小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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科学王国の人間関係がややこしいという話。


ややこしい話

・松風の困惑

([発覚]~[探知]くらいのお話)

 

「テメー、こんなことに隠れてやがったのか!」

「ぎゃー! 見つかったぁ!」

「──貴様!」

 かつての主に瓜二つの少年──銀狼が、誰かに足蹴にされている瞬間を目撃し、松風は咄嗟に、手にした得物代わりの枝を相手へ突きつけた。

「──あ゛?」

 眼前に突きつけられた枝を、相手はきょとんと見つめるだけだったが、銀狼が盛大に慌て出す。

「わー!!! 待って待ってやめて松風!! 千空は敵じゃないって言うか、むしろウチの長だから!!」

「──! これは、失礼を……!」

 己の早合点を悟り、松風はさっと枝を下げ、その場に膝をついて頭を垂れた。

 ──長への目通りなど、本来なら真っ先に済ましておくべきことだったのだが、とにかく相手の方が忙しいということで、今まで機会がなかったのである。

(──しかし、だからと言って、こんな失態を犯すとは……)

 直接目通りが叶わなくとも、風体くらいは聞いておくべきだったと、松風は悔いた。

「……あ゛~~~、テメー、ソユーズが言ってた武士だな? 松風っつったか」

 頭上から降ってくる長の声に、咎める色も怒気もない。ただ、得心の気配だけがあった。

「はっ。お初にお目にかかります、長様」

「いや、返事までマジで武士だな……千空でいい。様もいらねぇ。頭上げてくれ」

 何やら感嘆めいた言葉をこぼしてから、長──千空はそう告げる。

 顔を上げた松風の前で、千空は苦笑を浮かべて、

「まあ、テメーの主のそっくりさんで、新たに仕える気でいるヤツが足蹴にされてりゃ、そりゃトサカにも来らぁな。テメーは悪くねぇ、気にすんな」

「は? いえ、しかし……」

「さすがに、実際にぶっ飛ばされてたら話は別だが、枝ぁ突きつけられただけだ。大げさに咎めるようなことじゃねぇわ」

「……寛大なお言葉、ありがたく」

 ──度量が広い、と松風は感嘆した。

「ただ、銀狼とそっくりだったテメーの主がどんだけ立派だったかは知らねぇが、コレをソイツを同一視すんのはやめとけ。コイツはわりとしょーもねぇゲスだ。今も仕事サボってやがったし」

「仕事サボってたのは謝るから、松風の前でゲス呼ばわりはやめてよぅ……」

 千空の物言いに、銀狼がべそべそと項垂れる。

「……ちなみに、その仕事というのは?」

 この度量の広そうな長に限ってないとは思うが、無理な仕事を割り振られたのかと、松風は一応確かめてみたが、

「掃除だ。船の甲板の掃除。言っとくけど、コイツ一人の仕事じゃねぇし、コイツがサボってる分は、今も別のヤツがこなしてるからな?」

 千空の答えは明瞭で、銀狼の非が明らかになるだけだった。

「……銀狼殿、己の勤めを(ないがし)ろになさってはいけません。私も手伝います故、勤めにお戻りを」

「ぅ……はぁい……」

 主を諫めるのは配下の勤めのうちである。松風の忠言に、銀狼はしょんぼりと項垂れつつも、素直に頷く。

 その銀狼の様子を見ていた千空が、ニンマリと笑った。

「こりゃあ良いお目付役ができたなぁ。──松風、これからもそんな感じで、銀狼のことを頼むわ」

 そう言って、彼は脇に置いてあった荷を持ち上げ、その場から立ち去ろうとし──

「──失礼」

「あ゛?」

 あんまりにもその足取りがふらふらと危なっかしいものだったため、松風は咄嗟に、千空の荷に手を添えてしまった。

「……千空殿も、船にお戻りになるのでしょう? 行き先は同じなのですから、お運び致します」

「あ゛~、そりゃおあがりてぇんだが……ちーっと脆いモンも入ってるから、丁寧に頼めるか?」

(……銀狼殿に頼まず自分で持ったのは、“丁寧さ”に不安があったからなのか……?)

 だとすると、長である千空からの銀狼の評価が、新入りである自分以下ということになる。かなり由々しき問題だ。

「──承知致しました」

「じゃあ、頼むわ」

 内心の煩悶を飲み込んでの松風の返答に、千空は頷いて完全に荷を預けた。

(……この重さでふらつかれるのか、千空殿は)

 とても軽い、というほどではないが、松風にとっては大した重量ではない。──体つきからも察せられていたが、千空はあまり力には恵まれていないようである。

「おら、銀狼! テメーも戻んだよ!」

 そんなことを言いながら、千空は空いた手で銀狼の手首を引っ掴む。

「ひぇ~! わかったってば! もう逃げないから引っ張んないで!」

「その言い分を信じるには、前科が多すぎんだよ、テメーは!」

(……前科……)

 荷で手がふさがっていなければ、松風は頭を抱えていただろう。

(──これからは、私がしっかり銀狼殿を見ていなければ)

 そうして、銀狼の評価を良い方に改めなければならない。松風はそう決意した。

 その後、千空と荷を千空の目的地まで運んでから、松風は銀狼と共に清掃作業に参加。

 銀狼の兄だという金狼という青年に、「愚弟が世話をかけてすまない……」と深々と頭を下げられて慌てる、などという一幕を挟みつつ、仕事をつつがなく終え、そのまま夕餉の席に誘われた。

 と、その席で顔を合わせたモズという男の問いに、松風は首をひねることとなる。

「──結局、科学王国の中で一番偉いのって誰なの?」

「いまさら何を言ってるんですか、あなたは。科学王国の王は千空さんだと、ソユーズ様も言っていたのに」

 キリサメと名乗った女性の言葉に、松風も頷く。

(そう。銀狼殿も、長だと言っておられた)

「いや、でもさぁ、その千空のことを、龍水は『俺のモノ』って言ってたじゃん」

「──は?」

 モズの意外な言葉に、松風とキリサメの声が重なった。

「ああ……洞窟での話か。──まあ、船の上に限ってなら、龍水が“一番偉い”ことになるのだろう。彼はペルセウス号の船長だからな」

 金狼がそんなことを言う。

「──長である千空殿よりも?」

 思わず尋ねてしまった松風に、金狼は頷いて、

「ああ、千空自身が言っていた。『船の上では、誰であろうが、船長の指揮に従う義務がある』と」

「……ならば、その他では、千空殿が“一番偉い”ということですか?」

「そりゃそーだよ。千空は科学王国の王様だもん」

 松風の言葉に銀狼が頷くも、モズがまた異を唱えた。

「でも、なら、何で千空は、氷月に『部下じゃない、対等だ』みたいなこと言ったの」

「──は!? 千空そんなこと言ったの!?」

「……ああ、確かに言ったな……『部下ではなく、対等の同盟者だ』と」

 ぎょっと目を剥く銀狼。金狼が遠い目で肯定した。

「……んもぉ~~~! 千空はもう! ホントにもう! 誰にでもそういうこと言うッ! 僕ら石神村の人間ならともかく、何でよりによって氷月に! 元敵なのに! 元々敵だったヤツなのにぃ~~~!!」

「──えっ」

 ダンダンと卓に拳を叩きつけながらの銀狼の言葉に、松風、キリサメ、モズの三人の声が重なり──

「──う~ん、銀狼ちゃ~ん。そういう言い方されると、俺の肩身も狭くなっちゃうんだけどな~?」

「ぅげッ」

 苦笑を浮かべて寄ってきた男の顔を見るなり、モズが踏まれた蛙のような声を上げた。

 男はそれをチラリと見たものの、気にした様子もなく、そのままそばの席に腰を下ろす。

「ゲンはいいのッ! ウチの村に悪いこと何もしてないし! むしろマグマにボコボコにされた側だし!」

 銀狼の言い分に、男──ゲンは苦笑した。

「う~~~ん、これがゴーザンちゃんの言ってた“謎の銀狼ジャッジ”」

「いや、こればかりは銀狼に一理あると思うが」

「そう? なら、そ~ゆ~ことにしとく~」

 金狼も同意するのに、ゲンは笑って頷く。

「……あの、結局、氷月という者は、どういう……?」

 おずおずと尋ねた松風に、ゲンは「ん~」と小さく唸ってから、

「俺も氷月ちゃんも、元々は千空ちゃんの敵だったのよ。でも、今は和解して、千空ちゃんの同盟者って訳」

「だから、ゲンと氷月は違うもん……」

 しつこく異を唱える銀狼に、ゲンはまた苦笑した。

「……まあ、たしかに俺は、自分の意志で千空ちゃんに敵対した訳じゃなく、初期スポーンが敵側だったってだけどさ。すぐに千空ちゃんに寝返ったし」

「すぽ……?」

「あ、メンゴ。最初の所属ってこと」

 耳慣れぬ言葉に松風が首を傾げれば、ゲンはすぐに言い換えてくれた。

「……生まれた国が、敵国だったということですか?」

 キリサメの言葉に、ゲンは曖昧な笑みを浮かべて、

「……まあ、石化からの復活を、第二の出生と呼ぶなら、そうなるかな」

「──ゲン殿も、石化からの復活者なのですか!?」

 己と同じ身の上だったのかと、松風は驚いた。

「そ。俺だけじゃなく、この船の船員は、一部を除いて、みんな石化からの復活者。み~んな、千空ちゃんの復活液のお世話になったの」

 そう微笑む彼の頬に、ヒビの跡。

「例外は、銀狼ちゃんたち石神村の出身者だけ。村の人はみんなお揃いの格好してるから、見分けは簡単だと思うよ」

「そーそー! この縄が、ウチの村の生まれの印!」

 ゲンの言葉に合わせて、銀狼が腰に巻いている縄を指し示した。

「──いや、おかしくない? 何で千空の薬で起きたのに、千空の敵だったの?」

 はたと気づいたようにモズが声を上げるが、

「う~ん、モズちゃん鋭い!」

「ひッ」

 ゲンに声をかけられるなり、怯えたように口を閉ざす。

「……いや、そんな怯えないでよ。別にとって食ったりしないよ? 俺」

「べ、別に怯えてねーし!!」

「……そ? ならいいけど」

 モズの言葉はわかりやすく虚勢だったが、ゲンは深くツッコまずに話を進める。

「千空ちゃんが作った復活液の製法を、無理矢理千空ちゃんから聞き出して、勝手に使ってた人がいたのよ」

「ああ、なるほど。ゲン殿は、その“敵”に起こされたと」

「そゆこと。──ま、今はその人も、千空ちゃんと和解してるから。むしろ、妹の命の恩人として慕ってるから。会っても敵視しないであげてね」

「──そうなのですか……しかし、やはり千空殿は度量が広い。かつての敵を、“対等の同盟者”と言い切るとは」

 しみじみと感じ入る松風に、ゲンは遠い目をする。

「……度量が広いって言うか……ちょっと感覚が常人と違うんだよね、あの子……そこが美点でもあるんだけど、ちょっと危うくもあるというか……」

(──あの子?)

 ゲンの千空の呼び方に、松風は引っかかりを覚えたが、すぐにそれどころではなくなった。

「ホントそれ! 普通さぁ、自分の住んでる村に放火した犯人のこと、“対等な同盟者”なんて言う!?」

「──放火!?」

 怒りがぶり返したらしい銀狼の言葉に、松風とキリサメとモズの声が、また重なる。

「あ、ゲンじゃないよ! やったのは氷月だからね!」

「こら~、銀狼ちゃん。隙あらば氷月ちゃんのネガキャンしないの。めっ、よ!」

「ふんだ! 僕は千空と違って心広くないの! 金狼を刺したことも、一生許さないから!」

「やめんか、銀狼。戦時の話だぞ。和解した今、師範を悪く言うのはよせ」

「あんなヤツのこと“師範”なんて呼ぶなよぅ~~~! 金狼も心広すぎ~~~!!」

 ゲンと金狼が二人がかりでなだめるも、銀狼は余計に拗ねるだけ。

 その銀狼の声も、本気の恨み節というより、子どもの駄々の調子であるため、いまいちどう受け止めるべきなのか、松風には計りかねた。

(……とりあえず、その“氷月”という人物に、せめて私は近づかないでおこう……)

 そう思っていたのだが。

 

 ──結局、松風も氷月に弟子入りするような形になり、銀狼がまたゴネるのは、そう遠くない未来の話である。




前話の“思考王(シンキング)”に、過去一の“ここ好きポイント”を貰い、「してやったぜ!」という気持ちと「え? ここで?」という気持ちが、筆者の中でせめぎ合っている。
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