──千空の科学の師だという、Dr.X。その復活の可能性と、彼の持論について聞かされた後。
「──幼い頃から吹き込まれ続けて、よくその思想に染まらなかったものですね、千空クン」
まず、氷月が思ったことは、それだった。
お前は優秀だ、お前は特別だ、お前には他者
このDr.Xの思想は、自らの頭脳に自信のある人間であればあるほど、染まりかねない甘美な毒だ。
氷月自身、自己を厳しく鍛錬してきた自負の裏返しから、自身の分も弁えられない
なのに──3700年という途方もない年月を数え続け、文明の影すら消えた世界に通信機まで作り上げた、この男は。素地に恵まれた天才であり、それに驕らず学び続けた秀才でもあろう彼は。
どうして、己
「はぁ? んなん、“科学が出来るヤツが一番エラ~い”なんて考え方、全く唆らなかっただけだわ。純粋にクソダセェだろーがよ」
「──ダ、ダサ……?」
顔をしかめた千空の答えを、氷月は阿呆のように鸚鵡返ししてしまった。
(え、これは、つまり……私のことも、“ダサい”と思っていたと?)
氷月が掲げていた選別思想も、“
と、そこに響く、大らかで朗らかな笑い声。
「千空は良いヤツだからなー! 人を支配とか、そういう悪いことは考えないんだー!」
満面の笑みでそう言い切った大樹を見て、すとんと腑に落ちた。
(──ああ、そうか)
千空の幼馴染み。自らを“雑頭”だと、自分の取り柄は丈夫さと体力だと、見栄も卑下もなく言い切る男。『人を殴るのはいけないこと』だと、殴られても殴り返さない、愚かなほどのお人好し。
──理由はどうあれ、意志の力一つで3700年を乗り越えた、もう一人の傑物。
こんな男がずっと側にいて、どうしてDr.Xの思想に染まれるか。──“科学に優れた人間が一番偉い”という思想は、この男を“格下”だと見なすことに等しいのに。
(──『人間という種族の最大の強みは、多様性』……)
千空から告げられた言葉を、今、やっと、意味のあるものとして飲み込めた。
肺腑を空にするほど、長い溜息を吐く。──ああ、ああ、なるほど。いっそ意固地に、他者を見限っていた己の狭量さは、確かに、
(『クソダセェ』としか、言いようがない……)
羞恥で目眩すら感じた。──こんな幼稚な理想に巻き込んだ、ほむらにも申し訳がない。
「──わかりました、千空クン。『思想はともかく、石化現象の解明が終わるまでは協力してくれ』という君の申し出、受け入れます」
「えっ!?」
意外そうな声があちこちから上がる。──ある意味当然の報いだが、面白くはない。
自然、続く声音は不機嫌なものになった。
「……現状、石化現象について解明できそうな人材は、千空クンだけなんです。もしDr.Xが復活していたとしても、聞き及ぶ限り、石化技術を委ねていい人間性ではない」
「ああ、うん……そういう……」
(他はともかく、司クン。君にだけは、そんな目で見られる謂れはありませんよ)
「おー。理由はどーでも、協力してくれるっつーんなら、心底おありがてぇわ」
どこまでもブレずにフラットなのは、千空だけだった。
* * *
「石化現象の解明のために、俺たちは南米を目指す。──つまり、俺たちはこれから、船を造る!!!」
千空のその宣言に、己の
(──人間の団結に必要なのは“共通の敵”って、マジなんだなぁ……)
ゴーザンは複雑な心境で、氷月を見る。──本当だったら、己を殺していたはずの男。けれど、今はもう、『千空に協力する』と明言した味方。
すぐには割り切れないが、敵に回すと恐ろしいヤツは味方につけたら頼もしいのだ。仲良くはできなくとも、あんまりギスギスしないようにしよう。
(っていうか、千空さんの師匠ってマッドサイエンティストだったのか……だから、俺が聞いた時、あんな反応だったんだな)
しかし、千空と同等かそれ以上の科学者が敵に回るかもしれないとか、怖すぎる──ゴーザンは身震いした。
アニメのストーリーだったら絶対復活してる流れだけど、とは思いつつ、
(どうか、石化したままでいてくれ! せめて、千空さんが石化現象解明するまでは!!!)
科学の世界に神は留守だと千空は言ったけれど、ゴーザンは全力で祈らずにはいられなかった。
世界戦変動:氷月(と、ほむら)が仲間になった!!!
ぶっちゃけ、実際にゴーザンたちを殺っちゃった原作氷月と、殺らずに済んだ本作氷月は大分別人。一線越えたか越えてないかはデカいよね。
ゴーザンのアニメ知識は尽きたけれど、このお話はまだ終わりません。
むしろこっからが本番。
ただ、ちょっと更新速度は落ちます。多分。