小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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情けは人のためならず。


応報

 相手は、ろくに武装もしていない、平和ボケした少年科学チーム。

 こちらは、マシンガンに手榴弾、戦闘機から潜水艦まで完備した、アメリカ軍の精鋭部隊。

 戦闘経験値的にも、武装的にも、()けるはずのない戦争だった。

 なのに──

(──隊長……)

 石化してしまったスタンリーの姿が、シャーロットの瞼の裏に焼き付いて、離れない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼は、石化を解かれないまま、相手側に拘束されるという。──事実上、シャーロットたちへの人質だ。

(……ボクたちは、一体どこで、間違えた……?)

 シャーロットは、そう、自問する。

 城とその周辺にいた仲間は全員石化。作戦行動のために城から離れていた仲間も、既に全員捕縛されてしまった。

 相手の船は、多少穴こそ空いたものの無事。こちらの本拠ごと石化した首脳陣も、相手側の持つ“石化解除方法”で、既に石化から復活しているという。

 ケチのつけようもなく──相手側の勝ちで、自分たちの()けだった。

(──もし、ボクが、石化光線が収まった直後、船を攻めに行かずに、相手より先に城へ戻っていたら……)

 そうして、相手の“石化武器”を奪えば、逆転出来ただろうか。

(いや、肝心の“武器”の形状も、使い方もわからないし……何より、“石化解除方法”とセットじゃないと、到底使()()()代物じゃない)

 何より、あの時は、“石化解除方法”を持つペルセウス号に逃げられたら()()と思って、そちらへ急ぐことしか考えられなかった。

 ──ならば、いつ、どこで、どうすれば、勝てたのだろうか。

(そもそも、ボクたちは……前提から、間違えていた)

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()少年科学チーム──その認識自体が、誤っていた。

 戦闘機を墜とすための準備。小火器や投擲武器への対策。相手は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()していた。

 さすがに潜水艦は想定外だったようだが、それも、状況を好転させる要素にはなり得なかった。

 ──その時点で、既に()()()()()()()、こちらの本拠が丸ごと“人質”になっていたのだから。

 彼らは、武装していなかったのではない。既に最凶の“武器”を持っていたから、既存の火器など必要としていなかっただけだ。

 時間経過と硝酸による石化解除方法しか知らないシャーロットたちは、城の仲間を救うために、相手側の持つ“別の石化解除方法”が絶対に欲しい。

 しかし、強奪しようにも、相手側の誰がその情報を持ってるかもわからない。確実に知っているはずのリーダーは、こちらの首脳陣ごと既に石化している。

 この状況下では、下手に相手側の人間を殺せない。船を沈めるなどもってのほかだ。

 ──こうなってしまえば、どんな武力も武装も、もはや何の意味も持たない。シャーロットたちは、生きて機を窺うために、降伏することしか出来なかったのである。

 見事な“チェック・メイト”。──こうして振り返れば、あちらの首脳陣を本拠()へ招いてしまった時点で、既に“チェック”がかかっていたとわかる。

 もっと言うなら、相手が“時間経過と硝酸以外による石化解除方法”を持っているという情報を()()()()()()()()──まんまとあちらの策にハメられていた。

(──最初の情報戦から、ボクたちは()()()()()……?)

 気づいて、ぞっとした。

 ──訓練を受けた軍人(プロ)の集団を、情報一つでいいように翻弄するなど、もはや本物(プロ)の工作員ではないか。

(……ボクたち、これからどうなるんだろう……)

 そんな不安を抱えながら、ボートで運ばれ──かつての本拠(ホーム)が見えてきた頃、散発的な銃声が聞こえてきて、シャーロットたちは最悪の予想に背を冷やす。

(まさか……石像の破壊……!?)

 それに気づいたらしい見張りの男の片方──氷月が、冷えた声で告げた。

「君たちの恐れているような事態は、絶対に起きてませんよ。──おそらくは、ただの武装解除でしょう」

「──は?」

 言われた意味がわからず呆けるシャーロットたちを余所に、「だろうな」と操舵席の男──龍水が頷く。

「千空は()()()()()()()()()、石像の全身を砕くことも躊躇わん反面、そうでないなら、石像(ニンゲン)を傷つける行為は徹底的に避ける。銃を取り上げるために、()()()()ことはしないだろうな」

(……どういうヤツなの? 千空って……)

 ──容赦がないのか、甘いのか、まるでわからない。

 と、ボートが辿り着いた先には、意外な姿があった。

「──ブロディ!?」

 “首脳会談”に参加していたはずのブロディが、石化を解かれた姿で立っている。

 さすがに武装は解除させられた様子だが、シャーロットたちと違って拘束もされておらず、近くに見張りらしき者の姿もない。

「千空からの指示だ。俺も含めて、『全員で例の部屋に来い』だとよ」

「伝言ご苦労」

 ブロディの言葉に、龍水は泰然と頷く。

「──どういうつもり、ブロディ……!」

「どうもこうもあるかよ。コイツらに従う以外の選択肢があんのか、現状」

 シャーロットが思わず噛みつけば、疲れたような声で返された。

「まあ、コイツらは『敵味方問わず、人命を損ねない』という点においては、信用できる。俺らがバカなマネしない限りは、スタンリーの石像も、傷一つつかないよう大事にしてくれるだろうよ」

「……根拠は?」

「──石化した時の姿勢が悪くて倒れたのか、何人か城の廊下で()()()()ヤツがいたんだよ」

 告げられた事実に一瞬背が冷えるも、そのまま続けられた言葉に目を剥くこととなる。

「ところが、コイツらの仲間の一人のお嬢ちゃんが、パズルでも組むみてぇに破片をくっつけながら言うんだ。『断面が風化する前に繋いでおけば、ちゃんと復活できます。大丈夫ですよ』ってな」

「──えっ」

「事実だぞ。俺自身、石像の状態でバラバラにされたことがあるが、この通り、五体満足の健康体だ」

 龍水が、何でもないことのように、そう請け負うが──それは、つまり、

「…………さっき言ってた、『他に仕様がないなら、全身砕くことも躊躇わん』って……」

「はっはー! 他ならぬ俺の話だ! あの時は、ああでもしないと、敵地から脱出できなかったからな」

 何でそんな話を笑いながら出来るのかと、シャーロットは龍水の正気を疑った。

「……そう、すぐにくっつけりゃ()()って、コイツらは()ってる。なら、石像の指を折って銃を没収しちまってもいいだろう? なのに、わざわざ銃から弾抜いて、既に装填された分は()()()処理するなんつー面倒くせぇマネをしやがる」

 先ほどの氷月と龍水の推察が正しかったと告げる、ブロディの言葉。

「ルーナの嬢ちゃんが言うんだ、『彼らの本質は“医者”だ』ってな。妙に納得しちまったよ。コイツらは、敵も味方も関係なく、()()()()()()()外科的手段(砕くことさえ)も躊躇わないが、そうでないなら絶対に石像(ヒト)を害さねぇ」

 ブロディが、諦念の滲む声で、告げる。

「コイツらは、本質的に国でも軍でもねぇんだよ。地球規模の災害に際して生まれた、一種の“ボランティア医師団”だ。もう俺は、そう割り切った」

(──ボランティア医師団……)

 だとすれば、確かに『敵味方問わず、人命を損ねない』という点では、信用できるかもしれない。

 しかし、シャーロットがそう思った矢先、

「“無償奉仕(ボランティア)”だと? フゥン、的外れも甚だしいな。俺は、俺の欲しいモノを得るためにしか動かん!」

 龍水が堂々とブロディの言葉を否定する。そんな彼に冷ややかな眼差しを向けた氷月が、

「まあ、君はそうでしょうね。……しかし、千空クンに対する形容としては、わりと的を射てる気がしますが」

「俺も、千空が“救命者(医者)”気質であるということに異論はないがな。ただ、奴も俺と同じで、自分の欲しいモノためにしか動かん強欲(欲しがり)だぞ」

「……千空クンが、強欲?」

 片眉を跳ね上げて不審がる氷月に、龍水は笑う。

「『宇宙に行く』という自分の私欲(ゆめ)満たす(叶える)ために文明を欲しているのだと、奴は自分で言っていたぞ。自身の私欲(ゆめ)のために、世界を丸ごと巻き込もうというのだ。これを強欲と呼ばずに何と呼ぶ?」

 龍水の言葉に氷月は沈黙した。否定しない──出来ない、らしかった。

「──まあ、俺は、その私欲(ゆめ)を叶えた千空ごと、復興後の世界全てを手に入れてみせるがな!!」

 続けられた龍水の宣言に、呆れたように氷月は溜息をついた。

「……やっぱり、君が一番強欲なんじゃないですか……」

「──おい、コイツ、大丈夫なのか? 今の、世界征服宣言じゃねーか」

 ブロディが引き攣った顔で、氷月へと問う。

「彼は『敵もいつか自分のモノとして“欲しい(手に入れる)”から不殺を貫く』というタイプらしいので、武力支配の心配だけは要らないのでは? 経済的支配に関しては知りませんが」

「はっはー! 案ずるな! 俺は富を貯め込むことに興味はないからな! 経済は循環させてこそ成長する! そうしてより豊かになった世界こそが、俺の“欲しい(見たい)”モノだ!」

 突き放したような氷月の言葉に、龍水は愉しそうに笑って答えた。

「……純粋に疑問なんですが、どういう状況になったら、君にとって“世界を手に入れた”ことになるんです?」

「『“俺のモノ”だと俺自身で確信できたら』だな!」

「ただの主観じゃないですか……」

 龍水の答えに、氷月は処置ナシとでも言いたげに首を振る。

(……なんなの、こいつ……)

 シャーロットも、戸惑うしかない。

「……強欲っつーのは、過ぎると、いっそ博愛になるのか?……いや、博愛こそが、最大の強欲ってことなのか……?」

 ブロディの哲学的な呟きが、真理なのかも知れない。

「まあ、無駄話はこれくらいにして、千空の元へ行くぞ」

 一同を混乱の渦に叩き込んだ元凶が、一同を促す。──釈然としないながらも、シャーロットたちは龍水に促されるまま、()()()()とやらへ向かった。

 ノックをし、ドアの向こうからどこか間の抜けた声が返るなり、龍水は躊躇い無くドアを開く。

 部屋の中にいたのは4人。そのうち、よく知った一人が、シャーロットたちを見て破顔した。

「──おお! スタンリーの忠実なる部下諸君! 少々不自由そうな姿だが、大きな怪我が無いようで何よりだ!」

 ゼノだ。シャーロットたちのように拘束されることもなく、ソファに座っている。

「おう、来たか」

 そう不敵に笑うのは、ゼノの対面のソファに腰掛ける若い男。ぱっと目に付くのはセロリのような色彩の髪だが──目が合った瞬間、強い意志を宿した深紅の瞳に、全ての印象が持って行かれる。

「──石神千空……」

「あ゛あ、俺が、千空だ」

 確認と言うより、独り言の調子でもれたシャーロットの呟きに、千空は律儀に頷く。

「ついでに紹介しとくと、こっちが雌ライオンのコハクで、こっちがインチキマジシャンのゲンだ」

「いや、紹介の仕方ドイヒー!!」

 自身が座るソファの左右に立った男女を示してそう続ける千空に、『インチキマジシャン』と紹介された男が、オーバーリアクションで抗議の声を上げた。

「ハハ、ゲンは本当に道化のフリが上手だね。その演技に、すっかり騙されてしまったよ」

「え~? 俺、このお城に来てから、一つも嘘なんてついてないのに~。そっちが勝手に勘違いしたんじゃ~ん」

 ゼノの言葉に、ゲンは拗ねたような声を上げる。

 ブロディが溜息でもつくような声で、シャーロットたちに告げた。

()()()()()()俺らを騙しきって、不意をついて“石化攻撃”ブチかましやがった野郎だ。千空が“メンタリスト”って呼んでたあたり、最初の情報戦──心理戦も、アイツの仕業だろうよ」

 メンタリスト──人間心理(メンタル)に精通する、一種のエンターテイナーの俗称だ。

 つまり、シャーロットたちは、エンタメのノリで仕掛けられた(心理戦)にかかって、戦争に()けたのか。

(……そんなことってある……?)

 頭を抱えたくなるような真相だが、納得できる部分もあった。

(“医者気質”の王様に、“エンターテイナー”の参謀……だから、あんな防衛主体で()()()()()()作戦だったんだ……)

 しかし、そちらの方が、民間人を“捨て駒”にしたこちらの作戦より優れていたのだから、笑えない。

 そう思った時、こちらの作戦を練った当人が、シャーロットたちへ頭を下げた。

「まず、君たちには深く詫びねばならないね。僕の心得違いのせいで、スタンがあんなことになってしまった。殺されても文句は言えないが、スタンを助けるためにも、僕はまだ死ねないんだ。すまないが、しばらく我慢して欲しい」

 命乞い、というには誠実な響きのゼノの言葉。

「──『隊長を助けるため』?」

「千空は『“月面の敵(ホワイマン)”との決着が着けば、スタンリーの拘束(石化)を解く』と、()()()()()()約束してくれた。つまり、僕が彼らのロケット作成に協力すれば、自然とスタンが自由になる日は速まる訳だ」

 シャーロットの問いに返されたのは、淀みのない答え。

「んでもって、それとは別に、テメーらに提案したい取引がある」

 ゼノの言葉を引き継ぐように、千空がシャーロットたちへと口を開いた。

「科学王国と協力体制を築いてくれるなら、テメーらの仲間は全員石化解除してやるし、『丸腰の相手に弾丸6発ぶち込んだ件』も『非武装の船舶を戦闘機と潜水艦で襲撃した件』も、復興後の世で訴えないでやる」

 ──つまり、一種の司法取引か。

 ゼノが既に“千空側”ついた現状、シャーロットたちが生き残るには、どの道科学王国に下るしかない。

 そう思えば悪いどころか、こちらへ甘いくらいの条件だが、それでも言われるままに唯々諾々と呑むのは業腹で、

「……そっちだって、こっちへ“石化攻撃”したでしょう」

「先に手を出したのはスタンリーだ。その証拠写真もあるし、証人もいる。テメーらが“捨て駒”にした()()()()()だ」

 その一言で、シャーロットも、それ以上何も言えなくなった。

 シャーロットからすれば、“船”の乗員たちが遮蔽物の影にいると確認してから、威嚇射撃をしただけだが──甲板にいた当の民間人たちからすれば、『一歩間違えれば蜂の巣だった』と思う出来事だったのだろう。

 彼らが、()()()()()()()()()()()科学王国側につくのは、ある意味当然の流れと言える。

 攻勢に偏った自軍と、防衛に徹底した相手。そのスタンスの差が、ここでも効いてくるという訳だ。

(──本当に、ボクたちの完敗だ……)

 はあ、と溜息をついて、認めた。

「わかった。君たちに協力する。具体的には、何をすればいい?」

 ニヤ、と悪どく笑った千空は、至極愉しそうな声音で宣言する。

「──100万人のコーンシティを樹立すんぞ!」

 

  * * *

 

「──戦勝を祝して、船員全員へ100万ドラゴのボーナスを出す!」

 船長である龍水の太っ腹な宣言に、ペルセウス号は沸き立った。

 その歓声がある程度収まるのを待ってから、龍水と並んでいた千空が口を開く。

「んでもって、それとは別枠で──ゲン!」

「ぅんっ!?」

 珍しく千空に名前で呼ばれたためか、それともここで自分の名前が挙がること自体が予想外だったのか、ゲンが変な声を上げた。

「今回のMVPは間違いなくテメーだ。──ご褒美に、テメーが間違いなく唆るもんをくれてやるよ」

「──え~? セルフでハードル爆上げじゃな~い。何くれるの~?」

 さっきの動揺を一瞬で収め、ニヤニヤと笑うゲンに、千空はそれ以上に不敵に笑って、告げる。

「──マジックショーのステージ」

 途端、すん、とゲンの顔から表情が消えた。

「“マジシャン”あさぎりゲンのショーを、アメリカ勢との交流の一環として開催する。──ステージの仕掛けから、ショーに必要な小物も全部ひっくるめて、テメーの注文通りに作ってやるよ」

「はっはー! 俺がスポンサーだ! 予算制限はないものと思え!」

 さらに、龍水がそんな風に言い添えた。

 しばし呆然としていたゲンの目が、やがてギラギラと輝き出す。

「……全部? ショーに要るもの、全部?」

「男に二言はねぇ」

「ワシも頑張っちゃうぞい!」

「おう! 何でも作ってやんぜ!」

「衣装は任せて!」

 スパルタ工作クラブ3トップ(プラス)手芸班トップの宣言に、

「──ッシャァッ!」

 ゲンは、雄々しいほどに力強く、ガッツポーズした。

(うわビックリした!)

 いつも中性的な振る舞いで、ツッコミ以外で声を荒らげない。そんなゲンのこんな姿は、初めて見た。

「おい、地味にキャラ崩壊してんぞ」

「キャラ崩壊ぐらいするよ! 俺だけのオーダーメイドステージだよ!? こんな燃えるシチュエーション他にある!? いや、ないね!!」

 千空のツッコミへ、ゲンは反語で力強く言い切った。その声は、わかりやすく弾んでいる。

「ありがとう、みんな! 絶対最高のショーにしてみせるからね!!」

 

 ──そうして、後日開かれた“マジシャン”あさぎりゲンのステージは、国籍も世代も問わず観客全員を魅了し、万雷の拍手でもって幕を下ろした。




世界線変動:南米目指しての追いかけっこフラグは折れた。

ゲンのマジックショーは、アメリカ勢からの印象(ヤベー策士扱い)の上書きと、メンタリストのストレス発散のため。
他のメンツはメンタリストにメンタルケアしてもらえるけど、メンタリスト本人はそうはいかないので。

25巻読むまでに書きためた分はこれで終わりです。
続きは、ちょっと時間下さい。
25巻の色々をまだ消化しきれてない上に、本誌完結の報せにメンタルが乱れて筆が進まない……!
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