ある冬の日、タキオンが担当女性トレーナー…モルモット君に遠征トレーニングを提案しました。

喜び、楽しみにしていたモルモット君。その様子に我ながら良い提案、と思うタキオン。

でしたが……。

という導入で始まる、
「タキオンがモルモット君を外に連れ出そうと企んだら」
で始まる、タキモル(女性トレーナー)if話です。

モチーフに「ゆるキャン△」コミック第15~17話を下敷きにしておりますが、ゆるキャンキャラは出てきません。

実在の場所を作品内で登場させていますが、脚色してあるので事実とは異なる部分があります。ご了承下さい。

「ゆるキャン△」第15~17話の台詞、シーン展開に意図的に寄せている作劇をしていること、ご理解いただけると幸いです。

科学的表現の言い回しに、山本弘先生の著作『プロジェクトぴあの』より参考にした箇所があります。

お楽しみいただければ嬉しいです。

1 / 1
かぜ引きモルモットとタキオン散歩

   * * *

 

《タキオンさん、おはようございます!》

 

 《おや、こんな時間からまた創作活動かい?》

 

《今から入稿ですー》

 

《ずいぶん朝早くにお部屋を出ていかれましたが、どちらへ?》

 

 《ソロで湘南さ》

 

《あれ? ソロってお一人で?》

 

《トレーナーさんと遠征トレーニングのご予定だったのでは?》

 

 …だったのだが、ねぇ…

 

 

第タキ話

〖かぜ引きモルモットとタキオン散歩〗

 

 

ー 二日前 ー

 

「試験休みに遠征? うん、しようしよう!」

 

 いつもの研究室、いつものモルモット君との他愛ない…研究プランの、ちょっとした検証を兼ねた提案から、それは始まった。

 

「神奈川県の大井という競バ場なんだがね…週末土曜に行かないかい? 電車を乗り継いで行く場所なんだか」

 

「いいねーーっ」

 

 モルモット君もずいぶん乗り気な様子だ。夕食に薬を混ぜた覚えもないのに、彼女の顔からはまるでキラキラがこぼれてくるかのような、そんな笑顔を輝かせている。

 

「私は地方出身だから関東は詳しくなくてねぇ。大井競バ場かぁ…楽しみだなぁ」

 

 どんな光景を想像しているのやら。少し上向き加減のほわほわ顔の、その口からは今にも「だなぁ」「だなぁ」と木霊が響いて聞こえてきそうだった。

 

 我ながら、良い提案をしたものだ。

 …と思っていたのだが。

 

ー 翌日 ー

 

「タキオォオォン! 風邪引いだぁぁあ!」

 

「やれやれ…大丈夫かい?」

 

「ひぐぅうう、ごべぇえんん」

 

 電話越しとは言え、いつものモルモット君からは聞かされない声のトーン…ずいぶんと喉をからしたものだな、と分かる。

 

「謝らなくてもいいよ、遠征はまた今度に…」

 

「ううん、わだしに構わず遠征に行っで! わだしの屍をのりこえでぇええ!」

 

「おい君、死ぬな」

 

 モルモット君との通話が切れたスマホを手に、しばし考えてしまう。

 

 私だけで遠征に行けってことかいモルモット君…?

 確かに風邪の見舞いくらいではトレーナー寮に入れてもらえないだろうし…気をつかって遠征しないのも私から言い出した手前、何だかな…モルモット君はどうやら私から積極的なトレーニング案が上がったことに喜んでいた節もあったし…。

 

 そもそも、遠征だトレーニングだは口実だったのだが。

 

 …まぁいいや、どこかに出かけてくればモルモット君には言い訳が立つだろう。とは言うものの、一体どこへ出かけたものか…。

 

 その時だった。今時古めかしい、しかし個人的には気に入っている旧式ブラウン管タイプのパソコンディスプレイに映していたブラウザの、隅のバナーが切り替わり新たに表示された“それ”が目に入った。

 

「…ふぅん…」

 

 神奈川県内か、悪くない。途中の乗り継ぎはルート変更だが、大した手間なく最寄り駅まで乗り継げ、時間もさほど余分に使わずに済む。

 

「よし、このプランを採用だ。あとは…周辺の施設も…」

 

 流石にトレーニングとは言い難いが…何かおみやげを買えばモルモット君もうるさくは言わないだろう。

 

 カチカチとマウスを鳴らし、いくつかのサイトを調べて…と思ったが、自分の瞼に意外な重さを感じ始めてしまう。

 私はパソコンの電源を落としてしまうと、羽織っていた白衣をコート掛けへ向けて放り出し、恐らくは今も創作活動に勤しんでいるだろうデジタル君が居る寮の自室に戻り始めた。

 

 背後で、コート掛けが白衣を受け取り損ねた音がしたが、いつものことだ。

 

「行き当たりばったりも旅の楽しみ方だ…と、誰かが言っていたしな…もう寝よう」

 

 《という訳さ》

 

《私の屍を越えてゆけ遠征ー! そ、それはまるで継承のごとき尊みが!》

 

《ああっ! またアイデアが降りて参りました! ありがとうございます! デジたん感謝感激雨あられですッ!》

 

 《それは随分と重バ場になりそうだねぇ》

 

《ところで、今のアイデアを早速原稿にしたいと思いますが…その件に関してはよろしいでしょうか?》

 

 《私が帰るまでに仕上がるのなら構わないよ?》

 

《ギギギギ…ギリギリ…頑張ります》

 

 《不在の口裏合わせ、頼んだよ》

 

 そんなLINEのやり取りをデジタル君としていた私を運んでくれていたJR線が、乗り換え目的の駅に到着するアナウンスを鳴らしたのを耳にして、私は土曜朝の乗る人の少ない座席で揺られていた身体を立ち上がらせた。

 

   * * *

 

 チュンチュン。

 

 雀の声に気付き、彼女はベッドの上でもぞもぞと身動きし始める。

 けほっ、けほっ、と喉の具合を確かめ自身の体調を不思議に思い、体温計を左腕の脇に挟む。

 

 計測された体温、36.8℃。

 

「カゼ治っちゃった…」

 

 ふと思い直し、室内の壁掛け時計を確認する。

 

「はっ、まだ8時前! 今すぐ連絡すれば…」

 

 タキオンは先に向かってしまった。とは言え、そこまで待たせず現地で合流出来るのではないか?

 タキオンと遠征トレーーーニン

 

「ダメに決まってるでしょう、トレーナーさん?」

 

 急いで着替えようとしていた彼女に声をかけ止めたのは、様子を見に来た駿川たづなであった。

 

   * * *

 

「え? 風邪が治ったのかい?」

 

「うん。でも今日は寮で寝てなさいってたづなさんに言われちゃった」

 

「いや、当たり前だろう」

 

 君、今からこちらに向かう気だったのかい…。

 

「タキオン今遠征先に向かってるの?」

 

「いや、ちょっと湘南方面へと気が向いてね」

 

「しょうなん?」

 

「神奈川県の南部にある海沿いの土地だよ」

 

「へぇーー?」

 

「写真を送るから、大人しく寝てるといい」

 

「はーい」

 

 モルモット君が普段より少し幼く感じる声色で言葉を返してきた。声の調子は幾分戻していたようだ。

 

 ふむ。

 では、どんな写真でどんな反応をするのか、そんな実験に切り替えるとしようか。

 

 かかってきた電話の応対をしているうちに一本乗る電車をやり過ごしたが、大して待つこと無く次の便がやってきた。

 流石は土曜朝の下り線。やはり少ない乗車客に気兼ねせず、私は適当な座席に腰を落ち着けた。

 

(えーと、この先は…)

 

 あらかじめ検索していた乗り換え時間を再設定すると、改めて到着時刻が表示し直される。

 

(ふぅん、次は藤沢で乗り換え…そこから乗るのは所謂『江ノ電』というやつか)

 

 スマホで、昨夜は出来ずに終えた周辺施設の調査を始める。

 

(ほぅ、温泉もあるね)

 

 目的の施設は観光地の只中なので、普段トレセンとその周りの街中くらいしか…いや、それすらもほぼ関心を寄せない私にとって、そのなかなかな賑わいぶりがとても新鮮に映る。

 

(ここを選んで正解だったな。興味深い施設の揃い具合がなかなかだ)

 

 とは言え、モルモット君がトレーナー寮に居るのに担当ウマ娘の私がトレーニング施設もない土地をふらついていられるのは、いいとこ夕方の食事時間までだろう。

 

(ゆっくり色々と見て回れる、とまでは行かないが…まぁそれなりの時間はあるな)

 

 海辺の観光地ではあるが海水浴の時期ではないし、そこまで人混みに困ることもないだろう。紅葉の見頃も過ぎている。

 

 穏やかな車内暖房と柔らかな窓越しの日射しに温まりながら、私は初めて見る車窓の風景に視線を移した。

 

   * * *

 

(タキオン、行き先をしょうなんに代えたみたいだけど、そっちにも競バ場があるのかな?)

 

 関東の地理にはとんと疎い地方出身者、加えてこの府中トレセンの周辺以外に出歩くこともない彼女にとっては、実は大井も湘南も“未知の土地”という点では大差なかった。

 加えて…現在の彼女、自分では気付いていないが風邪の影響で普段ほどよく頭が動いているわけでもない。

 

 ベッドで仰向けになりながら、スマホでタキオンが口にした“しょうなん”を検索していたが、今一つどんな場所でどんな施設がある土地なのか、あまりピンと来ないでいた。

 

 ぺこん。

 

 LINEのタキオンアカウントに記述が追加されたことが、その音と表示で知らされた。

 

 《今ココだよ》

 

 短い文面に添えられた画像。それは快晴の青い空が上半分、凪いで穏やかな蒼い海が下半分を占める…その境目には中央に塔をそびえさせた島がある、そんな風景写真だった。

 

《ふおおぉぉぉぉ!(※◎o◎※)》

 

 山に囲まれた田舎で長年を過ごしていた彼女には見慣れず新鮮な、眩しい景色だった。

 

《どこ? どこなのそこ?》

 

 《湘南海岸の中央辺りの江ノ島ってとこだよ》

 

《へえ~(※ ´ v ` ※) いい眺めのとこだねぇ》

 

 《また時々送るから楽しみにしてるといいよ》

 

 どうやら今回の遠征、言い出したくらいだからタキオンはすごく乗り気みたいだ。

 

 そう思いつつタキオンに返信をしてから、彼女はまだ気だるい自分の身体を休めるため、目を閉じ布団に全身を預ける。

 

 しばらくの後、彼女の部屋には静かな寝息が響きはじめた。

 

   * * *

 

《ありがとう! いっぱい遠征してきてね!》

 

 何だい、この文面は…。いっぱいする、ならトレーニングだろうに。

 まぁ、しないのだがね。

 

 さて、と。

 私はスマホをポケットにしまうと、目の前の建物に視線を移し、少しだけ見上げる。

 

 【新江ノ島水族館】

 

(あの告知画面に釣られてはみたが…どこまで私の好奇心を満たしてくれるかな?)

 

 入場チケット売場に向かい、発券機に千円札を二枚入れ『学生』のボタンを押し、出てきたチケットと釣り銭の硬貨を手にして、そのまま入場口に向かう。

 

「ウマ娘、一人」

 

 パスケースのトレセン学園証を係員に見せながらチケットを渡すと、私がウマ娘であることに気付いた係員は少し驚いた様子だったが…すぐにいつもと変わらないのであろう手際でチケットにスタンプを押して、

 

「館内をお楽しみください!」

 

と、溌剌な声をかけて見送ってくれた。

 

 ああ、そのつもりだとも。

 

 館内を順路通りに進む。まずは大きな水槽を囲う形で設置された通路。ここの展示は立地の湘南が面する『相模湾』がテーマらしい。

 

(ほう、これはなかなか…)

 

 どうやら下のフロアへの吹き抜け構造になっている水槽では、思いのほか数多くの様々な魚類が、それぞれ勝手に、時には群れをなして泳いでいた。

 

 海、と言えば砂浜でのダートトレーニングしか縁のないウマ娘の、特にスキューバダイビングなどの趣味とも接点がない私に、その光景は生物学的興味とはまた違う、別種の趣深さを与えてくるものだった。

 

(異なる進化を経た海洋生物たちが、一つの箱庭の中で争いもせず、気ままに過ごしているように見える…。人為的な手間をかけて自然界とは異なる、別の関係性が構築された『もう一つの“可能性”』…いや、それは流石に言い過ぎ…いや)

 

 知識として、水族館がどれだけの“人の手”をその維持に必要とするのかを、私は知っている。

 そうして初めて成り立つ、そうしないと成り立たない、そんな脆弱さを孕んだ“可能性”。

 

 だからこそ「故にこの環境を維持している」という事実に、私は敬意を持たずにはいられなくなる。私の、思考とは別の心の奥底…水底で。

 

 と、一通り耽った思考が戻ってきたところで…それに気付く。

 覗いていた水槽の、アクリルガラスの向こう側からの、その熱い視線に。

 

「何だい、キミ。私のしっぽが気になるのかい?」

 

 わずかに右に左に漂いながら、それでも私が時々無意識に動かすしっぽの辺りを見つめてくる存在。軟骨魚類の板鰓亜綱…つまり、『エイ』だ。

 

 \コンニチワ/

 

 そのエイから挨拶をされた…ような気がしたのは私の空耳だろう。彼はエイで、ましてや水槽の中だ。

 

 …ふぅん…

 

 試しにわざと意識してしっぽを振ってみると、やはり彼の…仮に『エイ君』と呼ぶが、その興味の先は私のしっぽにある様子だった。

 

 ひらり、はらりと揺らすしっぽ。

 ゆらり、ふらりと揺れるエイ君。

 

 明らかに挙動を認識し、それに反応している風だ。

 私に腹側を見せるエイ君が、白い肌に微笑とも取れる表情を浮かべている…

 

 ……

 …………

 

 …いや、ちょっと待った。

 私の記憶が確かならば、このエイ君の、顔のように見える部分は、鼻孔のはずだが?

 

 思い付いて身体を捻り、しっぽをエイ君とは反対の、私の左側に向け変えて…少し意識してしっぽを振らずに様子をみてみる。

 

 ゆらゆら…エイ君は変わらず揺れている。

 ふらふら…エイ君はやはり変わらず揺れている。

 

 おやおや、まったく私としたことが…軟骨魚類くんに一杯食わされるところだったよ!

 確かそう、シミュラクラ現象というやつだったな。

 可愛い顔をして(いや、顔ではないな)、とんだ奇術師くんだ。

 

 確か館内はフラッシュ撮影でなければ、特に禁止表示がない場所であれば大丈夫だった、と思い出す。

 

 私はスマホを手にして、カメラモードのファインダーを向けると、表示めいっぱいにエイ君を収め、パチリ。

 

「元気に過ごすんだよ、エイ君」

 

 そう呟き水槽から離れ…少し進んだところで振り返ってみる。

 

 ゆらゆら…ふらふら…

 

 どうやら、そこは彼のお気に入りポイントだった、というだけのようだった。

 

   * * *

 

 順路に導かれるまま進む。

 右に左に、いくつもの水槽。それぞれの住み処で悠々自適な魚類、または甲殻類。

 それなりに興味を惹かれ、覗きはするものの、特に何か…ピンと来るものではなかった。

 

 やはり、私はどうやら“アレ”がよほど見たいらしい…自身に沸いたその欲求がそれほどとは…それほどの自覚は感じていなかったのだが。

 

 入場の際に手にしていたパンフレット、その館内図に目を通す。

 どうやら目的の場所は、この緩やかな下り坂の通路の先、先ほどの吹き抜け水槽の横を一階部で横に抜けた、その先らしい。

 

 そんな確認をしていたところ、ちょうど足裏からの感触が緩やかな下りスロープの終わり、平坦な床に変化したことを神経伝達してくる。

 そうか、ならそこまで急ぐことも…

 

 …?

 

 …!

 

 館内照明の加減が違うエリアに来た。最初はその認識だった。

 違った。

 照明が違うのではなく、横にある水槽、そのアクリルガラスの大きさが、その大質量の海水を隔てた向こう側からの採光が、全てが違った。

 

「おお…」

 

 そう、自然と己の口から言葉が漏れ、その事になおさら驚くが…しかし私の両の瞳は、目の前の大水槽から離されずにいた。

 

 これはこれは…

 

 先ほど二階から見て、エイ君と語らいをした同じ水槽のはずなのだが…見事な光景だった。

 おそらくはこの辺りの、湘南の近海に十メートルほど潜り、そして海面を見上げたら…なるほど、このように見えるのだろう。

 

 コバルトブルーの色相を持った水槽内を、様々に悠々と泳ぐ魚類たちの、逆光配置の照明による彼らの影が、私とその周りに降り注ぐ。

 

 その幽玄さは全くの音を伴わず、故に殊更惹き込まれる…自然の雄大さの、ほんの僅かな範囲の切り取り…にも関わらず、しかし視線を逸らさせることを許さない、力強さをも感じさせる。

 

「は…はははっ…」

 

 知らず、私の口から自然と声が漏れる。

 

 綺麗?…喜び?…感動?

 

 いや、そんな一単語では表せない…表すことを「勿体ない」とさえ思える不条理…言葉を尽くして語りたい…ああ! だがきっと、それをしても多分この感情は、晴れずに私の中にわだかまるに違いない!

 

(えもいわれぬ…とでも言えばいいのか?)

 

 あえて短い言葉での表現を私の脳内語彙から探し始め…ふと、その言葉に思い当たる。

 

 それは確か、いつかの校内でトーセンジョーダン君やダイタクヘリオス君が会話に使っていた言葉で…ああ、デジタル君も言っていたな。

 

 多分、こういう心持ちの際に使うのが良いのだろう……

 

「…エモい、じゃあないか…」

 

 魚類たちの影が、万華鏡のように次の瞬間、また次の瞬間、と私を照らす光の形を変える。

 それは私に、初めて顕微鏡を覗いた時の興奮を思い起こさせた。

 

 しばらく私は、“次から次へと変化し形を変えて沸き上がる”その衝動のままに、水槽を見上げ続けていた。

 

   * * *

 

 どれくらいそうしていただろう。

 しかし、左手首の時計が指す時間は思ったほどには経過していなかった。

 

 僅かな間でかなり濃密な脳内シナプス刺激を受けていたようだ。

 

 おっと。

 目当てのコーナーはこのすぐ先だったな。

 思い直し、通路を先に進め。

 

 不思議と後ろ髪引かれるような名残惜しさはない。なるほど、私の脳はあの場所での『エモさ』を堪能し尽くしたのかもしれない

 

 むしろ、逆に目当てのコーナーを堪能し尽くすキャパシティを残しておかなくては。

 

 そうして進んだ順路の先、通路の左側に別室として、そこはあった。

 

 【クラゲファンタジーホール】

 

 広告バナーで表示された『カラフルに光るクラゲ』の文字に誘われ、ここまで来たが…さて、期待通りであればいいのだが…

 

 ……

 …………

 

「あははははははははははっ!!」

 

 他に人目がないのをいいことに、私は心の赴くままに笑い声をあげる。

 

 ク、クラゲが…

 種々様々なクラゲたちが…

 

 光ってる!!

 

(あははははっ! 何だいこれは! 理由もなく楽しいぞ!)

 

 ミズクラゲ、アカクラゲ、サムクラゲ、ブラックシーネットル、パシフィックシーネットル、カラージェリー…etc。

 

 おのおのの水槽で灯りに照らされ、その半透明な身体を輝かせている。

 ゼリーフィッシュの名も納得だ。

 

(はははっ…何だいキミは? 『タコクラゲ』って! でもタコじゃないんだろ?!)

 

 ホール自体の形状、その天井に映される3Dプロジェクションマッピング演出、ホール中央の球状水槽の中。

 全てがクラゲ、クラゲ…光るクラゲ!

 

(あははははっ…ははっ…ははっ! …いかん、ツボに入った…でも、光ってる! 赤に白に黄色に紫…囲まれてる! 光ってる!)

 

 一度、モルモット君に飲ませた薬の配合を何かで間違えたのか、彼女の髪が次々色を変えて点滅してしまう事があったが…それを思い出して笑ってしまい、収まりかけて視線を戻せばそこには光るクラゲ…あの時のモルモット君、その慌てっぷり…止まらない髪の点滅…いけない、これは無限ループだ…。

 

 ホール内の腰を下ろせる場所に座ってしばらく床に視線を向けるようにしゃがみこむ…。

 何度かぶり返し笑いが起きたが…その間に人が来て己の醜態っぷりを晒すこともないうちに、やがてそれは収まった…。

 

 しばらくそうして、ようやくホール内を落ち着いて眺める余裕が持ててから、そこから右に左にと頭を振って、それぞれの水槽を遠目にする。

 

 彼らクラゲたちは、私の様子も行動にも興味ない(それはそうだろう)、そんな素振りで泰然自若と浮かび続けていた。

 

 素晴らしいな、キミたちは。

 少しはその落ち着きをモルモット君にも見習ってもらいたいものだよ。

 

 そんな言葉をクラゲ君たちに、声にはしないでかけたところで…少し、彼女の不在に寂しさを覚えた。

 

「…モルモット君も居たら面白かっただろうな」

 

 思考で留めるつもりでいたそれは、自然と口から声になっていた。

 

   * * *

 

 それなりの時間を、そのクラゲ展示に特化したホールで過ごした後、クラゲの飼育研究展示に特化したエリアでしばし足を止め、その後は順路通りに進んでいたらいつの間にか屋外へ出ていた。

 

 カワウソやペンギンのコーナー、渚の生き物に直接触れる体験エリアなどを横目にしつつ通り過ぎ、空中回廊の様な通路からウミガメプールを見下ろす場所で、日向ぼっこをしているかのように見える彼らと共に少しの間、身体に日の光を浴びて温まったところで、パンフレットを確認する。

 

(あとはこの先、イルカショーの会場くらいか。目的のクラゲは見たことだし、この施設は一通り見終えたな)

 

 順路の一部をショートカットして出口へと向かう。その直前にあったのは、メニューに趣向を凝らしたカフェコーナーと、様々な品物の並ぶ売店コーナー。

 

 そうだ、モルモット君にお土産を買っておこう。

 受け取った彼女の反応にとても興味が沸く。

 

 商品の陳列された棚の間に歩を進めていくと、水族館公式キャラグッズや近隣の特産品とのコラボレーション商品が並んでいる。

 さて、どんな物を選んだものか。

 

 休日とはいえトレーナーの同伴もなく、提出した行き先とは違う場所に行っていた証拠となってしまう。

 お腹の中に隠蔽できる物、辺りが妥当なところだろうな。

 

 そう思っていた。気付くまでは。

 

 …む。

 

 ぬいぐるみだった。形状は違う種類…マンタだが、エイのぬいぐるみ…しかも親子セットだった。

 説明書きをみるとなるほど、ただの抱き合わせではない。

 親マンタから生まれてくる子マンタ、を再現した知育商品として作られた物とのことだ。

 絶妙にゆるくデフォルメされたその外観はなかなかに愛らしい。

 

 だが…。

 

「2500円するのか、君たち…」

 

 あと、単純に嵩張る。

 

 流石にこれは対象外…と判断し、一旦は違う商品に目を向けたのだが…

 

 チラッ

 

 再び視線をぬいぐるみコーナーに戻すと、まるでその親子がじーーーッとこちらを見ているような…

 まるで \カッテ/ とでも言わんばかりに…

 

 ……

 …………

 

「ありがとうございました」

 

 レジでお会計をしてくれた店員の声を背中に受けながら、私は売店コーナーを、水族館の建物を後にする。

 

 その私の左手には、膨らんだショッパー袋。

 

「負けたよ、この軟骨魚類親子め」

 

 さぁ、次はあの橋を渡って島へと向かおう。

 時間もちょうどいい。“あの店”で昼食と洒落込もうじゃないか。

 

   * * *

 

 江ノ島に渡り、仲見世を形作る緩やかな登り坂を上がっていく。

 流石に観光地、あまり訪れる人の少ないシーズンと勝手に思っていたが、私の想像以上に賑わっていた。

 

 耳を隠す為に橋を渡る前から被り始めていたキャスケットに一旦右手を添え、座りの良い位置にあるか確認しなおす。

 

 商店に挟まれた坂道の終点は、この先で三方向に道が分かれるらしい。

 スマホ画面に映し出した検索地図を一通り頭に入れた後、ポケットにしまう。

 

 もう数歩先には朱い鳥居。

 仲見世に入る直前にくぐった青銅の鳥居とは違う、神域の証。

 

 己を学究の徒と自認している身だが、それは神仏に敬意を払わない者、とはイコールではない。

 むしろ、極限の研究において『この世ならざる者』の存在を疑わずには居られなくなる時に出会すことの方が少なくない。

 

 そして、純粋に一人の『勝負の世界』に身を置く者として。

 

 『場所』に敬意を払う、それはとても大事なことだ。

 

 朱い大鳥居をくぐる。

 気のせいだろうが、耳が拾う音が少なくなる。

 

 …とはいえ、今日は神頼みに来たわけではなかった。詳しく調べているわけでもない。

 多分そうした辺りはマチカネフクキタル君辺りが詳しいはずだから、今度何かの機会にモルモット君に聞いておいてもらおう。

 そうした導入でも有れば、ここへモルモット君を連れての再来もさほど突拍子もない話ではなくなるだろう。

 

 で、島の上へ行く道は…ああ、こちらのようだね。

 

 何やら屋外エスカレーターの施設があるが、ここは階段を使おう。

 ほら、これで登坂トレーニング達成だ。良い言い訳が出来た。

 

 観光客の姿はちらほら見るが、先ほどの仲見世通りほどではなく、時折人の気配がなくなると途端に静謐な静けさが訪れる、緑の多い島だ。

 

 たまにはこういうところへ来るのも悪くないな。

 

 …む。

 

 道なりに上がり続ける階段の曲がり角、その少し踊場めいたところで、豪快にだらけた格好でネコが寝ていた。

 

 ここまで来る途中でもネコの姿はちらほら見かけていて、ああ多いのだな、程度には思っていたが…ここまでくつろいでいるのはコイツくらいだな。

 

 誰かを思い出しそうなんだが…誰だろうか?

 

 パチリ。

 

 とりあえず写真を撮る。そのうち誰のことか、思い出すかもしれない。

 

 そのシャッター音にネコの耳は反応していたが…キミ、まるで我関せずだな…。

 

 私は再び、島の階段登りを再開する。

 

 しばらくして登りきった辺りで、行き先案内が大まかに二手に分かれている表示があり、それで得心が行った。

 

(なるほど、植物園とあの展望塔周りがイルミネーションでライトアップされるのか)

 

 月末にはクリスマスがあるのだからな。海水浴や紅葉の季節でないからと思い込んでいたが、観光地というところは年間に安定した集客を得るためにこうした工夫をしているのか。

 私としても、今月末は『有馬記念』の方ばかりが頭にあった。

 

 まだまだ私の知らないことばかりじゃないか、この世界は。

 いや、単純に私の興味がない話題だからか。

 

 ともあれ、私は足をそちらではなく、民家と土産物屋が混在して軒を連ねる道の方へと進める。

 

 その理由、これは本当に些細な気紛れを起こした際に得た知見の確認。

 私が、たまたまデジタル君が部屋を空けていた時に、彼女の机に積まれていたーー本来は本棚に収められていたはずのーー漫画本の一冊の、とある話。

 

 この島の名前の付いた丼を、中年男性が食べるだけの、特に目を引くストーリーが展開されているわけではない話だ。

 

 名所名物に詳しくもなく、調べて訪れたわけではないが、まあ漫画で取り上げられるくらいだ。よほど美味しい料理なのだろう。

 

 こちらへ向かう車内で検索したところ、その漫画の元になったと言う店はちゃんとあり、今日の営業も確認してあった。

 似たようなことを考える者が多い、という証拠でもあるが、他に当てがある、または目的の店があるわけでもなし。

 

 口裏合わせを頼んだデジタル君への土産話くらいは持ち帰らないとね。

 

 見つけた目当ての店の暖簾をくぐった私は、店員に案内されるままオーシャンビューの窓際席に座り、メニューを広げる。

 

 一応は他にどんなメニューがあるのかも確認しておくか……

 

 ……

 

 …ほう。

 

「お客様、ご注文をお伺いします」

 

「ああ、ではこの『しらす丼カニ味噌汁定食』というのをお願いするよ」

 

 コートと、そして帽子を脱いだ私がウマ娘と気付いた店員はやはり少し驚いた顔をしたがすぐに営業スマイルに戻り、

 

「はい! 『しらす丼カニ味噌汁定食』ですね! かしこまりました!」

 

 と言って厨房の方へと戻っていった。

 

 え? 漫画に出てきたメニューと違う物を頼んだ理由かい?

 

 そりゃあ…生のしらすがキラキラと光を反射して輝く写真が興味を牽いたからに決まっているじゃあないか!!

 

   * * *

 

「はぁーーーっ!」

 

 思わず声をあげる。いや、むしろこれは声をあげなければ失礼というものだろう。

 

 昼食を堪能し、道を戻り、島の入り口である橋の近くまで来た私は、その側にある温泉施設にやってきていた。

 

 ほら、今度はこれでプールトレーニングも達成だ。

 

 という屁理屈の為に利用予定を決めていた施設だったのだが、受け付けてくれたスタッフの女性から

 

「ウマ娘の方専用の、ボディトリートメントコース、ご用意しておりますが如何いたしますか?」

 

 と魅惑的なプランを提示されてしまった。

 いやぁ! なかなかに心揺さぶられる、興味深い提案じゃないか!

 

 しかし、残念ながら夕方前には府中まで戻らなければならない身、故にそちらは丁重にお断りをした。

 

 今度、時間の許す時にそちらは堪能させていただこう。

 そういえば以前、研究の副産物で出来てしまったヘアトリートメントをスカーレット君に渡したら喜んでいたな…誘ってみるのも一案だ。

 

 ともあれ当初の予定通りに、眺望の良い屋内温泉だけ利用していたのだが…ああ、これは…声が出てしまう…。

 

 コートを着ていても、自然と私の身体は冷えて強張っていたようだ。

 

 この、凍えてた体が…一気にふやける感じ…悪くないな。

 

 しかし、寒い日にわざわざ出かけて凍えといて、温泉で温まる…

 

 とんだマッチポンプだ…

 だが、それがいい。

 人もウマ娘も、そんな不条理をわざわざ楽しむ…楽しめるのだ。

 

「ふぅー…」

 

 窓の外の眺望に視線を移す。相模湾越しの向こう側、更にその奥には雪化粧した独立峰が綺麗な裾野を広げていた。

 

 富士山が綺麗だ…

 

 あんなところに登る人がいるのだよな…。

 

 カフェは…あの山に登ったことはあるのだろうか…?

 

 訊いたことはないが…そんな話を振ってみたら…どんな反応をする…かな…?

 

 …………

 

 ……

 

 あーーヤバい…思考力そのものの低下を自覚し始める。

 

 これは…本格的に動きたくなくなってきたな…。

 

(そ、そろそろ出よう…)

 

 コンディションとして『火照り』が感じ取れたのを機会にゆっくりと湯船を出て、湯冷めしないうちにいそいそと身支度を整える。

 

 ウォーターサーバーから紙コップに冷水を注ぐと、少しずつ…そのうち喉が求めるままにごくごくと給水し…

 

 ぷはーーーっ

 

 ソファーにへたり込むように座ると、自分の身体が発する熱がゆっくりと落ち着いていく感覚に、されるがままに身を任せることにした。

 

   * * *

 

「タキオン! 昨日のアレは一体なに? “しょうなん”の競バ場かトレーニング施設に行ったんじゃなかったの?」

 

 次の日。日曜日。昼前の研究室に私とモルモット君。

 

 すっかり普段の様子に戻ったモルモット君は、どうも私の昨日の行動に異論があるようだ。

 

「ちゃんと湘南に向かう、と行っておいただろう? どこに問題があるんだい? それに、登坂とプールのトレーニングはこなしていただろ? 証拠の写真も逐一送ってあったじゃないか」

 

「あれはただ、観光地巡りと温泉に入っただけでしょう!」

 

「だったら写真を送った時点で指摘してもらいたかったね。それこそトレーナーの仕事、というものだろ?」

 

 昨日の行動が私の身体にもたらしただろう、という仮定演算の入力に動かしていた手を止めて、くるりと椅子と共に半回転、モルモット君に相対してその顔を見上げる。

 

「そもそも、せっかく私が逐一写真を送っていたというのに、一向に既読が付かなかったじゃないか。大方夜までぐっすり、だったんだろ?」

 

 まとめて既読が付いたのを確認したのが、私にしては珍しく早めに就寝した、その直前だったからね。

 おかげで、送った写真にモルモット君がどんな反応をしてくるのか、そちらの実験は台無しだったよ。

 

「う…それは、まあ…そうなんだけど…」

 

「まあ、おかげでキミの体調も快復しているみたいだし…これなら今日のトレーニングも捗りそうだ!」

 

「え? タキオン、今日はトレーニングしないって言ってなかった?」

 

「気が変わったのさ。昨日の行動が私にどんな影響を与えているのか、いないのか。時間を置いては数値に現れないかも知れないからね」

 

「…タキオンがやる気なら…うん、全然、すごくいいんだけど…」

 

 ふふっ、分かっているよモルモット君。

 その、横に置いてある彼らが気になるんだろう?

 

 私は無造作に思えるような動きで、脇に積まれた資料の山の、その上に置かれた彼らを手にして、胸の前で抱きかかえる。

 

「おや? その視線移動から察すると、モルモット君も気になるのかい? そうだろう、そうだろう!」

 

 江ノ島から連れ帰ったマンタの親子を、ぬいぐるみを見せびらかしつつ、手に与えてくる感触を味わう。

 

「いや、その…タキオンもそういうの、買うんだなぁって思って…」

 

「おいおいおい…何だか、ひどい言われように感じるぞ。私だって探究に目覚める前は普通に、可愛らしいものらに囲まれていた頃があるんだよ」

 

 いいぞ、なかなかにモルモット君は面白い反応をしてくれる。

 

「でも二つも…親子のセットで買ってくるなんて…よほどそのぬいぐるみが気に入ったの?」

 

「まさか、キミはこんな幼い個体を親から引き離せ、とでも言うのかい! そんな非情を思い付くなんて悪魔の所業だよ! モルモット君がそんなやつだったとは!」

 

 わざとらしくオーバーに、歌劇のセリフでも唄うかの言葉を紡ぐと、目の前のモルモット君はしどろもどろに、あたふたと慌てだしていた。

 

 そうそう、そういう予想通りの反応をしてくれるのは、検証の答え合わせが万事順調にいった時のように嬉しいねぇ。

 

 まぁすぐ後、この軟骨魚類のぬいぐるみは元から親子セットなのだとタネ明かししたが。

 

「同じ売り場には『食物連鎖』をテーマにしたぬいぐるみセットもあったよ。知育教材としてなかなか工夫されているなぁと感心したね」

 

 ひとしきりモルモット君の反応を堪能した辺りでぬいぐるみを元の場所に戻すと、椅子から立ち上がりながらプリントアウトしていた今日のトレーニングプラン表を手にして、モルモット君へと差し出す。

 

「ひとまず今日は、そんな感じでどうかな?」

 

「うん…え、何だかいつものスケジュールとかなり違うみたい」

 

「あくまで昨日の影響の検証だからね。普段とは違うアプローチの測定が必要と感じたまでさ」

 

「うん…でも、理に叶ってる…そうすると、今週のトレーニングプランは少し変更しないとだね…早めに施設利用の申請を出しとかなきゃ…」

 

 あれも、これも、とぶつぶつと。

 一人きりの世界に急降下していきながら、思考を整理している様子のモルモット君。

 手にした紙へ集中する彼女の目に普段の生気が…いや、

 

 “魅入られた者”

 

 の狭窄さが、戻ってくる…

 

 ああ、それだ。その目だ。

 

 その闇を孕んだ、暗黒の只中から一筋の光明を探り続けるような、彼女が私に向けるその視線が…

 

 私の狂喜を加速させる。

 

 その視線の遥か先にある輝きに、私が成りたいと、キミをそこへ誘いたい、と思わせる。

 

 科学に疎いキミは知らないだろうが。

 

 超光速粒子『タキオン』は未だ、その存在を立証されていない。

 

 そして、例え立証されたとしても、『タキオン』は肉眼では見えない。

 

 『タキオン』は通常の物質とは反応しない。空気だろうと人体だろうと地球だろうと。

 存在しないかのように通り抜けてしまう。

 レーザーやプラズマのように反応し、発光することがない。

 

 ……しかしキミは

 

 私を、タキオンを検出した。

 反応した。

 発光したのだ。

 

 キミは、それがどれだけ異様な事態か気付いてなどいないのだろう?

 

 今までどんなトレーナーにも『検出』されずにいた私を、

 

 キミは『確認』したのだ。

 

 そして、あろうことか、そんな私の目指す『ウマ娘が秘める“可能性”』の立証に、手を貸そうと言ってくれるじゃないか!

 

 どんな粒子も『運動エネルギー』を与えられなければ動かない。

 

 私だけのエネルギーでは至れないかもしれない。

 

 だがキミは、そんな私に『運動エネルギー』を与え続ける。

 その“魅入られた”瞳に私を捉えるたびに、その瞳に映る私の姿を私が認識するたびに…

 

 私は突き動かされる。

 

 まだ見ぬ『ウマ娘が秘める“可能性”』の、

 

 その“最果て”へと。

 

 ならば応えよう、と。連れていこう、と。

 

 思うじゃないか! 思わされてしまうじゃないか!

 

 キミはもう、立派な『共同研究者』なのだよ…モルモット君。

 

「さあ、そうと決まれば時間は有限だ。早速トレーニングの準備に駆けずり回りたまえ、モルモット君!」

 

 羽織っていた白衣を脱いで放り投げると、モルモット君は慌てながらも受け止める。

 

「…ところでモルモット君。話は変わるが」

 

 つかつかと研究室を出ていこうとした私は、白衣を抱えながら畳んでいたモルモット君に振り向き返りながら、思い付いたことを口にした。

 

「キミは今度、私の食事に生のしらすを採用することは出来るかな?」

 

   * * *

 

第タキ話

〖かぜ引きモルモットとタキオン散歩〗

 

終わり




マンタ親子ぬいぐるみは『うまれてくるよ』シリーズ、また『食物連鎖』シリーズはシロクマやシャチなどでぬいぐるみが実在いたします。

『えのすい』、楽しい施設です。ぜひ。(ダイマ)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。