フォカロルスの転生+学園もの的な?
フォカロルス幸せにしたい的なノリで書いたお話
水の神フォカロルスという存在がいたらしい。ある瞬間を待つために自分は閉じこもり、人としての自分に500年も神を演じさせてしまった、と。そしてその瞬間は予言のとおりに訪れ、ほとんどの人間に知られることなく死んでしまった。それが、世界を救うための唯一の方法だったから。などと、聞いたこともない物語をまるで自分のことのように語るフォカロルスさんが目の前にいる。
「信じてくれなくてもいいさ。僕もじきに忘れるかもしれないしね。…ああ、でもどうだろう。忘れるのはやっぱり無理かな?」
「疑問形で投げかけないでくれ。と、一応言っておく。で、それを踏まえたうえで俺なりに回答するのであれば、忘れるのは無理だろ。」
「それはどうして?」
「貴女が一番わかってるはずなんだがな。そんな人生をかけて、命を賭してまで世界を救おうとして、救った。そうなんでしょ?」
「うん。」
「そんな凄いことを忘れられるほど、人間も神様も記憶力は弱くないでしょ。」
「あははははっ!それはたしかにそうだ。じゃあ、君はこの話を信じてくれているってことでいいのかい?」
そう聞かれると返答に困る。でも、決まってはいる。かれこれ500年ほどの歴史を、その間にあった出来事を、数年間聞かされている。創作だとしても、ここまで緻密に幼少の頃から考えられるのかという疑問が出てくる。それなら前世の記憶を持っている奇跡的な人間と考えたほうがまだ納得がいく。いや?どっちもどっちだな。
「ああ。信じるよ。」
彼女はこの長い長い物語が始まる時に言った。『これは僕と君の秘密だよ。』と。
彼女は歌と踊りがとても上手だ。無論、容姿も整っているし、目のオッドアイも唯一無二だ。すでに学校一の美女。どころか日本一、少し時間があれば世界一にだってなれるかもしれない。
我ながらチョロい気もするが、そんな彼女との秘密の話、信じないわけにはいかないだろう?
「ありがとう。おかげで胸のつかえが降りたよ。というわけで早速なんだけど1ついいかい?」
「どうかしたか?」
「そうやってタメ口で喋ってくれてるけどさ、なんで僕のことはさん付けなんだい?僕たちそれなりに長い付き合いじゃないか。」
「特に意識しているわけじゃないんだけどなぜかさん付けを続けていたというか。」
「それに『貴女が』だなんて距離感ありすぎだよ?」
「じゃあどうしろと?」
「呼び捨てで構わない。なんなら“フォーちゃん”みたいな感じであだ名を考えてくれてもいいんだよ?」
「それなら呼び捨てで。」
あえて本人には言わないがその振る舞いでフォーちゃんは無理がありすぎるだろ。一応、水の神様だったらしいし尚更。
「そうかい。じゃあ呼んでみてくれ。」
「それに何の意味が?」
「いいからいいから。」
からかっているわけではなさそうだけど、かといってふざけているわけでもなく、真剣なわけでもなく。なるほど。
「フォカロルス。」
「ふふ。もう一回。」
「フォカロルス。」
「うん。満足だ。」
ただ呼ばれたいという意図は読めたけどここまで喜んでいるオーラが出ているのは珍しい。頬が弛んでいるっていうくらいニマニマしている。
少しの間様子を見ていたらこちらへ歩み寄ってきて僕の膝に座った。
「放課後の人が少なくった教室とはいえ、大胆なことをする。」
「大胆?いやいやそんなことはない。君と僕がそういう関係だと知らしめる為には足りないと思うけどね。」
「存外重たいんだな。」
「レディに対して体重の話は失礼にあたる。覚えておくといいよ。まぁ、君に対しての気持ちは自分でも驚くくらいに肥大しているのは認めよう。」
あまりにも人間離れして、人形のように美しい彼女は傷つかないように飾られていた。これはあくまで比喩表現だが、実際孤立していたのだ。最初こそ話しかける人はそれなりにいたと記憶しているが、普通の人間にとって彼女はあまり近づきたいと思えないのかもしれない。高嶺の花というには高すぎるのもまた事実だと俺は思う。
「君は、僕の両親でさえ信じようとしない話を最初から最後までしっかり聞いてくれた初めての人間さ。そんな人物とこれから出会えると思えないし、出会おうとも思わない。だって君がいるのだから。」
「俺はあくまで聞き手のつもりだったんだがな。そういうことなら君が望むようにしよう。聞き手ではなく、君の秘密を共有するものとして。実を言えば、フォカロルス。君のことは好きだったんだ。」
「ちょ!?僕が先に言おうと思ってたのに!」
「もったいぶるからだ。」
「というか君。台詞回しが結構物語チックだね?」
「ロマンチックなシーンに合わせているだけだ。」
簡単に言えばカッコつけているだけ。
「なおさら君でよかった。」
一度膝から降りて振り返ってもう一度膝に座るフォカロルス。向かい合わせになった。フォカロルスの頬がほんのりと赤みがかっている気がする。
「僕の家に遊びに来ないかい?夕飯でも食べよう。」
「今からってことか?」
「そうだよ。それで泊まって明日帰る。ちょっとした日帰り旅行のようなものじゃないか。」
ちょっとしたで済ませていいはずがない。女子の、それも学校一の美人であるフォカロルスの家に、だ。今でさえ見られたらまたたく間に学校中に噂が広まるだろうに、家に遊びに行ったとなればご近所でも噂されかねない。
「残念ながら僕の手料理ではないのだけれどね。僕が生まれるよりも前からいる料理人だから安心していいよ。不味いだなんて事は絶対にないから。」
違う。そうじゃない。フォカロルスの手料理を食べてみたい気持ちはあるが、そこじゃないんだ。
「そ、それなら着替えとかはどうするんだ?準備がいると思うんだが。」
「それもそうだね。じゃあ一旦君の家に寄ろう。ついでに部屋も見てみたいし。」
え?フォカロルスの家に行くのは確定事項なうえに俺の家にまで来るの?片付けてはいるけど掃除はしてない。せめて初回くらいきれいにしているときがいいんだけど。
「ほら!早く行こう!」
気づいたら荷物をまとめ出していたフォカロルス。ワクワクしているのか少し忙しない。それでも気品を感じる動作というのは彼女が元神だからだろうか。
「そんなに急いだって俺の家わからないんじゃないのか。」
「いいじゃないか。他の人の家に行くのも、誰かを家に呼ぶのも初めてなんだから!」
なるほど。たしかにそれは仕方ないか。それでもスカートを気にせずぴょんぴょん飛び跳ねるほど、というのは如何なものか。
「それじゃあ俺の家に行こう。」
早く覚悟を決めるべきか。一応、言っておくとまだ薄い本は未入手。18歳になってないし、たまに妹や母親が部屋に突撃してくるためそういうことがおいそれとできないし掃除という名目で部屋の中を探索されるから。
そうなると今から妹にバレて母親にもバレて最終的に父さんにもバレるのか…気が遠くなりそう。
「そういえばよく許したよな。フォカロルスの両親が他人を、しかも異性を家に招くことを。」
「交渉は少々骨が折れたよ。普段は甘やかしてくれるのに何故か人を家に招くことは渋るんだ。」
たしかフォカロルスの父親は政治家で母親が世界的に有名なピアニストだったはず。そんな家庭の娘なのだから無理もない気はする。
「ピアノのコンクールで最優秀賞を取ったり、お茶とかお花とかもちゃんと合格を貰うまで済ませて、護身術も習ってようやくだった。いやあ大変だったよ。」
「す、すごいな…」
そもそも普段車での送迎だもんな。今こうして俺と二人で歩いている状況のほうがイレギュラーか。幸い俺も武術を嗜んでいるから万が一があっても大抵はどうにかする自信がある。だって父さんにしこたまボコされたからね。うん。
「ここだよ。」
「へぇ、いい家に住んでるじゃないか。」
「嫌味か?」
「いやいや、庭が綺麗に整えられている家はそうそうないよ。庭いじりが好きな人でもない限り普通は放置するだろうさ。」
母さんが何かと庭いじってるからそりゃそうか。花屋で働いてるし。
「そう言ったら母さん喜ぶだろうな。」
「そうかい?機会があれば言ってみよう。」
あー嫌だなぁ、同級生に家庭の状況バレるの。
「ただいま。」
「おかえり!おにい、ちゃん?」
「妹さんかい?」
「そう。妹の胡桃。胡桃、こちらはクラスメイトのフォカロルスさんだ。」
「クラスメイトだなんて仰々しい。恋人、そうだろう?」
「いや、そうだけども…」
あーあ。言っちゃった。隠す気はなかったんだけど案外あっさりバラすもんだな。そもそもバレるのも時間の問題か。
「お、お母さん!お兄ちゃんが彼女連れて来た!」