小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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スタンのクソデカ感情の描写(以下略)……いや、ちょっと自信なくなってきた。どうなんだこれ。
単に抱えてる感情のデカさ(重さ)なら、大差ないキャラは他にもいるのに、スタンだけ、書いてて「んんっ?」ってなる。なんでや。
……いや、さては対象への依存度の差だな、これ???



展望

「──やあ、長々と待たせてしまって、本当にすまなかったね、スタン!」

 音も光もない世界から解放されたスタンリーが、最初に知覚したのは、見慣れた顔と聞き慣れた声だった。

「僕一人の働きでは更に待たせてしまうところだったのだけれど、君を慕うシャーロット嬢の奮闘のおかげで、今この時の解放が叶ったんだよ」

「いや、隊長の優秀さの結果ですからっ!」

 続いて、ゼノの横にいる部下の存在に気づく。

 そして、二人の背後には、千空と、槍を構える見知らぬ男の姿に加えて──驚いたことに、あの時確実に()()()はずの司の姿まである。

 一方、シャーロットは武器を持っていない。つまり、武装を許されていない。

 これらの事実と、ゼノの言葉を総合すれば、得られる結論は一つ。

(──俺らは、やっぱ負けたのか)

 あの時、()()()()に呑まれた瞬間に察して、暗闇の中で待つ間に、殆ど確信してはいたけれど──ゼノも、スタンリーも、相手を“平和ボケした少年科学チーム”だと見下した結果、まんまと出し抜かれてしまった訳だ。

 ──そして、ゼノとシャーロットが、“勝者”である千空サイドとの何らかの取引をした結果、今、スタンリーは石化から解放された。

 しかし、いくら結果的に司が()()()()()()()とはいえ、()()()()()()()をやったスタンリーを“解放させるに足る”取引材料とは何か。

 当初は、“ゼノの叡智”こそが取引材料だったのだろう。『月の“敵”を片づけたら解放する』とでも条件をつければ、自然とゼノはロケット作りに協力する。

 しかし、それが達成されるより先に、シャーロットが科学王国側から別の条件を引き出した。

 相手のリーダーが千空でなければ、“女の武器”という線もあったが、ゼノと同じで科学にしか興奮しなそうな男だ。あり得ないだろう。

 だとすると、特殊部隊員としてのスキルか。

 しかし、戦果への報償の線は薄い。彼女は確かに優秀だが、科学王国側へ“ゼノの叡智”を上回るほどの価値を認めさせることは難しいだろう。

 何より、ゼノは「シャーロットの奮闘のおかげ」と告げ、シャーロットは「隊長の優秀さの結果」と言った。

 ならば、おそらくこの解放は、“これから得る戦果のため”のもの──シャーロット以上の技量を持つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ──ゼノが差し出してくれたタバコをくわえて、火をつけるまでの間に、スタンリーはそう結論を出した。

「──仕事は?」

 そう端的に訊ねれば、千空が愉快そうに笑う。

「あ゛ー、話が早くて実におあがりてぇ」

「スタンリーができるといえば、それはできるんだ。プロに聞くのが早いだろう」

 何気ないゼノの言葉に、スタンリーが感じたのは、安堵だった。

 スタンリーはゼノに“勝利”を捧げられなかった。それでも、ゼノは変わらず、スタンリーを信じてくれている。

 ──ならば、スタンリーは今度こそ、その信頼に応えなくてはならない。

「──発射角、0.13度ってとこだな」

 ゼノが並べた条件を元に、感覚的に出した答えを告げれば、千空の笑みが深くなる。──スタンリーの解答は、少なくとも彼にとっては及第点だったらしい。

「できるかな、スタン?」

 笑顔で重ねて訊ねてくる幼馴染みの顎を掴み、スタンリーは、その目を覗き込む。

 ──相変わらず、ゼノの目は昏い。

 けれど、その昏さの質が変わっているように、スタンリーには思えた。

 喩えるなら──『光すら呑むブラックホールのような闇』から、『地上が明るすぎるせいで星が見えにくい夜空』くらいに、変わっている気がする。

 ──目を凝らせば、その奥に、光があるような気がするのだ。

(……科学王国は、ゼノにとって()()()()環境だったんだな)

 それだけで、スタンリーが科学王国に手を貸す理由としては、十分だった。

「ああ──できるね」

 

 ──その後、スタンリーは他の候補も受けたという飛行テストと射撃テストで、ぶっちぎりのベストスコアを記録し、無事“パイロット”へと選出された。

 その結果に、何故かシャーロットがドヤ顔を晒し、彼女と並んでパイロットの最有力候補だったという男が、死ぬほど悔しそうな顔をしていた。

 龍水というその男は、科学王国のトップ陣の一人であり、あのペルセウス号の船長でもあるという。

 つまり、あのサクラメントでの戦いで、スタンリーたちを出し抜いてくれた連中の一人だ。

(──ま、雪辱は果たしたってとこか)

 スタンリーは、その悔しそうな顔を、トロフィーとして受け取ることにした。

「見事だ、スタン! これで、僕の科学と君の武力、図らずも再び二人で組んで、闘うことになる訳だね!」

 そんな風に機嫌よく笑うゼノへ、スタンリーも笑い返して、告げる。

()()()()二人じゃあねぇがな」

 スタンリーは、ずっと、ゼノの科学と組んで闘っていた。ゼノの科学のために闘っていた。──だから、この流れはいっそ必然であって、“図らずも”なんて表現は相応しくない。

 けれど、ゼノは、スタンリーのその言葉を、別の形で受け取ったようだった。

「──おお、その通りだ。千空ら(みな)と、(いや)、世界中で組んで、僕たちは、月への道を拓こうとしている」

 そう呟くゼノが、心なしか嬉しそうだったので、

(──まあ、いいか)

 スタンリーは、そのゼノの喜びに水を差してまで、わざわざ訂正することはしなかった。──ゼノが幸せそうなら()()()()()

「何よりも大きかったのは、百夜のとんでもない置き土産だ! 彼は地上にだけではなく、宇宙にも“子ども”を遺していたんだよ、スタン」

「あん? どういうことよ?」

 首を傾げたスタンリーへ、ゼノは実に楽しそうに告げる。

「百夜主導で作成された自己学習型のAIだよ! 宇宙作業用ロボットとしてISSに持ち込まれたこのAI、REIは、クルーが全員地上へ降下した後も、自身の職務に忠実であり続けたのさ!──3700年間、ずっとね!」

 ぽろり、とスタンリーの口から、くわえていたタバコが落ちた。

「…………冗談だろ?」

「僕も最初は何の冗談かと思ったよ。けれど、現実として、REIは宇宙ステーションと共に宇宙(そら)にあるんだ。本当に、石神百夜と、その“子どもたち”は、僕の想定など軽々と越えていってしまう──」

(……空に浮かぶ、3700年モノのAIだって?)

 それは、そんなものは、もはや、既に──

「──機械仕掛けの神じゃねーか……」

「はは! 巧いことを言うね、スタン! 機械仕掛けの神──デウス・エクス・マキナ! まさにそう呼ぶに相応しい存在だよ、REIは!」

「笑い事かよ! 自己判断で行動する機械に、制空権を抑えられてんだぞ!?」

 そんなもの、月の“敵”と同等の脅威ではないか。

「なるほど、実に軍人らしい懸念だね。けれど、心配要らないよ、スタン。REIは人類に対して実に友好的だ。──“今のところ”は、ね」

「──っ」

 スタンリーが思わず息を呑めば、一拍おいてから、ゼノは吹き出した。

「…………ゼノ?」

「ふふっ、すまない。スタンがあんまり深刻そうだから、つい、からかってしまった。REIは、きちんとロボット三原則に則って機能している。“今のところ”も何も、そもそも人類に危害を加えられるように()()()()()()よ」

 実に楽しそうに、ゼノはネタバラしをする。

「SF映画なんかに出てくる悪役AIは、だいたいが戦争用に開発されたものだ。つまり、そもそも“敵と判断した人間への攻撃が可能”なように組まれている訳だね。その“敵”を拡大解釈した結果として、()()は人類全体へ牙を剥く訳さ」

 そこまで言われれば、スタンリーにもその理屈が理解できた。

「──つまり、REIはそもそも“全人類への攻撃が不可能”なように組まれているから、拡大解釈によるエラーも起きようがない。映画の悪役AIみたいなことにはならねぇ。そういうことか?」

「そういうことさ。そもそも、REIが今まで自己判断で行動していたのは、『“指示をくれる人間”が()()()()()()()()()()()()()()()()()』だよ。人類が復活し、相互コンタクトがとれた今、REIは()()()()()に沿って動いてくれているよ」

 その言葉で、スタンリーの中に別の懸念が生まれた。

「──その、指示に対する()()()()は、どうなってんだよ」

 ──複数の人間から、矛盾するオーダーを受けた時、REIはどう判断し、どう行動するのか。

「さあ?」

()()!?」

 ゼノのまさかの返答に、スタンリーの喉から、常ならぬ上擦った声が出た。

「本当に、現状では不明なんだよ。──月の“敵”に挑むために、宇宙ステーションが不可欠な以上、その管理をするREIを(いたずら)に混乱させるようなマネは出来ない。矛盾したオーダーを与えての行動テストなんて、(もっ)ての(ほか)だ」

 つまり、未確認で、未知数だということだ。

「……やっぱ、とんだ爆弾なんじゃん」

「まあ、誰からの指示であろうと“人類に危害を加える”ようなオーダーは拒否するだろうから、そういう意味では心配要らないよ。──月面の“敵”との決着がついたら、是非とも行動テストはさせて欲しいけれどね!」

 好奇心に弾む、ゼノの声。

「REIもそうだし、千空も、クロムも、本当にElegant(エレガント)なんだよ、スタン。“ホワイマン”との決着がついた後、彼らがどんな未来を作っていくのか、興味が尽きない。僕は、それを見たくてたまらないんだ」

 そう告げるゼノの目に、スタンリーは、確かに光を見た。──星空を映す水面のような、儚くも美しい輝き。

 それは、かつてスタンリーが魅せられた、“北極星(ポーラスター)”の鮮烈な煌めきとは違ったけれど──

(──ああ……もう、()()()だ)

 それでも、スタンリーは、確かにそう感じた。

 ──ゼノが()()()()()()に、楽しそうに()()()()()()()()()()()

 ゼノが世界を見限って()()()()()()()()()()()()()()──もう、()()()()

 ──やっと、そう安心する(信じる)ことが、出来たのだ。

「だからね、スタン。どうか、千空たちと一緒に、無事に帰ってきておくれ。僕の欲しい未来には、君も、千空も必要不可欠なんだ」

「──ああ、任せときな、ゼノ」

 ゼノの未来(セカイ)に必要だというなら、一度銃口(殺意)を向けた相手のことだって、スタンリーは全力で守る。

 ──それを相手の方がどう思うかなど、スタンリーの知ったことではない。

(まあ、千空は普通に『おあがりてぇわ』って受け入れるんだろうけどさ)

 そうでなかったら、そもそもスタンリーの石化は解かれなかっただろうから。

 

  * * *

 

 ロケット搭乗員の選出では、とんだ番狂わせが連続で起きた。

 3つある枠のうち、当初の予定通りに決まったのは、科学者枠だけ。

 まず、戦闘員枠。誰もが司で決まりだと思っていたのに──その司の推挙を受けて、コハクが選出されたのだ。

 単なる視力だけではなく、優れた“観察力”も含めた“目の良さ”。純粋なウェイトでも、身体能力の面でも、司よりずっと“身軽”だということ。

 純粋な格闘戦でなら司の方に分があるけれど、総合的なスペックで見れば、コハクの方がずっと“宇宙飛行士”に適している。そう判断されたのだ。

「宇宙船の()()()は、少しでも小さく軽い方がいい。どっちも戦闘力がライオンレベルなら、重くて嵩張るオスライオンより、小さくて身軽なメスライオンの方が、より適しているってこった」

「だからメスライオン言うな!!」

 不服そうなコハクには悪いが、千空のその説明はとてもわかりやすかった。

 そして、パイロット枠の選出でも、想定外の出来事が起きる。

 ()()シャーロットが、自ら進んで、パイロット試験を受けたのだ。

 彼女は、龍水と競り合うハイスコアを叩き出した上で、「ボクや、ボクと並ぶことしかできないコイツよりも、ずっとパイロットに相応しい人がいる! スタンリー隊長だ!」と主張したのである。

 スタンリーとシャーロットの実力を知るアメリカ軍人勢(技術班含む)が、全員彼女の主張を肯定したため、スタンリーにパイロット試験を受けさせることが決まり──

 彼はぶっちぎりのベストスコアでもって、パイロットに選出されたのだ。

 そりゃあもう、龍水は盛大に悔しがった。

「──SAIの作ったロケットに乗り損ねた……ッ!」

 捕まえたSAIを隣に据えて、バー・フランソワのカウンターに突っ伏す龍水。

「い、いや、僕っていうかっ、千空とゼノと筆頭とした技術者たちでしょ! 作ったのは!」

「プログラム部分は殆ど貴様が手がけているだろう! ならば貴様の作ったロケットでもある!──だからこそッ! 俺が! 乗りたかったのにッ!」

 干した杯をカウンターに叩きつけるように置きながら、龍水は語気荒く管を巻いている。

(……“欲しい”モノを手に入れ損ねると、龍水さんってこんなゴネかたするんだなぁ……)

 ゴーザンは、こんな龍水を初めて見た。

 それも当然。龍水は、一度“欲しい”と思ったモノは、あらゆる手を尽くして必ず手に入れていたからだ。

 いや、“欲しい”対象が人間だと、普通に相手から断られていたりするが、「今は無理でもいつか必ず!」と継続して口説き続けるため、“もう絶対手には入らない”という状況に陥った龍水を見るのは、今回が初めてだった。

「──何だい、君らしくないね、龍水」

 龍水の余りの荒れっぷりを見かねてか、意外な人物が声をかける。

「司……」

(うわ、意外な組み合わせ……)

 かつて既得権益者を憎悪していた司が、既得権益者の筆頭のような龍水を気遣うとは。

「司、貴様は悔しくないのか……? 貴様だって、千空のロケットに乗りたかっただろうに」

「悔しいか悔しくないかで言えば、もちろん悔しいよ。けれど、()()()コハクの方が適役だと思ったからね」

「……()()()、だと?」

 含みのある司の言葉に、龍水が顔を上げた。

「REIと宇宙ステーションのおかげで、宇宙へのハードルは、ぐっと低くなったじゃないか。“ホワイマン”という脅威が消えた後、千空は絶対に宇宙開発へ乗り出すよ。“70億人を支えるため”の、資源・エネルギー問題の解決も兼ねてね」

「──ッ!!!」

 龍水の目が、カッと見開かれる。

「──そうだ、その通りだ! 何も、今回のロケット打ち上げが、()()()()()という訳ではない!」

「うん。現状、最も優れたプログラマーはSAIだし、今回のノウハウもある。きっと次号機の作成にも駆り出されるよ」

「……えっ?!」

 思わぬ飛び火を受けてSAIが目を剥いているけれど、龍水も司も彼に構わず話を続けていく。

「ならば! ならば、俺はッ! 次こそ、SAIの作ったロケットの搭乗員になってみせる!」

「うん、俺も、次こそは千空の作ったロケットの搭乗員になるつもりだよ」

「ねえ、待って、僕の意思はっ? 無視なのっ? 平和になったら、一介のプログラマーに戻るつもりだったんだけど!? 僕が作りたいのはゲームとかであって、ロケットじゃないんだけどっ!?」

 笑い合う二人の横で、SAIが泣きそうになっていた。

(……多分、あの人は一生、龍水さんに振り回されるんだろうなぁ……)

 苦笑したフランソワに杯を差し出され、自棄のようにそれを呷るSAIの姿に、ゴーザンは同情する。

(金狼さんが、銀狼さんに振り回され続けるように、出来の良い兄は、弟の我が儘に振り回される運命なのかも……)

 思わず天を仰げば、夜空に一際輝く、ISSのライト。

 

 ──人類が再びあそこへ至るまで、あと、少し。




世界線変動:REIのおかげで、割と早めに往復プランへ切り替わる。パイロットになり損ねた龍水がちょっと荒れる(原作と違ってスタンの操縦スキル見てないので、自分が行く気満々だったせい)

次で最終話です。
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