小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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前半、タイトル詐欺な物騒な話です。メンゴ。
後半、大杠、千←ルナ描写あります。
いろいろ捏造注意。



やさしい話

・×弟子が優しい ○師匠がヤバい

([糾弾]・[片道]くらいの時間軸)

 

 ──チェルシーの保護をきっかけとして、“科学王国VS司帝国”時代の話が、中途半端に彼女とゼノの耳に入ったらしい。

 その場にいた当事者は、千空、司、ゲン。3人とも自分を“悪者”にして語る(相手を悪く言わない)タイプであるため、彼らが告げた断片的な情報は、聞く側を多大に混乱させたとのこと。

「──ついでだから、当時の事情を知らない皆に、“科学王国VS司帝国”についての流れ、説明してあげよっか♪」

 ゲンがそう言い出し、船に乗船している“アメリカ組”が集められ、南は説明役として駆り出されたのだ。

 いつもなら、こういうのはゲンの役割なのだが──

(あの“戦争”を丸く収めた“功労者”は、自分の手柄を自分で語りたくなかったんでしょうね)

 常日頃から『自分が一番カワイイ』と宣っているくせに、自分の戦果を吹聴したがらないのだから、あの男は本当に嘘つきだ。

 ──そうして、南が“科学王国VS司帝国”について語った結果。

「──まさか司氏が、そんな危険思想の持ち主だったとは……」

「あんたが言うんじゃないわよ!!!」

 己の所行を棚に上げたとしか思えないゼノの()()に、南は眉を吊り上げて全力でツッコんだ。

「『科学の力で独裁しよう』なんて企んだあげく、弟子を手に掛けようとしたのはどこの誰よ!?」

 南は、わりと本気でゼノに対して怒りを覚えていた。

(──こういう、イカレた科学者がいるから……!!)

 かつての司も、千空個人のことは憎んでも嫌ってもいなかった。『友になりたい』と願っていたと、本人が言っていたくらいだ。

 それでも、司が、千空(科学の申し子)との決別を選んだのは──“大人”や“既得権益者”に対するスタンスの差だけではなく、ゼノのような“マッドサイエンティスト”と、彼らが生む“凶悪な科学”への警戒も大きかったはずだ。

「それは僕だね」

 しかし、当のマッドサイエンティストは、南の弾劾にぬけぬけと頷き、

「──けれど、僕の愚行と、司氏の危険思想は別の話だよ」

 そんな風に宣うのだ。

「う~ん……まあ、ゼノの言いたいことも、わかる。『文明を進めない』って考え方は、学者からしたら、ナシナシのナシだし。ある意味“独裁”よりヤバヤバではある」

 南が何か言うより先に、ゼノの言を推すように口を開いたのは、まさかのチェルシーだ。

 ゼノの“独裁”を強く糾弾したという彼女が、まさかゼノの意見を肯定するとは思わず、南は驚きで声を止めてしまった。

「何より、『既得権益者に弱者が食い物にされないようにするため』っていうのも、理由になってないというか……“弱者”への被害の形が変わるだけで、救済にも何にもなってないし」

「……どういう意味?」

 南の問いに、チェルシーは至極端的に答えた。

「『強い人間が弱い人間を危険から守る』って言ったってさ、病気は代わってあげらんないじゃん。医学も進めらんない以上、結局“弱い人”から死んじゃうよ」

「──あ……」

 南は、思わず息を呑んだ。

「だろう? そんな環境では、次世代へ命のバトンを繋げるかも怪しい。正直、『人類全てと心中する気だったんじゃないか』とすら思える暴挙だよ」

 ゼノの言葉を呼び水に、かつて千空が告げた言葉が、別の意味を帯びて、南の脳内で再生される。

(──“遠回しな自殺”……)

 あらゆる意味で司の思想には未来(さき)が無いと、千空はきっと、最初から察していた。

 ──司の“理想”は、そもそもが“過去への反発”でしかなく、“()()()()()()()()()()のだ、と。

「千空はどうして、こんな危険人物を、さっさと()()してしまわなかったのかな」

「いや、初手で『()()しよう』とはしてるだろ」

 物騒なことを不思議そうな声で言うゼノにつられてか、ジョエルまで物騒なことを言い出す。

「素手じゃ敵わないから火薬作りに行ったんだろ? 司に追いつかれたせいで、未遂(失敗)で終わっただけで」

「──そんな……千空が火薬を作ったのは、司との“取引”のためだって……()()だなんて、そこまでは……」

「っ!」

 ルーナの抗議に、ジョエルは顔を赤くして黙り、そっぽを向いた。──この職人、どうも仕事一筋すぎて、女性への免疫が皆無らしい。

(……ジョエルの言い分も一理あるわ)

 千空は、司との“取引”のために火薬を作った──南は大樹と杠から()()聞いていたから、そのまま語ったけれど。

()()千空が、『“取引”が決裂した場合』について、全く考えてなかったなんてこと、それこそあり得ない……)

 ──未来(さき)のない司の思想に、己だけでなく、()()()()()()()()()巻き込まれる。

 それは、千空にとって、決して()()()()ことだったのだろう。

(──千空はきっと、いざとなったら一人で“罪”を負う()()で、火薬を作ったんだわ……)

 そう、南は思ったのだが、

「ルーナ嬢の言う通り、千空には『司氏を()()する』つもりはなかった──というか、『その()()ができなかった』んだろう」

 意外にもゼノが、千空の覚悟(殺意)を否定する。

「だからこそ()()として、火薬というわかりやすい“見せ札”を求めて、箱根まで行くはめになったのさ。──単に司氏を()()するだけなら、その辺で採取できる()で、事足りたんだからね」

「──どっ……!?」

 物騒の極みみたいな単語に、ゼノ以外の全員が変な声で呻いた。

「日本の東京あたりにも、微毒から致死毒まで幅広く、有毒の植物が自生している。そして、その環境で一度も中毒を起こしていない以上、千空には“有毒な植物”を見分ける知識がある訳だ」

 ドン引きする周囲を無視して、ゼノは穏やかに微笑みながら()を吐く。

「裏を返せば、千空は『“()()を可能とする知識”を有している』ということだよ。──千空が優しい子で、司氏は命拾いしたね」

 僕なら絶対殺していたよ──そんな副音声が聞こえた気がして、南は、日本で目覚めた科学者が千空だったことに、心の底から感謝した。

 

 

“恋”は乙女を“強く”する(ガールズ・トーク)

(上の翌日)

 

「──杠と大樹って、千空と分かれた後、どう理由をつけて司と合流したの?」

 裁縫チームの作業を手伝うように言われたルーナは、手を動かしながらも、気になっていたことを杠に訊ねた。

 杠は、少し気まずそうな苦笑を浮かべて、

「実は……理由を考え(つく)るまでもなく、箱根から東京に戻る途中で、私が熱を出してダウンしてしまいまして……」

「えっ!?」

 ぎょっとしたが、言われてみれば、無理もない。──復活後の杠にかかった負荷は、体力的にも精神的にも凄まじいものだ。体調を崩すのは、むしろ当然とも言える。

「それで、焦った大樹君が私を抱えて、ツリーハウスに駆け込む形になったんですな。先に戻ってた司君に、『杠が酷い熱を!! 頼む、せめて熱が下がるまでここを使わせてくれ、司!!』って頼み込んだそうで」

「──ああ、そっか……千空も既に移動しているから、箱根に戻ったところで合流できる保証はないものね。でも、ツリーハウスに行けば、杠を安全に休ませることは出来る」

 ──『千空は死んでいる』と思っている司の視点でも、不調の杠を抱えた大樹がツリーハウスに駆け込んでくることは、当然の流れとして映るだろう。

「そういうことですな。まあ、大樹君は『一刻も早く杠を安全な場所で休ませなければ!』としか考えてなかったらしいんだけど」

「ああ……うん、そういう人だよね、彼……」

 大樹は英語がからっきしなので、ルーナは直接彼と話したことは無いけれど──何というか、言葉が通じなくても、見ているだけで()()()()()()。彼は、感情が全部表情と行動に出るタイプの善人なのだ。

「司君も優しいので、病人を放り出したりせず、ツリーハウスに受け入れてくれまして。そのまま共同生活ルートに入った感じですな」

「……杠は、強いね」

 穏やかに微笑んで言う杠の姿に、ルーナの口から、そんな言葉がこぼれた。

「え?」

 きょとんとする杠から目をそらして、手元に視線を落としながら、告げる。

「──私が杠の立場だったら、司のことを“優しい”だなんて、絶対言えないもの」

 ──武器を突きつけられて人質にされて、目の前で友達を殺されて。

(……そんな()()()()をした相手を、“優しい”なんて、きっと思えない)

「……う~ん……それは、私が“強い”というより……大樹君と千空君の感覚に“つられてる”だけというか……」

 意外な言葉に顔を上げれば、杠は困ったような笑みを浮かべていた。

「二人とも、それこそ“相手を憎む”ってタイプじゃないので──そうじゃなきゃ、司君を“護衛役”にはしないでしょ?」

「……い、言われてみれば……」

 その信頼を裏切ることなく、司は千空と大樹を“守りきった”訳だが──そもそも、普通の感性の持ち主なら、そのポジションに“前科持ち”を置いたり(でき)ない。

「『二人に恥じない自分でいたいな』って思うから、私も、人のことを“悪く”思わないでいられるのかも」

 そう微笑む杠は、同性のルーナが見とれるくらい、綺麗に見えた。

「…………杠が好きなのは、大樹の方なのよね?」

 思わず、ぽろっと不安が口からもれる。

 一瞬、きょとんとした杠は、まじまじとルーナを見つめた後、にこーっと楽しげな笑顔を浮かべ、

「ご安心を! 私と千空君はお互いに()()()()()()(ゼロ)なので!」

「ほ、本当に?」

「なんというか、私と千空君は同類だからこそ気が合うのですが、同類だからこそ、100億%恋にはならない感じでして」

「……同類?」

「物作り大好き仲間であり、大樹君を幸せにしたい同盟?」

「──あなたじゃなくて、大樹の方がライバルなの!?」

 ルーナは思わず悲鳴のような声をあげてしまった。──いや、その大樹の方は、わかりやすく杠に()()()()なのだが。

「あはは、それだと私にも強力なライバルができてしまいますな? ありがたいことに、千空君の大樹君への感情は()()()()()ではないです」

 杠はそんな風にルーナの懸念を笑い飛ばす。

「『俺の兄弟は世界で一番幸せになるべき』って感じの、家族愛? 千空君と大樹君って、親友通り越して、もはや兄弟同然なので。逆に大樹君も、全力で千空君の幸せを願ってますな」

「……あぁ……そういう……」

 杠の言葉に、ルーナは安堵の息を吐いた。──確かに、あの二人の距離感は、仲のいい兄弟のそれだった。

 にこにこと、杠は楽しそうな笑みでルーナを見つめて、

「しかし、なるほどなるほど~。ルーナさんは、科学少年がタイプだったんですなぁ~」

「科学少年って言うか……理知的で、信念のある人って、素敵だなぁって……」

「わぉ! それは確かに、千空君はど真ん中ストレートですな!」

「……脈あると、思う?」

 ルーナの問いに、杠の笑顔が一瞬固まる。

「……ルーナちゃんがどうこうっていうより、“ホワイマン”との決着つくまでは、千空君の恋愛感情はオフのままかと……」

「…………つまり、それまでは誰かとくっついちゃう心配は要らないし、その後ならチャンスもあるってことね!!」

 落ち込みそうな感情を、ルーナは前向きな言葉で無理矢理持ち上げた。

「わぉ! ポジティブ!」

「簡単に諦めたくないから! あんな素敵な人、絶対、他にいないもの!」

 ──千空のような“優しい強さ”の持ち主と出会えた奇跡を、大事にしたい。

(……私も、千空に“恥じない自分”になりたいから)

 そう、思えただけで──この“想い”には価値がある。

 実っても、実らなくても、この“恋”は、きっとルーナを成長させてくれるはずだ。

(──もちろん、できれば、実らせたいけどね!!)

 まずそのスタートラインに辿り着くためにも、目の前の作業を片づけなければいけないと、ルーナはいつの間にか止まってしまっていた手を、再び動かすのだった。




ルーナちゃん、可愛いよね……幸せになって欲しい。
相手が悪すぎて、恋が実るルートがうまく思い浮かばないけど(白目)
千空、そもそも人間相手に恋をするのだろうか……一生科学に恋してそうな気もする……

初期の司の思想って、わりとツッコみどころ満載ですよね。
なのに、千空が理詰めで論破しなかったのは、司の行動原理が、単なる“感情論”でしかないと察していたからだと思う。
司の頭でなく、心が“納得”できない限り、彼は()()()()()、と。
だから、司の心に訴える材料がない(妹は死んでると思ってる)うちは、()()()()()()()()()()()と考えて動いていたし、司の心に訴える材料を見つけて(妹は生きていると察して)からは、無血開城ルートに移行した。そういうことだと思う。
毒殺については、千空には絶対実行不可能。多分、そもそもその発想すらなかったと思うけど、思いついても大樹がいる時点で()()()()
この件で大樹と連携するのは不可能なので、()()()()()()()()()()()リスクが消えない。故に無理。
これが、ゼノとスタンリーだったら、ゼノはやる。スタンリーときちっと連携した上で、確実に()る。
アメリカ幼馴染みコンビの殺意は止められない。こわいね(白目)
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