやら、自分たちは、本物の地獄に堕ちる前に、()()()()()()が生まれることを、阻止しなければいけないらしかった。

 

  * * *

 

「──千空さんって、めちゃくちゃ物知りですけど、誰か先生みたいな人っていたんスか?」

 そう訊ねたゴーザンに、特に深い意図はなかった。

 クロムの質問責めに嫌な顔もせず、むしろ楽しげに答えている千空を見て、通りがかりに、ふっと思いついたことを口にしただけ。

「あー……まあ、そう呼べなくもない相手は、いたな」

 珍しく煮え切らない千空の答えに、クロムがすかさず食いついた。

「千空の先生……つまり、科学の師匠ってことか!? ヤベー! 俺も会ってみてぇ!」

「ククク、そいつぁ残念ながら、今すぐには無理なお話だ。俺のお師匠様がいたのは、この日本から見て地球の反対側にある、アメリカっつー国だ」

「はぁ!? そんなスゲー遠いことにいる人から、千空はどうやって科学を教えてもらって──って、そうか、ケータイ! 通信技術ってヤツだな!?」

「よくわかったじゃねぇかクロム、100億点やるよ。ただ、俺と師匠が使ってたのは、今俺らが作ってるような音声通信じゃなく、文字や映像をやりとりするタイプだった」

「スゲー! ヤベー! それはどういう仕組みで出来てるんだ!?」

「それはな──」

 あっという間にコアな科学談義に戻ってしまった千空とクロムをおいて、自身の仕事へ戻りながら、ゴーザンは己の“記憶”(アニメ知識)を思い返す。

(千空さんの師匠ってことは、多分重要キャラなんだろうけど……アニメにはまだ出てなかったよな?)

 ゴーザンが識っ(おぼえ)ているアニメのラストは、司帝国との終戦後に『これから俺らは大型帆船を造る!』と千空が宣言したところまでだ。

(あの後造った船で、師匠に会いにいくんかな?……っていうか、それより前に、司さんが氷月に刺されるの、どうにかして阻止してぇな。あれ、絶対(ぜってぇ)未来ちゃんのトラウマになんだろ)

 これから起こり得る悲劇を避けようと、ゴーザンはあまり性能のよくない己の頭を必死に回す。

 

 ──自身が何気なく投げた言葉が、これからの“物語”にどれだけの影響を及ぼすかなど、知る由もなく。

 




世界線変動:何気のないモブの一言が、千空のアイデアロールを発生させた。
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