武装にゴリゴリ偏ってる科学独裁国
(自身の有利を疑っていない)
VS
それをメタ読みした防御特化科学王国
(攻撃しないとは言っていない)
レディ、ファイッ!!
「──“城”って、比喩表現じゃなくてジーマー城だったの!?」
車が進む内に見えた“城”に、日本から来たというマジシャン──ゲンが裏返った声を上げた。
「うわー……これは、日本じゃまず
「──ああ、そうか。地震大国だもんな」
「そ。復活してからも、小さいのは既にちょいちょいあったし、いつ大きいの来るかわかんないし。薬品の管理も気をつけなくちゃいけなくてさ~」
運転しながらのブロディの言葉に、後部座席からミラー越しに頷くゲン。
と、ゲンの隣に座っているガタイのいい少年──大樹が、不思議そうな声を上げながら首を傾げた。
そんな大樹に、苦笑したゲンが、ブロディにはわからない言語──日本語で話し始める。この車内で、英語と日本語の両方がわかるのは、ゲンだけなのだ。
──ゼノは、四人乗りの車を二台用意していた。
ブロディの運転する車に乗っているのは、ゲンと大樹の二人。残りの
そちらの運転手は、スタンリーではなく、まさかのゼノである。
(──いざという時のために、『スタンリーの手を空けておきたい』って理由なんだろうがな)
今頃スタンリーは、ゼノの横で、後ろに乗った
そして、その司の方も、スタンリーをバリバリに警戒していた。──おそらく、あちらの車内の空気は、最高にヒリついている。
(──いや、あのゼノのことだから、気にもしねーで、弟子に科学談義ふっかけてるか?)
弟子──千空が、それに乗っかった場合、車内は大分
と、大樹がデカい声で、ブロディへ何かを言った。
「『あんなに大きな城を建てられるなんて、あなたたちはスゴいな!』だって」
「──そうか。褒めてくれて、ありがとうよ」
ゲンの通訳にそう返せば、大樹が嬉しそうに破顔した。──さすがに、『
(……素直な坊主だ)
しかし、彼が“
この車の行き先は、場合によっては、彼らにとっての地獄の入り口となるのだ。
(俺も
──彼らが素直に、ゼノに従ってくれることを、祈るしかなかった。
ブロディにとって楽しくも憂鬱なドライブは終わり、一同はサクラメント地区の城へと到着した。
もう一台の車から降りてきたゼノと千空は、応接室に向かう間も、ブロディには(言語ではなく内容自体が)全く理解できない話を高速で展開していた。スタンリーと司は、若干疲れた顔。
(……
そう、ブロディは苦笑したが、暢気にしていられたのはここまでだった。
応接室には、テーブルを挟んで、二人掛けのソファが二つ。人数に対して明らかに席が足りないが、それで十分だった。
ゼノが腰掛けたソファの左右に、スタンリーとブロディが立つ。
対面のソファに、千空と大樹が並んで座る。千空の横に司が、大樹の横にゲンが立った。
「──さて、本題に入ろうか」
「ああ」
さっきまで科学のマシンガントークをしていた師弟は、別人のように静かに見つめ合う。
「対ホワイマン同盟を結ぶにあたって、お互いに望む条件は何か、お話し合いと行こうじゃねぇか」
ニヤリと大きく口の端を吊り上げて、千空は告げた。
対するゼノは、小さく、しかし不敵に微笑む。
「僕らが君たちに望むものは、一つだよ。──僕らの軍門に下りたまえ」
──その言葉に合わせて、ブロディは懐から銃を抜いた。
「──動くなよ、ライオン野郎。あんたの
そう言って司を牽制するスタンリーの銃口は、ぴたりと千空の頭に向けられている。
ブロディの銃口は司へ。──この男が、一番危険なのだ。
「──ひ、ひぇぇ……ッ!」
と、そこで上がる、裏返った悲鳴。
声の主はゲンだった。腰でも抜かしたのか、その場でへたり込み──這うようにして、一番近い遮蔽物の影に入り込む。
──千空たちの座ったソファの後ろに。
「──自分の
「俺は絶対死にたくないの!!!」
思わず声に出してツッコんだら、開き直ったようなゲンの声が返ってきた。
そこに響く、ククク、という含み笑い。
「こいつは、俺との初対面で、堂々と『俺は自分が一番カワイイ』って宣言しやがった、クッソ正直な蝙蝠野郎だぞ。何言おうがそこから出て来ねぇだろうよ」
盾にされることにも、銃口が向けられることにも、まるで頓着せずに不敵に笑う少年王──千空。
「──へぇ? じゃあ、ちょっと脅したら、簡単に色々
「
スタンリーの言葉へ、司が突き放すような口調で告げる。
「そちらが知りたいのは、“眠ってしまった石像の起こし方”だろう?──“それ”を知る人間は、“科学王国”でも限られている」
怯えの欠片もない、恐ろしくしっかりした声音。司もまた、向けられた銃口など意にも介していないのだ。
「大樹を筆頭に、絶対に“千空を裏切らない人間”だけが、その情報を共有している。──武力で脅そうが、餌で釣ろうが、無駄だよ」
司の言葉の正しさは、大樹を見れば知れた。
──彼は、こちらが銃を見せた瞬間から、それまでの明るい笑顔を消し、強い意志を宿した眼差しで、スタンリーを見ている。
より正確には、銃を持つスタンリーの右手の人差し指を、じっと注視している。
その指が動く気配を察した瞬間、彼は迷いなく千空を庇うために動くのだと──言われるまでもなく、その覚悟が知れた。
(──ガキに出来る覚悟じゃねぇぞ……)
司はわかる。元々がプロの格闘チャンプだ。そりゃあ、肝も据わっているだろう。
千空も、まだわかる。
しかし、
「こっちがそっちに望む条件は、一つだ。──武力支配の禁止」
向けられた銃口を丸きり無視して、千空が“話し合い”の続きを述べる。
「俺たち“科学王国”と、“
──それは、つまるところ、
「──それは事実上、これから“復活する”人間全てに対する『武力支配の禁止』じゃないか」
「ああ、そう言ってんだよ」
呆れたようなゼノの言葉に、千空はどこまで不敵に頷く。
「──状況理解してんのか、クソガキ。そんなに撃ち殺されてぇの?」
「千空を撃った瞬間、“科学王国”は“石化復活技術”について口を閉ざすよ。永遠に」
ドスが利いたスタンリーの言葉に、司がそう断言する。
(──あっちは『これで膠着状態に持ち込んだ』って思ってるのかも知れねぇが……)
残念ながら違うのだと、ブロディは知っている。
城の外から響く、轟音。──エンジン音。
「交渉の仕方を変えよう。──帰るべき“船”を
「……今のエンジン音は、戦闘機か」
ゼノの言葉に、千空は溜息をこぼすように呟く。
「──こっから“船”まで、直線距離で、
「おお、直線ではない陸路の移動だったというのに、ほぼ正確な数字を割り出すとは、流石だね、千空。──もし、君たちが“船”と連絡を取れるにしても、今からでは、到底逃げ切れる距離ではないだろう?」
「まあ、そもそも逃げる必要はねぇがな」
ゼノの言葉にも、千空はなお不敵なまま。
「──フカしてんじゃねぇぞ! お前らの“船”は、丸きり非武装だったじゃねぇか! どうやって戦闘機と
思わずブロディが横から投げた言葉にも、しかし、千空は無言で口の端を吊り上げるだけ。
(──ハッタリか……?)
いや、それでどうにかなるような状況ではない。──何か、とんでもない隠し玉が、“船”にあるのか。
ブロディから逸らされた深紅の眼差しが、真っ直ぐにゼノを射抜く。
「──Dr.ゼノ。テメーが『“武力独裁”はしない』と
「……そうか」
諦念の溜息のような、ゼノの声。
「──なら、
その言葉が、“合図”だった。
──銃声が、立て続けに響く。
すべては、一瞬だった。
スタンリーの指が動くより先に、司が千空の前に立ち塞がる。──瞬間移動のような、超人的な速さだった。
銃弾を立て続けに受けてなお、司は立ち続けた。
スタンリーの銃の弾が尽きても──彼自身の命が尽きても。
──まるで日本の昔話の
「──チッ」
スタンリーは立ったまま絶命した司を蹴倒すと、弾の尽きた銃を捨て、ブロディへ手を差し出した。──まだ撃っていないお前の銃を寄越せ、と。
──ブロディは反射的に、スタンリーへ銃を渡すことを躊躇った。
ブロディもプロの軍人だ。司がこちらへ
しかし、司は攻撃ではなく
だから、あの瞬間、ブロディは司を撃たなかった──否、咄嗟に
そして、今──ブロディの目には、大樹の背が映っている。
自身の体ですっぽりと覆い隠すように、千空を抱えて守る大樹の姿が。
(──これは、
そんな疑問が、ブロディの脳裏に過ぎって、しまったから。
「おい──」
焦れたスタンリーが、ブロディへ声をかけた時──
──ソファの後ろから膨らんだ
(──やられた……)
緑の閃光から一転して真っ暗になった世界で、ブロディは大きく溜息を吐く。──もう息も出来ないので、気分だけだが。
(……あいつらは、“石化の解除方法”だけじゃなく、“石化させる方法”も、解明してやがったのか……)
千空の余裕の意味が理解できた。“石化攻撃”の前では、戦闘機など、ただの鉄の棺桶にしかなれない。──千空たちとの最初のコンタクト後、急いで仕上げた“とっておき”でさえも。
(すっかり騙されたぜ……ゲンが、あの場の“本命”だった訳だ)
“石化光線”は、ソファの後ろ、極めて床に近い高さから、半球状に膨らんだ。──その中心は、ゲンしか有り得ない。
あの男は、銃に怯えて隠れたのではない。いざという時に“秘密兵器”を使えるよう、こちらの視界から隠れただけだったのだ。
(クソ、最初っからご丁寧に、自己紹介してくれてたってのによ)
──自分は“
千空の『クッソ正直な蝙蝠野郎』という言葉を思い出して、苦笑する。
嘘をつかずに、真実を覆い隠す──全くもって、ゲンは優秀な工作員だった。
(──しかし、ゲンのあの格好で隠し持てる程度となると、相当小せぇな。……
なんとも、最強で最凶な“隠し武器”だった。
(
ゼノは極めて優秀な科学者だ。ブロディ個人として、恩人だとも思っているし、一技術者として尊敬もしている。
──だが、それでも、ゼノの人格が破綻しているという事実は、もはや疑いようがない。
月に危険な“敵”がいるとわかっているのに、条件次第で味方に出来る愛弟子の殺害を強行する。そうまでして“独裁”に拘る。──この時点で、ゼノは明らかに
そして、そのゼノに忠実すぎるほど忠実な、
(……なんてこった、冗談にもならねぇ)
声が出せたなら、ブロディは乾いた笑い声を上げていただろう。
ゼノ。
スタンリー。
どんなに脅されようと、ゼノの“独裁”に
スタンリーに撃たれるとわかっていながら盾になった司。
同じく、友人のために迷いなく自分の身体を盾にした大樹。
いくら復活の手段があるにしたって、自分自身も確実に石化する状況で、躊躇いなく“石化攻撃”を放ったゲン。
(──どいつもこいつも、
(……せめて、船に残ってる千空の仲間は、
おそらくは石化を逃れただろう、こちら側の民間人のために、ブロディはそう祈った。
──石化してしまった今、もはやそれくらいしか、やれることがなかったので。
* * *
ペルセウス号に招かれた4人の客人は、甲板に用意された立食パーティー場で、もてなされていた。
歓待は、おおむねうまく行っている。
ルーナという女の子など、出されたアイスクリーム(千空が出る前に用意していったもの)で、嬉し涙をこぼしていた。
彼女のお供らしい二人の男も、その姿を見て嬉し泣き。自分たちの分まで差し出そうとして、ルーナに止められていた。
(──っていうか、そんなにアイス食べたらお腹壊すしなぁ)
微笑ましいやりとりに、ゴーザンは思わずそんな風に苦笑する。
この3人は、多分、
──問題は、残りの一人。
(……多分、例の特殊部隊の軍人だよなぁ……)
明らかに空気が違う。怖い。
羽京が付きっきりになっているのは、あちらへの気遣いではない。警戒だ。
それでも、表面上は和やかに進んでいたパーティーは、
「今、何かが上空に──いや、状況“緑”を確認!」
物見台からのコハクの声で、終わった。
──瞬間、氷月と金狼が動く。
二人がかりで、会場に立ててあった日米の国旗──に見せかけた、管槍ナイズされた棒で、例の軍人を打ちのめす。
倒れた相手を、すかさず羽京が取り押さえ、ほむらが手際よく捕縛した。そして、そのまま、仰向けに転がす。
ぎょっと身構えたルーナたちだったが、次の瞬間、呆然と空の向こうを見た。
──そう遠くない場所から膨らむ、巨大な
悲鳴を上げてへたり込むルーナを、お供二人が守るように──すがるように、抱きしめる。──そんな行為に意味はないと知っていても、そうせずにはいられなかったのだろう。
捕縛された軍人も、恐怖に目を見開いて、空を見ていた。
当然だ。──あの光は
「石化光線を逃れて、何か
「──エンジン音を確認! 全員テーブルの下に待避!──キリサメ、クロム、用意を!」
コハクの声とほぼ同時に、羽京の指示が飛ぶ。
「了解しました!」
「よし来た!」
答えるキリサメとクロム用の
テーブルクロスの長い裾で隠された天板の裏面には、分厚いカーボンの盾が一面に張ってあるのだ。
捕縛された軍人と、ルーナたちもテーブルの下に引っ張り込み、キリサメとクロム以外の全員がテーブルの下に待避した時、
(──戦闘機……!!)
「
挨拶、とばかりに、その銃口から弾丸が吐き出される。──思わず上げた悲鳴は、着弾の音にかき消されて、自分の耳にすら届かなかった。
倒したテーブルを盾にして、ただ一人立っていたキリサメは、低空飛行の敵影へ、用意していたものを
その
途端、戦闘機のエンジンから異音が発され、わかりやすく機体が傾いだ。
そのまま敵影は船の上を通り過ぎ、水面へと
「──よっしゃぁ!」
キリサメの横にしゃがみ込んでいたクロムの雄叫び。
ゴーザンには原理がわからないが、『エンジンをノッキングさせる投擲武器』が、見事に決まったのだ。
「──
と、誰かが警戒の声を上げる。
次の瞬間、河の水面下から、巨大な影が現れた。
「──せ、
羽京の、動揺した声。
(──いくら何でも、軍事に偏り過ぎだろうがッ!?)
支配者指向マッドサイエンティストらしいといえばそうだが、他にもっと先に作るもんあったろ──アイスとか。
「テーブルを倒せ! 壁にしろ!」
思考は迷走しつつも、ゴーザンの身体は、龍水の指示に従ってちゃんと動いた。
周りのマッチョと協力し、全部のテーブルを倒して壁にする。
それと同時に、ペルセウス号に強制接岸してきた潜水艦から、複数の影が飛び出して来た。
無骨な鉄の棒──おそらくはマシンガンの類を構え、ペルセウス号に乗り込んできた敵へ、
「
脅し文句も言い切らせぬうちに、飛びかかる人影。
──瞬殺。
乗り込んできた敵は、その場で全員なぎ倒されてしまった。
「──んー。悔しいけど、やっぱいいね、管槍。氷月に勝てない訳だよ。伸びが全然違うもん」
手にした管槍をしげしげと眺めて言うのは、モズ。──宝島からやってきた、
と、潜水艦の方から、丸い物が複数、飛んで来る。
(──手榴弾!?)
ヤバイ、とゴーザンが思ったのもつかの間、降ってきたそれは、
「──さっすが、松風~~~!!!」
銀狼に全力で讃えられているのは、松風。彼もまた、
(──うわぁお……)
現代兵器をものともせず、無双する槍兵と侍。タイムトラベルもののSFとかにありそうな光景だった。
と、捕縛されていた軍人が、潜水艦に向かって何かを叫ぶ。
「──なんだ!? 何言いやがった!?」
「やめなマグマ! こいつは今、潜水艦の攻撃を止めたんだよ!」
叫んだ軍人を怪しんで攻撃しようとするマグマを、ニッキーが止めた。
「──そう、奴らに、この船を沈めるような攻撃は、決して出来ない」
不敵に笑って、龍水が言う。
「
いつものように派手に指を鳴らして、彼は高らかに宣言した。
「この船の制圧を阻んだ今、この戦争は、俺たちの勝ちで終わったぞ!!」
世界線変動:ゼノの城を中心に
ゼノサイドは全員石化か捕縛状態(ルーナとお供二人は別枠扱い)。
潜水艦に残っていた一人(レーダーマン)も投降。戦闘機に乗っていたシャーロットも、モーターボードで出た氷月と金狼とコハクによって捕縛。
潜水艦の搭乗員は5人と少なめ。
というのも、『使者団を人質にペルセウス号と交渉する』のが、ゼノ側の本来のルートだったので、城の警備に重点をおいていたため。
『千空と司は排除確定として、大樹とゲンのどっちか生かしておけばいい』と考えて、スタンは撃ちまくってました。
城にいた待機組は、スタンリーの銃声の後、部屋の廊下付近に展開して突入のタイミング計ってたけど、一歩遅くてそのまま全員石化。
石化攻撃はヤバい、ハッキリわかんだね。