小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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『人を撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだ』と言う。
しかし、撃たないという覚悟のある者でも、撃たれる時は撃たれる。
けれど、撃たれたその人が、最後に笑って起き上がってくるのがドクスト。


不殺

 ──司帝国への道中、モールス通信での挟み撃ちで、ほむらを捕獲した直後。

「よーし、ほむらもとっ捕まえたところで、ちーっとメンバーシャッフルすんぞ。ゲンとマグマは、俺らと一緒に村へ帰還だ。代わりに、ゴーザンがクロムに同行する」

「は?」

 千空のその宣言に、クロムは思わず目を見開き──少し考えて、理由を察した。

(そうか! ゲンが先に村へ戻っときゃ、俺らが帝国にケータイ設置した瞬間から、“例の作戦”を始められる!)

 ゲンが司帝国から石神村に戻るまでの時間を節約できる。

 最初からゲンを村に待機させておけなかったのは、ほむらの追尾対策として、運搬班にモールス信号を使える人間が必須だったからだ。

(クソ~! 俺がさっさと覚えられりゃよかったんだよな~)

 そもそも文字という概念から学習する必要があったクロムは、出発までにモールスを習得しきれなかったのだ。

 ただ、文字を知ってるはずのゴーザンたちが早々にギブアップしていたのを見るに、ドイヒードイヒー鳴きながらも、さくっと覚えてしまったゲンが、優秀すぎるだけなのかも知れない。

「あん? なんでわざわざ……」

「おうおう! ゴーザンに替わってくれるなら、めちゃくちゃ助かるぜ! マグマはケータイの扱いが雑過ぎんだよ! 背負ったまんま、平気で段差から飛び降りたりよぉ!」

 “例の作戦”を知らないマグマが不審気な声を上げるのに、クロムは咄嗟にそれっぽい理由──というか、マジの本音を返した。

「なるほど、金狼ではなくゴーザンを連れて来たのは、そういう訳だったのか。ゲンから、例のモールスとやらで報告を受けていたのだな」

 ほむらをふん縛った縄の先を掴んだコハクが、納得の呟きをもらす。──彼女も、“例の作戦”のことは知らないのだ。

「──ああ、そういうこった」

 千空はしれっとした顔で頷いて、

「戦闘技術はともかく、純粋な筋力なら金狼よりもゴーザンの方が上だしな。案内役も兼ねられるから、ゲンも回収して人数を減らせる。少人数の方が、あっちで発見されるリスクも減るからな」

「千空ちゃん、ジーマーで合理主義~……でも、ゴーザンちゃんは、ホントにいいの?」

 自身が村に戻っておくことの意味を知っているはずのゲンが、首を傾げる。

「ゴーザンちゃん、あっちからしたら裏切り者よ? 万一見つかったら、どんな目に遭わされるかわかんないのに、それでも行くの?」

 ゴーザンを案じるその言葉に、しかし、言われた相手は顔をしかめた。

「いや、それはゲンさんも一緒じゃないスか。もやしのゲンさんより、俺のがまだ助かる目があるっスよ」

「う~~~ん、それ言われるともう何も言えな~い」

 ゴーザンの迷いのない答えに、さすがのゲンもそれ以上どうこう言えなくなったらしい。

「じゃあ、くれぐれも、見つからないように気をつけて! 特に羽京ちゃんの耳とか用心してね!」

「ウッス! 了解っス、ゲンさん!」

 ゲンの最後の念押しに、ゴーザンは威勢良く頷いた。

 ── 一同は荷の交換を終えると、それぞれの行くべき場所へと、二手に分かれて動き出す。

「じゃあ、案内頼むぜ! ゴーザン!」

「ウッス! まかして下さい!」

 

  * * *

 

(──あああぁ~~~ッ! 結局アニメと同じ流れ~~~ッ!)

 クロムと一緒に茂みの中に隠れつつ、ゴーザンは内心で絶叫する。

(途中までうまくいってたのに~~~!)

 アニメでマグマが力任せに砕いた岩も、クロムと一緒に頑張って掘り出し(掘り出せるサイズでよかった)、音を立てないようにケータイを設置し終えた。そこまではよかった。

 問題が起きたのはその後。掘り出したこの岩も隠さねばと、近くの茂みに運び入れ──そこで、疲れと暗闇に足をとられ、ゴーザンは盛大によろけた。

 よろけただけならよかったのだが、腰に差していた工具が岩とぶつかり、甲高い音を立ててしまったのだ。

 ヤベーと思った時には既に遅し。闇の向こうから飛んできた矢に追い立てられて、この茂みに誘い込まれてしまった訳である。

(──でも、相手が羽京さんなんだから、殺されはしねぇはず!)

 ゴーザンは折れそうな己を鼓舞して、クロムに身を寄せて、囁くように告げる。

「……もしかしたら、交渉でどうにかなるかもっスよ」

「は!? いきなり射ってきた相手だぞ!?」

 声は小さく、しかしその分表情で()()クロムの顔芸に、ゴーザンは吹き出しそうなのをこらえつつ、続ける。

「羽京さんの腕なら、当てようと思えばもう当ててると思うんスよ。っていうか、何で単独で追って来てるんスか。異常に気づいた時点で、仲間呼んでくりゃよかったじゃないスか」

「あ……!」

 アニメでゲンやクロムが気づいていた羽京の行動の不審点をそのまま告げれば、クロムの表情が変わった。

「クロムさんは、隠れてて下さい。んで、俺が気ぃ引いてるうちに、逃げられそうなら逃げて下さい」

「まっ──」

 クロムが制止の声を上げるより速く、荷を捨て、両手を上げて、茂みから飛び出した。

「コーサン! 降参っス! 羽京さん!」

 そう声を上げれば、大きく距離をとりつつも、ゴーザンの視界の正面に人影が現れる。

「……ゴーザン?」

 弓すら構えず、呆然とした声音でこちらの名を呼んでくる羽京。さすがに様子がおかしいと、ゴーザンは眉をしかめ、

「生きて、いたのか……!」

 続けられた、喜びのにじむ声で、察した。

「いや、勝手に殺すな!? あっちに亡命しただけで、死んではねーわ!」

「もしかして、他のみんなも……!?」

「誰一人死んでねーよ! むしろメシがよくなったから、こっちにいた頃より元気まであるわ!」

「……ああ……!」

 ゴーザンの言葉に、羽京はこらえきれないとばかりに、涙をこぼした。

「よかった……! 本当に、よかった……!」

 感極まる羽京とは対照的に、ゴーザンは苦い心地でいっぱいだ。

「……氷月の野郎、俺らのこと、どう報告してたんスか……」

 いや、もう、何となく聞かなくてもわかるけど。一応。

「……あちらの罠にはまって、焼き殺されたと……」

「うわぁ」

 予想より酷かった答えに、ドン引きするしかない。

「──はぁ!? 火ぃ使ったのは自分のくせに、そんなデタラメ言いやがったのか!?」

 と、隠れていたクロムが飛び出して来てしまった。──いや、もう隠れる必要も、逃げる必要もないと判断したのか。

「──何だって? 氷月の方が、火を?」

 クロムの言葉が聞き捨てならなかったのか、羽京が険しい顔になる。

「あいつ、ほむらに命じて、俺らの村に放火しやがったんだよ。幸い人は全員無事だったけど、家は殆ど全部燃えちまった」

 まあ、すぐにもっといい感じに建て直したけどな! とクロムは明るく続けるが、羽京の顔からは血の気が引いていた。

「──そんな……そんなことまでしてたなんて……だから、君らは、こっちを見限って、あちらについたのか……」

「正確にはちょっと違うっスけど……まあ、科学王国についた方が、死人が出ないで済むな、とは思ったんで」

 狙って告げた“死人が出ない”というワードに、羽京が目を見開く。

「おう! 俺ら科学王国の目的は“司帝国無血開城”! んでもって、“人類70億人総復活”だ!──誰も死なせねぇし、殺されるつもりもねぇ!」

 飾りも嘘もないクロムの高らかな宣言に、羽京は笑った。

「……本気で、言ってるんだね……ああ、すごいな……君たちは、本当にすごい……」

 そう言って、また溢れた涙を拭ってから、羽京は表情と姿勢を正し、クロムへ名乗る。

「──僕は西園寺羽京。石化前は、自衛隊のソナーマンだった。君は?」

「俺はクロム! 石神村の科学使いだ!」

 高らかに名乗り返すクロムを、羽京は眩しそうに見つめ、

「……君たちが、本当に“誰も死なせない”でくれるなら──僕は、科学王国に協力するよ」

 そう、告げたのだった。

 




世界線変動:ゲンが帝国側に向かわず、村待機。羽京が早々に科学王国側へ。クロムが捕まらない。

Q.氷月は何故嘘の報告をしたの?
A.ゲンだけならともかく、モヒカンたちまで普通に受け入れられたと知られると、それに続こうとするヤツが出てくるかも知れないから。

ところで、羽京が杠の極秘ミッション把握したのって、どのタイミングなんですかね?
背景に雪がないのは間違いないんだけど、雪が降り出す前だったのか、雪が溶けた後だったのか。
筆者的に、羽京の耳のゴイスーさからして早々に気づいたと思うので、冬前と解釈してます。
つまり、この作品内の羽京は、既に杠のミッションを把握済み。ゴーザンたちの生存と、クロムの宣誓がトドメになり、寝返りました。
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