(25巻読みました)
アメリカ編、始まります。
──モールス信号による、“WHY”の連呼。
一年前に受信したその信号は、唐突に始まり、唐突に終わった。さしものゼノでも、発信源を特定する間もないほどに。
しかし、それから十ヶ月ほど経過した頃、今度は誰かの“声”による通信が、定期的に発信され始めた。
──12800000
そのメッセージの意味は知れずとも、“12800000
そして、その“発信源”が“月面”だと特定できた時、事態は“不穏”などという言葉では収まらなくなった。
(──しかし、月面の“敵”に迫るには、現状、マンパワーが圧倒的に足りない……)
今、ゼノの元にいるのは、意志の力で3700年を越えた選りすぐりの英雄たちだが、その数は
いくらゼノの叡智があろうとも、これではロケット作成など夢のまた夢である。
しかし、それから更に二ヶ月後──事態は更に急変する。
“月面”からのものとは別に、明らかに“地球上”からだとわかる電波が、届くようになったのである。
西の海から段々と近づいてくる電波。それに乗って届いた“声”に、さしものゼノも絶句した。
『──これを聞いている、何百年後、何千年後のどなたかわかりませんが、私は、宇宙飛行士の石神百夜と申します』
懐かしい、声だった。
『千空、お前だろ──』
懐かしい声が、懐かしい名を呼ぶ。──ありったけの愛と、信頼を込めて。
『千空、もしもお前が、まだ
(──ッ!!!)
ゼノと共に通信を聞いていた面々は、その後に流れ出したリリアン・ワインバーグの歌声に気を取られていたが──ゼノは、それどころではなかった。
「──
百夜を含めた5人の宇宙飛行士と、同乗していた歌姫。その6人の子孫たちは、3700年以上も途絶えることなく、現在まで命のバトンを繋ぎ続けて来たのだ。
今、この音声を再生できているということが、何よりの証だ。百夜たちがどのようにして音源を遺したのかは察しがつくが、
そして、その継承者から、この宝を受け取れる資格者は、この世に一人しかいない。
(千空……! 君も、目覚めていたんだね……!)
千空。石神千空。石神百夜の息子で──ゼノの、愛弟子だった少年。
彼が3700年を越え、目覚めたことに、驚きはない。むしろ、得心だけがゼノの中にある。
しかし──
(──なんと、
千空の目覚めたこの世界に、彼の最高の庇護者であった百夜は、もういないのだ。
──ゼノにとって千空は、“かつての己の鏡写し”だ。
好奇心に駆り立てられるまま、どこまでも自由に、世界の謎に挑み続ける子ども。
しかし、ゼノ自身はいつの間にか、そんな“子ども”ではいられなくなってしまっていた。
世の理不尽さを、人間の愚かしさを、嫌と言うほど思い知って。あらゆる
だから、せめて
──君は縛られるべき存在ではない。むしろ、世界を、他者を統べるべき存在なのだと。
けれど、千空は全く聞く耳を持ってくれなかった。「興味がない」の一点張りで、どれだけ言い聞かせても、まるで手応えがない。
ゼノが『そもそも千空には
「──ゼノの話にいっさい共鳴しないわりに、ゼノのことをおっかながってもいないんだ? 変なガキだね」
共鳴できない以上、ゼノの言葉は、さぞ恐ろしい危険思想にしか聞こえないだろうに、それでも千空は、ゼノとのメールを止めようともしない。──ゼノのことすら、
これだけ聡明だというのに、どうしてそんなに他者への警戒心だけが異様に鈍いのか──千空の在り方へ抱いた疑問の答えは、大分後になってから、思わぬ形でゼノの前に現れた。
宇宙飛行士候補生としてNASAへやってきた、石神百夜。──その男が、千空の父親であると知れた時、
(──この男の庇護下でなら、
そう、ゼノは納得したのだ。
情緒と合理性という矛盾した概念を、笑いながら両取りするような男だった。──圧倒的な光量と熱量で、周囲の理不尽を灼き尽くす、恒星のような人間。
あの男の
千空を“子ども”のままでいさせてくれる絶対の庇護者は、とっくの昔に喪われてしまった。
(──千空も、僕と同じ“絶望”を、知ってしまったのだろうか)
そんな恐怖に駆り立てられるように、ゼノは海からの電波に周波数を合わせ、通信を繋ぐ。
「──こちら、アメリカ合衆国カリフォルニア州サクラメント地区。聞こえているかい? 聞こえているなら、そちらの所属を教えて欲しい」
レコードの百夜の音声に合わせ、まず日本語で語りかけた。これで応答がなければ、英語で繰り返すつもりだったが──
『──こちら、日本発、
日本語による若い男の声での応答。その内容に、ゼノは一瞬呆け──次いで、大笑する。
「──科学王国! なんて
『その通りだ。そういう貴様は、Dr.Xか?』
「そうだよ。僕がDr.Xだ。本名はゼノ・ヒューストン・ウィングフィールド」
『俺はペルセウス号船長、七海龍水だ』
通信相手をてっきり千空本人だと思っていたゼノは、返された名乗りに、二重の意味で驚いた。
「……ナナミだって? 日本の財閥の?」
『確かに俺の生家はその七海だが、俺が今この船をあずかっているのは、
はっはー! と快活に笑い飛ばされて、ゼノもその通りだと苦笑する。
「千空は? まさか、船に乗っていないなんてことはないだろう?」
『もちろん乗船している。しかし、奴に通信を替わる前に、断っておくべき事がある。──定期的に
「ああ、こちらでも把握しているよ。月からの電波だろう?」
『あの通信の主は、千空の“声”を、無断で借用しているんだ』
「──あれは合成音声か! 道理で、不自然なほどに調子が一定な訳だ」
『話が早くて助かる。──最初のモールス信号を受けた時、千空が珍しく逆上してな。通信機のマイクへ、啖呵を切ってしまったんだ。その時に、声のサンプルを
「──ああ……」
無理もない、と思う。──千空からすれば、まさに“親の仇”だ。逆上くらいするだろう。
「……“声”の事情は把握したよ。千空に替わってくれないかい?」
『わかった。少し待て』
しばしの間の後、その声がスピーカー越しに聞こえた。
『──よう、こうして話すのは初めてだな、Dr.X。お師匠様と呼んだ方がいいか?』
例の定期通信と同じ──しかし、ずっと不敵な響きの声。
「──そうだね、改めて初めまして、千空。それとも久しぶりと言うべきかな? 僕のことは、ゼノでいいよ」
『じゃあ、遠慮なくそう呼ばせていただくわ、Dr.ゼノ』
ドライではあるが、不思議と冷たさを感じさせない声音が、本当に遠慮のない日本語を紡ぐ。
「君が起きていたことに意外さはないけれど、よくまあ、大型船を作れるほどの人手を確保できたものだね。百夜たちの子孫は、そんなに繁栄していたのかい?」
『んな
「──
『……あ゛ん?』
千空の言い方に引っかかりを覚え、思わず繰り返せば、怪訝そうな声が返される。
『──おい、まさか……テメーんとこにいるのは、全員が全員、硝酸による自力復活者か!?』
その問いの奥にある事実を察して、ゼノは思わず快哉を叫んだ。
「──君は既に開発済みなのだね、意識を失った石像さえ復活させる術を! この前人未踏の科学の一端を、君は師である僕よりも先に解明したんだ! まさに『青は藍より出でて藍より青し』! 実に
『……電波に乗せたくねーから、その手段については、直接会った時でいいか?』
「──ああ……そうか。そうだね。確かに、そうすべきだ」
言外に“月”の住人の“耳”を警戒する千空の言葉に、ゼノは自分の知的好奇心を、何とか抑え込む。
『……しっかし、よくもまあ自力復活者だけで、電波使えるとこまで……俺からすりゃあ、そっちのがスゲーわ。よく人手が足りたな、おい』
「──ハハ! 単にタイミングが良かったのさ! 石化当時、僕の周りには、僕の幼馴染みを筆頭に、軍の特殊部隊の精鋭たちが揃っていてね。『石化しても意識を落とすな、保て』と、寸前に指示出来たのも大きい」
賛美を含んだ驚嘆の声に、ついつい自慢するような声になってしまう。
「ツバメの石像の調査で『石化してもしばらくは脳波がある』ということは判明していたし、硝酸に反応することもわかっていたんだ。それで
『……はー、脳波か、俺にゃあ出来なかったアプローチだな。一介の高校生にゃ、さすがに脳波測定器のアテはなかった』
「だから、何度もこっちの大学においでと言ったのに」
『うるせー、後悔はしてねぇよ。俺までそっちにいたら、日本の自力復活者が詰んでたわ』
「おや、君以外にもいたのかい?」
『おう、俺が把握する限り、一人だけだがな。テメーも
「……もしかして、ロケットの写真に一緒に写っていた子かい?」
『大正解、俺の幼馴染みの大樹だ』
今度は、彼の声が自慢げになる。
『雑頭だが、根性と体力と丈夫さはピカ一でな。あいつも俺がいなきゃ詰んでただろうが、逆に、俺もあいつがいなきゃ詰んでた。百夜の置き土産と出会えもせず、そのまま野垂れ死んでただろうよ』
「──そうか」
『一緒に来てるからよ。そっちについたら、会ってやってくれ』
「ああ、楽しみにしているよ」
『──っと、悪いが、そろそろ切るぜ。航海中は何かと仕事が多くてな』
「わかった。着く頃になったら、また連絡を」
『ああ、またな、師匠』
そうして、愛弟子との通話は切れた。
(……千空は、
短いやりとりだったが、ゼノがそう察するには十分だった。
──百夜の庇護は、未だ、千空の世界を優しく守り続けている。おそらくは、彼の子孫たちが、その庇護を引き継いだのだ。
けれど、それも──
(もう、長くは続かない……)
皮肉にも、千空自身が見つけた新作の科学が、その優しい世界を破綻させる。
──石化した衆愚が目覚めていくにつれ、ゼノを“絶望”させたかつての世界へ
(──みすみす、繰り返させはしない)
己が覚えたあの“絶望”を、千空に覚えさせないために──
(僕が──あらゆる咎を、血を、被ろう)
──そんな仄暗い決意が、ゼノの胸に宿った。
* * *
「──『ど~んなもんよ、千空ちゃん?』」
マイクを置き、悪い笑みで振り返ったゲンに、千空が凄まじい顔をした。
「
「頑張ったのにドイヒー!!」
(いや、千空さんの気持ちは、スゴいわかる……)
素の声で喚くゲンには悪いが、確かに
Dr.X──ゼノと通信機越しに会話していたのは、千空の声帯模写をしたゲンだった。
龍水と替わって通話に出ようとした千空へ「交渉事や誘導尋問は俺の仕事でしょ♪」と言って、そのままマイクを奪い、結局本人に一言も口を挟ませなかったのだ。
「──まあ、あっちに復活液がねぇってわかっただけでも大収穫だ。見事な誘導尋問だったな、100億万点やるよ」
「わ~い、やった~!」
ククク、と笑いながらの千空のお褒めの言葉に、泣き真似していたゲンがぱっと笑顔になった。
「しかし、アメリカ軍の特殊部隊か……それがDr.Xの科学力で武装していると考えると、恐ろしい脅威だよ」
「──うん」
羽京の言葉に、司も深刻な表情で頷く。
「その辺は、復活液のレシピっていう秘密をチラつかせて、できるだけ武力行使させないように持ってくしかねぇな」
「それって結局俺の仕事よね?」
「頼りにしてるぜ、メンタリスト」
「人使いが荒い!! やるけども~!」
文句こそ言うものの、千空に頼られて、ゲンは若干嬉しそうにも見える。
(──いや、余裕~……)
頼もしい、とは思いつつ、苦笑してしまうゴーザンだった。
世界線変動:アメリカ大陸につくより先に、ゼノと通信でコンタクトする。
25巻を読んでも致命的な解釈違いは発生しなかったので、書き溜めてた分を放出。
↓筆者の個人的なアメリカ幼馴染みコンビの解釈↓
ゼノ:千空とメールを始める以前から、ずっと静かに発狂中。本来は“自由に科学がしたい”だけなのだが、「“自由に科学する”ためには、“独裁”するしかない」という“強迫観念”に囚われている。止めるためには、まず発狂状態を解かなければいけない(要・精神分析)。まだギリギリ正気度0ではない。
スタン:ただひたすらに“自由に科学していた頃のゼノ”を取り戻したい。それ以外のことは全てが些事。別に発狂しているわけではなく、素でそういう気質。現状「“自由に科学する”ためには、独裁するしかない」というゼノの言葉を信じて行動しているため、“ゼノの独裁”を邪魔するものは、問答無用で排除にかかる。ゼノに制止されるか、“自由に科学していた頃のゼノ”を取り戻せば、止まる。
つまり、
ゼノを精神分析(説得)しようとすると、スタンが妨害(射殺)してくる。
スタンの妨害(射殺)を止めるには、ゼノを精神分析(説得)しなければいけない。
出口のない無限ループの完成である。
どんな無理ゲー? どうあがいても物騒……穏便に済ませられない……
せめて、せめて、被害規模だけは原作より小さくする……(小声)