小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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すごい今更だけど、バレンタインの話っぽい何か。
大千や司千っぽい話題が出てきますが、実際に存在してるのは大杠と大杠を推す千空だけです。
千空と大樹と杠の中学時代やら何やらを、盛大に捏造しています。あなたの解釈と解釈違いが発生したら、見なかったことにしてスルーしてください。
本編書きためてるうちにヒョイと生えてきた小話ですが、本編の流れにはほぼほぼ影響しないので。
(今、既に本編5話分くらい書きためてるけど、新刊読んで解釈違いが発生したら、最悪全部ボツになる)
(はよ新刊読みたい)


おもいの話

・恋する織姫はミライを編む手を止めない

([指導]の後の2月)

 

「──杠ちゃんはさぁ、『自分の方から大樹に言っちゃおう』みたいなのってないの~?」

 ゲンがドラゴを集める一環で広めた“バレンタイン”を目前に控え、銀狼がそんなことを訊いてきた。

「野暮な勘ぐりはやめんか銀狼!!」

 隣にいた金狼が即座に弟に鉄拳制裁を加えるが、近くのテーブルで食事をとっていた未来とスイカが、『純粋に気になる』という眼差しを向けてくる。

 だから、杠は、正直に、きっぱりと答えた。

「ないよ」

「ないんだ!?」

 レストラン・フランソワ全体から声があがる。──皆から聞き耳を立てられていたらしい。

(──う~ん、大樹君と千空君がいなくてよかった)

 いや、多分、いないからこそ、銀狼も突っ込んできたのだろうけど。

「何で!? やっぱり、大樹の方から言って欲しいから!?」

「う~ん……そういう気持ちも、まあ、ちょっとはあるけど……」

 それだけ、という訳ではなく、むしろ、それはオマケのようなもので。

「──やっぱり、復興を終えるまでは、ダメなんだよ」

「えぇ~? なんで~?」

 理解できない、という風に銀狼が首を捻る。周りのみんなも、不思議そうな表情。

「──私にとって、大樹君って、千空君とセットなんだよ。手袋の右と左。それも、紐で繋がってるタイプの」

 杠の言葉に、全員がきょとんとして、それから納得し、また疑問符を浮かべた。

「いや、千空と大樹の二人に対して、その表現はとてもしっくりくるんだけど……それが、杠と大樹の関係の進展に、どう関係するんだい?」

 未来の隣に座る司が、代表のように疑問を口にする。

「私と大樹君が、本当にそういう仲になったら──千空君は、私どころか、大樹君さえ、危ない場面へ連れて行かなくなる気がするから」

 はっと息を呑む音が、あちらこちらから聞こえた。

 ──どれだけ物理的に離れようが、彼らの絆は揺るぎもしない。それは、杠自身が、一番よく知っている。

 けれど──

「遠慮とかじゃなくて……なんだろう、うまく言えないけど、千空君はもしかしたら、そういうことしちゃうかもって、思うんだよね」

 非常事態の中で、()()()()()()()()()()()()()、千空の方から縁を切ろうとすることは──絶対に有り得ないとは、残念ながら言い切れなかった。

 ──千空は、時々哀しいくらいに、優し過ぎるから。

「──いや、何となく、わかる。千空は、合理性を謳うわりに……情が()()()()ところが、あるからな」

 金狼が、重々しく頷いた。

「だからね、千空君が、危ない場面に出なきゃいけないうちは、()()なんだよ」

 千空と大樹(一対の手袋)の間にある()を切るようなことだけは、絶対にあってはならないのだ。

 例え誰が許そうと──杠自身が、それを赦せない。

 ──そして、更に言うなら、

「あと、『復興しないとくっつかない』って思わせておけば、自然と千空君は、復興のための最適解を選ぶよね。そうなれば、大樹君のことも、私のことも、遠慮なく連れ回すでしょ?」

 にっこり笑って告げれば、何故か周りに慄いたような気配が満ちた。

「……杠ちゃんって……わりと、()()()()なんやな……?」

 未来の、感心と驚きが混じったような声。

「そうだよ~。でなきゃ、あの二人とは一緒にいられなかったよ。──大樹君、あれで結構モテたし。本人、全く気づいてなかったけど」

 杠の言葉に、主に女性陣から納得の呟きが返る。

「……確かに、大樹って、わりと優良物件よね?」

「気は優しくて力持ちで」

「ルックスも悪くないし」

「ものすごく働き者だし」

「過ぎるくらい正直だから、浮気の心配もなさそうだし」

 それを聞いて、男性陣にも納得の気配が広がった。

「ですです。──私が大樹君と仲良くなったのって、中学上がって、しばらく経ってからなんだけど……それまで大樹君がフリーだったのは、千空君のせいというか、おかげらしく」

「どういうことなんだよ?」

 杠の言葉に首を傾げたのは、スイカだ。

「例えば、『今度一緒に遊びに行かない?』って女の子に誘われたとして、大樹君はどう答えると思う?」

「──あ、もうわかったわ。俺、わかっちゃったわ、これ」

 陽が、遠い目をして、答えを告げる。

「『千空と約束してるから無理だな!!』だろ」

「大正解! 100億万点です!」

 あちこちから、乾いた笑いがこぼれる。

「めげずに、千空君の方へ、先に根回しした子もいたらしいんだけどね。『○○(いついつ)、大樹君を誘いたいから、その日は約束を入れないでおいて欲しい』って」

「うわ……猛者……」

 銀狼の慄いた声。

「意外と千空君、そういう空気読めない訳でもないから、『じゃあ、○○(いついつ)は俺の方の都合がつかねぇかもしれねぇって言っとくわ』って、答えたらしいのね」

「……で? いや、もう、何となく想像つくけど……」

「大樹君はその子の誘いに、『行けるかもしれないが、もし千空に呼ばれたら、そっちを優先するぞ! それでもいいか?』って答えたんだって」

「うっわぁ……」

 悲鳴のような声があちこちから上がる。

「それは、心折れる……」

「もし付き合えるようになったとしても、優先度で千空に勝てないってことじゃん……」

「越えるべきハードルが高すぎる……」

「大樹は、千空が好きすぎるんだよ」

 最後のスイカの呟きが、全てを示していた。

「……それ、もう、何か、変な風に噂されるレベルじゃね?」

「うん、ありましたな~。『あの二人は男同士でくっついてる』みたいな噂も」

 陽の呟きに、杠は素直に頷く。

「そのせいで、千空君は、一時期男の子にモテちゃったそうで。『あれはクソほど災難だった』って、死んだ目で言ってましたな」

「──ああ……」

 その言葉を聞いた司が、死んだ目になった。

「だから、『目の前で男を褒める男はホモか策士だ』なんて、言ったのか……」

「え、そんなこと言われたんだ?」

「うん……君が目覚める前にね」

 ということは、千空と大樹と司の3人で暮らしていた頃である。

(……それは、千空君、警戒しただろうなぁ……)

 状況的に、ホモでも策士でも、千空の中では“仮想敵”である。

(まさか、千空君と司君の話し合いがこじれたのは、このせいもあったり……?)

 いや、さすがにそれはないだろう。ないと思いたい。

「……いや、それって、大樹とくっついてるって前提で、なお言い寄ったヤツがいたってこと? 猛者かよ」

「クソほど厄介で迷惑なだけの猛者じゃん」

「女子からはお邪魔虫扱いされ、野郎に口説かれる……」

「うっわ……」

「千空が『恋愛脳は非合理の極み』って嫌そうな顔する理由がわかったわ……」

「かわいそうすぎる……」

 口々に千空への同情が寄せられる。

「──まあ、そんな感じところに、ひょんなきっかけから、私も二人のロケット作りに関わることになりまして。その縁を、根気と根性で維持し続けた結果が、今です」

「……あ~~~……」

「そのポジションに居続けるのは、確かに、根気と根性、あと度胸も要るわ……」

「いや、っていうか、大丈夫だったの? それ?」

「女子から嫌がらせとかされなかった?」

 女性陣から案じる声。──女子の怖さは女子の方が知っている。

「ところが、ここでも千空君のおかげで、大丈夫だったんですな~」

 千空自身が、どこまで()()()やっていたのかは不明だが──

「毎日のように、人目のあるところで、ロケット作りに必要なパーツ作りのノルマを、確認してくる訳ですよ」

「……あっ(察し」

「傍目にはライバルいじめに見えるヤツ」

「いや、むしろこれは、小姑のイビリ……?」

 『下手に大樹に近寄れば、自分がアレをやらされるのか』と、周りの女子は勝手に勘違いし──諦めたのである。

 実際のところ、千空は『杠に合わせた仕事』を頼んでいるだけであって、イビリでもイジメでも何でもない、ただの合理的適材適所でしかなかった。

 ただ単に『杠には無理なくできる仕事』が、端からは『あれは“無理”』と見えるものだっただけで。

(あの時は、人より器用でよかったなぁ、って思ったよね)

 そんな風に、自分に自信も持てるようにもなった。

「まあ、そんな感じで中学時代を切り抜けまして。高校上がってからは、もう最初から3人セット扱いですな」

 うふふ、と笑えば、おおう、とちょっと引いたリアクションが返ってきた。

「……ん? んん?」

 と、何かに気がついたように首を捻ったのは、言い出しっぺの銀狼。

「……今の話、聞く限り、もしかして……先に好きになったのって、杠ちゃんの方なの……?」

 一瞬、店中が、沈黙した。

 おそらく──『杠のことを想って3700年を乗り越えた』という大樹のエピソードが強烈過ぎて、てっきり大樹の方が先に杠に惹かれ、杠がそれに絆されたのだと、みんな思い込んでいたのだろう。

「──さあ? どうでしょうな~?」

 ()()()()に笑って、杠は答えを濁す。

 ──その答えを一番に告げるべき相手は、3700年の遙か昔から、既に決まっているので。

 

 

宇宙(ソラ)に焦がれる

(上の話のちょい後)

 

「そういえば、千空ちゃんって、石化前、女の子からはモテなかったの?」

 “バレンタイン”という祭りを終えた次の日、その祭りの発起人だった男が、突拍子もないことを訊いてきた。

「は? いきなり何ほざいてんだテメー?」

「いや、一時期男の子からモテて困ったって話は聞いたんだけど、女の子からはどうだったのかな~? って」

「はあッ!? どっから──いや、杠だな!? 何話してんだあいつ!?」

 最初から限られすぎていて、情報源を絞るまでもなかった。──前後の流れは忘れたが、一度だけ杠へ()()()()を愚痴った覚えがある。

 大樹では有り得ない。あの朴念仁は、その辺に全く気づいていなかったし、千空も意図的に伏せていた。──気色悪くて言えるかこんな話。

「銀狼ちゃんに自分と大樹ちゃんの仲について突っ込まれて、そこからレストラン・フランソワで過去エピソード大放出、みたいな流れになったらしいよ。俺は、その又聞き~」

「……銀狼かよ……」

 あの野暮天は、普段、本当にロクなことをしない。

「……千空、男に言い寄られてたのか?」

「確かに君は男にしては華奢だが……さすがに、女には見えないと思うが」

 居合わせたクロムとコハクまで話に乗ってきてしまった。千空はゲンナリと天を仰ぐ。

「まあ、中学生──13、4歳くらいの頃の話らしいし、千空ちゃんも、今よりもっと華奢だったんでしょ」

 『別に女に間違われてた訳ではない』とわかっているだろうに、ペラペラ男はそんな風に二人を誤魔化した。──多分、自分が聞きたい話題から話を逸らしたくないからだ。

「で、どうだったの? モテた? バレンタインにチョコの山作っちゃったりした?」

「ある(わきゃ)ねーだろ、んなもん」

 露骨にニヤニヤ笑って聞いてくるゲンに、ジト目で返す。

「ふぅん、意外だな。君はわりと、見目は良い方だと思うのだが」

「ヒョロガリだけどなー。あ、でも、石化前の世界だと、別にその辺は関係ねーのか? ゲンがモテてたって話だし」

「あれっ? 思わぬところから俺に流れ弾きたね!?」

 コハクの言葉にクロムがそう返し、ゲンが目を剥いた。

「自分で言ってたじゃねーか。『俺はチョコの山が築けるレベルで貰ったこともあるけど』って」

「──へぇ? 隅に置けねぇじゃねーか、色男」

 お返しとばかりに、ニヤニヤ笑って、クロムの言葉に乗っかる。

「いや、確かに言ったけども……俺がもらったヤツは、全部ファンからの贈り物だからさぁ、ちょ~っと“本命”とは質が違うっていうか~」

「ああ、“義理チョコ”というヤツか」

「そ~、そんな感じ」

 得心したようなコハクの言葉に、ゲンは我が意を得たりとばかりに頷く。

「……そういや、ああいう芸能人様への贈り物って、受け取った後、どうするもんなんだ? 普通に本人とその周りじゃ食いきれねぇ量だろ?」

 首を傾げて尋ねれば、ゲンはあっさりと答えをくれた。

「俺のとこの事務所は、慈善施設への寄付扱いだったな~。ファンの方にも前もってそう通達されてて、本人の口には入らないってわかった上で、それでも好意を示すために贈ってくれる訳ね」

「ほ~ん、なるほどねぇ」

「──で、そんな露骨な話題そらしが、メンタリストに通じるとでも?」

「チッ……」

 やはりダメか。

「……テメー一人のことならともかく、相手のいることをペラペラ喋る訳にゃいかねぇだろ」

 渋い顔でそう告げれば、ニヤ~と人の悪い笑みを向けられる。

「ってことは、やっぱいたんだ~? “本命”くれる()♪」

「……まあ、受けとらねぇで返したがな」

「えっ? そうなの?」

「何故だ、貰ってやればよかっただろう」

「千空、甘いもん、別に嫌いじゃねぇだろ?」

 正直に明かせば、ゲンだけでなく、コハクとクロムも目を見開いた。

「……同じ好意(モン)返せねぇのに、一方的に受け取るのは、フェアじゃねぇだろ」

「──予想の100億万倍、ジーマーに誠実な答えが返ってきた~……」

 何故か、よろりとゲンが身体を傾ける。

 と、思ったら、突然真顔になって、ぐいと身を寄せると、

「……でも、それ、正直にそう言って返したの? 逆効果になったんじゃない?」

「逆効果?」

 きょとん、と目を丸くしたのはクロムだ。

「ふむ、千空の誠実な対応の結果、相手の気持ちがより強まってしまう、というようなことではないか?」

「そうそう! コハクちゃん、わかってる~!」

(──あ~……あれ、そういうことだったのか……)

 コハクとゲンのやりとりで、千空は今更ながらに、「受け取るだけでも良いから!」とやたら粘ってきた女子の心理を理解した。

 と、それをゲンに目ざとく見留められ、

「あ、心当たりのあるお顔」

「…………まあ、かなり粘られたことは、ある」

「やっぱりね~~~! そういう時、どうしたの?」

 これはここで誤魔化しても折に触れほじくり返されるヤツだな、と察して、千空は正直に吐いた。

「──『俺が今、宇宙に向けてるリソースを、一部でもテメーに対して割りふる余裕がねぇ』って、きっぱり断った」

 聞いた3人は、それこそ背景に宇宙を背負った猫のような顔をした。

「…………千空ちゃん、『宇宙に恋してる男』みたいなあだ名、つけられなかった?」

「おう。そのおかげで、男女問わず言い寄られなくなったわ」

「……『せい』じゃなくて、『おかげ』ってくるあたり、ジーマーで千空ちゃんは千空ちゃんだわ……」

 ゲンは乾いた声で笑い、それでやっと、その話題は終いとなったのだった。




新刊待ってる間にと思って、小説版ドクスト『星の夢、地の歌』と『声はミライに向けて』を読みました(今更)
今まで書いてる話と齟齬があったらどうしようかな、とか思ってましたが、特に齟齬が見あたらなくてなくてよかったです(作文)
ちょいちょい受動喫煙してた情報の意味が知れて、ちょっとしたアハ体験でした。科学部の山太くんとか、クロムのギターとか、未来の「兄さんボッチ」発言とか、人魚姫とか。
ちなみに『reboot:百夜』はまだノータッチです。
というのも、百夜関連のエピソードに弱い自覚があるので、「これは絶対読んだら泣くヤツ……」って思って手が出せてない。
覚悟が決まったら、買って読みます。
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