千空の引きが酷いのは、人生初期の人間関係ガチャで、運を使い果たしたのでは? ってレベルでSSRだよね。
──千空の爆弾発言で、その場に居合わせた皆が衝撃を受けたその後、“説明会”との名目で、復活者たち全員が
パンパンと手を鳴らしたゲンが、高台から声を上げる。
「はーい、一同傾聴~!」
その高台に千空の姿はなかった。また爆弾発言をしないよう、場からはずされているのかも知れない。
代わりに、ゲンと並んで立っていたのは、金髪の少女。──装いからして、例の箱根の集落出身者だ。
「まあ、皆色々訊きたいこといっぱいあると思うけど、まずはこのリリアン似の美少女、ルリちゃんのお話をお聞きくださーい」
(──リリアンの方が美人だけど、確かに似てる……)
リリアン絶対リスペクトのニッキーの目から見ても、ルリというその少女は、リリアンによく似ていた。
(そういえば、あのコハクって子も……もしかして、姉妹かね?)
コハクと対面した時には、まず戦士としての格に目がいって、容姿の方に意識がいかなかったが──思い返せば、彼女の容姿はルリと瓜二つで、つまりリリアン似だ。
百にも及ぶ復活者たちの視線を受けながら、ルリは泰然とその口を開いた。
「──石神村百物語、
朗々としたその声には、語り聞かせることに慣れた者特有の響きがある。
「スピーカーというおしゃべりが大好きな蜂がいました。スピーカーは墓石に針を刺すと、死者の声をしゃべることが出来たのです」
「──この百物語っていうのはね~、彼らの村で創始者の代からず~っと語り継がれてきた、生活の知恵的なものを詰め込んだお話なの」
物語とも呼べないような短い語りを終えたルリに代わって、ゲンが口を開く。
「その中で、この伝承はあまりに
ジャジャジャンッ! というゲンの合図で、高台の下に控えていた鉢巻きの少年──クロムが動いた。
隣に置かれていた、クロムの腰ほどの高さの
電話にも使われていたラッパ管──
最前列で話を聞いていたニッキーは、間近で見た
「──レコード……!!」
「はーい、ニッキーちゃん大正
言いながら、アイコンタクトするゲン。頷いたクロムが、慎重な手つきでレコードに針を置いた。
『──これを聞いている、何百年後、何千年後のどなたかわかりませんが、私は、宇宙飛行士の石神百夜と申します』
「──ッ!!!」
──復活者の誰もが、声すら出せず、驚愕に息を呑んだ。
(……宇宙、飛行士……)
ニッキーの頭の中で、数々のピースが音を立てて繋がっていく。
石化前の世界を知らない村人。リリアンに似た姉妹。
3700年前、
リリアン・ワインバーグはもう居ない──ああ、彼女は、とっくに、三千年もの遙か昔に──
そんな風に沈み込みかけていたニッキーの思考を引き戻したのは、スピーカーからの明るい声だった。
『……なーんつってな! 堅っ苦しー建前、ハイおわり!』
続いて告げられた4文字に、また息を呑んでしまったけれど。
『──千空』
──愛情と信頼を、そのまま声にしたような、呼びかけだった。
『石化から復活とげて、今このレコード聴いてんのは、千空、お前だろ。わかるんだよ、俺には』
(……何、で……千空の、名前──)
そんな、親が子を呼ぶような、愛おしげな声音で──そう思って、ニッキーは不意に思い出した。
日本人宇宙飛行士、石神百夜。ソユーズに搭乗する直前、生放送のレポーターのマイクを奪い、誰かへの個人的なメッセージを叫んで──その時、彼が呼んだ名前も──
(──千空……)
『何百年何千年! もしかしたら、とんでもねー時を越えて、俺からお前への、最後の通話だ。つっても、そっちの声は聞こえやしねーがな』
──これは、もう会えない子へ、親が遺した、
『千空、忘れんな。俺はずっと、ずっと──』
(──遺言、じゃないか……)
これは、このメッセージは、自分たちが聞いていいものなのか?──ニッキーがそんな風に思った次の瞬間、
『いや、そういう親子の感動うんたらはいらねー派だな、お前は! とっとと本題いこう!』
スパッ! と音が聞こえそうな勢いで、湿っぽい空気が、明るく切り捨てられた。
『千空、もしもお前が、まだ村の仲間たちの心を掌握できずに困っていたら、これを聴かせるといい。音楽の
そう、明るく告げられた言葉の後に、聞き覚えのあるメロディーが響き出す。
(──例の、リリアンの、歌……)
アメリカ復興という虚偽を真実だと思わせる為に、何度も何度も繰り返し流された、歌姫が遺した最後の歌。
──これは、二度と会えない息子を想う父の愛と共に、遺された歌だったのか。
「──石化現象が起きた当時、宇宙ステーションに居たことで生き残った、6人の宇宙飛行士。石神村のみんなは、その末裔って訳」
曲が終わったその後、ゲンが改めてそう告げた。
「当然、この曲はアメリカ復興とかに全然関係ない。──『あの話は、
リリアンの声を模してのネタバラシに、事情を知らなかった復活者たちがぎょっと目を剥く。
「テメェ──」
「ゲンは悪くねーぞ!」
頭に血が上った様子で声を荒らげかけたモヒカンに、すかさずクロムが叫んだ。
「いや、悪いかもしんねーけど、自分は地獄行きになるって言いながら、これなら無血開城できるからって実行したんだ! 俺も知ってて協力した! ゲンを殴る気なら、俺も殴れ!」
モヒカンの元へと歩み寄り、ぐいと歯を食いしばって顔を晒すクロムに、
「クロムちゃん!?」
さっきまで悪びれた様子も見せなかったゲンが、焦った声を上げた。
「待って待ってやめて! その子は何も悪くないからジーマーで!」
挙げ句、あわあわと高台から降りようとして、うっかり転げ落ちそうになり、ルリに支えられる始末。
「──なーに勝手言ってやがんだ、クロム。その理屈で行くと、俺まで殴られんじゃねーか」
まあ、殴られるだけのことは確かにしたがな──そう言いながら、復活者たちの後ろから現れたのは、
「千空」
ニッキーを含め、彼の名を呼ぶ何人もの声が重なって、場がどよめいた。
「……い、いや……何も、殴ったりは……」
ことのなりゆきに、しどもどとモヒカンが頭を振る。
上った血も、当然引くだろう。石神百夜のあのメッセージを聞いた後で、千空を殴れる者など、それこそ血の通わない人でなしの類だけだ。
この先、家族と再会できるかも知れない希望のある自分たちとは違って──彼は、この先永遠に、父と会うことは叶わないのだから。
そして、千空が“
──父の遺した末裔を、一人だって奪われたくはない。だからといって、それまで慎ましくも平穏に生きてきた彼らに、
だから、どれだけ後に恨まれようと、戦禍が起こる前に、詐術でもって事を収めたのだ。
と、モヒカンと千空の間に割り込む人影。──司だ。
「千空」
その名を呼びながら、彼と真正面から向き合う形で立った司は、
「──ありがとう」
深くその頭を、下げた。
「!? 何をいきなり──」
「──以前、科学を捨てろと迫ったこと。あの時の君にとって、あれは、あの言葉は、『父親のことは永遠に諦めろ』と迫るのと同義だったはずだ」
司の行動で丸くなっていた千空の目が、細められる。
「だというのに、君は、未来を救ってくれた。俺を、妹に会わせてくれた。──どんなに感謝しても、感謝しきれない」
「──俺は、俺の目的のために、人類全員叩き起こすだけだ。感謝される謂れは特にねぇが……」
千空は、わざとらしくニヤァと笑って、
「恩に思ってくれるっつーなら、こちらとしてはおあがりた~く利用させていただくだけだわ。科学王国のために粉骨砕身してもらおうじゃねぇか、霊長類最強様よ」
ケケケ、と声を上げる様は悪魔のようだが──それが、彼独特の照れ隠しだというのは、もう司にもわかっているのだろう。
「うん──じゃあ、是非、そうさせてもらうよ、千空」
そうして、司が浮かべた笑みは、帝国時代には一度も見せたことのない、柔らかいものだった。
「今度こそ、約束するよ。もう君に危険ってヤツは訪れない。これからは、俺が君の代わりに戦うからだ」
──この瞬間、停戦状態だった司帝国と科学王国は、確かな和平を結んだのだ。
* * *
「これから科学王国は、石化現象の謎を追う!」
ルリと入れ替わるように高台に上がった千空が、高らかに宣言した。
「んで、そのために、まず、現状でわかってる情報を共有する」
千空は、ぴっと指を一つ立て、
「1.2019年6月、地球上に居た人間は全員石化した。原理は現状不明」
もう一本指を増やして、
「2.人類石化の数日前に、ツバメにも石化現象が起きていた」
「──あぁ~! そういやあったな~、やたらリアルな鳥の像の話! え、アレ、マジのツバメが石化したヤツだったん!? ヤバくね!?」
そう声を上げたのは、ウェイ系おまわり陽くんである。よく怯まず口を挟めるな、とゴーザンは感心した。さすが陽キャ。
「おう、それだ」と陽に頷いてから、千空は更に指を立てて、続ける。
「3.宇宙ステーションに居た連中は、石化に巻き込まれず生き残った」
そして、4本。
「4.石化光線の発生地点は、おそらく南米。──これは、宇宙飛行士たちが地球に降りる前に、SNSのタイムラグから調べた情報だな」
最後に、全部の指を開ききって、
「5.現状、石化を解除するための方法は二つある」
「──二つ? 一つじゃないの?」
不審そうな声を上げたのは、
「ああ、二つだ。まず一つが、テメーらの石化を解除した、復活液。──これは、俺と大樹が一年かけて、製法を確立した」
「だいたい千空のおかげだー! 俺は大したことはしてないぞー!」
「ククク、謙遜すんな体力バカ。テメーが居なかったら、完成させる前に俺はおっ
幼馴染み二人の心温まるやりとりに、冷え冷えした声がかかる。
「──なるほど。その復活液を完成させた君たち二人は、当然、それとは異なる方法で石化を破った訳ですね」
「そういうこった。んで、そのもう一つの方法は、石化中も意識を飛ばさず、思考という形でエネルギーを使い続け、石像の中の
氷月の言葉に頷いて、千空はさらっと答えを告げる。
その言い方だと、全然大した事じゃないように聞こえてしまうのだが──ゴーザンは知っている。それが、とんでもなく
「意識を飛ばさず、ショーサンを浴びる……ショーサンってあの洞窟でとれるヤツじゃん! 頑張って寝ないでいれば、アレ浴びただけで起きれたってことかよ、キッショー!」
「──いや、『頑張って寝ないでいる』なんてレベルの話なら、三千年以上も石化しっぱなしな訳ないでしょ!?」
呑気な陽の感想に、南が悲鳴のような声でツッコむ。
「あははー、南ちゃん大正
笑って南を称えたと思ったら、ゲンはすっと真顔になって、具体的な数字を告げた。
「……は? 2兆……何?」
陽だけでなく、殆ど全員が、背後に宇宙を背負った。
「2兆
ゲンは真顔のまま、息を吐き切るんじゃないかという勢いで伸ばして、
「──っと、一度も
しん、と場が静まりかえり──
しばしして、ギギギ、とぎこちない仕草で、ゲンから千空の方に視線が移る。
「……さんぜん、ななひゃくねんかん……ずっと、おきてた……?」
「おう。だいたい80万秒周期で意識持ってかれそうになったが、何とかオチずに粘ってやったわ」
「──はちじゅうまんびょう???」
陽たちは背後に宇宙を背負った。
「──まさか……ずっと秒数を……カウントしてたの……?」
「ああ、もし意志の力で石化破れるにしたって、冬スタートじゃ詰むって思ってたからな。暦をキープするために、数えてた」
問う南の声は震えているのに、答える千空はどこまでも
「千空はスゴいだろう! 俺も最初に聞いた時は驚いた!」
ニコニコと、純粋に親友を自慢する調子で言う大樹に、ニッキーが、はっと目を見開いて、
「──大樹……アンタは!? 一体、どうやって意識保ってたんだい? まさか、千空みたいに秒数数えてた訳じゃないだろ?」
「俺かー? 俺は、ずっと杠に──」
笑顔で答えかけた大樹は、そこでボンと爆発した。
正確には爆発したみたいな勢いで、真っ赤になった。
「──いや、その、ゆ、杠に言おうと、おもっていたことを、言えないまま、石化したから! それを言うまで、絶対死なないぞー! と! な、何を言おうとしていたかは、言わないぞ! 秘密だ! まだ!!!」
そんな大樹を尊ぶような愛おしむような目で見つめて、杠が頷く。
「うん。人類再興させたら言ってくれるって、約束だもんね」
「そうだー! そう約束した! 待っててくれ、杠!」
ピュアッピュアな二人のやりとりに、宇宙を背負ったニッキーが小声で呟く。
「うそだろこの二人まだ付き合ってもいなかったのかい???」
「実質夫婦だと思ってたわ……」
南はさっきと別の意味で声を震わせている。
「あー、似たモン夫婦の話はおいといて、話戻すぞー」
悟りでも開いたみたいな表情で、千空が軌道修正した。──慣れを感じる。
「ともかくだ。3700年間意識保ってりゃ、硝酸さえ浴びれば復活できる。──つまり、硝酸が自然発生する土地の石像は、復活してる可能性がある訳だ」
「いや3700年起きてるヤツなんて他にいる訳なくね? ここに二人いる時点でおかしくね???」
「ここに二人居るんだから、他にいてもおかしくねーって話だよ」
悲しいかな、陽と千空の会話は根本のところで噛み合っていない。
「──あの、もしかして……千空さん、起きてそうな人に、具体的な心当たりあるんスか?」
千空の物言いが何となく引っかかって、ゴーザンがそう訊ねれば、頷きが返された。
「Dr.X。石化前、NASAに所属していた科学者で──俺の、科学の師匠にあたる人だ」
世界戦変動:いろいろ。前回の分にうっかり書き忘れたからここに書くけど、司はもう刺されないです(脳の溶けた顔)
どうでもいいけど、最後の千空のセリフで、『科学の師匠』って打とうとしたら、『科学の支障』って変換されて、スゲー皮肉……ってなりました。