小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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[正体]回の時もそうだったけど、科学王国民(今回は五知将)が集まるオリジナルシーン書く時、気をつけてないと、皆が勝手にしゃべり出して際限がなくなる……
めっちゃしゃべる……延々掛け合い始める……仲良いな君ら!


探知

『──12800000(メートル)、1second(セコンド)

「……さっきと同じ声だ。声の調子まで」

 一定周期で繰り返される“千空の声”による通信へ耳を澄まし、羽京は断言する。

「元ソナーマンの僕の耳にかけて、断定していいと思う。これは──ボーカロイドとかに近い、『声の不気味の谷』。合成音声だ」

 伝声管越しに報せを聞いた船員たちが、驚愕に沸く声が聞こえた。

 管制室内にいる面々も、各々の反応を見せる。

「どどどうやって石の世界(ストーン・ワールド)でそんなの……」

HOW?(どうやって)は今さほど問題じゃあないな、実際できているんだ」

 狼狽えたようなゲンの問いを、龍水がばっさりと切り、別の議題を提示した。

「それよりもWHY?(なぜ)合成音声で通信してきたかだ。そこから、WHO?(だれ)WHERE?(どこ)が炙りだせるかもしれん!」

「……なんで通信で、なんで千空ちゃんのマネをするか……その理由……?」

 首を捻るゲンに、腕を組んで考え込んでたクロムが、ふと閃いた顔で指を立てた。

「──イバラを石化させた時よ、()()()()()()で石化さしただろ。マネっつったら、それのマネなんじゃねぇのか?」

 確かに腑に落ちる解釈ではあるが、そうなると──

「頭いーのか()りーのか、よくわかんねー奴だな、ホワイマン。この超絶科学装置作った奴とは思えねーんだけど」

 ぼやくような陽の言葉の通りだ。

 通信者(ホワイマン)=制作者だと考えるには、あまりに石化装置(メデューサ)への理解度が低い。こちらが石化装置(メデューサ)をスピーカーに近づけない限り、その“起動ワード”は意味をなさないというのに。

「『ダメで元々』『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』のつもりなのかも知れねぇが……こっちにとっちゃぁ、これはチャンスだ」

 千空はそう言って、ニヤリと笑う。

「──手繰るぞ、この蜘蛛の糸。楽しい楽しい科学捜査、逆探知のお時間だ……!!」

 そうして、彼が用意したパラボラアンテナと、地球の自転により確保した基線長でもって、判明した()()()()()は──

 

「ホワイマンは──月面にいる」

 晩飯時、何でもないようにそう告げた千空に、船員たちが驚愕に凍り付いた。

「発信源は、月の動きとリンクして動いてる。まあ、間違いないね……」

 ソナーマンとして、千空と共に逆探知を担当した身として、羽京も言い添える。

「ソユーズが起こした武士──松風の情報提供で、島にあった石化装置(メデューサ)の出所が、()()()だってことは判明してた。まあ、それほど意外な結果じゃねぇ」

「──ありうるのか、そんなことが……!」

 けろっとした千空の言葉に、愕然とした声を上げたのは金狼だ。──無理もない、彼ら石化後世代(現代人)からすれば、天の月に()()()()などいう事態は、あまりにも信じ難いことだろう。

 いや、正直言えば、石化前世代(旧文明人)である羽京にだって信じ難いのだ。──かつての文明の技術力を持ってしても、最も近い天体であるはずの月も、人が生きて降り立つには、あまりに遠い場所だったのだから。

 ──しかし、科学は嘘をつかない。逆探知の結果は、確かに“月”を指し示していた。

「フゥン、あちらからの“敵意”は明白だ。無策で放置すれば、いずれ必ず滅ぼされるぞ」

 龍水の言う通りだった。

 12800000(メートル)、1second(セコンド)──範囲と時間を指定する、石化装置(メデューサ)の“起動ワード”。

 12800000(メートル)(イコール)地球の直径。この事実だけで、ホワイマンの“敵意”は明白だった。

「だが、月など……そんな場所では、私たちには手も足も出ないじゃないか……!!」

 半ば悲鳴のようなコハクの言葉に、いつの間にか一人食事を終えていた千空が、意味深な微笑みを浮かべる。

(──え、ちょっと待って、まさか……)

 羽京と同じく、それに気づいたゲンが、盛大に顔をひきつらせた。

「……待って待って待って、いやもうこれ悪い予感する。たぶ~~~~~~ん絶対当たるやつよコレ。この原始の石の世界(ストーン・ワールド)で──」

「──俺らは、月に行く!!!!」

 目を輝かせて、千空は、そう断言した。

「ククク、科学王国毎度おなじみ、地道に一歩一歩のクラフトで、ロケットを作る! 唆るじゃねぇか!!」

「いや、おなじみじゃないよ! これまでとまるで違うじゃないか、無謀さの次元がさ!!」

 反射のようなニッキーのツッコミ。それは間違いなく、皆の心の代弁だっただろう。

(……つ、つくれるものなの……? ロケットって……本当に……?)

 呆然となる羽京を余所に、いち早く立ち直ったらしいコハクが、不敵に笑った。

「ハ! だが、敵が月にいるとわかった今、再び()られる日を天命と待つほど、私たちは無欲ではあるまい……!?」

「はっはー! 俺たちは新世界で、空の星さえも欲しがろうと言うわけだ!!」

 すかさず、“無欲”という概念から最も遠い男も笑う。

「──ヤベー、科学、マジでヤベー……!!」

「ロケット作りなら千空の専門じゃないかーーー! よーし、何が必要なんだ、千空!!」

 言い出しっぺの愛弟子は、もう行く気になって夜空を見つめているし、幼馴染みの男は「材料さえ揃えば作れる」と信じて疑ってない様子。

(……これ、僕がおかしいの? 千空が凄いのはよく知ってるけど、さすがにこれは無謀じゃないの???)

 思わず縋るように周りを見れば、あの氷月とほむらでさえ、目を見開いて凍り付いているのが見えた。──よかった、ドン引いているのは自分だけじゃなかった。

 しかし、空気は読む能力はあるのに、それを平気で無視する科学少年は、いっそ楽しげな声で宣言した。

「世界中から素材かき集めんぞ!! 新世界月旅行プロジェクト、スタートだ……!!」

 

「──問題なのは、アメリカだ」

 さきほどまでの楽しげな様子とは打って変わって、深刻な声音で千空は告げた。

 あの後、「方針会議」との名目で、千空によってラボに呼び集められたのは、コハクが“五知将”と称した面々である。

「フゥン、その問題とは、以前ちらりと話に聞いた、Dr.Xとやらか?」

(ああ、そうか。龍水は、Dr.Xについての話、詳しく聞いてなかったんだ)

 龍水の言葉で、羽京は気づいた。

 ──モーターボートでモールス信号を受けた後の会議で、“容疑者”としてその名こそ出たが、「あれは復活者の仕業じゃねぇ」という千空の一言で、詳しく説明しないまま話が進んでしまったのだ。

「そ。千空ちゃんのロケット作りの先生で、当時現役のNASA職員だった科学者で──ジーマーでバイヤーなマッドサイエンティスト」

「……何?」

 ゲンの言葉に、龍水が片眉を跳ね上げる。

「当時まだ小学生だった千空ちゃんに、細菌兵器やらのバイヤーな話をふっては、せっせせっせと『科学でもって衆愚を支配しよう!』なんて危険思想を吹き込もうとしてた、ガチの人よ」

「いや、細菌兵器の話は中学ん時だっつったろ。小学生ん時は『ロケット=ミサイル論』を主に熱弁されてたわ」

「論点そこじゃないし、どっちにしろバイヤーだからね?」

 ボケた千空とゲンのやりとりに、龍水が真顔になった。──Dr.Xの危険度が、逆によく伝わったらしい。

「──千空、貴様、よく、その師の思想に染まらなかったものだな」

「それ、氷月のヤツにも言われたな。いや、単純にクソダセェだろ、『科学ができるヤツが一番エラ~い!』なんて考え方」

「──はっはー! なるほど、実に貴様らしい理由だな!」

 千空の返答に、龍水は笑う。──不敵な声色の中に、確かに安堵の気配が混じっていた。

「……Dr.Xは、俺の知ってる中で最もロケットに詳しいプロだが、同時に『既に自力で起きてた場合、クソほど厄介な人間』でもある」

 苦い表情で呻くように告げた千空に、龍水も苦い顔で頷く。

「……なるほど、貴様らの懸念がわかった。Dr.Xが、アメリカに“科学独裁国”を築いている可能性がある。そういうことだな?」

「そゆこと~」

 口調こそ軽いが、ゲンの声音にも隠しきれない苦さがある。

「──それでもよぉ、何だかんだ言っても、千空の師匠なんだろ? ちゃんと話し合えば、協力できるんじゃねぇのか?」

 口をへの字に曲げて黙っていたクロムが、そんなことを言った。

 千空の愛弟子である彼は、どうしても“千空の師匠”であるDr.Xを悪く思えないらしい。

(──クロムは、“細菌兵器”や“ミサイル”の恐ろしさを、知らないしね)

 彼は、千空の齎した、人を豊かにする“優しい科学”しか知らない。

 聡い子だから、科学に“危ない”側面があることは、重々理解しているだろうけれど──それが()()()()()()()()()()()()()()は、想像しようとしてもしきれないのだろう。

 だからといって、まっすぐに科学を信じている彼に、その()()()を具体的に説明することは──少なくとも、羽京には出来ない。

 きっと千空も、どうしても必要に迫られない限りは“したくない”と思っているのだろう。説明魔の気がある千空が、クロムに“細菌兵器”や“ミサイル”ついて語らないのは、そういうことだ。

「氷月のヤツだって、『石化現象の解明』って共通の目的で仲間になれたじゃねーか。Dr.Xだって、『打倒ホワイマン・ロケットクラフト』って共通の目的があれば、仲間になれるかもしれねーだろ」

「──うん、そうだね。それが叶えば、一番理想的なルートだね」

 熱弁するクロムに、羽京は笑顔で頷いた。

(けれど、逆に、最悪なルートは……)

「フゥン……楽観はできんな。最悪、あちらが千空を()()()かかってくる可能性もある」

「──ハァッ!?」

 ストレートにぶっ込んだ龍水の言葉で、クロムの声が裏返る。

「な、なんで、そんなことすんだよ! ロケット作るってんなら、絶対科学屋は必要になるじゃねーか! 千空みたいな優秀な科学屋を()()とか、非合理にもほどがあんだろ!?」

「──そう。ロケット作りに、旧文明を知る科学者の存在は必須だ」

 龍水は、重い声音で、最悪の可能性を告げた。

「だからこそ、この状況で()()()()()()()()()()()()()()()、俺たちも、Dr.Xに頼らざるを得なくなる。──誰も、奴に逆らえなくなるわけだ」

「──っ……」

 クロムの顔から血の気が引いた。

「クク、んな簡単にくたばってやるかよ。こちとら司に殺されたってしぶとく生き返った身だぞ。岩にしがみついてでも生き残ってやるわ」

「……お、おぅ……そ、そうだよな!」

 千空のフォローに、クロムはようよう頷く。しかし、その顔色は悪いままだ。無理もない。

「あぁ~~~、大丈夫よ、クロムちゃん! こっちの“科学使い”が誰だかわかんなきゃ、あっちも狙いようがないしね! 貴重なマンパワーは、あっちもできるだけ減らしたくないだろうし──」

 そんなゲンの言葉に、何故か千空の心音が跳ねた。

「──千空? なんで今動揺したの?」

「……あ゛~~~……」

 羽京の問いに、千空は気まずげに目をそらす。

「……一番、最初に、NASAにメール送った時……写真も、添付した」

「──は?」

 ゲンの喉から、聞いたことがないほどドスの利いた声がした。

「何それ聞いてない初耳まさか千空ちゃん顔割れてんの!?」

 一転してよく噛まないなという勢いでまくし立てる。

 千空は、表情を隠すように俯いて、か細い声で答えた。

「……ロケット挟んで……大樹も、一緒に……」

「──最悪の二乗じゃんッ!!!」

「……しっかたねーだろ! まさかこんなことになるなんて小三の頃の俺にわかるかよ!!」

 珍しく逆ギレのように叫ぶ千空だが、言ってる内容は尤もだ。

(NASAなんて公的機関にそんなマッドがいるなんて知る由もなかっただろうし、そのマッドに目をつけられるなんて思ってもみなかっただろうね……)

 ──ましてや、文明が滅んだ世界で、そのマッドと対立しかねない状況になるなど、想像の埒外だ。

 しかし、これは大分洒落にならない。千空の風貌はあまりにも特徴的すぎる。幼少期の顔しか知らないとは言え、相手に一目見られたら絶対()()()

「千空は、Dr.Xの顔はわからないの?」

「……もしかしたらコイツじゃねぇかなってヤツを、NASA行った時に見たこたぁあるが……」

「……会話はしなかったんだ?」

 羽京の問いに、千空は頷いて、

「無言で横に立たれたと思ったら、百夜が来た瞬間に去ってったからな」

「──不審者の極みッ!!!」

 ゲンの渾身のツッコミが響いた。

「いや、ぜっっったいソイツ! ソイツDr.Xだよ! 特徴! 特徴教えて千空ちゃん!」

「特徴ったって──」

 うんうんと唸りながら答える千空の言葉を、ゲンは真剣に書き留めている。

 ぽかんと呆気にとられているクロムの顔色は、いつの間にか元に戻っていた。

 状況は、何一つよくはなっていないのだけど、

(──何とか出来そうって、思える)

 この深刻になりき()ない空気こそ、きっと“科学王国”の強みなのだ。

 

  * * *

 

 ──ペルセウスは、日本に帰ってきた。

 素晴らしいお土産と、恐ろしい報せの両方を持って。




世界線変動:この時点でDr.Xの存在を科学王国側がバリバリ警戒している。

しばらく更新止まるかもです。具体的には、25巻出るまで。
アメリカ編を書くには、まだ筆者の中で、アメリカ勢のキャラの解析度が足りない気がするんですよ。
Dr.Xというか、その幼馴染みが掴みきれてない。
というか、今の解釈が正しいのか、新刊読んで確かめたい。
お前復活するんじゃろ!? 聞いたぞ!!
(単行本派だけど、SNS受動喫煙で彼の復活自体は把握している民)
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