どれくらい時間が経ったのかな。1年くらいかな。ダンジョンって意外と快適でさ。サバイバルが好きな私にとっては最高の環境なわけです。でも、お風呂はやっぱり入りたくなる。温泉があったから石持って来て整備したりして温泉作ったんだよね。なぜか回復効果ついてたから一石二鳥だし。
人がまったく来ない。そんなに深くまで潜ってるつもりじゃないんだけど半年くらい前からまったく人が来なくなったんだよね。それが気になったっていうのと、地上で料理されたご飯を食べたくなっちゃった。調味料切らしたし、最近あんまり美味しい獲物が湧かなくてねぇ。気分転換に帰ろうということで帰宅中。
最近はもっぱら鳥しか食べてないから牛とか豚とか食べたいんだよね。焼肉屋行くか。一人で行ってもいいけど友達も誘いたいなぁ。連絡つくかな。
「ん?」
感覚が正しければ今5層くらいでもうちょっとで地上なんだけど、なーんか騒々しいね?ダンジョンだから人がいて当たり前みたいなところはもちろんあるけれどもただの戦闘音じゃないというか。
あー、これもしかしてモンスタートレイン引いちゃったかな?モンスタートレインっていうのはモンスターハウスとは別でなぜか隊列を組んだモンスターが行進してて全部倒すか違う階層に行かないと振り切れないというなかなか極悪な物。私も最初は苦労したね。
「おーい!そこの少女ー!こっちにおいで~!おねーさん強いから!じゃないと死んじゃうよー!」
お、死んじゃうよの部分に反応してこっちに走ってきたね。AGI上げてないのかな。極振りは相当センスがあるか馬鹿じゃないとしちゃ駄目なんだけどね?あ、いや、あの子タンクっぽい。大盾背言ってるよ。
「ずみませ〜ん!助けてください!」
「お、おおう。顔が…乙女がしちゃいけない顔に。じゃ、人助けっと。」
時間停止。これが私が唯一特化できた分野。師匠に唯一勝てる部分だけど、師匠は色んな分野を極めてるからどうあがいても勝てなかったり。あとはダンジョンに潜り続けてようやく手に入れた拳銃型の魔銃。消費するものは魔力で実弾がいらない優れもの。今までは時間停止を使って弾丸盗んでたからね。もうしなくて済む。
「30、っと。これまた大きなやつ引いたね。」
「ふぇぇ?あの、モンスターたちは?」
「ほらそこ。」
「え…?」
あはは驚いてる驚いてる。タネがわかっても対処はしにくいからね時間停止。今は魔銃を射撃したあとの姿勢だから早撃ちしたとでも思ってるんじゃないかな?
「え、えと。助けて頂いてありがとうございます。」
「気にしなくて良いよ〜。あの程度赤子の手を捻るよりも簡単だからね。」
というか威力高すぎてドロップ品どっか消し飛んじゃったし。
「お、お礼なんですけど…私あまりお金なくて。」
「そういうことなら地上までの道案内頼もうかな?というかその横でふわふわ浮いてるの使い魔…じゃないよね?」
「えっと、はい。配信用のカメラですけどお姉さん知らないんですか?」
「ちなみに今何年?」
「2039年です。」
うーん?もしかして私盛大にやらかしたかな?いやぁ時間停止とは言ったものの正確には時間操作でして。自分の時間を止めて肉体をそのままにするという魔法をパッシブで発動していたせいか時間間隔が狂ってたみたい。テヘペロっ。
「配信中?」
「はい。コメント見ますか?」
って言って見せてくれたのが高速で流れるコメント欄。いやぁ懐かしい。私も動画サイトで配信とか見てたけど今じゃダンジョンで配信してるんだ。
いえーい見ってるー?
姫を助けてくれてありがとう!
このお姉さんに一目惚れしたんだが
助けてくれてありがとう
配信を知らないなんて事ある?
おうおう好き勝手言ってくれて。怒りはしないけど。
「うーんどうしようかな。おねーさんには秘密が多いからあまり喋りたくはないのでとりあえず道案内お願いね。」
「わかりました。あ、私は神崎水琴といいます。」
「ご丁寧にどうも。私のことは時雨でいいよ。名字も名前もないからね。ただの時雨。」
「は、はぁ。ペンネーム的なものでしょうか…?」
それが本名なんだよなぁ。というのは置いておいてやっと進み始めた私達。道中のモンスターは時間停止を使うまでもなく処理できた。まぁ一直線にしか走ってこないからね。目標をセンターに入れてトリガーを引くだけの簡単なお仕事。
「強いんですねお姉さんは。」
「そりゃあね。伊達にダンジョンに引き籠もってないし。」
「え?」
「え?」
ちょっと待って
???
?
引きこもる?
ダンジョンに引きこもる?
常識どこ?
そりゃ姫だろ
え、一ヶ月遠征とか私が地上で暮らしてた時代はあったんだけどもうなくなっちゃったのかな。私はソロで20年ほど引きこもっていたことが先程判明したんですけどね。あ、父さんと母さんは蒸発して以来会ったことないので知りません。
「というか同接1万あるんだ。すごいじゃん。」
「あ、ありがとうございます。じゃなくてっ!どうやってダンジョンで生活してるんですかっ!?」
「お、落ち着け餅つけ?それで、質問に答えると普通にサバイバルしてるよ?」
「お風呂とかは?」
「基本的に水浴び。たまにでかい器に水入れてお湯にして入るよ。」
温泉は秘密でございます。あそこは私だけのものだぁ!
「モンスターって食べられるんですか?」
「食べられるやつもいる。」
「野菜とかは?」
「そこら辺に生えてる薬草とか木の実とか」
「お魚は?」
「釣りをするか素潜りで取るか。どちらにせよモンスターしかいないけど。」
す、すげぇ。あの姫がここまで食いつくなんて
クールな姫はどこ?
かわいい
なんか草
「ん?ああ。ごめん。ペースが早すぎたかな。」
「い、いえ。お気になさらず。」
息があがってたけどペースが早いわけでもないのか。
「それより私が先導していたはずなのにどうして先導しているんですか?時雨さん。もしかして道がわからない雰囲気を出していただけですか?」
「ありゃ。バレちゃった?見返り求めてなかったからね。軽い嘘をつかさせてもらいました。」
お金とかもらってもね。使い道殆ど無いし。地上に戻る時の道中で殺したモンスターの素材で十分稼げるし。高い焼肉連れて行ってくれるなら話は変わるけど、所詮モンスタートレインから助けただけから。あ、私が無欲ってわけじゃないよ?今は満たされてるからそういうのがとくにないってだけだから。
「ぶっちゃけキツイこと言うとね?なんでモンスタートレインに捕まるような動き方をしていたのかなって。」
「うぐ。」
「そもそもなんでソロなの?パーティ組まないの?私が言っても仕方ないけど。」
「えっとその…転移トラップに引っかかってしまいまして。」
「なるほど。足が早くて良かったねぇ。」
「ええ。ほんとに。」
火力も大事だけど、スピードも大事だよね。火力が無くてもある程度はスピードでカバーできる。速ければ速いほど鋭い一撃が叩き込めるから。単純に足が速いだけでそれを活かさない動きをするのだったら普通にサラリーマンとして働いたらいいと思うよ。
地上に出ると人だかりができていた。そしていつの間にか水琴ちゃんの同接数が5万とすごいことになっていた。
「おおー。」
「おおー。じゃないですよ時雨さん。あの先頭にいるの冒険者協会の会長ですよ!」
「知ってる知ってる。元パーティメンバーだし。おひさー!」
「相変わらず見た目が変わらないか。魔女。」
「それは褒め言葉だぜ。それにしても老けたね。」
「ふん。20年もあれば誰だって老けるさ。」
勇者こと橘真。高校時代の同級生で一緒にダンジョンに潜ってたパーティメンバー。今でも強いだろうけど第一線を退いちゃったんだ。ちょっと寂しいなぁ。他のメンバーに会いに行くのもありだね。ちゃんとイケおじになってるなぁ。
水琴ちゃんの頭の上にはてな浮かんでて可愛い。
「さて、魔女。一度冒険者協会本部へ連行したいのだが同意してくれるな?」
「何か悪いことしたっけ。」
「一時的な保護措置だ。保護されるほど弱くはないのは知っているが、流石に何百人も捌けないだろう?今にもお前を勧誘しようとしているのがこの人だかりだ。面倒臭いだろう?」
「それは助かるね。よしじゃあお願い。」
これ観衆じゃなくて勧誘なのかよ。うーん、金の亡者の集まりかな。悪いけど私は客寄せパンダにはならないよ。
「君は魔女が助けた人間か。」
「は、はい!」
めちゃくちゃ緊張してるじゃん。そんなに堅苦しくならなくても勇者は優しいのに。
「君もついてきてほしい。おおまかなことは君の配信で知っているが、詳細を本人の口から聞きたい。」
「わかりました。両親に連絡したいのですが・・・」
「後で協会の電話を使うといい。」
真は私の元彼だったりする。最終的に年を取らず、意味不明なまでに強い私を怖がって別れたんだけどね。別に私はどうなろうと構わなかったんだ。そのまま結婚してもよかった。本当に好きだったから付き合ってたわけだし。真が私に覚めちゃったのならそれまでだし。これは年の功というかなんというか。
「いやぁこんな高級車に乗るのは何年ぶりだろう。」
「そもそも地上に出てきていなかっただろうに。」
「ちょっと寝てもいい?」
「構わんが到着して起きなかったら殴るからな。」
「はーい。」
流石にそこそこの長旅だったから眠たくなっちゃった。
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衝撃的な出会いだった。私はダンジョンで配信して、たまたまたくさんの人が見てくれたからそれで稼ぐことなった。私の両親はどちらも会社の社長で常日頃忙しそうに日本全国、場合によっては世界を飛び回っている。その分休日は私にかかりっきりでベタベタにかまってくるのはちょっと玉に瑕というか親バカというか。
だから最初は反対されていた。過保護、というわけじゃない。おそらく大体の親が子供に対して抱く危ないことをしてほしくないというものだと思っている。だけど、熱心に、頑張って説明したら渋々受け入れてくれた。
「あの・・・」
沈黙に耐えきれなくて話しかけてみたものの何を聞こう。時雨さんは寝てしまった。
「どうした?機密事項以外なら答えるが。」
「あの、奥さんとはどういう経緯で知り合ったんですか?」
捻り出した質問がこれなのはちょっと恥ずかしい気もする。
「君もか。女子はそういう話題の方が好むというわけか。」
あ、いえ、そういうわけでは・・・
「メルとはパーティメンバーだった。俺、メル、時雨、あかり。最初は時雨と付き合っていたんだが、あいつの強さが気色悪くなってな。」
あれ・・・もしかして愚痴が始まるのかしら?
「いかに俺が強くなろうといつもその上を行く。距離が縮まるようで縮まらない。一緒に歩んでいける人を望んでいたんだと気づいたら時雨に対しての感情は恋慕よりも羨望に変わった。あとは知っての通りメルを正妻、あかりを側室に迎えた。これが一番誰も不幸にならない選択肢だったからな。色々と特権を行使したさ。」
長いです勇者様。
「時雨さんは怒らなかったんですか?」
「聞いてくれよ。あいつ俺が断腸の思いで別れを切り出したのに『え、本気?うーん。わかった。じゃあせめて友達でいてね。真はそばに居て面白いから。』ってあっさり受け入れやがったんだよ。俺が馬鹿みたいじゃないか。」
時雨さんならそういう対応をしそうな雰囲気は、短い時間しか関わってないけど、確かにある気がする。でも、後腐れとかもなさそうだからよかったんじゃないかな?
「それで、その後が面倒でさぁ。メルとあかりがそのことを知って俺に対して全力で甘やかしてきたんだよ。1ヶ月くらい。身の回りの世話とか仕事とか全部代わりに勝手にやってくれちゃってさ。人間として、男として死んでたと思う。」
今度は惚気ですか?
「ま。こんなところだ。君のほうこそ色恋を知り始める年だろう?好きな人とか居ないのか?」
「い、居ません。」
「そんなことだろうと思ったよ。こういう話題の時、大体話すのは俺だけなんだ。」
あ、そういえばかなり口調を崩してらっしゃる?
「勝手に膝枕にしてるこいつも久々に会ったかと思えば聞いてくるのは俺と妻たちの話ばかり。なんなんだろうな。」
知りません。私はまだ初恋すら経験していない少女なので。・・・自分で言ってて少し恥ずかしくなりますね。
「おい起きろ時雨。到着だ。」
「う〜ん。」
「メルを呼ぶぞ。」
「そ、それはやめてほしい。」
時雨さんを怯えさせるメルさんってどんな人なんでしょう?
「ふわ〜。水琴ちゃん。どうだった?勇者の話。惚気だったでしょ?」
起きた時雨さんに突然投げかけられた。確かに惚気が多かった気がするけれども・・・
「いえ、半分くらいは時雨さんの愚痴でしたよ。」
「うっそぉ!?勇者!変なこと言ってないよね?」
「さあ?どうだろうな。」
「水琴ちゃん!何を言われたか教えて!場合によってはこいつをしばかなきゃいけなくなる。」
「秘密です。時雨さん。」
ああ、あの伝説のパーティはきっと仲良しだったんだろうなぁと思いました。どうせなら私も少しかき乱してみようかな。
「でも、とても魅力的な人ですよね。勇者様は。」
「え、真、何、水琴ちゃん口説いたの?」
「断じて違う!」
「ちょーっとメルとあかりに報告するね?」
「やめろぉおおおお!」
車の窓から外を見てみれば協会の入り口の前で待っている二人の女性がいる。テレビで見たことがあるから間違いない。メルさんとあかりさんだ。
「メル!あかり!久しぶり!再開してすぐで悪いんだけど真がね!」
「ストップだこの性悪魔女!」
私もこの方達みたいに素敵なパーティメンバーに出会えるといいなと思いました。
時雨こと時間の魔女は作者のオリジナル作品『魔女たち』にでてくる魔女の一人。『魔女たち』からだいたい十数年だったか数十年経ってるタイミングでのifルート。
そう、星眼の魔女がオーパーツの扱いをミスって世界各地にダンジョンが出現しちゃったルートである!
まあそんな世界線は億が一くらいにしかないので一話だけで終わりですよと。