小石一投、波紋を生ず   作:ヒョロヒョロ

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原作で明言されてないから疑惑止まりだけど、龍水、硝酸浴びれなかっただけで、意識はずっと保ってたのでは?
「ついに」って言葉、ずっと抗ってなきゃ出てこなくない?
何より、このオリハルコンメンタルが、3700年程度で屈するとも思えないんだよな……


通貨

 ──ゲン発案の造船デザインアイディア大会が、主催者の狙い通り、満場一致で千空の優勝で終わった後。

「次はテメーの仕事だ、記者」

「……私?」

 その優勝者である千空に名指しされ、南は目を見開いた。

 今、このタイミングで、自分の仕事と言うことは──

「──“誰”が、要るの?」

「ククク、話が早くておありがてぇ。さすがは司が優先的に起こした情報屋だな」

(……この子、口が悪い割に、こういうこと()()()()言うのよねぇ……)

 司を引き合いに出して褒めてくる千空に、南は口元をむずつかせる。──相手を煽てるお為ごかしではなく、天然だからこそ始末が悪い。

 千空は、超人的な知能と知識量──生体スーパーコンピューターと称したくなるようなスペックを持ちながら、他者を見下す驕りが一切ない。むしろ、自身にはない他者の能力(個性)を、当たり前のように尊重している。

 職業柄、“天才”と呼ばれる人種と会う機会も多かった南だが、だからこそ、思うのだ。

(──石神百夜さんは、本当によいお父様だったのね)

 ガラスのレコードに刻まれた、愛情に溢れた父親の声。きっと、あの人に育てられたからこそ、今の千空がある。──是非あの人にもインタビューをしてみたかったと、もう叶わないことを南は思う。

 所謂ギフテッドと呼ばれる子どもの多くは、人格形成の過程で大きな問題を抱えている。ギフテッドたちの家族は、多くがごく普通の人であり、それ故、自分にはない彼彼女らの才覚を持て余して、関係に齟齬を生んでしまう。

 そして、一番身近な“人間”である家族との関係性がうまくいかなかったギフテッドたちは、それ以降の人間関係の構築にも躓いてしまうのだ。

(……そういう意味では、(ツカ)さんは……)

 司の、大人に対する異常なまでの不信感は、“親”というもっとも身近な“大人”の事例(サンプル)に恵まれなかったせいだろう。

 彼はそのまま、妹を守るために子どもであることを捨て、働き出してしまった。その先で出会った大人たちは、彼を利権のために利用することこそあれ、彼や妹を庇護してはくれなかった。──彼が“大人”に失望し、忌避するようになるのも当然だった。

(──私は、“チャンプ”としての(ツカ)さんのファンだったけど、それじゃあダメだったんだわ)

 恐ろしく強いのに、誠実で物腰穏やかなアスリート──そういう風にしか、司を見ていなかった自分。無邪気で無責任な憧憬から、彼の理想に荷担してしまった自分は、彼を救う“大人”にはなれなかった。

 彼を救ったのは、彼より若い少年。父の遺物すら躊躇わず策謀に用い、無血で戦を納め、彼の最愛の妹を取り戻した、千空。

 ──つまり、司の中の“大人”や既得権益者への不信感については、現状全く解決していないのだ。

 壊した石像の回収と修復には積極的に協力している。だが、それは千空の方針に従った結果であり、未来(と、もしかしたら自分たち旧司帝国民)が要らぬ負い目を持たないよう、贖罪に動いているに過ぎない。

 もしかしたら、石神百夜のレコードのおかげで、「中には()()()な大人もいる」くらいには軟化しているかも知れないけれど──“千空の父親だから”と、司の中で特例に置かれてしまっている可能性の方が高かった。

(──(ツカ)さんに“大人”を見直してもらうためにも、まず私が“大人”としてちゃんとしないと!)

「この石の世界(ストーン・ワールド)で、地球の裏まで大航海時代一発勝負すんだ!!──航海力100億の、神腕船長が欲しい!!!」

「了解よ。記者の誇りにかけて、最高の人材を紹介して上げるわ」

 決意を胸に、千空の要望へクールに頷いて見せた南だったが──その結果に、思い切り頭を抱える羽目になった。

 

「──はっはー! 戻ったぜ、ついに!! 世界は再び、俺の物だ!!!」

 

 七海学園跡地にて。復活早々、第一声でとんでもない宣言をぶちかました男──七海龍水に、誰もがひきつった顔で硬直した。復活液をかけた千空も含めて。

(──千空……! あんた、なんてことをッ!)

 いや、元はと言えば、千空の前で、この男の名前を出してしまった自分のせいなのだが。それでも、まさか「腕は立つ」という情報だけで、人格問題を丸無視して、速攻で復活液をかけるとは。

「──もしや貴様らが、俺のことを助けたのか?」

 ドン引いているこちらの様子に気づいているのかいないのか、龍水はマイペースに声をかけてきた。

「なら、礼はするぜ。無粋だがな! 執事に小切手を用意させよう、100億でも200億でも好きな額を書くといい。フランソワ!!」

 そう、執事のものらしい名を呼びながら、龍水は勢いよく指を鳴らす。

 既得権益者感丸出しな龍水の言動に、石像を掘り起こすパワーチームとして同行していた司が、すぅっと目を細めた。

(ああぁぁぁ……(ツカ)さ~ん……)

「……フゥン、どうやら、そういう次元の話でもないらしい」

 呼んだ執事が来ないことにか、周りの状況を見た結果か、龍水が一瞬真顔になり──

「当たるぜ、船乗りのカンは? 文明は滅び、七海財閥も俺も資産の全てを失った──違うか??」

 ニヤリと笑って告げられた言葉に、一同は再び絶句した。──あまりにも現状把握が早い。

「あ゛ー、そうだ。ご理解ソッコーで実におありがてぇ」

 頭の回転が速い故か、龍水のペースについていけるらしい千空が、こともなげに頷いた。

 龍水が、カッと目を見開く。

「はっはー!! 最っ高のチャンスだ。貴様ら、よくぞ起こしてくれた。世界中の所有権が消えたのなら、今から全てが手に入る……!!!」

 強欲全開な龍水の発言に、司のまとう気配が冷え切った。

(あぁぁ……マズいマズい……! こうなるってわかってたから、コイツは嫌だったのに! 千空の馬鹿ッ!)

 司の様子に気づいていない訳もないだろうに、千空は平然とした様子で、

「あ゛ー、世界の前にまず、服ゲットして人間に進化しろ、ツルピカ猿」

「ああ、失礼した。無粋だったな、美女3人の前で」

 差し出された服を素直に受け取り、身につけ出した龍水の言葉に、マグマが眉を寄せた。

「美女3人? 寝ぼけてんのか、2人だろ?」

「──いちいち言わなくていいんだよ、ホントのことは!」

「ぁふん!!」

 ニッキーが、すかさず無礼者の急所を蹴り上げる。──この場に居る女性は、南、杠、ニッキーの3人。その中で“美女”の枠から外れるのは自分だと、彼女は当たり前のように思っているのだ。

(──ニッキー……)

 彼女の自己評価の低さに、()()なるまでの彼女の過程を思って、南は悲しくなり──

「貴様は何を言っている?」

 心底不思議そうな龍水の声が、マグマに向けられる。

「タイプは様々あれど、女たちは皆美女だぜ。違うか??」

 語尾こそ疑問系だが、確信に満ちた断言だった。世辞でも気遣いでもない、掛け値なしに本気の言葉。

 言われたマグマだけでなく、ニッキーもぎょっとした顔をしていた。

「──だからこそ、俺は全員欲しい!! 故に、世界ごと手に入れてやる!!!」

「いや、結局そうなるのかよ」

 ブレない龍水に、千空が呆れと感心が混じったような声音でツッコむ。

「……その、“手に入れる”というのは、どうやって?」

 温度のない司の問いに、さっと場に緊張が走った。

「む、貴様、獅子王司か? はっはー! 霊長類最強の男と、こんな形で知己を得るとは、俺はつくづく運に恵まれている! 貴様も欲しい!」

「──だから、どうやって? 金で買うとでも?」

 上機嫌な龍水とは対照的に、司の声はもはや地を這っている。

「フゥン、貴様ほどの男を金だけで得られるというならば、それこそ額に糸目はつけんが。しかし、それほど安い男ではないだろう、貴様は」

 龍水の答えが意外だったのか、司が微かに目を見開いた。

「金銭は万人の“欲しい”を可視化する便利な道具(ツール)だが、そこに双方向の信用という裏付けがなければ、何の意味も為さない。──貴様は今、俺を欠片も信用していないだろう。故に、俺が幾ら積もうと、貴様は決して俺のモノにはなるまい」

 龍水の見解に、司は微かに眉を動かしただけだったが、千空が「ほー」と小さく声をもらした。面白がるような、感心するような響き。

「しかし、それが、俺が貴様を諦める理由にはならんな! 信用がないならばこれから得ればいい! そして、その機会はすぐそこにある! 違うか!?」

「ククク、違わねぇな。つくづく話が早くておあがりてぇ」

 バッシィン! と指を鳴らした龍水の結論に、千空は機嫌良く口の端を吊り上げた。

「──これから俺たちは、地球の裏を目指す。そのために、テメェの力が要るんだよ、七海龍水……!」

 

  * * *

 

 復活して早々、春の嵐(メイストーム)の襲来を言い当てて見せた龍水は、確かに船乗りとしては超絶優秀な人材のようだった。千空風にいうのならば、まさに“航海力100億の男”である。

 しかし、船長を引き受ける報酬として(まだ見つかってもいない)相良油田の権利を要求し、「使う分の石油は俺から買え」と“ドラゴ”なる通貨を発行しだすあたり、相当にクセが強い。

「──あれ……司さん的には、アリなんです……?」

 造船作業で一緒になった司に、ゴーザンは思わず訊ねてしまった。

 ──正直、訊くのも恐ろしかったのだけれど、アニメでは、司はこの時点で冷凍睡眠(コールド・スリープ)状態だったはずなのだ。

 彼が起きているせいで、余計なトラブルになったら──などと思ってしまえば、ゴーザンは訊かずにはいられなかった。

「……どうなんだろうね」

 司から返ってきたのは、自分でも計りかねるというような、迷いの混じった声だった。

「龍水は、金銭とは便利な道具(ツール)だが、双方向の信用がなければ無意味なものだと言い切った。──ならば、あのドラゴはある意味で、俺たちに対する、彼なりの信用の発露だとも言える」

「な、なるほど?」

 ゴーザンは、曖昧に頷く。──難しくてイマイチどういう話かよくわからない、とは言えなかったが、

(──思ってたほど、龍水に悪い印象は覚えてないんだな)

 一番知りたかった答えは、得られたので。

 

 ──近く、気球作りのためのマンパワーを集めるため、千空とゲンが仕掛けたエゲツナい情報操作(為替トレード)に、「龍水より、あの二人の方がよっぽど性質(タチ)が悪いんじゃ……?」と司が遠い目をすることを、ゴーザンはまだ知らない。




世界線変動:龍水復活時に司が起きてる。

司帝国で女子最年長として振る舞い続けていた南は、司が自分を“若者”と見なして起こしたことを、うっかり失念している。
残念ながら、君が頑張っても、司の中の“大人”の株は上がらないんだ……
ただ、石神村の大人(老人)のおかげで、司の“大人(老人)アレルギー”は、時と共に自然と緩和する。安心して欲しい。
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