小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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スタンリーからゼノへのクソデカ感情の描写がありますが、筆者にはBなLや腐った方向の意図は特にないです。


工作

 スタンリーにとって幼馴染みのゼノは、道行きを示す“北極星(ポーラスター)”だった。

 スタンリーは、何でもそつなくこなせる子どもだった。勉強も、運動も、そして、射撃も。特に努力などしなくても、何だって人並み以上に出来た。

 それが当たり前で、だから、スタンリーはずっと世界に退()()していたのだ。

 その退()()を吹っ飛ばしたのが、ゼノだ。

 スタンリーには訳の分からないことを高速でまくし立てて、スタンリーには理解できない代物を作り上げて、スタンリーの知らない世界を見せてくるヤツ。それが、ゼノだった。

 ゼノはいつも目をキラキラさせて、世界を見ていた。夢中で世界の秘密を追いかけていた。彼の世界は、スタンリーのそれよりずっと広くて、ずっと不思議に満ちていたのだ。

 ゼノと出会ってから、スタンリーは退()()を覚えている暇なんてなかった。ずっとずっと目まぐるしくて、ずっとずっと楽しかった。

 なのに──

 いつからだろう。いつから、おかしくなったのだろう。

 ゼノの目が、輝きを失った。ゼノの口が、世界への呪詛を吐くようになった。

 誰が、ゼノから輝きを奪った。誰が、ゼノに世界を呪わせた。

 相手が誰であろうが、スタンリーはすぐにでもソイツを殺してやるつもりだったのに──自分が刑務所に行ったら、ゼノを一人にしてしまうと、気づいてしまった。

 捕まらなきゃいいんじゃないかとも思ったが、「万一ヘマをしたら」と思ったら動けなくなった。

 ──今にもこの世界を見限って、()()()いってしまいそうなゼノから目を離すのが、何より恐ろしくて。

 だから、スタンリーは出来うる限り、ゼノの側にいることを優先した(えらんだ)のだ。

 そうして、ずっとゼノを見ていて──ある時、ゼノが、少しだけ調子を取り戻す出来事が起きた。

「──スタン、聞いてくれ! とてもElegant(エレガント)な子を見つけたんだ!」

 てっきり好きな女でも出来たのかと思ったら、違った。

 メール越しに同好の士と出会ったらしい。かつてのゼノのような、科学少年。日本の小学生──千空。

 会う度ソイツの話をされるようになって、さすがに少々辟易したが、話すゼノの顔が昔みたいに楽しそうだったから、スタンリーも嬉しかった。

 ──でも、ゼノの目は、やっぱり、どこか昏いままで。相変わらず、思い出したように、世界への呪詛を吐く。

(──ゼノを絶望させるような世界なんぞ、いっそなくなっちまえばいいんだ)

 そんな風に思っていたら、本当にそうなってしまった。

 ──唐突に、人類はみんな石化した。

 いや、一応前兆はあった。ツバメの石化だ。ゼノがその謎に挑みかけていた時に、人類も石化させられてしまったのだ。

 ゼノがツバメを調べていてくれたおかげで、スタンリーと、スタンリーの部下たちは、「意識を保ち続ける」という、復活のための(キー)をずっと握りしめていられた。

 そして、長い永い時間が経って、スタンリーたちが石化から解放された時、世界はすっかりリセットされていたのだ。

 新しい世界には、誂えたように、ゼノにとって必要なモノが揃っていた。

 スタンリー。スタンリーに忠実で優秀な部下たち。アメリカ大陸の豊かな資源。更に、目覚めた民間人が守り抜いたプラチナのリング。

 ゼノは「もうこれで、誰にも脅かされることなどない」と笑った。

 ──なのに、その目は、何故か昏いまま。

(──何が足りない?)

 スタンリーは自問する。ゼノの目が再び輝くために、あと何が要る。

(……まだ原始的な世界だから、ダメなんかな)

 かつてのように、宇宙を、原子を、好きに覗ける文明を取り戻し、その世界を支配する身になれば。

 そうなれば、ゼノはまた、昔のように目を輝かせてくれるはずだ──そう、スタンリーは()って。ゼノの指揮に従い、文明復興に尽力した。

 そうして、ついに電波まで使えるようになって──それをきっかけに、月に“敵”が居ることが判明した。

 さすがのゼノも渋い顔をしたし、スタンリーもこれには参った。現状、月の“敵”をぶっ飛ばせる武器がない。そして、それを作れる人手もない。

 けれど、更にしばらくして、西から良い報せがやってきた。

 千空──ゼノの愛弟子が、日本で目覚めて、デカい船をこしらえ、こっちに向かって来ている。

 しかも、千空は、“眠ってしまった石像”を()()()()()手段も、既に見つけているらしい。これで、人手の問題が解決する。

 なのに、ゼノは、嬉しそうじゃなかった。

「──千空は、きっと、僕の“独裁”を受け入れてはくれない」

 そう、ゼノは言った。

「あの子はずっと()()だった。きっと、今も変わっていない。──このままでは、あの子も、いつか絶対、僕のような思いをする……!」

 語るゼノの昏い目には、まざまざとその姿が見えているのだろう。──今のゼノのように、昏い目をした、愛弟子の姿が。

「そんな、そんなこと、無理だ、耐えられない……! そうなるくらいなら、いっそ、その前に、優しい世界しか知らないうちに……!」

「──わかった。まかせときな、ゼノ」

 ゼノがそう望むなら、スタンリーはそれを叶える。

(ゼノの独裁を受け入れて、ゼノの庇護下で生きるなら、千空を殺す必要はない)

 けれど──

(千空が、ゼノの独裁を拒んで、ゼノの庇護下から出て(絶望への道を)行くってんなら──)

 ──その時は、そのまま()()()()やる。

 ゼノの心を守る、そのためだけに。

 

 ペルセウス号到着直前の通信時に、色々と取り決めをした。

 お互いのリーダー同士の話し合いは、ゼノの城で行う。その時、千空側は、千空を含めた4人の使者を出す。

 代わりに、ペルセウス号へ、ゼノ側から同じ人数を預けていく。──まあ、平たく言ってしまえば、安全保障代わりの人質だった。

 そうして、サクラメント川の河口に到着した千空の船は、スタンリーの想像よりずっとデカくて──スタンリーの想定よりずっと()()()な格好だった。

 まさかの非武装。主砲どころか小火器の類さえついていない。もうこれだけで、千空のスタンスが見えるようだった。

 その船から下りてきたのは、4人。──事前の通信で互いに取り決めていた通りの人数。

「──よう、顔を見るのはこれで二度目だな、Dr.ゼノ」

「おお! 覚えていてくれたのかい、千空! NASAでのあの短い邂逅を!」

「まあな」

 出迎えたゼノへ、ニヤリと生意気そうに笑うガキ。

(こいつが、千空……)

「紹介するよ、千空! 僕の幼馴染みのスタン、スタンリー・スナイダーさ! 頼もしい僕の騎士(ナイト)だ!」

「よろしく」

 ゼノの紹介に合わせて適当に挨拶しながら、スタンリーは、千空と、その連れを観察する。

 千空は、わかりやすく室内育ちのヒョロガリだった。この石の世界(ストーン・ワールド)での生活で、最低限の筋肉だけはつきました、という体つき。

 ──しかし、ゼノの愛弟子だというだけで、その頭脳は最大の警戒に値する。

「ほーん。俺の幼馴染みはこいつだよ。大樹、大木大樹」

 千空が横に並んだ青年を親指で指し示して、そう言った。

 大樹は、日本人にしては随分とガタイの良いガキだった。タフそうな体つき。しかし、攻撃性の欠片もない気配に、これは“戦えない子ども”だと一目で知れた。

 自身が紹介されたと察した大樹が、身体に見合ったデカい声で、日本語を紡ぐ。通訳されなくとも「はじめまして」の挨拶だとわかった。会えて嬉しいと全力で告げる、警戒心0の明るい笑顔。

「で、こっちはインチキマジシャンのゲン。英語がさっぱりな大樹用の通訳だ」

「も~、千空ちゃん! インチキはやめてって言ってるでしょ~?」

 千空の紹介に文句をつけたのは、若い男──東洋人(アジアン)の年齢はわかりにくいが、おそらくは成人。

 男はすぐにこちらへ笑顔を向けて、パッとその場に花を散らして見せた。

「日本でマジシャンやってた、あさぎりゲンで~す! 一時期アメリカでマジック修行もしてたので、そこそこ英語わかりま~す! シクヨロ~♪」

(──なるほどね。服の下に色々仕込んでんのは、マジックのタネか)

 手を見ればわかる。こいつも“戦えない”タイプの人間だ。

「で、最後が、司だ。こいつも英語で話せる」

 最後に紹介されたのは、一目で“ヤバイ”とわかる男だった。

 こいつも若い、成人してるかどうかという年頃。しかし、完全に戦士として完成された、大樹以上に日本人離れした体躯だった。何より、まとう気配が明らかに()()

 司は、千空の言葉に合わせてゼノへと目礼するも、無言のままスタンリーへ視線を()()()。──最初からずっと、司は、スタンリーを警戒し続けている。

 ──スタンリーがゼノの騎士(ナイト)なら、こいつが千空の騎士(ナイト)だ。

(……強い、なんて次元じゃねぇな、このガキ。何モンよ)

 スタンリーの内心の疑問に答えるように、連れてきていた部下が、驚愕の声を上げた。

「──ツカサ……!? 格闘チャンプの獅子王司!?」

 その言葉を聞いて、千空は面白がるように司を見る。

「さっすが有名人だなぁ? “霊長類最強”様よぉ」

「うん、みたいだね。名声に興味はなかったけど、君の護衛役としての箔になるなら、悪くはないかな」

 内輪での会話だからか、彼らの言葉が日本語に切り替わった。──日本語の分かるゼノが、通訳内容をスタンリーへ囁く。

「護衛役、ねぇ……たとえ猛獣が出ようが、アメリカ軍の精鋭様たちが一緒だぞ? テメーがわざわざついてくるこたぁねーと思うが……」

「千空。君はもう少し、“科学王国”のトップだという自覚を持つべきだ」

「それは俺も同感」

 首を傾げる千空を司が窘め、ゲンがそれに乗っかった。

「あと、千空ちゃん個人じゃなくて、“科学王国”としての体裁ってモンもあるの」

「──そういうもんか」

「俺に難しい話はわからないが、司が一緒に来てくれるのは頼もしいぞ!」

「……うん。ありがとう、大樹」

 千空は気のない様子でゲンの言葉を受け入れ、満面の笑みで言う大樹に、司が苦笑する。

 完全に、千空と大樹(無垢な子ども)を、ゲンと司(若い大人)がお守りしている構図だ。

(──こんなガキがトップで、よくこれまで保ったな……)

 いや、()()()()きたのか──このお守り二人が。そして、千空を始祖の“愛し子”と尊ぶ、宇宙飛行士の子孫たちが。

 ──なるほど、ゼノの言う通り、千空の立ち位置は酷く危うい。

「──随分と仲がいいんだね。石化前からの付き合いなのかい?」

「いや、石化後からだな。司とゲンは、石化前からの顔見知りらしいが」

「日本のバラエティ番組で共演したことがあってね~」

 笑顔で問いかけたゼノに合わせて、千空の言葉が英語に戻った。ゲンが笑顔で補足を入れる。

「では、どういうきっかけで、彼らを起こしたんだい?」

 ゼノの問いに、千空は遠い目をした。

「まだ俺と大樹の二人しかいなくて、石器しか武器がねぇ時に、ライオンの群と遭遇しちまってな……」

「ライオン!? 日本で!?」

 ゼノの声がひっくり返る。

「ああ。大方、動物園から逃げたヤツの子孫が、うまいこと日本に適応しちまったんだろうな。──で、一か八かで、この霊長類最強様を起こしたんだよ」

「うん、懐かしいね。ボスを倒したら、素直に退いてくれて助かったよ」

「……起き抜けに、素手で、テメーはいっさい無傷のまま、ライオン一頭倒せる時点で、おかしいんだがな」

「千空の状況説明がよかったおかげだよ」

(……マジの化け物(モンスター)じゃん、このガキ)

 さすがのスタンリーでも、ライオンと素手でやり合って、無傷で勝てる自信はない。

 ──司は、人型の猛獣(ライオン)だと考えるべきだ。知恵も利く、恐ろしく厄介な獣。こちらに銃があり、あちらが無手であろうと、油断していい相手ではない。

 この時点で、スタンリーの中の最優先警戒対象は、司になった。

「そして俺は司ちゃんによって、便利な工作員(エンジニア)として起こされたのでした~。も~、千空ちゃんに言われるままに、電池やら何やら細かい部品を、何千個作らされたことやら……」

 そう言って、わざとらしい泣き真似をしたのはゲンだ。──まあ、手先が器用でなければ、マジシャンなんて出来ないだろう。細かいパーツ作りの人選としては、妥当かもしれない。

「──なーんてね! 身内ネタで盛り上がっちゃってメンゴ~! 後ろの人たちが、うちの船の“見学者”だよね?」

 両手で顔を覆った一瞬で表情を笑顔に切り替えたゲンが、“見学者”へと話を振った。

 ペルセウス号の“見学者”──ゼノ側から出す、安全保障代わりの人質。

「──ル、ルーナ・ライトです。よろしく……!」

「カルロス・バリオスだ。ライト家の運転手(ドライバー)

「マックス・アダムス。ルーナお嬢の護衛(ボディガード)だ」

 4人の内、以上の3人は民間人──言ってしまえば、ゼノやスタンリーにとって()()()()()()()()人間だ。

 最後の一人はスタンリーの部下だが、いざという時は「一人で脱出しろ」と命じてある。

「英語通じねーヤツの方が多いが、出来るだけ不自由はさせねーよう言ってある。美味いもん用意してあっから、それ食ってくつろいで待ってろ」

「は、はい……!」

 雑な口調で告げる千空を、何故かルーナはキラキラした目で見つめている。

(──ティーンにありがちな一目惚れかね?)

 顔立ち云々より先に、独特すぎる色彩が目に付くが、千空の見目は悪くない。これに“日本を復興させた天才少年”という箔がつけば、夢見がちな乙女が熱を上げるのも当然かも知れなかった。

(ま、千空がゼノの“独裁”を拒絶したら、残念ながら、その恋もそこで強制終了だがね)

 ──千空の命と、一緒に。

 

  * * *

 

「──あっちのホームに出向く“使者組”に、Dr.ゼノ側の注意(関心)を、できるだけ集中させちゃおう」

 それが、ペルセウス号を守る最善手になる──そう、ゲンは告げた。

「まず、千空ちゃん。これはどうしようもないね。Dr.ゼノからすれば、最大の関心事だもん」

「だろうな」

「次に、大樹ちゃん。千空ちゃんと一緒に顔が割れてるからね」

「──チッ」

 自分の時はあっさり頷いたのに、大樹の名が出た途端に舌打ちする千空。

(──危ないところへ、幼馴染みを付き合わせてしまう自分に、腹を立ててるんだろうなぁ……)

 ゴーザンにわかることが、付き合いの長い大樹にわからない訳がない。

「気にするな、千空! 俺はむしろ、お前と一緒に行動できて嬉しいぞ!」

「うるせぇ黙れ雑頭」

 笑顔で言い切る大樹へ、千空は悪態をつくが、それには見ている一同をほっこりさせる効果しかなかった。うちの王様がこんなにツンデレ(かわいい)

「……で、更に、相手の注意(警戒)を集中させる見せ駒として──」

「──俺だね?」

 ゲンに皆まで言わせず、司が名乗る。

(“霊長類最強”が、見せ駒……)

 何という豪華な“囮”だろうか。

「そ。──で、最後に、“大樹ちゃんの通訳”っていう、相手に警戒されない名目で、俺」

「……ゲン。君である必要が?」

「代わってもらえるものなら代わって欲しいけどね~。残念ながら、この役は俺にしか出来ないのよ~」

 案じるような羽京の問いに、ゲンは態とらしく(おど)けながらも断言する。

「俺なら、服の下に仕込みしてても『マジシャンだから』で済むからね~。たとえボディチェックされても巧く誤魔化して、“本命”だけは守り通す自信もあるよ~」

 いつものヘラヘラした笑みのまま、その目に、確かな決意を宿して──

「だから──いざという時の“切り札”を、俺に預けてよ」

 ──科学王国の“切り札(ジョーカー)”は、そう告げた。




世界線変動:邂逅初手マシンガンルートはなくなる。

engineer(エンジニア)
=(物品)を工作する、(陰謀など)をたくらむ
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