小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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(せっかく書いたのに)もったいない(と筆者が思ってしまった)話。
本編1話を上げた後、本編2話を書き上げるまでの迷走中、つらつらと思いつくままに書いたものの、自分で容赦なくボツにしたシーン2つです。
(ボツにした理由は、『これが2(3)話目ではインパクトが足りない。“原作”との世界線変動率がショボい。もっとパンチが欲しい』でした)
(そして、パンチ力を求めて書いた結果が本編2話)



もったいない話

・5739年の大晦日

([亡命]~[師匠]の間)

 

(──い~い流れ来てたと思ってたのになぁ……)

 すっかり雪に包まれた景色を眺めながら、ゲンは心中で苦く呻く。

 ──思い返せばもう二ヶ月近く前、司帝国からの襲撃後。亡命した六人のモヒカンマッスルたちは、いっそ拍子抜けなほど科学王国へなじんだ。

 亡命直後に『ケータイ作って情報戦で先制攻撃!』なんていう千空のとんでも発言をくらい、その衝撃もさめないうちに、わたあめという甘味で味覚から殴られ、とどめとばかりに水車による水力発電の開始。

 千空が両手に構えた導線の間を、音を立てて電光が疾った時、この時代の石神村民(現代人)たちも驚いていたが、石化復活者(旧文明人)であるモヒカンたちは、もはや声もないレベルで驚嘆していた。

 水車の発案者が石化復活者(旧文明人)ではなく、石神村民(現代人)のクロムだったという事実も、彼らの驚嘆を増幅させたのだろう。──おかげで、彼らが石神村の人々を“原始人”と蔑むことなどなくなった。

 水車の動力のおかげで、それまで人力で賄っていたドイヒーな作業がなくなったのもよかった。

 全てを人力で賄う作業環境のままだった場合、モヒカンマッスルたちはマッスル故に、千空の合理的適材適所によって、とりわけパワーのいる作業を割り振られていただろう。地獄の製鉄とか。

 あのキツさは、文明の便利さと天秤に掛けても、マイナスに傾きかねない要素だった。それが永遠に消滅したことにより、モヒカンマッスルたちの造反の目も一つ消滅したのだ。

 そして、科学の恩恵は加速度的に増えていく──ガラス瓶の保存食、ストーブ、点灯テストと嘯いてのクリスマス・イルミネーション。

 いくら体育会系のマッスルくんたちであろうと、21世紀の日本で生まれ育った人間に、司帝国での原始的な生活はキツかったはずだ。科学王国での生活水準を知ってしまった今、もう戻れるものではない。

 共に冬支度をこなしたことで村人たちともすっかりなじみ、もう彼らの再離反はありえまいと、そう、思っていたのに。

(──それが、フラグだったのかなぁ……)

 順風満帆かと思っていたケータイ作りが、今ここに来て、暗礁に乗り上げた。

(真空管のフィラメントに、竹の繊維では強度が足りない……そして、代わりに使えるような素材は──)

 ──()ぇんだよ。この時代じゃ、そんなもんは──

 そう、苦い声で吐き捨てられた千空の言葉が、ゲンの耳の奥でリフレインする。

 千空は今、その優秀な頭脳をフル稼働して、ケータイに代わる“武器”を、司帝国を破るための作戦を、必死にひねり出そうとしている。

 しかし、今から新しい作戦へ切り替えるには、あまりにも時間が足りない。今、村を包む雪が、冬の寒さという大自然の防壁が去ってしまったら、今度こそ司が来る。彼のお眼鏡にかなう、若い戦士たちを大勢引き連れて。

(──この状況で、ゴーザンちゃんたちが、どう出るか……)

 ゲンの最大の懸念事項は、そこだ。

 ゴーザンたちが科学王国側についたのは、司帝国では見捨てることしかできない親たちの助命のためだ。しかし、親の命云々より先に、自分が殺されるかもしれないという状況に陥っても、彼らは折れずにいられるだろうか。

(『犬死にはごめんだ』って、最初にゴーザンちゃん言ってたし)

 その出方を窺うために、そして、出来うる限りコントロールするためにも、一度話しておかねばなるまい。

 せっせせっせと村の中の雪を片づけているマッスルたちへ寄っていけば、気づいた彼らの方から声をかけてきた。

「あ、ゲンさん、どもッス!」

「雪かきお()~♪ あったか~いお茶持ってきたから、皆、一回休憩にしよ~?」

「あ、あざっす!」

 持参したカセキ謹製の薬缶(ゲン特性ホットハーブティ入り)と、人数分の木のコップを納めた手駕籠を掲げて見せれば、彼らは素直に作業を止める。

 外だと寒いので、彼らの住んでいる家に移動した。

 まずは各人お茶で一息ついて、ゲンがさて、まずはジャブだと世間話を振ろうとした時、

「──あの、千空さん、大丈夫っスか」

 ゴーザンが、先に、剛速球のストレートをブン投げてきた。

「ケータイ作り、ヤバい感じなんですよね? 変な風に、思い詰めてないっスか。変なこと、考えてませんか」

「……変なこと?」

 何とか表情を取り繕って、首を傾げて見せたゲンに、ゴーザンは重々しく、告げた。

「──自分が司さんに首差し出して、村だけでも無事に残させる、みたいな……」

「ッ……!」

 まさに自身が思い描いていた最悪のシナリオを告げられ、ゲンは上げそうになった悲鳴を噛み殺し、わざとらしくヘラヘラ笑った。

「いや~、千空ちゃん、そんな自己犠牲の人じゃないよ~? 最後の最後までワンチャンスあさって、何だかんだで図太く生き残るタイプだよ、あれは」

「……なら、いいんスけど……」

「じゃないと困るよ~。そのルート、村の人たちは見逃してもらえるかもだけど、裏切り者の俺らを司ちゃんや氷月ちゃんが許すとは思えないもん。千空ちゃんと一緒に打ち首ルートでしょ。俺、まだ死にたくな~い」

 軽薄な口調で、釘を刺す。──もし千空を売っても、裏切り者は決して生き残れないぞ、と。

 幸いなことに、その言葉で無念そうな気配を滲ませる者はない。ただ、千空を案じる空気だけがある。

(ああ……ゴーザンちゃんたちも、もはや芯まで科学王国民なんだ……)

 ──純粋に、思い詰めた千空(王様)を案じているだけで、『自分たちで千空を司に差し出す』なんてことは考えてもいなかったのだ。

(疑っててメンゴね~、ゴーザンちゃんたち)

 内心で謝りつつも、それを悔いる気はゲンにはない。

 悪いなと思うことと、懐疑的な思考をやめることは別の次元だ。──良くも悪くも裏表のない人々で構成される科学王国で、この()()ができるのは、ゲンだけなのだ。

「──何かケータイの代わりに良い作戦考えないとね~。ゴーザンちゃんたち、なんか無い?」

「いや、あったら言ってるッス」

「だよね~!」

 気持ちいいほどの即答に、思わず笑ってしまった。

「……ただ、千空さん、この時代には無い、って言ってましたけど」

「うん?」

 ぼそ、とゴーザンが独り言のように続けるのに、耳を傾ける。

「じゃあ逆に、俺らの時代の、フィ……フィ……?」

「フィラメント?」

「それっス。何で出来てたんスかね」

「う~ん、それこそ千空ちゃんに訊かないとわかんないヤツ!──今晩訊いてみなよ、ゴーザンちゃん」

「……今晩?」

「そ! 今日は大晦日! せっかくだから、みんなで初日の出を拝みに行こ~?」

 

 ──そうして、村総出で見に行った初日の出。

 懸命にあがき続けていた少女が、微かな違和感から握りしめていた石。

 ()()は、彼女の努力へ報いるように、暁光を受けて蒼く輝いた。

 

 

・5740年の1月4日

(上のちょい後)

 

 行き詰まったフィラメント作成へ差した、蒼い光明──タングステン。

 その他にも大量のお宝鉱石を担ぎ、何でか妙に急かしてくるマグマに追い立てられながらも、クロムは千空と共に大層ご機嫌だった。

 しかし、浮かれた隙をついたかのように、マグマがいきなり千空に目隠しをし、担いで走り出す。

「テメー、マグマ! なんだいきなり! クッソどこに千空連れてくんだよオイ……!!」

 事態の急転に、思わず悲鳴のような声が出た。──今回の冒険で、マグマも千空を認めたのではなかったのか? あれすら嘘で、まんまと謀られた?

 しかし、マグマを追いかけて着いた先は、普通に自分たちの帰還先──石神村だった。正確には、橋の手前にある科学王国の広場。

「あ、千空さん、クロムさん、マグマさん! お疲れ様っス!」

 出迎えたのは、司帝国側から寝返り、今やすっかり科学王国に馴染んだムキムキたちの一人、ゴーザンである。

「あん!? 千空はともかく、俺の名前がなんでクロムより後なんだよ!」

「えっ、すんません……?」

「──いや、そこどうでもいいだろうがよ……」

 マグマとゴーザンの間抜けなやりとりに、クロムの気も抜けた。

(こりゃ、千空をどうこうしようって空気じゃねぇな)

 謀殺とかそういう物騒なことじゃない。千空の目隠しの理由も、クロムにはもう察しがついた。というか察すも何も、既に答えが目の前にある。

(俺の倉庫大改造されてんじゃねぇか! ヤベー! なんだアレ!)

「千空さん、ちょっと失礼しやっス!」

 興奮するクロムの前で、倉庫の二階部分から、マグマに担がれた千空へ向かって手が伸びる。

「丁寧に持てよ、キョーイチロー! 千空さんは俺らと違ってヒョロ……(もろ)……華奢なんだかんな!」

「──いや気ぃ遣ってるのかもしんねーが、いっそストレートにヒョロいって言われる方がマシだわ。なんだ華奢って、こちとら女じゃねーんだぞ」

 ゴーザンの言葉に、目隠しされてからずっと無言だった千空が、思わずという風にツッコミを入れた。

「す、すんません」

「いや、いいけどよ」

 ゴーザンを軽く許した千空も、もはや現状に不穏さを覚えてはいないようだ。声が笑っている。

 貴重品のごとく丁寧に運び入れられた千空を追い、クロムもいそいそと大改造された倉庫の二階へ上がった。

「やあ、千空ちゃん。お()~~~」

「ククク、やっぱ主犯はテメーかメンタリスト」

 妙な言葉遣いで帰還を労うゲンに、千空が不敵に笑う。

「よ~くまあ、()()だってわかったもんだな。百物語の百話目(俺の話)にも、この情報は入ってなかったろ」

「いやもう何か察されてる~! 人間タイマーでカレンダーな千空ちゃんなら、まあすぐ気づくだろうなとは思ってたけど!」

 ゲンはヒ~ンと鳴いてから(泣くというには態とらしすぎた)、ぱっと満面の笑みになった。よく動く表情筋である。今の千空には見えてないけど。

「でもでも、プレゼント自体は絶対絶対ぜ~ったい、さすがの千空ちゃんでもビックリドッキリしちゃうものを用意したよ~!」

「セルフでハードル爆上げじゃねぇか。さっそく拝ましてもらおうじゃねーか、そのブツをよぉ」

「言・い・(か・た)ぁ~! も~、いいけども! じゃあ、ここ座って!」

 千空の返しに苦笑しつつ、ゲンは()()の前においた椅子へ、彼を座らせた。

 すかさず千空の後ろに回ったスイカの手で、目隠しが外される。

 ──その瞬間、確かに、千空が息を呑んだ気配がした。

「──1月4日、お誕生日おめでとう、千空!」

 室内狭しと並んだ科学王国民が、声を揃えて告げた言葉は、果たして千空の耳に届いていただろうか。

 天に向かって伸ばされた竹の筒。その先端を覗き込んだ姿勢のまま、千空はしばし微動だにしなかった。

「……天体、望遠鏡……? いや、天文台──」

 ようよう紡ぎ出されたその声も、小さく震えていて。

(──何が何だかよくわかんねーけど、ゲンの言う“ビックリドッキリなプレゼント”は、大成功だな!)

 千空が()()モノは、いつだって何だって、クロムにとっても素晴らしいモノだ。だから、きっと()()も、クロムにとって素晴らしいモノなのだ。

 千空は()()モノを独り占めになどしないから、いつもみたいに悪どく笑いながら、クロムにも“テンタイボウエンキョー”と“テンモンダイ”の良さを共有してくれる。

(つまるところ()()は、俺にとってもプレゼントみてぇなモノだな!)

 そう結論づけて、自分の倉庫が勝手に改造されたことも、自分が(おそらくは千空への秘匿の関係で)仲間外れにされたことも、クロムはまとめて水に流すことにした。




(ここ好きポイント欄を見て)いや、増えんのかーいwww
めちゃくちゃ笑いました。ありがとうございます。

あと、めちゃくちゃ今更なんですが、マジで今更気づいたので明記します。
この世界線の千空、宝島で銃作ってない!([正体]回の後書きにも追記しました)
要らないんですよ、あの流れだと。モズという脅威が、氷月のおかげで脅威じゃないから。
(必要になったら躊躇わず作るけど)必要に迫られない限り、千空は武器(特に火器)を作らない。だから、あの流れだと作ってない……

特に今後の流れに支障が出るような要素ではないのですが、気づいて異様に自分でビックリしてます。
今まで気づいてなかった自分にビックリしてるだけかもしれませんが。
バタフライエフェクト、ヤベーな()
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