聖都市が崩壊したあと、空想が好きな少年はどうするのかなーって。
紫苑と出逢ったら素敵だな、なんて思ったことがきっかけです。
よければ3巻を片手にお読みください。
樹勢は公園内のベンチに腰かけ、手元のディスプレイに写し出された書きかけのレポートを見つめていた。
よく晴れた、風の爽やかな午後のことだった。
今年13歳を迎える樹勢は、2歳児検診で最高ランクには認定されなかったものの、幼いころから教育局指定の教育機関で学んできた。
専攻は生態学。
人間はもちろん、生物や植物の観察をするのは好きでよく外に出掛ける。
森林公園では多種多様の動植物が観察できたが、あまり好きになれなかった。
今いるのは矯正施設の跡地に作られた公園で、樹勢のお気に入りの場所だ。
ここでは、壁を隔てて内と外、NO.6の住人だった者も、西ブロックの住人だった者も、穏やかな時間を過ごすことができた。
1年前、樹勢が生まれ育った聖都市NO.6は崩壊した。
NO.6の大人たちは支配から解放された西ブロックの住人が反乱でも起こすんじゃないかと怯えていたが、今のところそのような動きはない。
なんでも、再建委員が手を尽くしているらしい。
少しずつながらも新たな都市が創られているようだった。
公園や都市内で壁の外の人々を見かける度に、自分とは違う髪の色や、衣服、装飾品に興味を抱いていた。
両親には西ブロックの住人は狂っている者ばかりだから関わってはいけないと言われている。
だが、樹勢にはそうは思えなかった。
汚ならしいとも虫けら同然だとも思わなかった。
むしろNO.6で暮らしていた人々よりも生き生きして見えるようにさえ感じた。
出来ることなら友達になって、自分が知らない世界の、西ブロックの話を聞いてみたかった。
無邪気に走り回る子供たちをぼんやりと眺めた。
壁の内も外も関係なく、小さな子の笑顔は愛らしい。
どうすれば外の人々と友達になれるだろうか。
自分はこれからどうすればいいのだろうか。
どうしたいのだろうか。
答えの出ない問いがぐるぐると巡り、レポートを作成する手は進まない。
ふう、と息を吐いて目を閉じる。
どてっ。
物音がして目を開けてみると、小さな子が転んでいた。
綺麗な、紫を帯びた黒い瞳にはみるみる涙が溜まる。
樹勢は咄嗟に話しかけていた。
「大丈夫。痛いのいたいのとんでけー」
驚いたように瞬きをするその瞳は、とても澄んでいた。
そっと手を差し出して立たせてあげる。
お母さんかお父さんはいないかと辺りを見回すと、慌てて駆け寄ってくる男がいた。
「だめじゃないかシオン。迷子になったらきみのママに合わせる顔がない」
シオンと呼ばれた男の子は心なしかしょんぼりしているように見えた。
「すみません、どうもありがとうございます」
「いえ」
大したことじゃないです、と言いかけて口が止まった。
男の髪が、とても不思議な色をしていたのだ。
樹勢は目が離せなかった。
男はそんな樹勢の視線に気が付いたようで、少し照れたように頭をかいた。
はっと我に返り、慌てて謝る。
「あ…すみません。じろじろ見てしまって…不思議な色ですね」
「いや、いいんだ。真っ白の髪なんて相当変わっているからね」
「とてもきれいだと思います。白というよりも透明で…まるで妖精の翅みたいにきらきらして」
そう口にして男の驚いた顔を見たとき、しまったと思った。
幼い頃、夢想癖があると注意されて特別指導を受けて以来、想像しても口に出さないようにしていたのに。
やってしまった。
どうしようと考える樹勢に男は微笑んだ。
「褒めてくれてありがとう。とても素敵な例えだ。実は大切な人にもきれいだって言われて、気に入っているんだ」
心底嬉しそうに話す男を見て、戸惑う。
NO.6は想いや感情を表現することを良しとしない。
何故だか樹勢にはわからない。
口に出すと怒られるから、言わない。
だから祖父に聞いた物語も心の奥で暖めてきた。
ほんとうはみんなに話したかった。
今日見た夢の話、かつて読んだ本の話、昔々の言い伝えの話。
この人、男の子と同じ紫を帯びた澄んだ瞳をしてる。
不思議とこの人になら空想の話をしてもいいような気がした。
「ぼくの話、変だって思わないんですか」
ちょっと考え込んで男は答えた。
「思わない」
屈託なく笑うと、持っていた本を開いた。
「この本はね、テンペストって言うんだ。みんなが幸せになる話だよ」
そう言うと、本を樹勢に手渡した。
電子ペーパーではない、紙の本を初めて触った。
重い。
心地好い重さだと思った。
「ぼくは最近まで考えることも感じることも知らなかった。NO.6にただ従っていたんだ。でも壁の外で教わった。泣いたり、怒ったり、抗ったりすることを」
樹勢は男の話を黙って聞いていた。
「壁の内の人は感情を伝える手段を知らない。想像することも知らない。以前のぼくのように。でも」
樹勢を見て、男は優しく笑った。
「きみは知っている。それはとても尊いことだ」
そう言われて、ふっと心が軽くなったような気がした。
「その本はきみにあげる。読んでみて。そして、想ったことや感じたことを表現してほしい」
「ありがとうございます。出来るかわからないけど、やってみます」
男はきみなら出来るさ、と嬉しそうに笑った。
「ぼくも頑張らなくちゃ。きみやシオンや、人々が心から豊かに暮らせるような都市を創らないとね」
そう言って男はシオンという子を抱き上げた。
ばいばい、というようにシオンは手を振っていた。
樹勢も手を振り返した。
これからも色々な感情や想像を忘れないで、と男は言った。
きみが考えたことを素直に話せる世界に必ずしてみせる、と。
樹勢はきっとその言葉通りになると思った。
何故かはわからない。
理論とか観察とかじゃなくて、もっと曖昧で不安定だ。
だがその言葉を信じて、考えることを続けようと思った。
そういえば本を頂いたのに名前も聞かなかった。
なんだか不思議なお兄さんだった。
まるで日だまりみたいにぽかぽかして。
樹勢が男の顔を都市再建委員の写真から見つけ出すのはもう少しだけ、先のお話。
そして、樹勢という名の作家が生まれるのはまだまだ先のお話。
原作の書き方や表現を意識したつもりですが、結構自分の文章になってますね…。
拙く、読みづらいものを最後までお読み頂きありがとうございました。