小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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千空に対する司のクソデカ感情の描写ありますが、BなLではないです。
隠れボッチが友情こじらせてるだけで、腐った意図は皆無です。
(大事なことなので二回言いました)


未来

 司が気づいた時には、既に、全てが終わっていた。

 

 ──蝙蝠たちが住まう、硝酸の源。“奇跡の洞窟”に、()がいる。

 

 洞窟の防衛に配備した戦士たちは、既に全員捕縛されていた。

 戦車のようなものが、洞窟のすぐ手前に横転している。こちらが用意していた落とし穴の罠を、無理矢理踏み越えた跡があった。もはや動けない科学のカラクリは、既にその仕事を果たしたのだ。

 日本刀や、重さを感じさせない防具を手に、()と洞窟を守る形で展開する戦士たち。司の見知らぬ人々に混じって、見知った顔がいくつか。

 まず、洞窟への進路をふさぐ位置で、全身を隠すほど大きな盾を構えた青年。大樹が()を守る位置に居ることは、至極当然のことして、司の腑に落ちた。

 その大樹のすぐ横で刀を構えているのは、かつてこの手で巨木の下敷きにした少女。──彼女と同じ、藍色の衣と注連縄のような装飾品を揃って身につけた人々は、箱根にある集落の出身者たちだろう。

 そして、集落への襲撃時に焼け死んだと聞いていた、ゴーザン、ユーキ、レン、アカシ、キョーイチロー、モリト。──彼らの死も、こちらを欺く偽装だったのか。

 そんなゴーザンたちの生存以上に予想外だったのは、油断なくこちらへ弓を向ける男と、無手ながらもこちらを鋭く睨む少女。

(──羽京、ニッキー……君たちも、()についたのか)

 司が雪解けを待っているうちに、()は司の築いたこの組織を、既に内から切り崩していたのだ。

 墓地への人の出入りの多さに不審を覚えた氷月が、墓標下から見つけ出した機械──通信機で。

 氷月からの報告を受けるなり、すぐさま()()へ駆けつけたけれど、とっくの昔に、全てが終わっていたのだ。

 ──だって、自分たちに続くよう命じた戦士たちが、誰一人来ない。

 司と氷月のスピードについて来れないのは不自然ではなかったから、気づけなかった。──彼らはついて来れなかったのではなく、最初から()()()()()()()()()()()のだ。

「──よぉ、司」

 不敵な笑みを浮かべた()が、己の名を呼ぶ声を、司は確かに聞いた。

 ──かつて、確かにこの手で殺めた男。誰よりも頭の切れる、科学の申し子。

「──千空」

 ()を呼ぶ己の声音は、いっそ透明なものだった。いくつもの感情がぶつかり、相殺し合ったのだろうか──他人事のように、司はそんなことを思う。

「本当に……生きていたんだね」

 氷月の報告を信じていなかった訳ではない。ただ、()の頸部を砕いたあの感触が、ずっとこの手に残っているから。どうやって生き延びたのだろうと、どうしても疑問に思ってしまうだけ。

「ククク、ご丁寧に生死確認のための調査員まで送り出しておいて、よく言うわ。──まあ、その調査員様は、おありがたーく科学王国にスカウトさせて頂いたがな」

「ごめんね~、司ちゃん。俺、コーラの誘惑には勝てなかったの♪」

 笑って告げる千空に、同じように笑みを含んだ声音が続く。千空の背後からひょっこりと顔を出して、当たり前のような顔で千空の横に立った。

 ──ゲン。あさぎりゲン。かつて司が起こし、『千空の生死確認』を頼んだ相手。虚偽の報告で、司を謀った蝙蝠男。

(うん──そうだ、そうだね。千空の言う通りだ)

 司の胸に満ちるのは、怒りでも悲しみでもなく、ただ得心。

 司は、自分が確実に千空を殺したことをわかっていながら、心のどこかで()()()()()()()()信じ(おもっ)ていた。

 千空の話題を拒否し、司と距離こそとるものの、あまりにも屈託のない大樹と杠の存在があったから。そして、それ以上に──

 出会い方さえ違っていれば、初めての友になれたかも知れない相手を、()()()()()()()()()のだと認めたくなくて──未練がましく、その“死”を否定したがった。

 こんな理由を、調査へ送られたゲンが聞いたら、怒るだろうか、笑うだろうか。でも、そちらも早々に()へ寝返ったのだから、おあいこだと思って許して欲しい。

「なーに笑ってやがんだ、テメー……この状況でも、まだ勝てる気でいんのか?」

 どうも、自分でも気づかぬ内に微笑んでいたようだった。不気味そうに言う千空の様子すら、司には懐かしく慕わしい。──彼からすれば、迷惑なことだろうけれど。

「──うん。そうだね……多分、そちらの戦士たちを倒すだけなら、俺と氷月だけでも可能だろう」

 誇張なく、純粋に()()()と判断しながら、司は告げる。

「けれど、君はもう、完成させているんだろう?──俺が君を殺したあの日、君たちが作っていた物を。今度はもっと、大量に」

 だから、千空の脇に控えるゲンは、昼だというのに松明を掲げているのだ。

「よ~くわかってんじゃねぇか。──この洞窟を吹っ飛ばせるくらいには、(こさ)えたぜ」

 千空は笑いながら、導火線付きの小壷を掲げて見せた。

「そんなことをしたら、君も困るだろう。硝酸が採れなくなる」

「ああ、そうだ。けど、テメーも同じように困る訳だ。──だから、取引だ、司」

 告げる千空の表情を見て、司は悟る。彼は()()()()()()()()()()()()()()()()

 もしかしたら、最初の、あの時から、ずっと──司を殺す為ではなく、司と取引する(話し合う)機会を生み出す為の道具として、千空は火薬を欲していたのか。

「俺がテメーに求めるのは、停戦。んでもって、俺がテメーにくれてやるのは──」

 そこで一度言葉を切り、一呼吸挟んでから、千空は告げた。

「──テメーの妹、復活ワンチャンだ」

 そう、司の根幹を揺さぶる、誘惑(救い)の言葉を。

 

  * * *

 

「──6年と、数千年だよ、未来……!」

 

 ──そうして、天才科学少年が命がけで証明して見せた科学により、絶望していた最強の青年は救われ、最愛の妹との再会を果たしたのでした。

(めでたし、めでたし──で、終わればよかったのになぁ!)

 残念ながら、ゴーザン的には、これからが本番(クライマックス)である。

 ゴーザンに出来ることなど、端から大してありはしない。なので、とにかく事前に、氷月への注意を周囲に促していた。

 氷月の危険性については、放火の件や虚偽報告の件で既に知られていたので、ゴーザンの警戒は不審がられることもなく、真剣に受け止めてもらえたようだ。

 アニメと同じように、氷月が未来に顔を洗ってくるよう勧めたのだが、すかさず「では同性の私が付き添おう」とコハクが割り込み、そのまま未来を連れて川の方へ行ってしまった。氷月どころか司も置いてけぼりである。

 と、その置いていかれた野郎どもに、千空が声をかけた。

「氷月、テメーはこれから()()したい? っつーか、()()する気だ?」

「──は?」

 まさかの剛速球ストレートをブン投げられた氷月は、思わず宇宙を背負った──ように、ゴーザンには見えた。

「司に()()()()()()()石像破壊を黙認してた連中と違って、テメーは司の“理想”に共鳴してたんだろ。──その司が、俺との取引の結果、一人で先に降りちまった。じゃあ、テメーはどうすんだ、って話だ」

「……司クンは、停戦には応じるが、“理想”を捨てる気はないと言っていましたよね?」

 氷月はとぼけるように、微妙にピントのズレた答えを返す。

 ハン、と千空は鼻で笑った。

「捨てずに大事に持ち続けようが、もう二度と()()はできねーだろ。──違うか、司」

「──うん。違わないね、千空の言う通りだ。……未来のいる世界で、石像破壊(あんなこと)は、もう、俺にはできない」

 長い睫毛をふせて、司は頷く。

「しかし、現実的に間引きは必要でしょう。今の地球の環境で、70億人もの人口が支えられる訳がない」

 氷月のシビアな言葉にも、千空は小揺るぎもしない。

「70億人が支えきれねぇなら、70億人が助かる手を、70億人で探しまくる。それが科学のやり口だ」

(で、出た~~~! 名セリフ~~~!!)

 勝手に聞いてたゴーザンは感動したが、言われた氷月は恐ろしく冷たい目をした。

「……それはもはや、“理想”ですらなく、夢想です。甘っちょろい夢物語でしかない」

「俺から言わせてもらえば、テメーらの掲げる選別思想こそ、ギャグの域だぞ」

「──ギャ、グ……?」

 呆れたような千空の言葉に、今度は司も、氷月と宇宙を背負った──ように見えた。

「選定の基準をどこに置こうと、誰かの主観が挟まってる時点で、絶対に偏りが出る。人間って種族の最大の強みは、多様性だぞ。それを自ら狭めてどうすんだ。遠回しな自殺か?」

「──優れた者を選別することは、種の強化へ繋がるでしょう!」

 語気を強めた氷月の主張にも、千空はすげない。

「遺伝子学的に、自然と次代へ残るものを“優れている”と言うんであって、わざわざ選んで残さなきゃ残れねーもんを“優れている”とは言わねぇ。──っていうかだな」

 最後には、珍しく、苛立ったような声音で、

「思想云々に関しては、いったん余所においといて、石化についての調査には協力して欲しいんだよ。協力できねーなら、せめて邪魔しねーでくれ、マジで」

「……石化復活液は既に開発済みでしょう。これ以上、何を?」

「──テメーそれマジで言ってるか???」

 氷月の言葉に、今度は千空が宇宙を背負った。

「そもそもこの石化現象の原因は何なのか。()()の危険はねぇのか。少なくともこの二つは調べねーと、もし()があったら、また石化解くまで3700年だぞ」

 千空のその言葉に、確かに場が凍り付く音を、ゴーザンは聞いた──気がした。

 




世界線変動:洞窟戦での羽京の負傷なし。クロム脱獄イベントが消えたので、陽の自決(逃亡)もなし。ほむらが脱獄できず、洞窟は爆破されない。

Dr.Xに先を越されまいと、千空は内心焦っています。
独裁主義のマッドサイエンティストが、もしも石化現象を自由に扱えるようになったら──とんだ悪夢。
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